松坂桃李インタビュー 『居眠り磐音
』の殺陣師と作り上げたのは「叫びた
い気持ちを込められるような、感情を
乗せていく立ち回り」

映画『居眠り磐音』が5月17日(金)に封切られた。同作は、シリーズ累計発行部数2,000万部を突破した佐伯泰英氏による同名時代小説を、本木克英監督が映画化したもの。浪人・坂崎磐音が江戸を舞台に悪と戦う姿を描いた作品だ。松坂桃李演じる磐音は、昼間はおっとりとした表情を見せるが、危機が迫れば鋭い太刀筋を見せる、心優しきヒーロー。一方で、幼なじみの琴平(柄本明)と慎之輔(杉野遥亮)を理不尽な“ある出来事”によって失い、許嫁の奈緒(芳根京子)を残して脱藩するという、哀しい過去を背負った人物でもある。初の本格時代劇で、松坂は複雑なキャラクターをどう演じたのか? 殺陣師とともに作り上げた「居眠り剣法」の独創的なコンセプトや、撮影秘話をインタビューで語ってもらった。
松坂桃李が解釈した“坂崎磐音”
松坂桃李 撮影=鈴木久美子
――坂崎磐音というキャラクターをどう解釈して演じられたのでしょう?
磐音を一言で表すなら、「過去を背負い続けると決めた男」です。その過去があることによって、子どもにも翻弄されるし、「NO」とも言えず、色んなことに巻き込まれていく。そして、普段は穏やかではあるんですが、何かを守らなければいけない瞬間には“剣士”になる。そういう、過去があるが故に生まれるギャップを意識しながら演じたところはあります。
――磐音はある事件をきっかけに、非常に重い過去を背負うことになります。事件前と事件後の“ひょうひょう”とした雰囲気にも違いがあって興味深かったです。
磐音は過去に触れないよう、記憶にフタをしているので、自分の中でも“ひょうひょう”の種類が変わってくるだろうな、というのは考えていました。ただ、そこまで違いを意識していたわけではなくて、自然発生的にそうなったのですが。
(c)2019映画「居眠り磐音」製作委員会
――時系列順で撮影していったわけではないんですよね? 
いわゆる順撮りではないんですけど、過去のブロックをある程度まとめて撮ったりはしています。
――それほど感情の整理は難しくはなかった?
脚本にちゃんと“点”を打っていけば、ですね。作品によっては撮影が順撮りではない場合もあるので、自分の中で感情の波になる点を脚本に打っていくんです。過去のブロックと現在、というかたちで区切っていかないと、ブレてしまうので。もちろん、これはぼくの場合は、ということですけど。
松坂桃李 撮影=鈴木久美子
――磐音の哀しい一面を理解するのは、難しくはなかったですか?
難しいことだらけです。時代劇ということもありますが、現代劇にはない感情の出し方が必要な作品だったので。「人を斬らなければならない」という選択肢を選ぶことは現在ではありえないことですし、お互い生きているのに(恋人との)今生の別れを経験するということも、まずないですよね。時代劇ならではの感情を現場でくみ取りつつ、やっていくことで精いっぱいでした。
――本作を通して、イメージしていた“武士”像が変わったそうですね。
ぼくが思う“武士”は、いつも緊張感を持っているイメージだったんです。死と隣り合わせにあるので、常にピリッとした空気を纏っている存在。ところが、磐音は翻弄されつつ、過去を隠しながらも、柔らかさも持っている。剣士であることと以外にも、垣間見えるものがある武士の姿は珍しいな、と。
――本木監督はどんな演出を?
本木監督は、度量がすごく広いと言いますか……われわれ俳優部にものすごくのびのびとやらせて下さる方なので、「ここの芝居はこう」みたいなことはおっしゃらず、「どうぞ、ご自由に!」という感じでした。おそらく、明確なビジョンが出来上がっているので、その中であればいくらでも踊ってくれて大丈夫、という感覚なんだと思います。
「感情を乗せていく」立ち回り
松坂桃李 撮影=鈴木久美子
――「居眠り剣法」と呼ばれる磐音の動きは、どう表現されたのでしょう? 
撮影に入る前に、だいたい1ヶ月くらいの殺陣稽古の期間を設けていただきました。その中で「こういうのがいいんじゃない?」と、殺陣師の諸鍛冶裕太さん(※『真田十勇士』『劇場版MOZU』などのアクションコーディネーター)が提案してきてくださったので、そこから話し合いながら作っていきました。殺陣に関しては、決め事というよりも「この構えから動くなら、次はこうですかね?」というようなことを話し合って、いわゆるカウンターに近い動きを作っています。それと、冒頭で佐々木蔵之介さん演じる佐々木玲圓(※磐音の剣術の師)が「居眠り猫のよう」と表現する場面もあるので、そこからずれてはいけない。じゃあ、どういう構えにすれば「居眠り猫」に見えるのか、というところからスタートしています。
――オーソドックスな殺陣ではないですよね。柄本佑さん演じる琴平との立ち合いは非常に生々しくて、感情が伝わってくるものでした。
(c)2019映画「居眠り磐音」製作委員会
派手なチャンバラではなく、立ち回りがちゃんとした“会話”になるように、というのは意識しました。特に佑さんとのシーンは、ひと振りひと振りにお互いの想いだったり、叫びたい気持ちを込められるような、感情を乗せていく立ち回りにしよう、と。そういうものを作っていくうちに、磐音の動きが出来上がっていきました。ここまで本格的な立ち回りは、今回が初めてです。アクションシーンの経験はありましたが、腰を据えて立ち回りをちゃんとやったことはなかったので。時代劇をやっていく上での経験値としても、いい時間だったと思います。
――一番辛かったのは、どの殺陣でしょう?
やっぱり、佑さんとの立ち回りですね。過去のブロックから、磐音が江戸に出ていく、スタートになるシーンなので。そこからが『居眠り磐音』の始まりになるといってもいい、ある種磐音の核になる部分です。撮影も3日間くらいかけているので、体力とメンタル、両方がすり減りました。
松坂桃李 撮影=鈴木久美子
――敵役の柄本明さんの怪演が強烈でした。共演してみて、いかがでしたか?
柄本さんは、「THE 悪者」という雰囲気で現場に入ってこられたので(笑)。ポスターをご覧になるだけでも、「この人がラスボスだ!」とわかるビジュアルですし。本木監督も「まずは俳優部で自由にやってみて下さい」というスタンスなので、柄本さんのクランクインから、わりと“飛ばして”撮影しました。何なら、段取りでちょっと笑っちゃうくらい「スゴイな!」という感じで。
――ライブ感が強い現場だったんですね。
そうですね。『居眠り磐音』は、色んな方が入れ替わり立ち替わりする現場だったので、ずっと一緒の方がいない寂しさはあったんですが、(ライブ感は)楽しい部分ではありました。
松坂桃李 撮影=鈴木久美子
映画『居眠り磐音』は公開中。
インタビュー・文=藤本 洋輔 撮影=鈴木久美子

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