a flood of circle バンドの勢いを
象徴する連続リリースと佐々木亮介の
ロック観、理想、思い描く未来像

ロックンロールバンドならではのグルーヴを改めて追求した9thアルバム『CENTER OF THE EARTH』からわずか1ヵ月半というハイペースで、a flood of circleがバンドの勢いをアピールするようにニューシングル「The Key」をリリースする。

その「The Key」はウェブコミック配信サイト『少年ジャンプ+』で連載中のマンガを原作にしたTVアニメ『群青のマグメル』にエンディングテーマとして提供したアンセミックな表題曲に加え、『CENTER OF THE EARTH』収録の「Backstreet Runners」の続編と言える「Backstreet Runners II」と東京事変の「群青日和」のカバーという遊び心が感じられる2曲をカップリングした興味深いものとなった。
今回、SPICEでは、強敵ばかりと言える対バンを迎え、全国各地でバチバチとやりあった『A FLOOD OF CIRCUS 大巡業 2019』を終えたばかりのバンドを代表して、フロントマンの佐々木亮介(Vo, Gt)にインタビュー。ニューシングルのことはもちろん、『A FLOOD OF CIRCUS 大巡業 2019』や『CENTER OF THE EARTH』についても振り返ってもらいながら、話を聞いたところ、佐々木のロックンロール観や理想、そして思い描いている未来像にぐぐっと迫る貴重な1時間になったのだった。
バンドの理想的なところは、民主主義になった時にA案でもB案でもなく、全員が盛り上がれる最高のC案が出ることがある。俺は常にそれを目指してる。
――3月6日にリリースした9thアルバム『CENTER OF THE EARTH』のリリースツアーの前に、『A FLOOD OF CIRCUS 大巡業 2019』と銘打って、全9公演を行いましたが、そこで『CENTER OF THE EARTH』からの新曲を披露してみて、どんな手応えがありましたか?
『CENTER OF THE EARTH』を作るにあたって、改めてバンドでどんなことをやろうか考えた時に自分の中の1個のテーマが、バンドならではのグルーヴにもう1回、フォーカスすることだったんです。単純なことで言えば、たとえばクリックを聴かないとか、パソコンのPro Toolsのグリッドからできるだけはみだして、機械的じゃないノリでやるとか。人間がやっているからこそ出てくるノリに集中しようと思ったんです。俺がソロで、逆にグリッドに超合わせているトラップのビートの曲もやっていたからってこともあるんですけど、バンドならではの良さにフォーカスしたいという考えがあって。で、実際、そういうアルバムになったし、そういうふうに作ったアルバムの曲を、ライブでやったとき、どんなふうになるかなって実験している段階だったんです。だから、『大巡業』が終わって、それが完成したとは思わないですけど、a flood of circleならではのノリとか、グルーヴがまた出せている気がしていて、そこに手応えを感じています。
――『CENTER OF THE EARTH』で、改めてバンドならではのグルーヴを追求したのは、アオキテツ(Gt)さんが正式に加わって、また4人編成になったことが大きかったんですか?
それもあります。さらに言うと、今、アメリカのチャートを見ると、バンドがいないんですよ。いたとしても、ドラムも叩いてないし、ギターも鳴ってないしって世界なんです。ひとりの作家として、ミュージシャンとしておもしろいと思いながら、そういう音楽を聴いている俺と、バンドをやっている俺という矛盾がけっこう苦しい時期があって。バンドでやりたいことって何だろう?って悩む中で、自分の中で出た答えが、今の音楽にバンドを寄せるのではなくて、生のバンドのグルーヴの良さを、みんなに気づかせることだったんです。今のトラップのブームが去ったら、みんな、そこに気づくんじゃないかって期待しているんですけど、ブームが去る前に自分で落とし前つけようと思って、生のグルーヴに徹したんです。
――最近、少なくない数のロックバンドが、佐々木さんがおっしゃるようにアメリカのチャートに入っている音楽は生のドラムを使っていないと言うんですよ。それで、だったら、それをロックバンドに取り入れてみようって。でも、佐々木さんは逆に、バンドをやっている人間として、バンドのグルーヴの良さを、また多くの人に気づかせたいと思ったところが興味深い。
気づかせられるかどうか、これからがんばらないといけないんですけど、a flood of circleって超民主主義なんですよ。このバンドは俺が真ん中にいて、みんなにサポートしてもらっていると言うより、それぞれの必殺技とか、持ち味とかかが混ざる場所と言うか、化学反応が起きる場所であってほしいんです。だから、『CENTER OF THE EARTH』がどうやってできたか聞いたら、みんな違うことを答えると思います(笑)。でも、それぞれが持っているものを大事にしてもらわないと、こいつらとやっている意味はないと思うから、それがみんなの必殺技だと信頼してやっているんですけど。さっきも言ったように俺は今の音楽も好きだから、寄せていくと言うよりは、自分たちの武器と、どうすり合わせるか。そのほうがスリリングかなという気もしているし、それが強さにもなると思うし、響く人には響くと信じているんです。
――じゃあ、『CENTER OF THE EARTH』には、自分たちの武器と、今のチャート音楽をすり合わせた曲もあるわけですか?
歌の符割は、そうですね。たとえば「ハイテンションソング」の真ん中へんとか、「Drive All Night」の真ん中へんとか。三連符のリズムの今のラップのフロウをやっているんです。ほんとは50ぐらいのBPMでやるやつを、180ぐらいの速いビートで(笑)。そういう歌の表現を含め、音楽的なことはかなりトライしているんですけど、メンバーには説明していないです。興味ないと思うから。“へぇ”って言われて、終わりじゃないかな(笑)。ただ、ボーカリストとして、常にトライはしています。

――さっき、アルバムで追求したバンドならではのグルーヴを、今、ライブで試しているとおっしゃっていましたけど、音源としては、『CENTER OF THE EARTH』でバンドのグルーヴを突き詰められたという手応えはあるんですよね?
めちゃめちゃ途中ですね。全然、完成していない。クリックを聴かずに録った曲は、(全12曲中)まだ4、5曲。半分ないんです。みんなずっとクリックを聴いてやってきているから、なんでクリック聴かないほうがいいのか、よくわからないままレコーディングが始まっちゃっているんですよ。だからクリックを聴いている曲もあるし、俺のイメージで、“聴かないでやりたい”って言った曲を、聴かないでやってもらったり、お互いのイメージを混ぜて、試行錯誤している状態なんです。もしかしたら次のアルバムで、俺が折れて、全曲クリックを聴こうってなっているかもしれないし、そのへんは生もの感がありますね(笑)。今やっているライブの手応えを、メンバーがどう感じているか、俺もすごく興味があるんですよ。今までライブでは、どの曲もガイドのクリックを聴きながら、ドラムを叩いていたんですけど、今、“ガイドなしでやろうよ”って俺がけしかけて、そういう曲も増えてきていて、っていうところで。みんなが快感を覚えれば、そうなっていくかもしれない。そこはやっぱり世の中がこうだから、こうしようとはならなくて、気持ちいいほうにしか行かないバンドなので(笑)。今やっているグルーヴが俺はいいと思っているけど、みんながいいと思っているかは、6月から始まる『CENTER OF THE EARTH』のツアーで俺も確かめられるし、それを楽しみにしています。
――こういうインタビューで、“まだ途中です。全然、完成していない”と言えちゃうところがすごいと思います。
(笑)。
――でも、はっきり言えちゃうのは、この先、何かしら作り上げることができるという自信とか、確信とかがあるからなんじゃないですか?
理想があるうちは追い求めていたいですよね。もちろん、『CENTER OF THE EARTH』を作る時は超ベストを尽くしたし、いいアルバムだと思っているけど、これではまだ死ねないなって気がします(笑)。どんなことでも、自分が暮らしているポジションから見たとき、もっと世の中、こうだったらいいのにって思うこといっぱいあるじゃないですか。たとえば、日本だけ見たら戦争は起きていないけど、日本の外に視野を広げれば、起こっているし。どこまで視野を持つかによって、話は変わると思うんですけど、俺は音楽に対して、その視野をなるべく広く持っていたい。もっといい理想があるんじゃないか、誰かがもっとおもしろがれるものがあるんじゃないか、生きやすい世界があるんじゃないかとか。そういうふうに世の中の空気が変わるには、音楽を含め、文化が大事だと思うから、そういう空気に作用したいと思うかぎりは、これが最高傑作ですって言ってたらヤバいな俺っていうのはありますね。
a flood of circle/佐々木亮介 撮影=山内洋枝
――ところで、さっき『大巡業』では『CENTER OF THE EARTH』の新曲を実験している段階とおっしゃっていましたが、バンドのグルーヴを追求しながら作った曲だからって、そのままやればいいというわけではないんですね?
そこが俺も勉強になって(笑)。必殺技ばかりで録ったんだから、ライブは余裕だろうと思ったら、全然そんなことなくて。やっぱ新曲って永遠に新曲なんだなって(笑)。もちろん、そもそものa flood of circleらしく行こう、必殺技で行こうってアルバムだったから、お客さんの反応はいいんですけど、「Backstreet Runners」なんて、それこそガイドのクリックなしでバンドの自然なグルーヴで録っているにもかかわらず、ライブでやってみたらハマらなくて。<グリッドをはみ出してく>って歌詞があるのに、ナベちゃん(渡邊一丘)がクリックを聴きながら叩いたライブもあって(笑)。そのへん、バンドってほんと生ものだな、得意なことならいつでもできるってわけではないんだなって思いました。でも、それが逆に今はおもしろい。生のグルーヴを突き詰めるって言っても、生ってことは、毎日違うわけだから。その難しさとおもしろさに今、改めて向き合っている感じはありますね。
――そこが楽しめているならいいですよね。そんな『CENTER OF THE EARTH』を3月6日にリリースしてから1ヵ月半というインターバルで、今度は「The Key」というニューシングルをリリースするわけですが。その曲がアルバムからのリカットではなく、新曲で。
そうなんですよ。謎のスケジュールで(笑)。
――バンドの勢いをアピールするという意図もあったんじゃないんですか?
結果的に、そうなりました(笑)。でも、それがモチベーションにもなっていて、俺ら、最少人数のチームでやっているんですよ。メンバーとマネージャーとディレクターで全部話し合って決めているんですけど、「The Key」のタイアップの話が決まったとき、俺ら、タイアップでもテレビ出演でも話があれば、どんどんやりますってタイプなので、ありがとうございます!って感じで。しかも、アルバムの後に出るシングルだからこそできる選曲とか、曲の作り方とかがあるなと思って、それを楽しめたっていうのがすごくあります。アルバムを録っているスタジオで録って、アルバムと同じコンセプトで音も決めているから、(アルバムと)セットで聴けるものになっているし。おっしゃるとおり、“勢いを見せてますけど”って顔もできるし(笑)。そういう、たまたまハマったものも含めて、自分たち的には楽しめているって言うか、さっきも言いましたけど、まだ途中だなって感じがあるんで、がんがん試したいし、がんがんやりたいんですよね。そういう意味では、(タイアップは)すごくありがたかったです。
――「The Key」は、アルバムの曲を作ってから作ったんですか?
アルバムの候補曲でした。“リード曲でもいいかもね”って言っている時にタイアップの話が決まって。アニメの曲だから、アニメの曲っぽいサビのある曲がいいんじゃないかってところから、この曲にしたんですけど、実は構成はそんなにアニメソングっぽくないんですよ。しばらく弾き語りなんで。“これ、絵、動くのかな?”っていうおとなしいイントロがずっとあって、いきなりサビでドカンと行く感じなんで、絵をどうやってつけるのか想像がつかないってところがおもしろいかなって。(アニメのタイアップに)乗っているところと乗っていないところがどっちもあるっていう理由で選んで、それがアニメソングとして、どう使われるのか、俺らも楽しめたらって感じでしたね。
――アニメの制作サイドが、そういう提案をジャッジしたわけですよね?
ジャッジされるんだろうなって思ってたんですけど、“好きなように作ってください”って言ってくれたんで、正直、肩透かしを食らったっていう(笑)。憧れてたんですけどね、注文を出されて戦うみたいな。“ミュージシャンのアインデンティティが”みたいなことを言いたかったんですけど(笑)、全アイデンティティを受け止めてもらえて。自分的には『CENTER OF THE EARTH』って、『少年ジャンプ』っぽいアルバムだと思ってたんですよ。(「Youth」で)今まで使ったことがない<青春>って、そのまま言っちゃってるし。
――ああ。
そういう意味では、『少年ジャンプ』的なものと合ってたのかな。原作は第年秒さんっていう中国の作家さんなんですけど、『少年ジャンプ』を読みまくってたらしいです。そこが、アメリカとかイギリスの音楽を聴いて、日本でバンドをやっている俺の感覚にすげえ似ているというシンパシーを感じて。作品からそれが伝わってきて、そういうところでも、俺が(アニメに)寄せずに普通に書いた曲がばっちりハマったのかなって気はします。

――<ロックンロールが死んでも 俺たちは生きてる>という歌詞にa flood of circleの自信を感じました。
a flood of circleはロックンロ-ルに影響を受けているし、基準にはしているから。一生、ロックンロールって言っちゃうと思うんですけど、正直、ロックンロールって歌舞伎のような伝統芸能みたいになっていると思うんですよ。だから、一つ前のアルバム(『a flood of circle』)までは、ロックンロールをどうにか生き長らえさせる方法はないかと思ってトライしている感覚だったんです。でも、最近はロックンロールが今はもうないなら、自分たちで作ろうっていう感じになってきて。もし、みんなが“ロックンロールは死んだ”って言うなら、それもOK。俺らはそこでロックンロールを、いかに生き長らえさせるかという発想で戦うよりも、それを引き受けようと言うか、チャック・ベリーが好きな人が(a flood of circleを)聴いたら、“これ、ロックンロールじゃないよ”って言うものに、もはやなっていると自分でも思うから、それでいいじゃんって気楽さが芽生えてきたんですよ。だから、そんな気持ちが表われているかもしれないですね。
――それがその手前で歌っている<でかい夢>ですか?
ですかね(笑)。基本的には、逆転満塁ホームランが見たいし、やりたいしって感じなので。自分たちが今やっていることは、まだメインストリームになっていないと思うんですよ。メインストリームにいることだけが大事なわけじゃないですけど、俺たち90年代のロックバンドがバーンと行っている時のものに影響を受けているはずなんですよね。レッチリとか、オアシスとか、レディオヘッドとかそうですけど、バンドがすごく輝いていたと言うか、オルタナな存在でありながらメインストリームにもいた。そういうものに憧れがあるんで、売れたいんですよね、a flood of circleは。俺個人は自社ビルを建てたいみたいな気持ちがマジであるんですよ。そういうことを言い出すと、理想は永遠にあるじゃないですか。だから、夢は見てますね。もちろん、今、現実的に自分が飯を食う手段でもあるから、夢だけじゃやっていけないんですけど、それがないとすげえつまらない気がするし、自分も楽しめないし、楽しめなきゃ、さっき言っていた空気も変わらないんで。現状に満足できるものが何一つないんで、変えたいんですよね。そういうつもりで、いつも歌詞は書いちゃってますね。だから、歌詞が暑苦しいんだと思います(笑)。
――いや、全然暑苦しいとは思わないですよ。そういう真摯なメッセージを込めながら、カップリング2曲の選曲には遊び心が感じられますが。「Backstreet Runners II」はアルバムに入っている「Backstreet Runners」と同じリフを使いながら、またちょっと違う魅力を持った曲になっていますね。
厳密に言うと、「II」のほうが元からあって。「II」を作っている段階では、一つ前のアルバムの方法論をひきずっていたので、ガイドのクリックを聴きながら録ってるし、その前提で曲も作ってたんですけど。「II」ができた後にバンドならではのグルーヴを追求しようとなったので、アルバムに入れる時はめちゃめちゃテンポを上げて、ナベちゃんが一番得意としていることをやるというテーマで作り変えたんです。でも、その後、シングルのリリースが決まった時に、メンバーが元のバージョンを気に入っていたことを思い出した俺の民主主義が発動しちゃって(笑)。元々あるほうを「II」にして、入れることにしました。
a flood of circle/佐々木亮介 撮影=山内洋枝
合理的に、都合よく、うまいこと理想を低めにやっていくこともできるかもしれないけど、やるなら超おもしろいことがしたい。
――そして、もう1曲が東京事変の「群青日和」のカバー。
俺らの世代にとっては、定番中の定番の曲なんで、ちょっと勇気が要るぐらいの感じなんですけど。たぶん、俺らの世代なら、みんな影響を受けているんじゃないかな。単純に「The Key」が『群青のマグメル』ってアニメのエンディングテーマだから、群青つながりっていうのもあるんですけど、元々好きな曲だったんです。しかも、超勉強になったのが、そもそもは楽しもうと思っただけなんですけど、結果、勉強になったのが、「群青日和」って研究したら、ガイドのクリックなしで一発録りしてたんですよ。曲の中でテンポが変わるんですけど、みんなうまいし、めちゃめちゃかっこいい。そういうコピーバンド的な目線で、改めて分析したら、やっぱりすごい。15年前の曲なんですけど、今、a flood of cirleがやろうとしている“クリックを聴かずにスリリングでおもしろくて、かっこいい音”の一つのヒントがあるって思えたので、意味あるカバーになりましたね。これに負けてちゃダメだろ、だって15年前だよっていう感じで。すごいプレイヤーばっかりのバンドだから、もちろん尊敬しているんですけど、燃えましたね。
――オリジナルの雰囲気をちゃんと受け継いでいると思うんですけど、a flood of circleらしさを出す上では、どんなところを工夫したんですか?
コピーバンド的な演奏になりそうだったので、それじゃヤバイと思って、演奏と言うよりは音作りで工夫したかな。エンジニアさんがラップもチェックしている話の合う人で、『CENTER OF THE EARTH』を作りながらカニエ・ウェストの連作の話で盛り上がってたくらいなんですけど。音楽的な視野がバンドだけじゃない広い人だったから、“普通になったらイヤなんですよね”ってところから話を始めて。音の歪ませ方も含め、普通のいい子っぽい感じにならないように、全部録り終わってからポスト・プロダクションで、いろいろ工夫しました。すでにラジオではかけてもらっているんですけど、この曲を好きな俺たちのファンもいて、そういう人たちには音作りのいびつさがハマまったのか、すごく評判が良くて、みんなわくわくしながらリリースを待ってくれているみたいです。椎名林檎さんの「幸福論」って曲があるんですけど、デビューシングルとしてリリースした時は、素直な録音なんですけど、『無罪モラトリアム』ってアルバムに入っている「幸福論(悦楽編)」は、めちゃめちゃ音が歪んでて、めちゃめちゃファストで。音の歪みは、ちょっとそのイメージを参考にしました。
――群青つながりの選曲でしたけど、東京事変の曲をカバーするなら、これ以外の選択肢もありましたか?
他の曲は、正直、スキル的にできるイメージが湧かないですね(笑)。この曲が一番ストレートで、作曲はH是都Mさんなんですけど、バンドやろうぜってテンションで作っている感じが伝わってくるんですよ。東京事変の最初のシングルってところで、これは俺の推理ですけどね。クリックを聴いていないところも含め、バンドをやることの歓び、情熱を感じるんですよ。そのへんはカバーしやすかったですね。
――そう言えば、今日、何度か民主主義という言葉が出ましたが、場合によっては全員の意見を尊重するあまり、できるものが4分の1に薄まることもあるんじゃないかと思うのですが、そこは大丈夫ですか?
現実的な政治の世界では、みんなの意見で決めようと思っても、絶対、誰かの意見が勝つんですよ。でも、バンドの理想的なところは、民主主義になった時に誰かの意見でも、A 案でも、B案でもなくて、全員が盛り上がれる最高のC案が出ることがあるんです。俺は常にそれを目指しているし、だからバンドをやっているんですけど、自分の案だけで良ければ、ソロプロジェクトをやったほうが自分も気持ちいいし、もっと違うクリエティヴィティを表現できると思うけど。バンドをやるって、みんなで同じ世界にいて、みんなで何かを作って、みんなで何かを決めなきゃいけないって時のすごく理想の形だと俺は思っているから。言葉で説明しなくても、いい曲、いいライブが爆発している時って、誰にでも伝わると思うし、それが最高だと思っているんです。政治のように話し合って変えるんじゃなくてね。空気が変わるって、俺はそのことを言っているんですけど、バンドの民主主義はめんどくさい。でも、それをやめたら、バンドをやる意味はマジでないと思う。だから、みんなに気を遣っていると言うよりは、もっとおもしろいことが起きると信じてやっている。これも理想主義の一つかもしれないですけどね(笑)。だから、うまく行かないことも多いし、ケンカもするし、この民主主義だって、俺ひとりの考え方だから、毎回、試行錯誤なんですけど、でも、味を占めているんですよ。ライブだったり、レコーディングだったりで、いい時間を過ごせているから。そこに賭けようっていう気持ちですね。合理的に、都合よく、うまいこと理想を低めにやっていくこともできるかもしれないけど、それだったらこんだけCDが売れないと言われている時代にCDを出してくれているレコード会社の中でやる意味はないと思うから、やるなら超おもしろいことがしたい。そう思うから、民主主義は捨てたくないですね。
a flood of circle/佐々木亮介 撮影=山内洋枝
――6月からアルバムのツアーが始まるわけですが、この次、何をやるか、もう考えているんですか?
今年中に、a flood of circleでもう1枚出したいなって思っています。何らかの作品を。それとソロも出ます。シカゴでチャンス・ザ・ラッパーとやっているエンジニアと作ったんですけど、それはめちゃめちゃラップ寄りのことをやってます。a flood of circleでバンドの必殺技を確かめるって、ある意味、原点回帰的なことをやっちゃってるけど、そこにずっといようとは思ってないので。新しいミックスとかトライとか、スタジオにこもってやるのではく、がんがん作品として出しちゃおうっていうのが今のモードなんですよ。だから、「The key」の発売日からソロの「Fireworks (feat.KAINA)」という曲を配信リリースします。そしていつとは言えないけど、そんなに時間を空けずにさらに出そうと思っているので、今年は攻めまくりでいこうと思ってます。
――すごいなぁ。a flood of circleもやり、ソロもやり、THE KEBABSもやりながら、曲を作る時間がよくあるなって。
バンドマンって意外に暇なんですよ。だから、できるならずっと書いていたいですね。iPhoneのGarage Bandの音がめっちゃいいおかげで、新幹線に乗っている間もずっと作れるんです。だから最近、ツムツムとかぷよぷよみたいな感じで、ずっとやっていられるんですよね(笑)。
――曲作りを?
3分の曲だったら30分もあればできるんで。それってゲーム1面クリアするぐらいの時間なんで、ゲームをやっているみたいな感覚で作れるんですよ。
――なるほど。その話を聞いちゃうと、新しい作品ががぜん楽しみなるのですが、まずは全国ワンマンツアーですよね。その意気込みを、最後に聞かせてください。
ワンマンツアーは1年ぶりなんですけど、さっき言ったバンド本来のキャラや必殺技を確かめなおしながら作り上げたアルバムのツアーなので、それをしっかりやりきりたいし、それができれば、ツアーファイナルのマイナビBLITZ赤坂まで、いいライブが絶対できると思います。BLITZ公演を成功させて、それをステップに先に進めたらいいいですね。
――「Backstreet Runners」は、「II」もやるんですか?(笑)
それがやりかったんです。イントロが一緒じゃないですか。だからイントロだけじゃ、どっちかわからない。イントロを聴いて、お客さんは“ウォー”ってなるけど、“どっちだ!?”って待ってるみたいな(笑)。それ、おもしろいと思ういんですよね。

取材・文=山口智男 撮影=山内洋枝

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