ウィル・リー率いるスーパーバンドと
ともに矢野顕子、ランディ・ブレッカ
ー、日野皓正らがジャズ、ソウル、ポ
ップスを横断した『EAST MEETS WEST
2019』

SRP presents EAST MEETS WEST 2019

2019.4.27 東京国際フォーラム ホールC(昼の部)
改元という一大行事を前に、より良い未来を求める人々の願いが乗り移ったような、豊かな音楽とピースフルな一体感溢れる素晴らしい空間がそこにあった――。『EAST MEETS WEST』は、東洋と西洋のミュージシャンが一堂に会して音楽観を共有し合うライブイベントで、第一回は1988年に東京とニューヨークで開催され、東西のトップ・ジャズメンの競演が話題を呼んだが、31年の時を経て『EAST MEETS WEST』の名前が復活。ミュージック・ディレクターを務めるウィル・リーは、1970年代からニューヨークの音楽シーンで活躍する凄腕ベーシストで、来日公演も30回以上を数えるなど、日本の音楽をよく知る意味でもうってつけの大物だ。4月26日から28日の3日間、東京・国際フォーラム ホールCで4回に渡って開催されたライブの、2日目の昼公演の模様をレポートする。
ウィル・リー 撮影=鈴木恵
4月27日昼公演のラインナップは、ウィル・リー率いる総勢13名のEAST MEETS WEST SUPER BANDをバックに、矢野顕子(Vo,Pf)、ランディ・ブレッカー(Tp)、アダ・ロヴァッティ(Sax)、日野皓正(Tp)、臼井ミトン(Vo,Gt,Key)と、年代を超えてジャズ、ソウル、ポップスを横断する多士済々のメンバーだ。
ウィル・リー 撮影=鈴木恵
日野皓正 撮影=鈴木恵
先陣を切ったのは日本ジャズ界のレジェンド・オブ・レジェンド、日野皓正で、オープニング「It’ s There」の冒頭でいきなり超ロングトーンを決めて観客の度肝を抜くと、76歳という年齢が信じられないパワフルなプレイを連発。軽やかにステップを踏み、メンバーを激しく煽り、エフェクトをかけたトランペットを吹きまくる「Yellow Jacket」から、定番スタンダード・バラード「Stardust」へ、そして猛烈に速い4ビートで盛り上げる「Beyond The Mirage」へと一気に駆け抜ける。レジェンドの座に安住しない若々しい熱量を持った、一番手にふさわしい熱演に、いやがうえにもこの後への期待が高まってゆく。
日野皓正 撮影=鈴木恵
臼井ミトン 撮影=鈴木恵
続いて登場したのは、臼井ミトン。一般的な知名度はまだ低いかもしれないが、ウィル・リーとは互いのアルバムに参加し合う仲で、ニューオーリンズ・スタイルのファンクやR&Bをベースにしたご機嫌なポップミュージックの作り手だ。ホーン隊やコーラスを含むゴージャズなグルーヴに乗り、ピアノとアコースティックギターを弾きながら披露する、心地よいメロディと温かみある歌声が実に味わい深い。自身の性格をユーモラスに揶揄した「ナチュラルボーン優等生」や、コーヒーへの偏愛を綴る「Nel Drip ‘rouund Midnight」など、ひねりの効いた日本語の歌詞も面白く、初対面の観客をもぐっと引き込む魅力的なプレイを見せてくれた。

臼井ミトン 撮影=鈴木恵
矢野顕子 撮影=鈴木恵
20分の休憩を経て、ステージに上がったのは矢野顕子。ウィル・リーとは共にトリオバンドで活動していることもあり、意外性はないが、選曲とアレンジには大いに意外性あり。分厚いビッグバンド風サウンドに乗って歌う「BAKABON」は、スティーリー・ダンのように緻密なグルーヴとめまぐるしいコードチェンジで驚かせ、「Godzilla vs Mothra」では「ゴジラのテーマ」と「モスラの歌」を自由奔放にマッシュアップし、「変わるし」では間奏をたっぷり使ったベースとドラムのソロ合戦で大いに沸かせる。これほどラウドで濃密なジャズ空間の中で輝く矢野顕子を見るのは、初めてかもしれない。ラストは名曲「ラーメン食べたい」で締めくくる、矢野顕子ファンには大満足の新鮮なパフォーマンスだったのではないか。
ランディ・ブレッカー、アダ・ロヴァッティ 撮影=鈴木恵
そしてイベントのトリを飾ったのは、ランディ・ブレッカーとアダ・ロヴァッティの夫婦デュオ。ランディとウィルとは50年近い付き合い、しかも二人が在籍する新生ブレッカー・ブラザーズの「First Tune Of The Set」が1曲目なのだから、演奏はまさに一心同体。どこまでも自然体のファンキーでロッキンなジャズ・フュージョンの連発に、客席の年季の入ったジャズファンも大喜びだ。70年代のブレッカー・ブラザーズを代表する「If You Wanna Boogie...Forget It」「Some Skunk Funk」など代表曲を繰り出して盛り上げた上に、ラスト曲「The Dipshit」では日野皓正を呼び込み、フロント三管のソロ回しという華やかなパフォーマンス。全ての観客を興奮させる、圧巻のステージングだ。
ランディ・ブレッカー、アダ・ロヴァッティ 撮影=鈴木恵
さあ、ここまで盛り上げて、これで終わりじゃもったいない。アンコールは本日の出演者が勢揃い、奏でる曲は60年代ジャズのスタンダード「Freedom Jazz Dance」だ。気が付けば、夜の部に出演するマイク・スターン(Gt)がいつのまにかステージにいて、嬉しそうにソロを弾きまくる。矢野顕子が超個性的なスキャットで大喝采を浴びる。ジャズファンもポップスファンも皆笑顔、ピースフルな空気の中で一つになって音楽を楽しむ、素晴らしいフィナーレだった。
他の日の出演者には、ソウルの大御所サム・ムーア(Vo)、ジャズの渡辺香津美(Gt)や桑原あい(Pf)、ロックの藤巻亮太(Vo,Gt)など、ジャンルも経歴も多彩なメンバーがいた。ウィル・リーはそれぞれの選曲とアレンジを一手に引き受け、『EAST MEETS WEST』のコンセプトを実現すべく奔走したという。ジャズをベースに、ジャンルを超えて西から東へ、そして東から西へ、将来的には海外公演も視野に入れていると聞く、新時代のクロスオーバー・イベント、それが『EAST MEETS WEST』。この興奮と感動が来年もまた続くよう、願ってやまない。
取材・文=宮本英夫 撮影=鈴木恵

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