話題沸騰中のwacci「別の人の彼女に
なったよ」。YouTubeで起きた現象の
背景を読み解く
MVのコメント欄に自分のストーリーを書
き綴る人が続出
2019年の3月には、YouTubeでMVが公開。再生回数は350万回を突破し現在も伸び続けているが、この曲のコメント欄ではある変わった現象が起きている。それは、曲を聴いたリスナーが、自身の過去の恋愛体験をコメント欄に書き綴るということ。
コメントは短いものから長いものまであるが、その数は6月5日時点で3300件以上。他のwacciの動画と比べてみると、2015年にリリースされた『大丈夫』という曲は、再生回数は1000万回近いが、コメント数は2000件ほど。このことからも、『別の人の彼女になったよ』のコメント数の多さがうかがえる。
“あるある”な歌詞+個人の体験=わた
しの歌
その理由はこの曲の歌詞にあるだろう。前の彼氏はフェスで大はしゃぎするし、映画を見ていると自分よりも号泣している。一方、今の彼氏はそんなことはなく、余裕があって優しくて、色んなことに詳しくて尊敬できる。最初に歌われるのはそんな内容だ。しかし、曲が展開していくにつれて、どこか無理して良いところを探しているような、そんなできすぎた彼氏に息苦しさを感じているような雰囲気が漂う。そして最後には、本当はまだ「あなた」に未練があることが明らかになるのだ。
この曲を作詞作曲した橋口洋平は、楽曲のリリース時に次のようにコメントしている。
“好き”と“幸せ”は必ずしもイコールではなくて、でも両方とても大切で。 忘れられない恋愛より自分のための恋愛を選んだ人の少しだけ後ろを振り返る歌です。 前の彼氏はこういう人。今の彼氏はこういう人。書いたのはそれだけ。 最後は少し気持ちを吐露してますが、このシチュエーションの奥にある心理描写はあなたに委ねます。 wacci初の、女性目線で描いた一曲。是非聞いてみてください。
いしわたり淳治も絶賛した、コピーライ
ティングとしての素晴らしさ
聞き慣れない言葉なのに、誰もが瞬時に意味が分かって、登場人物たちを取り巻く環境や心情までをも勝手に想像してしまう。コピーライティングとしても素晴らしい一言である。
そして、この印象的なフレーズがタイトルに冠されたことにも触れておきたい。タイトルに掲げられていることで、この曲は新しい彼氏の歌でも、別れた彼氏の歌でもなく、まぎれもない「別の人の彼女になった私の歌」になっている。自分自身にフォーカスすることで、完璧な彼を愛せずにいる自分や、前の彼氏への思いを捨てきれないエゴが一番にフォーカスされているのだ。
『ベツカノ』が証明する、クリーンなだ
けじゃない私たちのリアル
最後に、この曲について語られる場所がTwitterなどのSNSではなく、YouTubeのコメント欄だったことも考えてみたい。好きな音楽について自分の感想を書いたり、体験と結びつけて語ったりするならTwitterのほうがメジャーな気がするが、試しにTwitterで「別の人の彼女になったよ」と検索してみると、楽曲をオススメするツイートや「歌ってみた」の動画は見つかっても、YouTubeのように自身の体験を綴ったものはほとんど見当たらなかった。
これには文字数の関係や、一度書き込む流れができたから書き込んでみた、という人もたくさんいると思うのだけど、「SNSってそんなに匿名じゃないよね」という点もあるように思う。Twitterは日常のことを断片的に綴っているから、その人の人となりがなんとなく見えてしまう。友人や、それこそ今の彼氏、前の彼氏と繋がっていることもあるかもしれない。そうすると、「別の人の彼女になったよ」を聴いて思いだした人のことを書けない場合も多いだろう。
YouTubeのコメント欄は、そんな人たちの受け皿になったのかもしれない。YouTubeもそれぞれにアカウントはあるけれど、Twitterほど私生活は見えてこないし、必ずしも友人とも繋がっていない。SNSよりも匿名性が高いのだ。
友人には言えないけれど、誰かに聴いてほしい未練や、自分でもしみったれていると思うぐずついた気持ち。それを吐露する場所として、「別の人の彼女になったよ」のコメント欄は機能しているのではないだろうか。
「別の人の彼女になったよ」のコメント欄には、今もそんな顔の見えないストーリーが綴られている。気になる人は、ぜひYouTubeをチェックしてみよう。
作品情報
『別の人の彼女になったよ』
2018.11.07 Release 3rdalbum「群青リフレイン」収録曲
通常盤[CD] ESCL-5129
¥3,000(税込)
wacci オフィシャルサイト
wacci Twitter
話題沸騰中のwacci「別の人の彼女になったよ」。YouTubeで起きた現象の背景を読み解くはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。
関連ニュース
ミーティア
「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。