須田景凪が見せる、ボカロP発アーテ
ィストとしての可能性

“ボカロっぽい”という表現はまだ通用
するのか?

あくまでフック(取っ掛かり)としてはYESだと思います。ゼロ年代後半にインターネットから生まれたプロデューサーが見せる「ボカロ的文法」は、初音ミク誕生から10年以上経った今でも脈々と継承されています。疾走感のあるギターのリフレインと、高速4つ打ち。突き放すような言葉が羅列された歌詞。特に歌詞ですね。「ボカロ 歌詞」と検索すると、その後に「意味不明」とサジェストされるのですけれども、ボカロ界隈の歌詞に付随する感覚は、非常に時代的なものであるように思われます。どう頑張っても閉塞感が先に立つ平成生まれならば、歌詞の意味が分からずとも感覚として理解できたのではないでしょうか。
DECO*27 – 「スクランブル交際 feat. 初音ミク」
須田景凪 -「パレイドリア」

例としてDECO*27(デコ・ニーナ)が今年の3月に発表した「スクランブル交際」を参照します。“ボカロ的である”方法論として、同じ言葉をリフレインさせることで盛り上がりを作ってゆく手法が挙げられると思います。サビ部分の

バカになってどうぞ まともな中毒性 今はインスタントラブがしたい したいよ 「好きになって順序踏んで」 なんて、ねえどうせ 愛に囚われたまま 傷付け合ってサヨナラすんじゃん それならいっそ 歪んだ方が正解じゃん 今も消えないほど痛い 痛いの 壊れるほどに 求めた正当性 次も誰かのために 欲隠して愛を突くんだ

によく似たフレーズは、他のプロデューサーが作る楽曲にも頻出します。たとえば須田景凪(すだ けいな)の「パレイドリア」。こちらも同じくサビで同じワードがリフレインしています。

不確定 深夜 変わらない関係 もっと夢を見ていたいのに (いたいのに) ほら夜は沈んでいくんだね 目が回るような絶え間ない堂々 ずっと此処にいてもいいかな (いいかな)

前提として、音楽的にも文学的にも、方法論として「ボカロ的」であると表現することは現在も可能であるように思います。それを踏まえた上で、この記事ではボカロP出身の不世出の才能、須田景凪をピックアップしましょう。

ボカロPから独自の作家性を確立したシ
ンガーソングライターへ

2013年にボカロP“バルーン”としてキャリアをスタートして以降、その勢いは今日も止まることなく、アーティストとしての注目度を上げ続けています。現在(2019年4月)では名義に関係なくコンスタントに高い再生数を叩き出しています。2016年に発表した代表曲「シャルル」に至っては、flower(ボーカロイド)版とセルフカバー版を合わせると、YouTube上で“約4400万再生”という驚異的なビュー数を記録しています。
バルーン – 「シャルル (self cover)」

「シャルル」はかなりボーカロイドの文法を踏襲していますが、彼の才能はその限りではありません。実はここからが真に読んでいただきたいところであります。冒頭にも書きましたが、「ボカロ的である」という表現はあくまでフック。ボーカロイド的なプロダクションから、それぞれのプロデューサーは様々に才能を発揮してゆくわけですから。それこそがこの界隈の最大の素晴らしさなのであります。須田景凪に限らず、神山羊しかり、ヨルシカしかり、かつてインターネットから出発した才能は、今では各々のカラーを確立しています。

では、須田景凪の異才はどこに宿っているのか?あくまでも筆者の偏見ベースですが、彼のストロングポイントは抜き差しの妙にあるように思います。10あるところをいきなり2にして、また10に戻すような緩急が頻出します。これはドラマー出身であるがゆえのセンスかもしれませんね。マキシマムから一気にミュートして、ひとつ拍を置いてから再び乱打するような。
バルーン – 「メーベル (self cover)」

そういう意味では、ちょっとレッチリ(Red Hot Chili Peppers)っぽい。即興的なリズムで進行しつつ、バンドのグルーヴがしっかり重なる瞬間があります。

そして個人的に須田景凪の作家性で最も好きなところが、“ちょっとした音の作り込み”です。「レディーレ」、素晴らしくないですか。
flower(須田景凪) – 「レディーレ」

時折エレクトロニカ的アプローチも見せるのですけども、そういう時に“ひょっこり現れる音”が大変好みなのです。たとえば「君の名は。」のサントラにも共振するのですが、生楽器のサウンドの中に打ち込みの音(まぁボカロはそもそも打ち込み主体ですけれども)が顔を見せる。「レディーレ」で言うとそれが発露するのは9秒前後です。その手のギミックが、須田景凪の楽曲にはふとした時に出現します。恐らく、本人も生楽器と打ち込みの音の組み合わせには意識的でしょう。音の抜き差しに加えて、このアプローチもまた、先述したボーカロイドの文法から逸脱した部分であると思います。

今年の1月にリリースされた最新EP『teeter』では「浮花」がそれに当たるのではないでしょうか。MVがないのが残念ですが、ここには『teeter』のトレイラーを貼っておきます。
須田景凪 1st EP「teeter」クロスフェード

ボーカロイド発の音楽としても十分に楽しめるのですが、こういう細部に宿る作家性にも耳を傾けると、その人自身が見えてくる気がしませんか。「きっとこういう音楽が好きなのでは…?」という妄想が捗ると言いますか。

この記事では楽曲単位で須田景凪のアーティスト性について探ってゆきましたけど、ライブレポート(@恵比寿LIQUIDROOM)も間もなく公開されますので、そちらもぜひお楽しみに。


■ 須田景凪 『teeter』
01. mock
02. パレイドリア
03. farce
04. Dolly
05. レソロジカ
06. 浮花

須田景凪が見せる、ボカロP発アーティストとしての可能性はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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