ブレイク前夜の渋いバンド ペンギン
ラッシュが七情に訴える

ブレイク前夜の渋いバンド・ペンギンラ
ッシュ

昨今、音楽シーンでブラックミュージックが注目を集めるなか、こうした音楽をバックグラウンドに持つ若いミュージシャンが増えてきた。彼らの多くは日本のポップスを下敷きにしているため、本国のブラックミュージックとは一味違った新しいサウンドが数多く生まれつつある。 そのなかでも、ペンギンラッシュ(Penguinrush)というバンドは、他とは一味違った渋い存在感を放っている。まだインディーズのバンドだが、令和元年は彼らのブレイク前夜という雰囲気が漂っているので、本記事で紹介したい。

 

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・ 2019.3.20 ・ photo by @taka_1114

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ペンギンラッシュとは?

上段左より、Vo.Gt.望世、Key.真結、Ba.浩太郎、Dr.Nariken

ペンギンラッシュは、名古屋出身の男女4人組バンド。ジャズ、ファンク、ソウルミュージックのグルーヴをベースにしつつ、J-POPの親しみやすいメロディを融合させたアーバンサウンドとハスキーな女性ボーカルが特徴。

バンド名の「ラッシュ」はアメリカのファンク・ブルースミュージシャンであるボビー・ラッシュに由来し、「ペンギン」は「ガールズバンドだし動物の名前を入れてかわいくしよう」という考えから。

メンバーは望世(みよ Vo. & Gt.)、真結(まゆ Key.)、浩太郎(Ba.)、Nariken(Dr.)の4人。高校時代の軽音部のメンバーだった望世と真結を中心に2014年に結成。当初はギターロックのカバーバンドだったが、軽音部の顧問にジャズやファンクを教えられたことをきっかけに音楽性が変化していった。2017年、それまでサポートメンバーだった浩太郎とNarikenが正式加入し、現在のメンバー構成に。なお、望世は2019年5月時点で現役大学生。望世と真結の同級生コンビを、年上のリズム隊が支えている。

近年、名古屋からは個性的なバンドが続々登場しており、CHAIはもちろん、HalfTime Old、クアイフなど枚挙にいとまがない。特に、ベース・ドラム・キーボードに女性ボーカルというメンバー構成や地元名古屋からの強烈な支持など、ペンギンラッシュとクアイフには近しさがあるかもしれない。音楽性は異なるが、ジャズやファンクのなかから時折のぞくロックなアティテュードを見ると、両バンドに通底する熱を見ることができるだろう。

事実、ベースの浩太郎は、クアイフ結成当初からのクアイフィー(クアイフのファン)だそうだ。5月28日には両バンドの対バンも決定している。

夜と朝のあいだの音楽 違和感と快感の
クロスオーバー

音楽的には風味堂SUPER BUTTER DOGBill Evans Trioなどに影響を受けている。望世と真結はジャズバーでも働いており、そこで数多くのレコードを聴き、ライブを観たという。

そうした経験が影響しているのか、ペンギンラッシュの音楽は昼よりも夜、郊外よりも都会に合う。時にほどよく力が抜けてリラックスしたムードを装い、時に力強いグルーヴでソウルフルな演奏を奏でる。酒がうまくなるタイプの、ちょっとアダルトな音楽だ。フェスでいえば『Greenroom Festival』などの都市型フェスを好む人にはドンピシャでハマりそう。

そのような音楽は、現在の東京シーンの最前線にはNulbarichなどがいる。彼らはすでに早耳の音楽リスナーだけでなく一般リスナーからの支持も獲得しているが、ペンギンラッシュもその系譜に連なるかもしれない。

しかしそれらのグッドミュージックとペンギンラッシュが大きく違うのは、メロディやコード展開がストレートではないこと。彼らを評する際に「ひねくれた」や「違和感」という言葉がよく使われるが、たしかに、定石からあえて少しだけ外れた展開にしたり、不安定さを逆に楽しんでいたりするようなフシがある。たとえば『RET』(読み:アールイーティー)という曲を聴いてみてほしい。
ペンギンラッシュ『RET』MV

もっとポップにしようと思えばできるはずなのに、それをやらない。さりげない転調を混ぜ、音と音のあいだに隙間をつくり、不安定さを醸すことによって、望世が持つ独特な歌声の浮遊感をさらに浮き立たせる。根底にあるのはベースの浩太郎の出自にあるフュージョンだろうか。

さきほど「昼よりも夜」に合うと書いたが、『RET』はむしろ早朝かもしれない(というか、「午前5時」とはっきり歌われている)。夜と朝のあいだ、1日の終わりと始まりのあいだに漂う、ある種のけだるさと諦め、悲しさ、その先にある光や希望が表現されていると見ることができる。

そう考えると、ペンギンラッシュの特徴は「何かと何かのあいだにあること」という言い方ができるかもしれない。それをこのバンドは「クロスオーバー」という言葉で表現している。夜と朝のクロスオーバー、けだるさと溌剌さのクロスオーバー、違和感と快感のクロスオーバー、ポップとアヴァンギャルドのクロスオーバー、ジャンルとジャンルのクロスオーバー。

2ndフルアルバム『七情 舞』

「No size」ジャケット

2018年8月には初の全国流通盤『No size』をリリースしている。ジャケットに描かれたたくさんの目は「他人の目を気にする日本人」を象徴しているという。皮肉の表し方が軽やかで、まったく嫌味がない。それでいて本質的なメッセージが込められている。
ペンギンラッシュ『悪の華』MV

収録曲には『アンリベール』『モノリス』『青い鳥』など文芸作品からの引用と思われる楽曲も見受けられる。作詞を担当する望世が大学でシナリオや文学を学んでいるせいだろうか、歌詞にはストーリー性のあるものやポエティックな技法で書かれたものも目立つ。

音がスルメであるのに加え、歌詞もスルメ。このバンドの楽曲には、今後さまざまな聴き手によるさまざまな解釈が加えられるだろう。今から注目しておいて損はない。

ペンギンラッシュ

新譜情報

2ndアルバム 『七情舞』
2019.6.5 Release
CD:NCS-10227 / \1,800+税
販売:スペースシャワーミュージック

・収録曲
1. 悪の花
2. アンリベール
3. 契約
4. 能動的ニヒリズム
5. モノリス
6. 晴れ間

ブレイク前夜の渋いバンド ペンギンラッシュが七情に訴えるはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

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「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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