THE BACK HORN『ハナレバナレ』騒がしい俺の気持ちに感じるジレンマ

THE BACK HORN『ハナレバナレ』騒がしい俺の気持ちに感じるジレンマ

THE BACK HORN『ハナレバナレ』騒が
しい俺の気持ちに感じるジレンマ

THE BACK HORNと住野よるが混ざり合う
あまりにも人間臭くて、感情が爆発して粉々になってしまうんではないか…THE BACK HORNにはそんな印象を持っていた。
そんなTHE BACK HORNが住野よるという小説家とのコラボプロジェクトをスタートさせた。住野よるといえば、小説「君の膵臓をたべたい」が大ベストセラーとなり、映画化もされ今最も注目されている新進気鋭の作家だ。
そんな両者がタッグを組んだらどんな世界が生まれるのだろうか?『ハナレバナレ』の一行目でいつもの”らしい”バクホンの一節。
徐々に聴き進め、歌詞にも入り込んでみる。するとやはり、”何か”が紛れ込んでいることに気付く。
ハナレバナレ
THE BACK HORNの特徴的な表現。いわゆる、感情のぶん投げ。冒頭で主人公の心の動揺を表したいことが理解できる。
”恋とはするものじゃなく堕ちるもの”とはよくいったものだ。たしかにしようと思ってするものではない。
この歌詞の主人公も気付いたら”堕ちて”しまったんだろう。何をしていてもまとわりつく”君”の残像。最初はその感覚が”恋”であることに納得はいかないが、やがてそれがナニモノなのか嫌でも気付くことになる。
”君”は相当な美人なのだろうか?いや、一度”堕ちて”しまったら”俺”には最高の美人。決まった誰かがいるに決まってる。
厄介な感情が頭の中を巡るが、行きつく先はどうしようもなくこびり付く好きという気持ち。今はただ一方的にそんな気持ちでいるけれど、そのうちきっと自分のものにしたくなる。
”君”を知りたい
恋に”堕ちる”と人は、相手のことをどんな小さいことでも知ってみたくなる。その理由は簡単。共通点を見いだし、共感し合いたいから。”一緒だ”って感じたいから。そして一つになりたいから。
予測不可能に”堕ちた”んじゃなく、これは必然だったと思いたい。”君”の何かを知るたびにちょっとずつ縮まる心の距離。
「恋愛小説でもない」という表現は独特。THE BACK HORNなら容易く”愛してる”や”好き”なんて言葉は使わないだろう。そう、そんな甘ったるい言葉を吐くくらいなら「抱きしめる」のだ。
ここまで歌詞を読み解いて、ふと住野よるの存在が顔を出している気がした。なぜなら”いつものTHE BACK HORNなら”にちょっと違和感を感じたからだ。
そういえば、本来のTHE BACK HORNなら言葉を投げて感情を表す。そして一曲を最後まで聞き終えたところで、解釈を聴き手に委ねている気がしていた。
ところがこの『ハナレバナレ』には、ちゃんと”住野よるイズム”が見え隠れしている。これがコラボプロジェクトということなのだと、妙な納得をしてしまった。

人間臭くてド直球なTHE BACK HORNの世界観に、住野よるの小説の世界観が溶けあったら、ここまで心地よいラブソングができるとは正直想定外だ。
勝手な想像だが、水と油で出来ているドレッシングのように、混ざっているようで混ざっていないみたいな感覚に陥るのではないかと心配していたからだ。イメージほどいい加減なものはない。
THE BACK HORNの楽曲は、生と死を表現し書かれる詞が多い。しかしこの『ハナレバナレ』ではぶっきらぼうながらも、男女のそれを歌っているのがしっかりと解釈できる。
”愛”を語るのは正直照れ臭い。だから「笑っておくれ」や「くたばれ」という言葉を無理矢理ねじ込んだのだろう。最後のこの一節で、乱暴ながら「痛いほど」想う”君”が想像できてしまったのは言うまでもない。
おそらくこの歌の主人公は、そんな痛いほどの想いにジレンマを感じながらもがき苦しんでいる最中だ。近づきたくても近づかない…ラブソングでありながら題名が『ハナレバナレ』なのが納得できる。
THE BACK HORNが歌うラブソング
何度となく書いた”人間臭い”というワード、これはTHE BACK HORNの十八番だと勝手に思っていた。激しいサウンドに人間臭く、男っぽい歌詞…。
しかしながら、ラブソングももちろん存在する。『ハナレバナレ』とは少し毛色が変わるが、なるほどと唸るような…。
ここで紹介したいラブソングが『With You』。作詞・作曲ともにメンバーの菅波栄純が担当した。THE BACK HORNには珍しく、イントロからキーボードの音色とヴォーカル山田の”優しい声”で始まる。
「沢山の言葉なんてもう 今は必要ないんだろう」という一節から始まる。趣味が読書というだけあって、菅波はなかなかの詩人だ。
短い言葉で”男の心”を表現するのがズバ抜けている。時に乱暴でぶっきらぼうだが、だからこそ、よりずしんと温かみを感じてしまうのだ。
「頼もしいスーパーマンじゃないけれど いつも傍にいるから」などのフレーズも、男が聴けば深く共感し、女ならグッとくるフレーズであることに違いない。
汗を飛び散らし、魂を叫び吠えるTHE BACK HORNも相当魅力的だが、彼らが歌うラブソングを心静かに聴くのもまた、違ったTHE BACK HORNの楽しみ方ではないかと『ハナレバナレ』に出会って知らされた気がする。
そして一周回った今、改めてTHE BACK HORNの歌う”ラブソング”に耳を傾けてもらいたいと思わずにはいられないのだ。
TEXT 時雨

アーティスト

UtaTen

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