爆笑人情喜劇の動物電気が2年ぶりの
公演!稽古場レポ&政岡泰志インタビ
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1993年、主宰の政岡泰志、看板俳優の小林健一らを中心に結成された動物電気。昭和感あふれる人情喜劇がベースだが、小林がふんどし姿で奮闘する「おもしろいこと」や、毎度変わらずおばさん役を担う政岡、怪優・森戸宏明の「みこすり半劇場のおじさん」など、おきまりのキャラクターや個人技が光る個性派集団だ。下北沢・駅前劇場で敵なしの存在感を見せつける動物電気が2年ぶりの公演。その稽古場を訪れると……。
動物電気 2017年公演 『タイム!魔法の言葉』より(撮影:引地信彦)
◆“高齢者社会の恋愛”を描く新作喜劇
「こんなに休んで何をすればいいのか」と悩ましいほど長期にわたった10連休の始まりは、動物電気の稽古場を訪れるという幸運に恵まれた。こんなこと、ここに書き残さなくていいのだけど、かれこれ10年以上、動物電気を欠かさず観てきたのである。駅前劇場をあとにして、「餃子の王将」だったり、今はなき喫茶店の「ぶーふーうー」だったり、下北沢界隈で食事をして帰るという行事も欠かさず続けてきたのである。
にもかかわらず、取材の機会がこれまでまったくなかった筆者とすれば、その稽古場は喜び勇んで向かう場所にほかならなかった。2年ぶりの公演『ブランデー!恋を語ろう』の初日を約1か月後に控えた4月末のことだ。
「平成最後の稽古だねー」
俳優陣が身体を慣らしながら雑談をしている。奇しくも前回公演『タイム!魔法の言葉』が平成最後の動物電気公演となり、令和の幕開けに、本作が文字通り幕を開ける。
『ブランデー!恋を語ろう』のモチーフは“高齢者社会の恋愛”。近未来の首都圏で、男と女の恋の駆け引きが始まるというもの。近未来? SF? そんな心配はさにあらず。舞台は歌謡教室というのだから、いつもながらの動物電気らしさが全開のはずだ。
「稽古、まだ始まったばかりなんです。エチュードやゲームが中心なんですけど、それで取材になりますかね?」
稽古開始前、小林健一が申し訳なさそうにそう言いながら、筆者に飲み物を手渡してくれた。いや、十分です! エチュード観られるだけでおなかいっぱいです!
「青ちゃんクイズ」が始まり一列に並ぶ俳優陣
◆爆笑の「平成を振り返る」エチュード
20分ほどのウォーミングアップを経て、ゲームがスタート。役者たちが3チームに分かれる。ゲームの内容は3文字の言葉を当てるというもの。出題者は政岡だ。たとえば「らくご」が正解とすると、役者たちは探り探り3文字の言葉をホワイドボードに書く。「くじら」なら「ら」が入っているから1点、「らくだ」なら「ら」と「く」が入っていて、さらに語順どおりだから4点という具合だ。ちなみに、このゲームは小林が早くも正解を導き出した。
左から、帯金ゆかり、小林健一、高橋拓自、ザンヨウコ
休憩を経て、「青ちゃんクイズ」が始まった。新劇団員の青山千乃に関するプライベートな問題を出して、ほかの役者たちがそれを当てるゲームだ。「好きなお菓子」「初めて観た映画」「好きな東京の街」「東京ディズニーランドに行った回数」などを競って回答する。稽古終了後、政岡はゲームについてこう話していた。
「初めて参加する客演の人のクイズはいつもやっています。青山は初参加の劇団員だったので、今日は『青ちゃんクイズ』にしました。ただの遊びではあるんですけど、役者同士がお互いにどういう人かを知れるゲームだから、共演者への興味を誘発できる意味もありますね」
左から、姫野洋志、高橋和美、青山千乃
そのほかいくつかのゲームが繰り返され、エチュードの時間に突入。テーマは「平成を振り返る」だ。1998(平成10)年から、2006(平成18年)の各年をチーム別に演じる。役者たちはスマホで当時の情報を集め、即興劇を作り上げる。ハマの大魔神、だっちゅーの、PHS、毎日骨太などのキーワードが飛び交う。ゲラゲラ笑う政岡……。終盤、台本の稽古が開始された。残念ながらネタバレ防止のため仔細は明かせない。ただし、「おもしろいモノをつくる人たちの真剣な姿」がそこにあったことは確かだ。
この日は、劇団員・ヨシケン改の誕生日。平成最後の稽古は、お祝いのケーキを食べながら幕を閉じた。近くの喫茶店に移動して、政岡に話を聞く。
左から、坂本けこ美、松本D輔、森戸宏明、ヨシケン改
◆役者は「オレがオレが」でも「どうぞどうぞ」でもダメ
――今日はゲームやエチュードが中心でしたね。平成を振り返るエチュードが面白かったです。
まあ、ほとんど遊びなんですけど。これが台本や作品づくりのヒントになるということでもなくて……。僕、台本を書き上げるまでが遅いんです。少しずつ書いていって、小屋入り前くらいに完成するので、最初のころはゲームばかりしています。
――今回のテーマとなる高齢化社会の恋愛について聞かせてください。どこから着想を得たのですか?
街を歩いていると、中高年のカップルをよく見かけるんです。その方々の多くが、なんか若い子みたいな感じの付き合い方をされているような気がするんですよ。僕らくらいの年代の男女が手をつないで歩いていたりね。別にいいんですけど(笑)。イチャイチャしていて、気持ち悪いなと(笑)。こないだも、飲み屋で横に熟年カップルがいたんです。女の人は相手のことをダーリンって呼ぶし。いいんですけどね、でも吐きそうになって店を出ました(笑)。少し前から、そんな恋愛モノをやりたいなと思っていたんです。気持ち悪いのに舞台でやりたいのは、やっぱりそれがなんか面白いなと思うのと、どこかで近親憎悪があるからかもしれないです。僕も中年ですから。
――作品の設定に、実体験が含まれることもあるのですか?
ありますね。『すすめ!!観光バス』(2008年)は、中年男性が高齢の両親を連れて旅行する話なんですけど、僕の実体験がベースです。40歳になる少し前に両親と旅行をしたとき、「なんかきっついなぁ」と思ったことを舞台にしました。
エチュードで爆笑する政岡泰志
――プレスリリースにある一文で『「笑わせて」いるのでなく「笑われて」いるのでもなく、お客様さまと一緒に「笑っている」。そういう時間を創りたい』というところが、まさに動物電気だと思いました。
これは桂枝雀さんの言葉なんです。笑わせている感じでもないし、かといって笑われているというのは僕らも長くやっているプライドがあるので、そう言いたくない。やっぱりお客さんと一緒に笑っているというのが一番の理想だなと思います。ただね、小林(健一)は笑わせているつもりなんです。なんなら笑われたくない。誰よりも笑われているくせに(笑)。
――政岡さんがもとめる俳優のあり方について教えてください。
客演なら、第一条件は動物電気を観たことがある人で、作品を好きでいてくれる人ですね。よその劇団だと、不見転(みずてん)で関わりのなかった役者さんを呼んでいるところもあるらしいけど。
女優さんは、やさしそうな人がいいです。まわりに気を使える人。それは劇団員も同じですね。要するに、「オレがオレが」ではない役者。でも、引っ込み思案でもダメだから、むずかしいところなんですよね。役者は相手の芝居を受けることが大事じゃないですか。芝居はみんなでやるものですから。そういうことで考えれば、エチュードをやって相手のことを知るのは意味がありますね。役者は「オレがオレが」でも「どうぞどうぞ」でもダメだから、そのバランスがある人とやっていきたいです。
ウチの役者は、みんな真面目でおとなしいですね。控えめなのか、アドリブも全然入れません。小林の「おもしろいこと」も、ほとんど彼に任せていますけど、稽古でちゃんとやることを決めていますから。
――かなり緻密につくっていますよね。でも、その緻密さを舞台上でなるたけ見せないようにしている気がします。
そう! 緻密なんですよ、動物電気は(笑)。細かく、緻密につくっているんだけど、お客さまには緻密と思われない。僕たちは、いつもなぜかそうなってしまうんです(笑)。
動物電気 2017年公演 『タイム!魔法の言葉』より(撮影:引地信彦)
撮影・取材・文/田中大介

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