日本センチュリー交響楽団 首席指揮
者 飯森範親に聞く~「今まさに技術
的に充実の時を迎えています」

トランペットを除く金管楽器が5小節に渡るロングトーンを静かに響かせた後、音が消え、長い静寂に包まれるホール。 指揮者がゆっくりとタクトを下すと同時に沸き起こる、割れんばかりの拍手とブラヴォーの嵐。
この日、大阪を代表するオーケストラの一つ、日本センチュリー交響楽団創立30周年イヤーのオープニングを飾る第234回定期演奏会が彼らの本拠地ザ・シンフォニーホールで行われ、ブルックナー畢生の大曲、交響曲第9番が鳴り響いた。
オーケストラをバックに、誇らしく聴衆に向き合う首席指揮者の飯森範親。首席指揮者に就任して6年目のシーズンを華々しく迎えた飯森範親に、あんな事やこんな事を聞いてみた。
音楽の事から楽団運営の事まで、熱く語る飯森マエストロ (C)山岸伸
ーー 先日のブルックナー交響曲第9番を聴かせて頂きましたが、センチュリーのサウンド、変わりましたね。これは集中的にハイドンを取り上げておられる成果ですか?
そうだと思います。ハイドンマラソンと銘打ったいずみホールでの定期演奏会は、ハイドンの交響曲全104曲をすべて演奏しようと言う壮大なプロジェクトですが、演奏する上でいくつかのこだわりを持って演奏しています。まず弦楽器は繊細にピッチにこだわるためにノンビブラートで演奏しています。その上で、アクセントとしてビブラートをかける事で、ふくよかな響きを醸し出す事が出来ます。繰り返しは極力守り、装飾音符の使用などにより奏者の自発性を高め、そのために有効なボウイングの共有などを図っています。ティンパニはバロックティンパニを使用しますが、管楽器は基本、モダン楽器を使用して演奏します。こういったセンチュリースタイルによるハイドン演奏で培った和声感やアンサンブル能力は、例えばブルックナーの緩徐楽章などでの効果はてきめん!交響曲9番の第3楽章、皆さまにはどのように聴こえましたでしょうか?
ハイドン効果はたくさんありますが、演奏する上でエキストラを入れなくても出来るので、経費的にも助かるのです。これも大きなポイントですね。
このようにブルックナーやマーラーといった大規模編成の曲も、ハイドン演奏で慣れ親しんだセンチュリーの特性を生かしたスタイルでお聴きいただこうと思っています。
センチュリースタイルのハイドン演奏は、オーケストラのサウンドを劇的に変えつつある! (C)s.yamamoto
ーー なるほど。それにしてもハイドンマラソンのゴールまでは長丁場ですね。
2016年にスタートしましたが、来年1月の演奏会でちょうど半分の52曲を終える計算です。これまでにオクタヴィアレコードから7枚のCDが発売となっています。レコード芸術特選盤に選ばれるなど、評判も良いようです。
ーー 実はセンチュリーの演奏会に伺うのは久し振りだったのですが、メンバーが入って来て全員立ったままコンサートマスターを呼び込み、コンマスがお客さまに礼をする。また、演奏終了後も、指揮者が捌けた後、オーケストラ全員がお客さまにお辞儀をする。前からそうでした?
昨シーズンからですね。これはメンバーから声が上がり、そうする事になりました。その方が感じが良いのでは、と云う事のようですが、このあたり、楽団によってやり方はまちまちですね。ご覧になられて如何でしたか?
「ステージマナーが感じ良くなった!」と評判の日本センチュリー交響楽団 (C)s.yamamoto
ーー お辞儀をされて快く思わない人はいないので、素敵だと思いますよ。そういえば、休憩時間に音出しをしていても、開演の少し前には全員ステージから居ない無人の状態を作って、開演と同時に全員が出て来るようにしていると云うのは、以前にお聞きしました。こういう事って、事務局やマエストロがやって欲しい!とメンバーに注文を付けて徹底するのは、ちょっと難しいですよね。メンバーの表情を見れば判ってしまいますから(笑)。
メンバーがお客さまに対して、演奏会にお越し頂きありがとうございます!という気持ちの表れだと思いますし、良いことですよね。この間、定期演奏会を2日にして、また1日に戻したりで、結果的に振り回してしまったお客さまが演奏会に足を運んで頂く事に対して、感謝の気持ちを素直に表したいと云う事だと思います。
定期演奏会を2日にしたのは挑戦的でした。大阪のお客さまがどのくらいセンチュリーに向いてくださるのかを知りたかったのですが、結果的には両日いっぱいにするのは難しかったです。しかし、とても勉強になりましたし、得たモノも多かったです。本番を2回やれば、どんな大曲でもレパートリーになります。初日の経験を積んだ事で2日目が良い演奏に成ることもありますし、初日の緊張感が名演を生み出す事もあります。「リスクを冒しても1回目から勝負しよう!」「初日の失敗を2日目は取り返そう!」。3年間でしたが、メンバーが色んな意識を持って本番に臨めた事は、飛躍的な演奏力の向上に繋がりました。ただ、経費は倍かかってしまう訳で、やむなく1日に戻しましたが、いつかもう一度、2日に挑戦したいですね。
色々な歴史を踏まえ、オーケストラは今まさに充実の時! (C)s.yamamoto
ーー 山形交響楽団の常任指揮者に就任された当時のエピソードを綴られた本「マエストロ、それはムリですよ…」が話題になったのがもう10年程前の事。アイデアマンの飯森マエストロのことですから、センチュリーでも色々な取り組みをされて来たことでしょうね。やはり大阪と山形では勝手が違いますか?
そうですね、まず分母の数が違います。それに大阪はお笑いの本場、吉本の牙城ですし、娯楽が多過ぎます(笑)。クラシックに関心を向けると言う意味では、東京以上に難しいのではないでしょうか。例えば東京は、デートなんかでもイイ格好してクラシックの演奏会!なんて事が無いわけでは無いと思うのですが、大阪ではそこは吉本新喜劇!(笑)クラシックの演奏会に足を運ばれているお客さまに関しては、大阪と東京でまったく差を感じませんが、関心が無い人にとっての興味の無さが、大きく違うように思います。それでも時間は掛かりましたが、ここに来て色々と動いてきた事が形に成ってきました。ずいぶん収入が増えて健全経営に近づいています。それは、何と言ってもセンチュリーが高水準の演奏力をキープし続けている事が裏付けになっているからであり、オーケストラメンバーの頑張りが有ってこそです。演奏に関しては音楽専門誌でも大変評価していただいております。この勢いを止めず、望月楽団長はじめ事務局のスタッフと一層頑張って行こうと話し合っています。
開演前のプレトークで曲の紹介をする飯森マエストロ (C)s.yamamoto
―― 1989年に出来た日本センチュリー交響楽団にとって、今年は30周年のアニバーサリーイヤーですね。それぞれの時代に楽団の顔として活躍されたマエストロが、ザ・シンフォニーホール定期演奏会に登場されます。
初代常任指揮者で現在は名誉指揮者のウリエル・セガル氏、2代目常任指揮者の高関健氏、初代音楽監督の小泉和裕氏を迎え、共に30周年をお祝いしていただこうと思っています。皆さまそれぞれのアプローチでセンチュリーに関わり、その癖や特性をご存知の方ばかり。そういう方々が、今のセンチュリーの演奏を聴いて、ちょっと驚いて欲しいなぁと言う気持ちが強いですね(笑)。その上で、また違ったセンチュリーの魅力を引き出して下さるかもしれません。ファンの皆さま同様、私も楽しみにしています。
「歴代のマエストロが現在のセンチュリーを指揮してどんな感想を持たれるか楽しみですね!」 (C)s.yamamoto
―― 今シーズン、飯森マエストロが振られるザ・シンフォニー定期演奏会は4回です。ブルックナーは終わりましたが、残り3回の聴きどころを教えてください。
7月の第237回定期は、珠玉のフレンチプログラムです。センチュリーがフランス音楽を演奏する機会はそれほど多くありませんが、昨年の三重特別演奏会で演奏したラヴェルの「スペイン狂詩曲」に凄い可能性を感じて、今回このプログラムが実現しました。ご存知のようにフランス音楽は透明感、和声感が命です。私たちの奏でるサウンドに、皆さまきっと納得していただけると思います。私が指揮者を志すきっかけになったラヴェルの「ボレロ」もお楽しみください。
10月の第239回定期は、首席指揮者就任時、最初に取り組んだブラームスの大曲「ドイツレクイエム」です。ミュンヘンで研鑽を積んでいた時代、サヴァリッシュ先生の指揮する「ドイツレクイエム」を間近で勉強させていただく機会がありました。この時、徹底的にテキストを勉強した経験が、強い自信に繋がっています。「この曲は自分の原点!」と言える作品です。通常のミサ曲とは違い、死者への安息を祈るだけの曲では無く、今を生きている人に向けてのメッセージを孕んだ曲でもあります。この曲の本質にある“魂”を、オーケストラや合唱団にも伝えるのが自分の役割だと思い、今回取り上げさせていただきました。また、楽団創立当初、数多く指揮していただき、楽団の委嘱作品でもある團伊玖磨先生の「飛天繚乱」を、30周年を記念して演奏致します。
そしてシーズン最後の3月、第243回定期では、親友ファジル・サイの曲を前半に演奏します。2016年の第213回定期では彼との共演が話題となりましたね。チェリスト新倉瞳さんがサイに委嘱した作品「チェロと管弦楽のために(仮)」(世界初演予定)と、サクソフォン奏者・須川展也さんが同じくサイに委嘱し、2016年に世界初演された「バラード」とを並べて演奏いたします。そして記念の年の最後を飾るのは、今やオーケストラにとって人気のレパートリーのひとつチャイコフスキーの交響曲第5番。実はこの曲をセンチュリーで最初に指揮したのは私です(笑)。楽団創立から10年が経った1999年の事だったそうです。
30周年の年に出来上がる新倉瞳さんの委嘱作品と、私が最初に指揮した、センチュリーの代表的なレパートリーのひとつ、チャイコフスキーの5番の組み合わせは、輝かしい未来に向かうセンチュリー交響楽団のスタートに相応しいプログラムだと思われませんか(笑)。 エネルギーほとばしる演奏で30周年を締め括りたいと思います。
創立30周年の締め括りの曲は、チャイコフスキー交響曲第5番です! (C)s.yamamoto
―― 最後に読者の方々に向けてメッセージをお願いします。
日本センチュリー交響楽団は、今まさに技術的に充実の時を迎えています。本拠地ザ・シンフォニーホール、指定管理団体の一員でもある豊中市立文化芸術センター、ハイドンマラソンの会場いずみホールと、色々な会場で煌びやかな名曲の数々を取り揃え、皆さまのご来場をお待ち致しております。ぜひ一度、私達の演奏を聴きにお越しください。皆さま、会場でお会いしましょう。
「ぜひ一度、私たちのコンサートに足を運んでください!」 (c)H.isojima
取材・文=磯島浩彰

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