エド・シーランも飛入り!ジョン・メ
イヤーの武道館を2日間観た。【ライ
ブレポート】

ジョン・メイヤーが5年ぶりの来日し、武道館で2日間の公演を行った。ジョンは稀代のシンガー・ソングライターであり、現代の3大ギタリストといわれるほどの名うてのギタリストでもある魅力が多いアーティストだが、彼のライブは毎夜セットリストが全く違うことでも知られている。セットリストが違えば、もちろん、ショーから得られる印象は根本的に異なってくる。その違いを見極めるために、4月10日、11日と2日間にわたる武道館公演を見た。
両日ともライブの構成は同じで、第1部に10曲、15分の休憩が入り第2部はアコースティック・セットからスタートして12曲を披露し、アンコールが2曲の全24曲。
4月10日は定刻にメンバーが登場。ジョンの試し弾きのギターの音にさえ大きな歓声があがり、どれだけ来日公演を待たれていたかがわかる。1曲目は「Helpless」。軽快かつグルーヴィーな演奏と歌に会場は一気に温度が上がるも、最初の短いギター・ソロではこれもまたひときわ大きな歓声が会場を包む。やはりジョンのギターが見たいんだよ、という観衆の気持ちを表すかのような場面だった。「こんばんは、お久しぶりですね」という日本語のMCに続いては、下手(しもて)に陣取ったサポート・メンバー、アイザイア・シャーキーのフリーなギター・ソロをイントロとして、一転ジャジーな「Moving On and Getting Over」を披露。そして、一旦アコースティック・ギターに持ち替えて、しっとりとした「Who Says」へ。途中、歌詞をTOKYOと歌い変え、大歓声がこれに応える。ジョンと観衆の絆の強さを見せつけられたシーンだった。
「この曲が、アーティストとしての自分を初めて日本や世界中へ連れて行ってくれた」というMCでデビューアルバムから「No Such Thing」をプレイ。すべてはこの曲から始まったとも言える最初のヒット曲は今では多少青臭さがあるポップ・ソングだが、この日の演奏からはオーディエンスに対する感謝のようなものが色濃く感じられ、大盛り上がりの観衆を見守るジョンの温かいまなざしが印象的だった。
ジョン・メイヤー Photo by 土居政則
続いては、ジャクソン C. フランクの名曲「Blues Run The Game」をさらっと歌い、そのまま「Queen of California」に突入という憎い演出。そのまま曲間を開けずに最新曲の「I Guess I Just Feel Like」へとなだれ込むメドレーのようなアレンジはライブならではのスリリングさだ。曲後半でフィンガー・ピッキングで聴かせたジョンのソロは、音数こそ多くないがじっくりと聴衆を巻き込んでいく圧巻の出来。ただ、ここでもいえることだが、バンドも肝心のジョンのソロも決して冗長になることなく満腹一歩手前で終わるため、やや拍子抜けの感があるのも事実。それは、ジョン・メイヤーというソロでは、ブルースの長いソロやインプロヴィゼーションをやりたいわけではなくポップ・ソングなんだといっているようにこの夜のライブ全体を通してとても強く感じられた。
2015年以降、グレイトフル・デットのスピンオフ・バンドであるデッド&カンパニーに参加しリード・ギターとリード・ボーカルを担当するようになってから、ジョンの中では、自分名義のものはポップ・ソング、よりインプロ色の強いプレイはデッド&カンパニーというように意識的に分けているのかもしれない。それぐらいこの日のプレイは爆発一歩手前の制御の効いたものだったのが非常に印象的だった。
それを象徴するかのような新曲「New Light」では、演奏前にこれは楽しい曲だとMCで言った通り、イントロで自ら両手を広げて踊って見せるなど、ジョン流の新たなポップ・ソングの魅力がはじけた。続く10曲目はジョン流のファンクが感じられる「Still Feel Like Your Man」。この曲で、ほぼ1時間の第1部は終了。
ジョン・メイヤー Photo by 土居政則
休憩を挟んで第2部はアコースティックの編成で再開。「次の曲のコードはこんな感じ」といって一巡のコード進行を弾いて見せるだけで大歓声が起きたのは、「Daughters」。2ndアルバム『Heavier Things』から唯一の披露となった人気曲は、観衆がじっくりと聴き入る様が印象的だった。このアコースティック・セットの聴きどころは次の13曲目の「Free Fallin’ 」で訪れた。言わずと知れたトム・ぺティの代表曲のカバーで、ジョンのバージョンはライブアルバム『Where the Light Is: John Mayer Live in Los Angeles』で聴くことができるため、ファンにもお馴染みの1曲。2017年に不慮の死をとげたトムへのトリビュートの気持ちも込められていたのだろうか、歌声には目を見張るものがあり、ジョンのボーカリストとしての力量をまざまざと見せつけられた気がした。
続いて「Stop This Train」「Whiskey, Whiskey, Whiskey」とアコースティック・ギターでシンプルに聴かせるも、2部が始まってから5曲もアコースティック・ギターの曲が続いたため、なかなか会場も温まらないまま、少し間延びした感も否めずというのが正直なところ。だが、それはこの後の展開を考慮に入れていたためであると後から思えば理解できる。そう、事前から噂になっていたエド・シーランの飛び入りゲストというサプライズだ。
「ツアーに出ていて、一人でいると、不意にさみしくなることもあるものだけれど、こういう友人との出会いは本当に救いになる」というこの日のライブでは珍しく長めのMCでエド・シーランがシークレット・ゲストとして呼び込まれると、会場は一瞬火のついたように騒然となった。ジョンのツアー・グッズの赤いパーカーを着て登場したエドは、まずジョンの「Belief」を共に披露。Aメロを二人で歌い分け、サビは2人のハーモニーで聴かせるという豪華なアレンジで、客席は一気にヒートアップ。続いて、エドのヒット曲「Thinking Out Loud」になだれ込み、この日の盛り上がりの頂点を打った。この曲がバンドで披露されることもレアなら、エドがエレクトリック・ギターを弾いている姿もレア。そして、主旋律のエドに対し、ハーモニーを聴かせるジョンのコーラスは美しく、それに続くジョンのエモーショナルなギター・ソロも出色の出来で、この日のハイライトと言って差し支えないだろう。2曲を終えエドがステージを去った時、ジョンは「すごい!」と日本語で感嘆の言葉を発したのは、素直な気持ちだろう。それほど、このセッションはスペシャルなものであり、ここには確実に、マジックが存在していたといっていいだろう。
ジョン・メイヤー Photo by 土居政則
ここからは、「Edge of Desire」「Paper Doll」と続きクールダウンするも、この日2度目のクライマックスはここから始まった。サポート・ギターのデヴィッド・ライアン・ハリスが美しいファルセットで歌出したのは、プリンスの名曲「The Beautiful Ones」。そして、この美しい名曲がそのまま、ジョンのスロー・バラードの傑作「Slow Dancing in a Burning Room」へと繋がり、10分を超える熱い演奏が繰り広げられた。この日のライブではあまり長いギター・ソロを聞くことはできなかったが、この曲だけは別だといわんばかりの熱いソロは圧倒的で、ジョン・メイヤーというギタリストの底力を見せつけられたといっていい。レコーディングされたジョンの音源からはあまりギタリストを強調するような印象は強くなく、あくまでもポップ・ソングの範疇を逸脱しないのが彼の魅力であると理解していたが、この夜のこの曲はジョンが現代の優れたブルース・ギタリストであることを雄弁に物語っていた。改めて天井を打ったこの日のライブは、再びアコースティック・ギターに持ち替えて歌われたフォーキーな21曲目「In The Blood」、スケールの大きなギターソロが印象的な22曲目「In Repair」と続き、深い余韻を残したまま本編は終了。
アンコールの1曲目は、アコースティック・ギターとブルース・ハープを手に「Born and Raised」をプレイ。そして最後は、イントロで大きな歓声が上がったスローなブルーズ・ナンバー「Gravity」。10分を超える演奏だが、的確な演奏で完璧な世界を作り上げるバックバンドのレベルは高く、じっくりと胸に迫ってくる終演にふさわしい曲だ。
終わってみれば、3枚目のアルバム『Continuum』から6曲 、5枚目『Born and Raised』から5曲とこの2枚からの曲が多かったり、比較的スローな曲が多く選ばれていたりと、 選曲としてはやや偏った感もあるが、エド・シーランのゲストという飛び道具があったこともあり、この日のライブからはジョン・メイヤーというアーティストは今という時代を歌うんだという強い意志が感じられた。優れたソングライティング・センスに、スモーキーで魅力的なボーカルとその要素は十分に擁していることはすでに証明済みではあるが、改めての声明のようでもあり、とても頼もしく感じられた。
ジョン・メイヤー Photo by 土居政則
翌11日は、前日にエド・シーランと共演した「Belief」からスタート。「Moving On and Getting Over」「I Don't Trust Myself (With Loving You)」と非常にタイトな演奏が続き、胸が熱くなる。アコースティック・ギターに持ち替えて、4曲目は4枚目のアルバム『Battle Studies』 からこの夜唯一披露された「Who Says」。オープニングから一気に畳み込んだ流れを一度ここでスローダウンした「Waitin' on the Day」では、エンディングに昨夜には見られなかったようなフリーな長いギター・ソロを展開。序盤にしてギタリストのジョン・メイヤーを強く印象付けた。5曲目「Love on the Weekend」、6曲目「Something Like Olivia」と短めの曲を連続しながらも観衆をしっかりとあたため、序盤のハイライトと言える「Changing」へ。スローテンポでしっとりと歌を聴かせる構成ながらも、エンディングにはスタジオ・ヴァージョンの比ではない長いギター・ソロを入れ、壮大な世界を描いて見せた。昨夜にはなかった長いソロを取る曲が既に2曲と、セットリストの違いが鮮明となる。「Why Georgia」の後、長めのMCを挟んで「New Light」と軽いポップ・ソングが続く。ダンス・ナンバーとして紹介された「New Light」では昨夜よりもより軽くダンサブルな演奏にジョンが楽しそうに体を動かす姿が見られた。ここに垣間見られたいたずらっ子のような無邪気な姿は昨夜にはなかったものだ。ここで1時間の第1部は終了。
休憩を挟んで、アコースティック・セットがスタート。まずは、徹底的にテクニカルなアレンジが施された「In Your Atmosphere」。そして、続く12曲目「Buckets of Rain」はボブ・ディランのカバー。昨日のトム・ぺティや、曲中に差し込まれるプリンスやジャクソン C. フランクなど、ジョンのカバーは選曲のセンスが圧倒的によく毎回驚かせられる。そして後半の山場として、1stアルバムからのヒットシングルである「Your Body is Wonderland」と「Neon」をプレイ。特に、即興のようなパーカッシブなイントロから続いた後者ではひときわ大きな歓声があがり、この曲の人気の程が窺われた。これぞ超絶プレイというアレンジが施されており、低音弦を親指でたたきつけるチョッパーのようなプレイまで飛び出し、アコースティック・ギターでは見たことがないようなプレイが目白押し。また、ステージ上の様子を映し出すスクリーンも、他のライブでは素晴らしいプレイをしている際に、延々と表情が映し出され歯噛みをすることがあるが、今回はソロや超絶プレイとなるとしっかりとその手元をアップで映し出すあたりは、さすがに心得ている。
圧倒的なアコースティック・ギターでのソロのパフォーマンスに続いては、最新曲の「I Guess I Just Feel Like」がフルバンドで披露される。ゆっくりと紡がれるこの名曲は、間奏とエンディングでゆったりとしながらも確実に熱いギター・ソロに導かれ、エンディングでは目の前に別の光景が広がるほどのドラマティックな演奏となった。テクニカルではないが淡々と世界を広げていくような長いギター・ソロは、圧巻。第2部のここまでの息もつかせぬ流れは、この上なくドラマティックだ。
続く16曲目「Rosie」と17曲目「In The Blood」はそれまでの余韻を残しつつ、ゆったりとアコースティック・ギターで奏でられ、そして18曲目で再び、ショーはピークを迎えた。昨日に続いて、サポートのデヴィッドがプリンスの名曲「The Beautiful Ones」を歌い上げ、そのまま18曲目の「Slow Dancing in a Burning Room」へと繋がる。このジョンのスロー・バラードの傑作は、昨夜はほぼ唯一のギター・ソロがさく裂した曲だったが、この日はもう既に何曲もソロが主役の曲をこなしているだけあって、その何倍もの熱量を帯びたものとなった。このツアーは、ライトなどは極力シンプルに徹した演出であったが、この曲の熱くも憂いを帯びたソロを赤一色に染めたライトはとても強い印象を残し、美しい場面だった。
また、この日はMCの回数が多く、長かった。高校時代に短期留学生として神奈川県伊勢原市に来ていたジョンは日本語の発音が上手く、その発音にまつわる話や、日本語の勉強を続けていることなどを話し、会場は笑いに包まれ、ジョンの気さくな人柄が垣間見られた。「The Age of Worry」「If I Ever Get Around to Living」と、ルーツ・ミュージックの色濃い2曲続いた後は、デヴィッドとのボーカルの掛け合いが楽しい軽快な小品「Waiting on the World to Change」。再びMCを挟んで、本編最後はアコースティック・ギターとブルース・ハープで「Dear Marie」。曲の後半でリズムが倍速になり、躍動感のあるエンディングを迎えた。
アンコールでは、キーボードの弾き語りで「You're Gonna Live Forever in Me」をプレイ。このバラードでは、観客が自然発生的に携帯のフラッシュライトをかざし始め、武道館全体がライトで浮かび上がるという美しい場面が見られた。そして、ラストは昨日と同じ「Gravity」。このスロー・ブルースの美しいバラードでは、観客を一緒に歌わせる場面もあり、見せ所の多かったショーの終わりにはぴったりの選曲。エンディングには、長いギター・ソロが組み込まれ、その日のショーを振り返る総まとめのような感動的な印象を残した。
ジョン・メイヤー Photo by 土居政則
全24曲を終えて、大団円を迎えた2日目は、ジョンのギタリストとしての魅力を十二分に堪能できる内容となった。初日は、現代のポップ・スター然とした輝きに満ちたショーだったが、この日はMCもかなり多く、より人間くさい面がフューチャーされたように思う。そして、ギターや歌はもちろん、ブルース・ハープや、キーボードなど、音楽的な多彩さにも触れられ、よりジョン・メイヤーというアーティストのレイヤーの多さを見せつけるものとなった。
ジョン・メイヤーというアーティストは、優れたブルース・ギタリストであるにもかかわらず、ブルース・マンとして、もしくはルーツ・ミュージックの担い手としてキャリアを積むことをよしとせずに、敢えて今を生きる表現者として”今のポップ・ソング“を紡いでいる存在だと思う。それは、時代と共に消費される危険性をはらむものだが、そのリスクを真正面から受け止めて、正々堂々とポップであることを選んだその姿は、とても潔いものだ。
そんな求道者のような彼の姿勢はとても尊いものであり、ステージから伝わってくる彼のアーティストとしての生き様は感動的ですらある。ポップ・スター然とした初日、ギタリストの魂が爆発した2日目と、全く違う景色を見せてくれるショーを堪能して、そう強く思った。
結局2日間で演奏したのは全48曲。そのうち2日とも演奏された曲は8曲のみで、曲目数で言うと2日間で40曲を演奏したことになる。さらに、ツアーでは毎日セットリストが変わるので、これ以上のレパートリーを用意しているということになる。今やグレイトフル・デッド・ファミリーであるといえども、この常時演奏可能な楽曲の多さはポップ・スターとしては尋常でない多さであることを付け足しておきたい。
文=加藤孝明 Photo by 土居政則

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