作品誕生から20年余、浦井健治とアヴ
ちゃんが挑む2019年の『ヘドウィグ・
アンド・アングリーインチ』

自らの“カタワレ”、愛を求め続ける痛切な魂の叫びが歌となって心に響く、ブロードウェイ・ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』。1997年にオフ・ブロードウェイで初演されて以来、世界中で上演されて人気を博し、映画版もブームを巻き起こした作品が、主演ヘドウィグに浦井健治、イツァーク役にバンド「女王蜂」のヴォーカル、アヴちゃんという魅惑のキャストで上演されることとなった。翻訳・演出を手がけるのは海外でも活躍する福山桜子。浦井とアヴちゃんの二人に作品への意気込みを聞いた。
ーーヴィジュアル撮影後に取材させていただいていますが、ヘドウィグの扮装をされた浦井さんが、ドキっとするような美しさです。
浦井:僕自身、この扮装をすごく楽しんでます。そして、アーティストであるアヴちゃんの美意識とセルフプロデュース力がすばらしくて、その指示が本当に的確で、ものすごく刺激を受けましたね。ツーショット撮影でも、ちょっとしゃがんで、攻撃的なオーラを出しつつ、顔はかわいく、なんてアドバイスしてくれて。僕はプレイヤーなので、アーティストのアヴちゃんがいてくれてよかったです。最高のタッグが組めると思っています。
アヴちゃん:私、ギャルなんで。ギャルってプリクラでそういうことやるじゃない?
浦井:(爆笑)
アヴちゃん:私、すごい撮影早かったですよね。
浦井:もう終わっちゃったの?! って感じ。
アヴちゃん:お仕事でいつもやっていることを、ミニマムにしてやっている感じかな。
ーーこれまでのお互いのイメージは?
浦井:舞台、いろいろ観に来てくれてるよね。
アヴちゃん:『ビッグ・フィッシュ』に『ゴースト』、『メタルマクベス』も観に行きましたね。でも、最初に浦井さんを観たのは、映像だけど『美少女戦士セーラームーン』なんですよ。私、セラミュ超好きだから。
浦井:ちょっと待って~。ホントに?
アヴちゃん:みんなが浦井さんのことを「王子様」と思っているのがすごいなと思って。今回まるで、王子さまとマレフィセント、みたいな。
浦井:(爆笑)アヴちゃんは、一つひとつの発言がかっこいいんだよね。
浦井健治
アヴちゃん:私たちはすごい組み合わせだと思います。これからもっと仲良くなっていくので、この二人でやることですごくおもしろくなると思います。
浦井:化学反応だね。
アヴちゃん:そう。浦井さんがヘドウィグを演じるというところでみんながうわあとなっているところに、しかもアヴちゃんを連れてきているということで、鬼に金棒感というか、王子さまにチェーンソーというか、それくらいおもしろいと思いますね。
浦井:この作品は『メタルマクベス』とはまた違った、異質な印象があります。これまでの日本版ヘドウィグには、三上博史さん、山本耕史さん、森山未來くん、それぞれに強烈な個性ある役者さんが演じてきた歴史があり、その歴史を経ての我々がいるわけですから。それに、井上芳雄さん、山崎育三郎くんと組んだ「StarS」のコンサートで「ミッドナイト・レディオ」を歌ったことがあるんです。作品の中でも一番メッセージ性の強いこの曲に触れて、その世界観にすごく感化されたので、今回演じられることを、有り難く思っています。2年前、原作者でオリジナルのヘドウィグであるジョン・キャメロン・ミッチェルさんの来日公演も観に行ったんです。
アヴちゃん:あれは、イツァーク役の中村中さんがすごかった!
浦井:すごかったよね。ヘドウィグというキャラクターは強烈だから、そこに打ち勝つにはやはりメイク然り、オリジナルにできるだけ近づけることが、作品のファンの方にも我々から伝えるべき大切なところかなと思います。
アヴちゃん:いい曲がいっぱいですよね。一つのバンドがいろんな曲を書いたっていう感じ。それも、ファースト、セカンド・アルバムくらいの感じがする。すごく凝縮されていて、だから胸を打つんだろうなって。武装してない感じだからこそ、心に刺さる。
浦井:ジャンルも幅広くて、ロックからカントリーまで網羅されていて、いろいろな歌い方が必要だなって感じます。
ーーアヴちゃんは『ロッキー・ホラー・ショー』でもミュージカルの舞台を経験されています。
アヴちゃん:アーティストとして舞台に立つのとちょっと違うから、すごく勉強になってレベルが上がります。あと、毎日同じことをしなきゃいけないというのがすごくショックでした。同じじゃなくてもいいんだけど、誰かが120点出したら誰かが80点だったみたいなこともあるし、それがすごい衝撃で。バンドは100パーセント超えてナンボだし、悪いくらいだとぬるいけど、最悪、最低だったらそれはそれで逆におもしろいみたいなところもある。でも、舞台ではそういうマジックはかからない、かけちゃいけないから、それがすごく衝撃でした。一番びっくりしたのは二回目の公演で、「あ、初めて同じことやったな」って思って……。「この気持ちってどういうこと?」って友達に相談して、三回目からは楽しくできたんですけどね。ライヴだと、120パーセントを超えて、自分の身体からスタンドがはみ出てるみたいな感じなので。でも、今回、演出の桜子さんにはそれ担当で呼ばれていると思うので、生き様を見せたいです。
浦井:僕は舞台役者なので、繰り返していくことの方が慣れています。そこで、みんなで作っていく初日と千秋楽になるころには、より深みが増したり、変わっていったりもするところもあるけれど、流動的であるというところも演劇の醍醐味のひとつだと思います。ただ、当たり前ですけど、初日に一つの結果は出していないといけない。60回公演があっても、ご覧になるお客様はそのうちの一回を楽しみに待っていてくださる。だからこそ、一回一回100パーセント、120パーセントっていうのは我々としても同じ感覚なんですけど、「二回目でびっくりした」というアヴちゃんの発言が今、目から鱗でした。一回一回に賭けているアーティストだし、だからこその攻撃性がある。刹那の中で生きている人なんだなっていうか、時間の流れが違うんだなって……。
アヴちゃん:ライヴが終わったとき、自分に安全ピン刺がさってることとかあって、ウケル~って思ったことがあったんです。ハイヒールがぶっ壊れてたりとかも。今はさすがにないですけど、激しく命を燃やすことでお金をもらっていた時期があって。毎回、投身自殺してるみたいな感じで。でも、大人になるにつれ、身体も心も強くなって、最近ではスレスレができるようになったかなって感じています。昔は、バンジージャンプをヒモなしで飛んで、生きててよかった、みたいな感じだったんですよ。
アヴちゃん(女王蜂)
浦井:おお!
アヴちゃん:今は、薄めだけど何かが下に敷いてあるみたいな(笑)。そういう感じでやっている自分から言うと、やっぱりこの作品も、そこまでやっていいものの一つなのかなって。『ロッキー・ホラー・ショー』はもうちょっと団体だった感じというか。今回は、人間の能力を試されてるみたいな感じで、わくわくしますね。
浦井:アヴちゃんは切れ味がいいから、自分としても最高の化学反応が期待できるし、演出の福山桜子さんもご一緒するのは初めてですし、自分の役者人生の中でも、これまでも、これからも、異色となるであろう作品です。その上で、異色って何だよ、カテゴリーって何だよっていう物語だから、自分自身の可能性の幅を広げる突破口になっていけばいいなとも思います。アーティストであるアヴちゃんと舞台に立つことで、お客さまに対して自分もちゃんと魂を燃やしているかを見つめるというか、要らない自分の枠が見えてくるかもしれなくて。それがヘドウィグを演じる上での核かなと思います。
アヴちゃん:私、逆に聞きたいんだけど、浦井さんがヘドウィグをやるって、やっぱりすごいことなんですか。
ーー私は作品が大好きで、海外に観に行ったりしたこともありますが、それはもう、「きゃあ」という感じでしたし、こうして扮装姿を拝見してさらに「きゃあ」という感じですね。
アヴちゃん:わかった、承った、受理した。そうなんだ~。実は私もいつかヘドウィグがやりたいんですよね。2011年にデビューしたときに、「『日本のヘドウィグ』が出てきた」みたいに言われたということもあって。そのときはまだ10代だったからよくわからなかったんだけど、2012年に森山さんの舞台を観て、いろいろなことを感じて、出たい作品だなと思っていて、今回お呼ばれしたという感じで。そういう意味ではやっと来た、という感じなんですけど、現代において、ヘドウィグってもう異色じゃないと思うんです。
ーーそうですよね。
アヴちゃん:ジェンダーのこととか含めて、いろいろ。私が最初に観て思ったのって、「は? でも全然普通に幸せですけど」ということなんですね。股間に1インチ残っちゃうような手術ってもうありえないんですよ。そういう子たちも普通に声をあげられるようになった時代において、一種クラシックな作品だなと。私は今、音楽業界でちょっと輝きがあるのかもしれないし、浦井さんはずっと活躍されてきていて、その二人が今、桜子さんの演出のもとでこの作品に取り組む。どんな風に感じてくれるのかなと思っています。若い子が見て、いいじゃんと思うのか、それとも前時代的だよねと思うのか。今ってもうベルリンの壁とか遠いですし、今の時代にやることって、ハイリスクハイリターンかもしれない。
ーーその一方で、非常に普遍的なもの、愛を求める心が描かれている作品でもあります。
アヴちゃん:心の旅ですよね。『ロッキー・ホラー・ショー』をやっていたときもそれは思いました。ヘドウィグが好きな子って、ちょっと心の旅がしたい、まだちょっと思春期な人が多いのかなって。だから、すごくセンシティブな作品だなと思いますね。
浦井:その心の旅によって、観た後に1つ成長できるような作品なので、成人して何年も経っている人たちが、ヘドウィグを観て、自分の中の少年、少女に出会うことだってあると思う。それって、人間としてはとても貴重な体験ですよね。生きていく上で何を思い、どう行動するか、ヘドウィグの生き様を通して、その人生の輝きにふれられる作品なんじゃないかな。すごく切ないし、泣けるんだけど、希望が持てる。
浦井健治
アヴちゃん:みんな失恋ってするし。失恋したことないやつ出て来い~って感じ。そういう大きなところに落とせたらと思うし、桜子さんも落としてくださるんじゃないかな。
ーー福山さんの印象はいかがですか。
アヴちゃん:ライヴに何度か来てくださっているのと、私も舞台を観に行ったり。誰も置き去りにしない演出がすばらしいです。全員が覚醒していて、アンサンブルまでみんな目の中に星が入っている感じがすごくいいです。
浦井:以前ワークショップに参加しましたけど、ファンキーですよね。
アヴちゃん:あ、捉え方違う~。おもしろいから続けて。
浦井:とても優しくて、気配りというか、気遣いのできる方。アヴちゃんもそうなんだけど、人を大切にする人。だからこそ人に厳しい。そして、自分に一番厳しいという。
アヴちゃん:ファンキーおもしろい~。私はね、不良とも仲いい先生みたいな感じがしてる。図書館に来て勉強してる子とも仲がいいし、屋上でタバコ吸ってる子とは一緒にタバコ吸っちゃうくらいの感じというか。いいな、好き、と思いますね。この人、きっと裏切らないんだろうなって。
浦井:そうだね。
アヴちゃん:ワークショップも今、人が殺到してるのがわかります。すごく楽しくて、演技の楽しさを忘れた子が思い出した、みたいにも言っていました。「役を生きる」ってよくおっしゃるんですけれども、経験がさほどない私でも、なるほどなって……。
浦井:「プレイ」「遊んでみよう」ってよく言っているよね。
アヴちゃん:役をプレイという感覚はまだわからないんですけど。感情移入ができない相手はいないと思うので、気持ちがわかったら、それはそれで私になる、みたいな。
浦井:抜けなくなる感じ?
アヴちゃん:そう、集めちゃうみたいな。だからその辺、聞きたい。どうお焚き上げするんですか?
浦井:お焚き上げ方法というか、結局、残る。これまでいろいろな作品を演じさせていただいてきたけれど、役は残る。だから、再演ってなると、すぐに出てくる。役のクセとか、心情とか、見ていた景色とか。再演で違う役者さんが相手役を演じることになっても、前の役者さんが出てきちゃったり。演出家の方に言われた言葉も残る。だから、お焚き上げは、できない。
アヴちゃん:そうなんだ、よかった~。私一人じゃなかった。
アヴちゃん(女王蜂)
浦井:忘れるって無理だと思う。セリフはどんどん忘れるんだけどね。
アヴちゃん:この作品もそうだし、『ロッキー・ホラー・ショー』もそうだし、関わってきた作品が、自分の半身を探しているみたいなのが多くて、そういう風に見られてるんだと思うんですけど、でも、私自身は案外普通な、完全にギャルなんです(笑)。今回の作品でも心の旅をして、バンドに持って帰っちゃうから。そういうとこズルイんだよ~。
浦井:バンド、すごくかっこいいよね。普通にファンになりましたから。歌詞の世界観がすごいんですよ。ぜひ皆さんにも聴いてほしい。
アヴちゃん:素直に、ありがとう! 新曲もよろしくお願いします!
浦井:言語能力がすごく高くて、いろんな本を読んできたんだなって思う。
アヴちゃん:いやん。ただのヤンキーとギャルとオタクが、私の中に一緒にいるの。その三つ巴って感じ(笑)。ヘドウィグって、性的適合手術を受けたら失敗して、しかも愛した人に自分の内から身ぐるみはがされちゃって、それを追いかける。まあ、地獄ですよね。だから、気持ちもわかるし。私は今の時代を生きていて、隣の国の話ではない。すごくわかる。といったときに、「世界観」といったものが舞台作品だとあるんですけど、自分はないんですよ。自分にとってはそれは生活であり、提案。私には今、こう見えていますということの提示なので。だから、世界観というものは、舞台をやらないとわからない。そこも新鮮。終わりがあるのも新鮮だったんですけど、舞台は千秋楽で終わっちゃう……。バンドはずっと終わらないから、だから両方おもしろい。
ーー舞台上でどんな関係を築いていきたいですか。
アヴちゃん:仲良しに。
浦井:だよね。
二人:アゲー(と、ポーズ)。
アヴちゃん:今の時代にこの作品をやって、いろいろな人たち、ティーンや20代の子にも、ガンガン来てもらえれたらうれしいです。一万円でも撮りたいプリクラ、みたいにしたい。作品のファンだけじゃなくて、ふらっと観に来る人が初日明けてどんどん増えるみたいな。
浦井:そこはもうアヴちゃんから発せされるかっこ良さが音色にも出ていて、一音一音に魂を感じるので、ミュージカルってカテゴリーを突破して、音楽っていうところに持っていければね。
アヴちゃん:いつもと違うお互いになれたらおもしろいですね。
浦井:そうだね。シェイクスピアをやっても、どんな作品でも、観て下さるお客様に向けて大切に演じることをいつも目指しているので、今この作品をやる意味を、我々も楽しみながら、お見せしていきたいですね。
(左から)浦井健治、アヴちゃん(女王蜂)
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=山本 れお

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