『第22回文化庁メディア芸術祭受賞作
品展』レポート 最新鋭のアート・エ
ンターテインメント・アニメーション
・マンガが集結!

2019年6月1日(土)~6月16日(日)の16日間、日本科学未来館・フジテレビ湾岸スタジオ・東京国際交流館 他にて、第22回文化庁メディア芸術祭受賞作品展が開催中だ。アート・エンターテインメント・アニメーション・マンガの4部門に世界102の国と地域から4,384作品の応募があった本芸術祭は、各ジャンルで最も新しく勢いがある作品が出品され、その年の流行と今後の方向性が見える注目度の高い祭典となっている。以下、多数の作品が集結する本展に関し、特に見逃したくないものを紹介しよう。
アートにおけるテクノロジー、自然、科学、生命を考察する

今回、アートのジャンルでは過去最多の2,501点の応募があり、AI・バイオアート・ロボティクスといった最新鋭の技術が活用されている作品が目立った。その中で大賞に輝いた古舘健の《Pulses/Grains/Phase/Moiré》は、LEDによるダイナミックな光が暗闇の中で一定のリズムを持って点滅し、機械的な音が光に合わせて流れるサウンドインスタレーション。コンピューターで制御されるスピーカーが個別のパターンで音を出力しており、LEDライトはスピーカーと同じタイミングで点滅する。作品空間に入ると、暗闇の中で光が点滅すると同時に、音が体の芯に流れ込んでくるようだ。時間が経つと、一定間隔で流れる光と音のパターンの波に身を委ねることが心地良くなってくる。音と光を意図的に制御する生きた空間の中に入り込んだような感覚を覚える作品だ。

《Pulses/Grains/Phase/Moiré》古舘 健
岩崎秀雄による《Culturing cut》は、生物学の論文とバクテリアを使用している。作家がバクテリアの性質に関する論文を書き、論文の主観的な記述の部分を切り取り、主観的な箇所が削除された部分にバクテリアを植えつけるという手順で作成されている。作者の岩崎英雄によれば、本作品は「論文を書くところからスタートしており、それを脱構築」しているとのことだ。展示されているバクテリアは生きており、肉眼では判別できない速度でゆっくりと動いている。展示内容には、他の美術館や会場で扱うのが難しい水物やバクテリアを含んでいるため、日本科学未来館で公開されている今を見逃さずに鑑賞したい。
cut》岩崎 秀雄" class="img-embed">《Culturing cut》岩崎 秀雄
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euglenaの《watage》は素材にタンポポの綿毛を使っており、人が動いた時のわずかな風や呼吸に反応して動く。本作品はテクノロジーを使用しておらず、鑑賞者の存在によって動くという現象を、細い綿毛の動きと小さな光の軌跡で実感させる。タンポポの綿毛を水につけて変形させ、加工されていない綿毛を水のりで接着して作成されたこの作品はこの上なく繊細で、どこか詩的な雰囲気を漂わせる。鑑賞者は、自然の生み出す造形の見ごとさと、さまざまな条件で成り立つ自然界のバランス、その中で生かされている自分自身といった奥行きのある背景に思いを馳せるだろう。
アート部門 新人賞《watage》euglena

アートで瞑想に浸る経験を
ロシアの作家、アンドレイ・チェグノフによる《Total Tolstoy》は、ロシアの文豪、レフ・トルストイにインスピレーションを受けた作品だ。アンドレイ・チェグノフによると、「エゴと自己イメージについて探求していた時に、トルストイ自身のイメージとメディアによるイメージに興味を抱いた」ために創作され、「(作品空間の)中に入り込んで外の世界を忘れ、自己について考える瞑想的な作品になっていればと思う」とのこと。《Total Tolstoy》は全体で10分間の長さがあり、トルストイの著作の中に登場した「I」の回数を年ごとに集めて音にし、「I」「We」「God」の数をそれぞれ赤・緑・青の三原色に変換してつないでいる。断続的に変わる色と音はシンプルかつミニマルで、鑑賞者は賑やかな芸術祭の会場の中で、内省的な気分に浸ることができる。

《Total Tolstoy》アンドレイ・チェグノフ

最新の技術が成立させるアートとエンターテイメント
アート部門で優秀賞を獲得した真鍋大度/石橋素/MIKIKO /ELEVENPLAY によるダンスパフォーマンス『discrete figures』は最新技術を駆使しており、AIがつくった振り付けを人間のダンサーが踊っている。会場では作品空間の正面にある大きなスクリーンにて本番で流れたダンスパフォーマンスが上映され、脇の小さな画面ではダンスで使われた技術が解説されている。
『discrete figures』真鍋 大度/石橋 素/MIKIKO /ELEVENPLAY
『discrete figures』真鍋 大度/石橋 素/MIKIKO /ELEVENPLAY
本作品の隣にあるエンターテイメント部門優秀賞受賞作のライブ公演『Perfume ✕ Technology presents “Reframe”』も同じ制作チームが担当している。『discrete figures』と『Perfume ✕ Technology presents “Reframe”』はどちらもデータを使って創作を行なっていることが特徴で、機械学習の技術が使いやすくなり、データ収集も容易になってきた現代においてはじめて実現する作品だ。
『Perfume × Technology presents “Reframe”』Perfume+Reframe制作チーム(代表:MIKIKO)/真鍋 大度/石橋 素
新しいエンターテイメントのあり方を提示
『チコちゃんに叱られる!』は、なんでも知っている5歳の少女という設定のキャラクター「チコちゃん」が疑問を解き明かしていくテレビ番組。一見素朴に見えるチコちゃんだが、実は彼女の着ぐるみは、複数台のカメラで撮影された上で、放映時に頭部を3DCGのモデルに置き換える処理が行われている。チコちゃんの親しみやすくもインパクトのあるキャラクターや裏打ちされた技術、マンガ的な演出などの強みを持ち、クイズ形式ながらも正解を伝えるだけではなく、誰でも納得できる答えを示すという方法を編み出し、テレビにおける新しいエンターテイメントのあり方を提示した本作品は、エンターテイメント部門で大賞を獲得した。

『チコちゃんに叱られる!』『チコちゃんに叱られる!』制作チーム

過去のリソースを踏まえた壮大な物語
アニメーション部門大賞を受賞したボリス・ラベによる『La Chute(ラ シュット)』は、2Dの墨汁と水彩のドローイングをもとに制作されたアニメーション。14分間の本作品は、地上と天上が描かれた前半と、地獄が描かれる後半で構成され、地上で人間と植物が入り混じる中で天使が降臨し、巨人が誕生して争いと破壊が始まり、やがて天使は墜落して地獄が現れる。ピーテル・ブリューゲル一世やゴヤなどの先達の成果を踏まえながら、死と再生、破壊と創造などをテーマとする壮大な世界観を示している。この展示では映像以外に、オリジナルの原画などを見ることが可能だ。

左:ボリス・ラべ
『La Chute(ラ シュット)』ボリス・ラべ

すべてを吹き飛ばす「おもしろさ」の説得力
マンガ部門で優秀賞を受賞した原作:宮川サトシ/作画:伊藤亰の『宇宙戦艦ティラミス』は、地球連邦政府と宇宙移民の抗争が行われている世界で、宇宙軍用艦のエースパイロットである主人公のどうしようもない日常を描いたギャグコメディだ。正統派ハードSFの雰囲気を醸す緻密で重厚な絵柄と、日常的な笑いに満ちたストーリーとの対比が鮮やかで強烈なインパクトを残す。作中、テクノロジーらしきものは登場するがストーリーの核になっているとは言い難く、現代における問題意識や感動する物語性、壮大なテーマなど、本芸術祭の受賞作に見られる要素はほぼ皆無に思える。しかしこの作品には、有無を言わせぬ「おもしろさ」があり、それが絶大な力になって優秀賞を獲得したのだろう。
『宇宙戦艦ティラミス』原作:宮川 サトシ/作画:伊藤 亰
本芸術祭では、開催期間中、シンポジウムやトークイベント、ワークショップなど、さまざまな関連イベントが行われる。受賞作は多種多様なので、好きな作品、忘れられない作品、もっと知りたくなる作品に何かしら出会えるだろう。ふらりと立ち寄る感覚で行っても楽しめるが、会場は複数あるので、気になる作品がある場合は事前に会場をチェックして見逃すことなく足を運んでいただきたい。

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