凛として時雨の
『still a Sigure virgin?』に
宿る中毒性を帯びた
オリジナリティー
もっとあのサウンドを
浴びたくなる中毒性
Sex Pistolsの「Anarchy in the U.K.」を彷彿させる冒頭から、俗にいうミクスチャーロック的ファンキーさを見せ、とてもメロディアスなパートに収束していくというM5「a symmetry」も、こう説明しただけでも型にはまった印象が一切ない。これもまた巧いタイトルである。この辺まで来ると、バンドアンサンブルもさることながら、高音が強調されたTK(Vo&Gu)の歌メロもこのバンドのかなり重要なポイントであることも分かってくる。彼の声と、その声から奏でられる旋律もまた確実に比類なきものだ。この楽曲ではスクリーモ的なシャウトがキャッチーなサビと地続きになっているのがおもしろいが、3ピースのアンサンブルがそうであるように、声においても秩序だけでも混沌だけでもない表現を見せているところに、非凡さのみならず、アーティストとしての決意のようなものすら感じるところである。
ほぼアコギでの弾き語りのような印象を受けるM6「eF」。キャッチーで疾走感のあるR&Rと言えるM7「Can you kill a secret?」。この2曲は、多くの人がこのアルバム中では最も“普通”なナンバーであると指摘するのではないかと思うが、こういうタイプがあることで凛として時雨が前衛音楽を標榜しているバンドではなく、ポップアーティストであることが分かるし、好感が持てるところである。もちろん“普通”とは言っても、そこは彼らのこと。M6「eF」は楽器が少ない分、歌の生々しさが強調されているし、M7「Can you kill a secret?」ではやはり面白いリズムパターンが聴けるので、このアルバムの中で比較すると“普通”であることを強調しておく。というか、『still a Sigure virgin?』前半で凛として時雨の音楽性にすっかりやられてしまって、耳がもっと彼らの独自性を欲してしまうからなのかもしれない。
その点で言えば、後半のM8「replica」、M9「illusion is mine」もそうだ。M8「replica」はノイジーなギターロックとテンションノートを使用していると思しきアルペジオが同居した上に、サビはパンキッシュでありつつ、345の声も相まって若干アニソン的な匂いもある。M9「illusion is mine」は、これもまた345のヴォーカルが入っていて、彼女の声が幻想的な雰囲気を醸し出しており、逆回転が入ってサイケデリックでもあるのだが、4つ打ちダンスチューン向かっていくという興味深いナンバーだ。いずれも彼らならではと言える独自性が十二分に発揮されている。しかしながら、本作を通して聴いてくると、このくらいではもはや驚かないというか、不思議な高揚感を抱いていることに気付くのだ。中毒性があると言った方が分かりやすいだろうか。わずか9曲だが、もっと凛として時雨の楽曲を聴きたいと思わせる、毒にも薬もなる成分が確実にそこにあるのだ。
この『still a Sigure virgin?』が4thアルバにして自身初のチャート1位をしたのが、彼らの音楽に中毒性がある何よりの証拠。筆者は今回、実質的に初めて彼らの音源をちゃんと聴いたが、凛として時雨が世に出てからその音源を聴いて来た人であれば早くから凛として時雨への依存が始まっていたのではと想像する。調べてみたら、インディーズでのアルバム『#4』はチャート100位以下で、『Inspiration is DEAD』は39位。メジャー第一弾であった『just A moment』は4位。そして、『still a Sigure virgin?』が1位と、チャートリアクションが極端な右肩上がりであって、多くのリスナーが急激に凛として時雨の音楽に依存していったことがうかがえる。言うまでもなく、2000年代以降の邦楽シーンに有形無形、決定的な影響を与えたバンド、その筆頭格である。
TEXT:帆苅智之