【ライヴレポート】ACID ANDROID、E
X THEATERに浮かび上がった“密接に
絡み合う総合アート”

ACID ANDROIDが4月29日、EX THEATER ROPPONGIにて<ACID ANDROID LIVE 2019 ♯1 FINAL>を開催した。同ツアーは3月30日のHEAVEN'S ROCK さいたま新都心を皮切りに4月29日の東京 EX THEATER ROPPONGIまでの国内6公演および、追加公演となる北京ワンマンを加えて計7公演の規模で行われるもの。単独公演としては9年ぶりの福岡と仙台、そして13年ぶりのさいたま公演を含むものであり、そのファイナルはACID ANDROID初の全指定席となる。
無音の暗闇の中、メンバーが登場すると、左右2つのライトが静かに明滅し始める。幕開けは、1stアルバム『acid android』の冒頭3曲、「pleasure」「irritation」「suffering」のミニマルなインダストリアルシークエンス。スタンドマイクを両手で持ち、両足を大きく開いて凛と立ち、柔らかな歌声を響かせるyukihiro。KAZUYA (G / Lillies and Remains)は不穏なギターフレーズを奏で、山口大吾(Dr / People In The Box)のドラムは密やかに鳴り始め、やがて昂ってゆく。スクリーンの映像も照明も、まるで音楽とピッタリ呼吸を合わせるように連動しながら、静から動へと変化を遂げていた。
続く「intertwine」では、規律的なエレクトロビートにヘヴィロックが融合したハイブリッドサウンドに陶酔。紫と淡いグリーンを基調とした光が降り注ぐ中、ハンドマイクに持ち替えたyukihiroが歌唱する。「daze」は、身体に吹き付ける一陣の風を感じるほどのすさまじい音圧だ。エキゾチックな郷愁を帯びたシンセリフと、エフェクティヴで硬質なyukihiroのヴォーカルに、幻想的な異空間へと誘われた。「imagining noises」ではヘヴィロック要素が生音によって力を増し、強靭なグルーヴを生んでいた。

ここからは、最新作『GARDEN』収録の楽曲群が続く。ACID ANDROIDの音楽性は無機質な印象が強いかもしれないが、深い抒情性を湛えた作品である。スクリーンにはピアノを奏でる手元が映し出され、まずは「dress」がスタート。センチメンタルなメロディライン、そしてこの日のライヴ全体を通いて感じたことだが、随所で効果的に重ねられた繊細なコーラスワークがハッとするほど美しかった。日本語で綴られた歌詞には、イメージの断片をコラージュしたような詩的な豊かさがあり、抽象的な映像との相互作用で、聴き手の自由な想像を無限大にする。
「precipitation」ではyukihiroの高音に引き込まれ、スクリーンに左右対称に映し出された見知らぬ不思議な街のような、どことも分からない場所へ迷い込んだような心地になった。「division of time」では心拍に合わせて脈動するような映像を背にダークでメランコリックなメロディラインを歌うyukihiro。KAZUYAが単音で爪弾くギターフレーズも哀切を帯び、深く心に訴えた。やがて炎がスクリーンで燃え盛り始める。歌詞は説明のためではなく、あくまでイメージ喚起の引き金として作用し、音楽、映像、照明、すべてが混ざり合って五感に働き掛けた。

「roses」では紫と薄いグリーンのライトでステージが照らされ、強い光によってyukihiroの上腕部が一瞬透けて見えた。外界を遮断せず、しかし剥き出しにすることは決してなく、覆われた生身の存在を仄めかすというクールな美意識がスタイリングにも表れている、と感じたのだが、深読みのし過ぎだろうか? 一声で力強く歌うところと、二声でハーモニーを響かせる箇所とのメリハリが歌の奥行きを増幅。端正な美しさを保ちながら、さりげない演奏のアクセントが加わり、時間を掛けて花が開くように、少しずつ曲の表情が移り変わっていく。中盤で少しずつ灯り始めた赤いライトが最後には煌々と輝いて、曲は終わりを迎えた。
地を這うようなシンセベースに貫かれた「ashes」では、物悲しさを帯びたヴォーカルラインを粛々と歌いつつ、yukihiroの身体の動きはドラムのリズムとシンクロ。マイクを握った両手をほどいたり、片手を強く振り下ろしたりする流麗なアクションが、まるで遠隔指揮を司っているように見えた。時計やアンモナイトを想起させる円や渦のイメージと炎がスクリーンには映し出され、やはり、詩的なヴィジョンを強く脳裏に焼き付けられた。

大きな歓声に包まれながら暗転すると「chill」を放ち、パワフルで破裂的な山口のドラミングで空気が一変。オルタナティヴロック調のKAZUYAのギターリフも熱く、yukihiroは白い閃光を一身に浴びながら、ストレートに、エモーショナルに歌唱する。会場は大いに沸き立ち、興奮に満ちた歓声が飛び交った。「echo」ではシンセの音色がまるで“動き回る”のを体感するような、立体的な音響づくりに驚嘆。続く「gravity wall」でもその音響体験は継続した。深い森、木陰を思わせる映像と、月を描き込んだ歌詞、ループする複雑なリズムパターン、体温を感じさせるギター。すべてが混ざり合って、近未来的でありながら太古の記憶とも通じるような、謎めいた時空へと心身を誘っていった。
「chaotic equal thing」は過剰なほどの激しさの中に、大陸の雄大な夕映えが突如顔を覗かせるような極端な振り幅を、バンドとして見事に表現。yukihiroのヴォーカルは迷いがなく、潔く響いた。「let’s dance」からは終盤に向けて加速度を増し、オーディエンスは音に合わせて拳を振り上げる。「violent parade」でのyukihiroは挑発的で荒々しく、シャウトも交えながら歌唱。「violator」へと雪崩れ込むと、白と淡いグリーンのライティングの下、3人にピンクがかった紫の光が妖しく照射される。アグレッシヴで硬質な曲の骨格に、多層的なコーラスワークが荘厳な響きを与え、何度もライヴで聴いてきたはずのこの曲にこの日、新たな魅力を感じた。yukihiroは立ち位置から大きく離れることはなく、数歩前後するぐらいなのだが、曲調が変化する瞬間に手に力を込めたり、リズムに合わせて肩を揺らしたりする、その些細なアクションから、内に秘めた膨大なエネルギーが伝わってくるから不思議だ。

熱狂の中、「stoop down」へと突入。ストロボライトが眩しく点滅する中、パワフルでキレの鋭い歌、演奏で圧倒。実は、手元のセットリストに記されていたのはここまでだったのだが、この後なんと、「ring the noise」を披露。唯一yukihiro名義でリリースした、2001年の1stシングルである。ステージにカメラマンが現れてメンバーに接近し、その場で撮られた映像が、背後のスクリーンに大写しになっていく。あえて選択したに違いない粒子の粗いモノクロームの映像が、鮮明な画質以上に、躍動感や熱そのものを映し出しているように感じられた。思いがけない選曲と演出に、フロアは大歓喜。いつものようにMCは無いまま、ステージを去ったyukihiro。説明のない中、その意図は想像するしかないのだが、キャリア網羅的なセットリストであったことと、2019年はアーティスト始動30周年だということから推察すると、このステージに込めた想いが浮かび上がってくるように思う。
EX THEATER ROPPONGIという空間にACID ANDROIDは実によく似合う、というのは一つの大きな発見だった。yukihiroのヴォーカルが、曲の幅が広がったことによって多様化して来たことが一望できるライヴであり、音響も含めた音楽、照明、映像、それらすべてが密接に絡み合う総合アートとして味わうことができる、意義深い公演だった。

取材・文◎大前多恵
撮影◎河本悠貴

■<ACID ANDROID LIVE 2019 ♯1 FINAL>4月29日@東京 EX THEATER ROPPONGIセットリスト

01. irritation
02. intertwine
03. daze
04. imagining noises
05. dress
06. precipitation
07. division of time
08. roses
09. ashes
10. chill
11. echo
12. gravity wall
13. chaotic equal thing
14. let's dance
15. violent parade
16. violator
17. stoop down
18. ring the noise


■<ACID ANDROID LIVE 2019 ♯1 追加公演>

6月30日(日) 北京ワンマン
※5月5日(日)に開催を予定していた北京公演は、中国国務院より労働節(メーデー)の連休日程が変更されたことにより、5月5日(日)が休日から平日へ。そのため、公演開催日が6月30日(日)に延期された。公演概要等の詳細は、後日改めて発表される。


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2019年9月6日(金) 恵比寿 LIQUIDROOM
open18:30 / start19:00
(問)DISK GARAGE 050-5533-0888
▼チケット
ALL STANDING ¥6,500(税込・ドリンク代別)
一般発売:2019年6月22日(土)
※3歳以上チケット必要

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