家入レオ、12曲で魅せる“レオ劇場”
 アルバム『DUO』誕生の背景に迫る

常に進化を続けている家入レオが、ニューアルバム『DUO』をリリースする。フジテレビ系月9ドラマ『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』の主題歌としてロングヒットを記録した「もし君を許せたら」、自身初の映画タイアップとなった『コードギアス 復活のルルーシュ』のオープニング主題歌「この世界で」、4月11日スタートのテレビ朝日系4月木曜ドラマ『緊急取調室』の主題歌「Prime Numbers」など、話題の楽曲を含む全12曲を収録。本作では家入の意思により多彩なアーティストやクリエイターが作家陣として参加し、その化学反応によって家入レオの新しい世界観、新しい歌の人格が生み出されているのも印象的だ。

都会的だったり、クールだったり、オルタナだったり、ときに狂気がにじむ芸術性を感じさせたり、はたまた素そのものだったり。ここにはさまざまな表情の家入が生き生きと息づいていて、本人の言葉を借りるなら、それはまさに“レオ劇場”。すべての人に聴いてもらいたい充実の意欲作だ。そんな本作について、たっぷりと話を聞いた。
――新鮮な要素が詰まったアルバムになりましたね。
はい。一言で言うなら、自信作です! 家入レオでありながら、一本筋を通して家入レオの演出をした、そんなアルバムになったなと思います。
――作るときに全体像はあったんですか?
全体像というか、真ん中に置いたテーマは“レオ劇場”というものだったんです。前回のアルバム『TIME』は、普遍的な自分になりたいという思いがあって、誰かの人生の節目とかで流れるような曲を作りたいなと思ったんですね。でもステージで歌ってるとき、“あ、私は普遍的なものというより、私にしか歌えないものを求められてるんだな”って感じたんですよ。その一番のヒントになったのがディレクターさんの言葉だったんですけど。リハーサルで仮歌を努めてくれたディレクターさんが、「Bless You」っていう私の曲を歌い終わったあとに「この曲って自分の想いを託すというよりは、レオさんになりきって歌うものですね」って言ったのが印象的だったんです。それを聞いたときに家入レオっていうのは、例えばカラオケでも尾崎豊さんっぽく歌うとか……そういうタイプの人物像なんだなと思って。だから、今回アーティストやクリエイターの方達とやりとりしながら私にしか歌えない曲を作りました。
――今お話にも出たように、今回は作家陣にいろんなアーティストの方達が参加していて、そこで生まれる化学反応も印象的です。そもそも一緒にやろうと思ったのは?
単純に、自分がいいな、素敵だなと思った方と一緒にやってみたいと思ったからなんですけど。でも、単に曲を発注するという形にはしたくなかったんです。だから、素敵だなと思ったら、まず自分の足で、自分の言葉でちゃんと伝えに行くっていうのを大事にしながら。結果、いろんなクリエーターやアーティストの方々と関わったからこそ、自分にしかないオンリーワンなものがわかった気がします。
――アルバムタイトルを“DUO”にしたのも、そういった関わりみたいなことから?
“DUO”にしたのは、このアルバムにはいろんな“二重奏”が存在してるなと思ったんです。楽曲と私の関係性にしてもそう。私は楽曲をいただいたら、姿かたち趣味嗜好、すべて曲の主人公に染まってしまうんですけど、そこで描かれている感情だったり心は自分が担当してるという感じなんですね。それって楽曲と私の二重奏みたいだなと思って。あと、それこそアーティスト対私の“二重奏”であったり、リスナー対私……みんな対私じゃなくて、リスナー1人ひとり対私というのもあるし。“1対1のアルバム”という印象があるので、“DUO”にしました。
――なるほど。では、個々の曲についても聞いていきたいと思います。今作の幕開けは、ドラマ『緊急取調室』の主題歌にもなっている「Prime Numbers」です。これは松任谷由実さんの言葉がヒントになって生まれたんだとか。
はい。『緊急取調室』は、普段表に出てこない人間の表情が垣間見えるストーリーなので、人間という視点から自分の中に深く潜り込んでいったんですけど、そのとき松任谷さんとのエピソードに行き当たったんですよ。初めて松任谷さんにお会いしたとき、「あなた素数ね、どこにいても馴染めないでしょう」って言われて。最初ビックリもしたんですけど、頑張って周りに溶け込もうとするのに溶け込めない自分っていうのが今まで過ごしてきた日々の中にいて、その自分に名前を付けてもらったような、不思議な安心感を覚えたのも事実だったんですよね。
――自分は“素数”だったんだと。
そう。素数って孤独でいびつな数のことを言うんですけど、例えば女優さんだったら、美しすぎて浮いてるから、素数感もわかりやすいと思うんです。でも私の場合、“何かここに馴染めてない”みたいな素数感は心の中にあるからわかりにくいし、かといって自分でそれを言ったら、大人になりきれない人みたいになっちゃうじゃないですか(笑)。だから歳を重ねるごとに言葉にしなくなっていて。でも、実はそれって私だけじゃなくて、口にしないだけで素数の性質を持ちながら生きてる人は結構いるんじゃないかなって。それで、そんな素数と素数のつながりを歌にしたいと思って、作詞家の松尾潔さんにお願いして書いていただいたんです。
家入レオ
――さっき「単に曲を発注する形にはしたくなかった」と話してくれましたけど、この曲もいろいろなやり取りをして?
そうですね。やっぱり自分が納得して歌えないと、それは本物にはならないので。なので、この曲に限らず、今回いろいろやり取りをさせていただいて、どの曲も私にしか歌えない家入レオの曲になったなと思っています。
――King Gnuの常田大希さん作詞作曲による「Overflow」は、このアルバムに強いインパクトを与えてる楽曲の1つで、平たく言ったら、カッコイイ!の一言に尽きますね。
ほんとにカッコイイ! King Gnuさんは1stアルバムを聴いたときから、すごい同世代が出てきたなぁといちリスナーとして思っていたんです。ライブに伺ったときも、この人が作ってる言葉とメロディがほしい!と率直に感じて。その想いを手紙にして、今回の楽曲提供が実現しました。
――アッパーでクールで尖っていて、そのくせ歌詞にはちょっと泥臭いところもあって、そのバランスがまたイケてますね。
King Gnuさんの何がカッコイイかって、人それぞれあると思うんですけど、彼らは崇高なこと、カッコイイことをやろうと思えばどこまでもできる人たちだと思うんです。でもそれをちゃんと真ん中で、いろんな人がカッコイイと思えるポピュラーなものにできるそのセンスやバランス感覚がすごいなぁと。この曲はすごく言葉数が多いんですけど、“私、こんなに言葉数が多くても歌えるんだ”っていう発見もあって、それも楽しかったです(笑)。
――レオさんと木村友威さんの共作「Bicolor」、相対性理論の永井聖一さん作詞作曲の「Neon Nights」といった曲は、打ち込みのサウンドも印象的ですけど、今作は全体的に打ち込みが結構使われてますね?
そうですね。「Prime Numbers」とかも敢えて全部打ち込みにしてますし。デジタルなもの、洗練されたものも意外と自分に合うんだなと思って、今回は結構使ってます。でも、サウンドということに関して言うなら、『DUO』は全力を注いで完結させたんですけど、実はすでに次の種まきもしてるんですよ。オケ録りやTDを海外でやっていたり。
――えっ!? それは次のシングル用に?
いや、シングルになるかはわからないですけど、海外のトラックメーカーの人と曲を作ってみたいなぁと思って。もちろん今は『DUO』を届けることが一番大事なので、そこはしっかりとやりつつ、先も見つつ。
――……もうほんとに、レオさんを取材すると、いつも何かしら先に進んでいて驚かされます(笑)。
あはははは! 常に変化してる自分でいたいですね。
家入レオ
――驚かされると言えば、話は『DUO』に戻りますが、小谷美紗子さん作詞作曲の「JIKU」は、ポップミュージックの枠を超えていて驚かされました。芸術的とも言える曲ですね。
わぁ~、嬉しい。ありがとうございます!
――小谷さんは、前回の『TIME』ツアーでドラマーを務めた玉田豊夢さんとトリオを組んでいらっしゃるんですよね?
そうです。ツアー中に豊夢さんが「実はトリオでも叩いてるんだよね」って言ってて、“どんな感じなんだろう?”と思って聴いてみたら、小谷さんの魅力に心掴まれて。気がついたら小谷さんのライブに行って、楽屋で「曲を書いてください!」って言ってる自分がいたんですよ(笑)。
――この曲、リズムもどんどん変わっていくし、歌詞も強い言葉が使われてて、<殺す>という言葉が出てきたり。
小谷さんって、小柄で、実際お会いすると子供みたいに笑う方なんです。キラキラキラって。でも書いてる歌詞はザクザクした言葉が多いから、私の印象では“黄色い幼稚園バックからナイフを出す人”って感じなんですよ。で、そういう感じを私も歌いたいんですって言ったら、この歌詞が上がってきて。だから“ナイフ”っていうキーワードもそこからきっと来てるんですけど。
――小谷さんのピアノがまた、レオさんの世界観を広げてますよね。
本当に面白い化学反応が生まれたなと思います。今作に入っている曲はどれも大事な曲で、だからどの曲も嫌いって言われたら傷つくけど、「JIKU」と「サザンカ」は、全く鎧を着てない本当の自分だから、嫌いって言われたらちょっと傷つくな(笑)。
――その「サザンカ」は、静かに沁みるミディアムナンバーです。これは「Bless You」のアンサーソングのようにも感じました。
やっぱり伝わるものは伝わるんだなぁって、今思いました。「サザンカ」はほんとに「Bless You」を作ったときみたいに、最初ギターで作っていったんです。で、この曲ができたことで、ひとつ自分の人生の中でお墓を作れたような気もしたんですよね。悲しみをただ悲しいっていう形で置いておけるお墓……。本当に悲しいときって、慰めとかじゃなくて、一人になりたい気がしてて。自分と対峙してひっそりと歌いました。
――「サザンカ」は今だからこそできた曲なんでしょうね。
そう思います。東京で一人自立して生活する中で、自分は母に似てるのかもしれないって思ったり、今だったら理解できるのになって思うことがいっぱいあったり――大人になったからこそできた曲だと思いますね。で、この曲はみんなで“せーの!”で録ったんですけど、最後のピアノとか、映画のアウトロにも使えるような感じで。あれを聴いてるとき“私の人生、やっとここまで来た”と思って、涙が止まらなかったです。
家入レオ
――他の曲のレコーディングはいかがでしたか?
今回、楽曲制作に時間をかけたので、レコーディングが1日おきだったんですよ。しかも朝レコーディングして、夜はTD音源をチェックしに違うスタジオに行って、みたいなギリギリの感じだったから、何回かダムは決壊しました。
――ちなみに、ダムが決壊するとどうなるんでしょう……?
泣きます。歌うことってとてつもないエネルギーを使うし、集中しないとできないことだから、そこに集中出来なくなると耐えられなくなっちゃって。でも別に誰が悪いわけでもなくて、時間がないっていうだけの問題だから、「すみません、これサウナと一緒なんで、ちょっと(涙が)止まるの待っててもらっていいですか?」みたいな。
――でもそれぐらい全精力を注ぎ込んで作った作品だけに、出来上がったときの達成感も大きかったのでは?
大きかったです。先日、『DUO』の打ち上げをしたんですよ。作ってくれた作家の方たちをお呼びして、みんなで『DUO』を聴きながらワイワイと。
――毎回アルバム完成後はそうやって打ち上げをするんですか?
いえ、内輪でやることは結構あるんですけど、作ってくれた方たちを呼んでやったのは初めてです。それぐらい今回は皆さんと密にやったから。そしてその分、家入レオの新しい歌の人格っていうのもたくさん生まれたから、本当に手応えを感じています。あとはこれを持って全国ツアーに出るのが楽しみだなって。
――その全国ツアーは5月10日からスタートしますね!
はい。抽象的な言い方ですけど、来てくれた人と私のDUOを大切にするようなツアーになると思います。1本太い幹を育てるというよりは、その人との枝をしっかり伸ばしていくような。全20公演という本数を組んだので、ぜひこの機会を逃さずに遊びに来てくれたら嬉しいです。

取材・文=赤木まみ 撮影=菊池貴裕

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