江沼郁弥 インタビュー 今あらため
て語る、plenty解散~ソロ始動、自ら
の音楽表現と戦い方

2017年9月16日、日比谷野外大音楽堂のワンマンを最後に、plenty解散。それから1年後の2018年9月8日に、ソロとしてリキッドルームでワンマンを行うことを発表。歌とギターとPCの江沼郁弥にサポート・メンバーでシンセとドラムが加わる、という3人編成のステージで、誰も知らない新曲12曲を演奏。物販では、それまで出ることの予告など一切なかった限定CDとアナログ盤が販売され、終演後には11月7日にファースト・ソロ・アルバム『#1』がリリースされることと、2019年1月に東名阪を回る4本のツアーを行うことがアナウンスされる。そして2019年3月から3ヵ月連続でデジタル・シングルをリリースし、6月2日に大阪Zepp Nambaで、6月6日にZepp Tokyoでライブ『つくり笑いの合併症』を行う──ここまでが、2019年4月1日段階での江沼郁弥の活動である。

このインタビューの時点では、デジタル・シングル三作のうちの2曲「うるせえんだよ」と「偽善からはじめよう」は聴くことができた。<終わりが近づく 僕にはそんなふうに見える こんな嬉しいことはない>という歌い出しで始まる「うるせえんだよ」も、<誰も彼もが狂ってる どこもかしこも人アレルギー>という歌い出しで始まる「偽善からはじめよう」も、早くも『#1』の頃の江沼郁弥の楽曲とは大きく変化を遂げている。こんな短期間で急成長した、というよりも、最初からこのように変化していくプランだったのではないか?と思わせる。どのような考えによってこんなふうに歩んでいるのか、なぜ今の江沼郁弥はこの言葉でこのメロディでこのサウンド・メイキングなのか、そしてライブの展開は──今訊きたいことをすべてぶつけたのが、以下のテキストである。

■社会とか人間関係とか、そういう摩擦をエネルギーにして、
 自分は音楽を作ってたんだなって、改めて思った
──まず、plentyが解散したあとどうするかは、何も考えていなかった、でも日比谷野音でのラスト・ライブが終わった次の日から曲を作っていた──という話を、ソロ始動のとき、あちこちでしておられましたよね。
はい。誰かに何かを依頼されていることもなかったし、事務所にも入ってないし。ほんとになんの予定もなかったですね。
──音楽をやるっていうのは決めていたんですか?
それも決めてないですね。ラスト・ツアーをやってるとき、もう何も考えないようにしてたんで。終わってから、「そうか、終わったのか」みたいな感じでしたね。まあすぐ耐えられなくなったんですけどね、その、何もない生活に。それで音楽を開始するという。
──本当に次の日から曲を作っていた?
そうですね。曲自体は、解散する前からずっと作ってましたね……でもそれは、なんか、「曲を作るぞ!」って思って作ってる感じじゃないんですよね。常に作っていて、その時はインストのものが多かったんですけど、次はインストをやろうと考えていたわけでもなくて。自分のために、自分でプレイリストを作ってるみたいな感覚に近いというか。ビートを並べて……まあ、ヒマつぶしと言ったらヒマつぶしだし。
──他には何かしてました?
何か?
──ライブ観に行くとか、映画を観るとか、旅行に行くとか。
ああ、まあそういうのもあったかな。あったと思いますよ。
──で、実際に動き始めたのは、どのあたりから?
plentyが終わってから半年ぐらいかな。そのときはもう、曲もめちゃくちゃ貯まってて、歌ありもインストも含めて。まあ、歌ありのものが出現してから、わりと考え出すようになった。最初は、自分が歌を歌うってことには、すごい抵抗があったんですよね。それはplentyでやりきったんじゃなかろうか、って。歌うべきことというか……ひとりになって何を歌うんだ?、plenty以外のところで俺が歌ってても、誰も喜ばないんじゃないか?とかね。そういうのはメソメソ考えてたかもしれないですね、最初は。
──で、インストを作っているのは楽しかったわけですよね。
楽しかったですね。インスト、工夫が必要じゃないですか。曲にもよりますけど、主メロがないんだったら、それでも聴いていられるグルーヴとか、サウンドのおもしろさとかを研究して……「こうやったらこういう音になるんだ?」とか、いろんな音、鳴き声とか、工場の音とか録って、サンプリングして、切って、貼って、伸ばして――みたいなので、研究してたというか、勉強してたというか、遊んでたっていうか。
それは楽しいんだけど、でもねえ……結局、芸術のための芸術みたいな。そういう世界があってもいいと思いますけど、俺はあんまり向いてなかったかなっていう感じ、したんですよね。どっか社会に触れてないと……社会と戦うっていうか、対峙してる、向き合ってる、そういうのがないと、なんか退屈だったんですよね。自由こそ芸術だ、みたいなのは。
──社会と向き合う、人と向き合うという不自由やストレスがないと──。
社会とか人間関係とか、そういう摩擦をエネルギーにして、自分は音楽を作ってたんだなって、改めて思ったっていうか。だからその、「自由だからこそ芸術なんだ」みたいなのに、自分はけっこう縛られてたんだな、って思うというか。べつに悪いことじゃないんですよね。でも自分はどっちのタイプかというと、わりと、社会派だったっていう(笑)。作り方が、エネルギーの得方がそういうことだった、みたいな。世間に対してこういう角度で突き刺したいとか、今こういう音楽が流行ってるから逆にこうしよう、とか。そういうのが、自分を奮い立たせてたな、っていうのはあって。そんなことを考えてたら、気づいたら歌ってた、っていう感じなんですよね。自然と。
江沼郁弥 撮影=風間大洋
江沼郁弥 撮影=風間大洋
■最初のライブは、披露試写会、みたいなイメージだった
──で、いきなりライブをやることを発表するという、あのスタートの仕方は?
おもしろいかなと思って。そう、おもしろいかなって思うものをやりたかったっていうか。サプライズって一番大事じゃないですか。驚きがないのはイヤだな、急にやってやろうと思って。急にインスタで告知して、急にやりました。そしたら、人、来ました(笑)。意外と。うれしかったですね。
──あ、心配してたんですか?
いや、さすがになめすぎかなと思って(笑)。なんて言うんだろうな、すごい驚かせたいとは思ってますけど、失礼のないようにはしたいなっていう思いもあって。ドキドキはしてましたけど、フタを開けたら「よかったな」と。だけど、どうがんばっても、どうあがいても、キョトンっていう空気には絶対なるから、むしろそれを利用しようっていう。それで、あえて一切しゃべらず、あいさつもせず、っていうライブにしたんですけど。で、あとで音源を出すっていう。その方がワクワクするかなと思って。
──ライブの反応とか、音源の反応に関しては?
思ったよりも通じてるかなとは思いましたね。
──あのリキッドルームと、その次のWWW Xでのライブは、自分の中ではけっこう変えたものですか。
けっこう変えてますね。次はもっと変わります。最初のリキッドは、なんて言うんだろうな……披露試写会、みたいなイメージだったんです。俺がいるんだけど俺がいない感じ、っていう作品のイメージがあったんで。お化けっぽいっていう。
──その話、アルバム『#1』のリリースのときによくされてましたけど、ここでもお願いします。
(笑)。お化けっぽいっていうのは……すごく、つかめそうでつかめないというか……ソロ活動を始めたからといって、ガンガン前に出たいっていう感じじゃないんですよね。エイフェックス・ツインとか、ナイン・インチ・ネイルズとか、ああいうイメージで。俺が活動を再開したっていっても、俺本人に直接接触しないで、曲に接触してくれたらいいなっていう……最初のリキッドに関しては、どっちにしろポカーンっていう空気にはなるし、あまり姿もよく見えない感じでやりましたね。
江沼郁弥 撮影=風間大洋
──その次の、2019年1月のツアーは?
あそこからは、もう……俺は今後、音源は音源で、ライブはライブで、全然違っていいなと思ってるんですよ。ただ、CDを出したばっかりであんまり違うと、それもそれで……っていうのがあるから、徐々に変えていって、次はだいぶ違うと思いますね。あのツアーでちょっと肉体的になって、次はもっと肉々しくなりますね。
──ライブと音源は分けた方がいいと思ったのは?
そっちの方がおもしろそうだし。作品作りってすごい好きだし、すごく大事なものだとは思ってますけど、それを再現するライブが、必ずしもいいと思ってないというか。あと、サポート・メンバーが……木っていうバンドのメンバーなんですけど、その子たちに会ってなかったら、そもそも作品だけの展開になってたと思いますね。だけどそのメンバーに会って、おもしろくて、それだったらライブしてもいいなっていう。
──どういうふうに知り合ったんですか?
音源作りが始まって、鍵盤の音がほしいなと思って。オヤイヅカナルくんを知り合いに紹介してもらって、「曲があるからピアノを入れてくれないか」って弾いてもらったら、「あ、すげえいいな」と思って。で、カナルくんが「今度自分のバンドのライブがあるんで観に来てください」って、足を運んだら、それが木で。もうボッコボコにされて。衝撃だったんですよね、木のライブ。ぜひ観に行ってください。めちゃくちゃすごいから。木も、音源とライブ、全然違うんですよ。そのまま口説いて、「サポートしてほしいです!」って。
──さっき言ってたけど、そのときまではライブしないつもりだった?
「ライブ、やった方がいいよね」みたいな話はありましたけど、でも誰とやる、どういうふうにやる、っていうアイデアは一個も出ず。ライブやるなら、ちゃんとやりたいと思ってたから。アコギ一本持ってステージに帰って来て、みたいな、そういうライブと音源の違いはイヤだったんですよね、最初は。後々はありだと思いますけど、最初にアコギ一本でリキッドに立つぐらいだったらやりたくないな、とは思ってました。誰も喜ばないだろうな、というか、誰も驚かないだろうなっていう。驚かせられない時点でちょっとテンション下がるんです、やる側としては。
──音源との違いは無視して言うと、たとえばロック・バンド編成で、凄腕のサポート・メンバーを揃えるとかは──。
ああ、でもつまんないじゃないですか。それじゃあちょっと、plentyに失礼な気がするし。技術的な問題で解散したわけじゃないから。でも、それを説明する機会もないから、姿でちゃんとお客さんに説明したいなっていうのがあったし。弾き語りはきっとお客さん納得するパターンだろうけど、いきなりそれだと驚きがないな、なんかゆっくり帰って来たみたいな感じだな、って。急に帰って来たかったんですよ。
江沼郁弥 撮影=風間大洋
■社会貢献なんですよ、これからの俺の活動は
──僕の印象ですけど、確かにリキッドの時はお客さん、ポカンとしてたんですね。でも1月のツアー──僕は渋谷WWW Xの2日目(1月24日)を観たんですけど、リキッドのときは全然違ったというか。曲は同じはずなのに、「ああ、こういうことだったのか!」ってわかった気がしました。
うん、そうなっていくと思います。
──さっき言った、社会とか世界との摩擦が、WWW Xのライブには表れていたというか。
ああ、むしろ『#1』っていう最初のアルバムは、そういう摩擦を排除して、いかにフラットにできるかっていう作品だったんで、音自体にはあんまりないんですよね、軋轢が。でも、今やってるシングルとライブから、その摩擦が、じわじわとにじみ出てきて。後々わかると思います、江沼はこれはやりたかったのかっていうのも、これをやるために『#1』をやったのかっていうのも。あとで点が線に結びついたら、みんなおもしろがってくれるかな、と思ってます。
──3曲のデジタル・シングルのうち、まだ2曲しか聴けていないんですけども──。
3曲目、今作ってます。
──世に問うとか、平たく言うと売れるとか、そういうのはもういいっすわ、っていうのだと、納得はするけどワクワクはしないんですね。でも「うるせえんだよ」と「偽善からはじめよう」を聴いて、これは逆かもしれないと。
うん、うん。
──plentyのとき以上に、もっと世に問おうとしているからもしれない、広まろうとしているかもしれない、そういう音楽だな、と。すごくストレートですよね。
まあ、そういうことなんですよね。plentyのときはplentyの勝負の仕方があって、俺のときは俺の勝負のしかたがあるっていうか。俺のストレートというか。世間とは逆かもしれないんですけどね。でもやっぱり、自分は今生きてて、すごい違和感があるし。否定はしないですけどね、今の大きなシーンがあって……でもなんか、気持ち悪くて、自分は。だから今、こういう音楽が存在しててもいいのになっていう。自分なりの、存在の権利の主張と言いますか。別にメインを否定してつぶしたいとか、そういうことじゃなくて、同じだと思うんです。エネルギーの方向は逆かもしれないけど。
――っていう、社会貢献なんですよ、これからの俺の活動は。だから、「うるせえんだよ」っていうタイトルも、尖りたいとかアンチテーゼとか、そういう意味じゃなくて。社会貢献なんです。カウンターを打ちたいわけでもないんですよ。常にカウンターなのも、なんかつまんないし。ヒール役っていうのも、言われ飽きたから。
江沼郁弥 撮影=風間大洋
──でも、自分のような考え方の人がいてもいいし、それに共感する人もけっこういるんじゃないかと。
うん、けっこういると思いますよ。あとはどうその人たちにひっかかるようにするか、っていうのはもっと考えなきゃいけないけど。だから音楽シーンだけじゃなくて、社会というか……サラリーマンも同じだと思うし、学生も一緒かもしれないし、いろんな摩擦を抱えていると思うし。でも、ここにスポットを当ててる人って、あんまりいないじゃないですか。まったくいないことはないんだけど。で、もともと自分もそっち派なので。音像的には「敢えて」みたいなところもありますけど。
──“音像的には「敢えて」”とは?
音像的には、敢えて足してる、みたいなところもあるんです。海外からの流れで、今流行ってるのって、引き算の音で。ベースがグーッて広い範囲で鳴ってて、シンプルで、音数が少ないっていう。それはすごいかっこいいと思うけど、俺がそれやっても勝てないから。もっと音像が広いんですよね、俺のは。急に近い音が出てきたり、あと音数がめちゃくちゃ多くて。歌も多重にしてあって。
自分の中では、カーペンターズとユーミンを足して、オケはIDMとかインダストリアルとか、そういうのがごちゃまぜになってるイメージなんですよね。西洋のお皿におにぎり乗っけてるみたいな感覚っていうか。メロディとか言葉からは絶対に逃げない。それは、聴く人から逃げない、っていうことで。で、トラックは逆で、足し算足し算で、むしろ違和感があるっていうか、この時代に違和感のあるものを提示したい。っていう感じかな。
──この2曲、もしplentyみたいなロック・バンドのアレンジだったらどんな感じだろうと思って、頭の中で鳴らしてみたんですね。そしたら、全然成立はするけど、今のこの形の方がおもしろいなと思って。
(笑)。そうですね。今だから突き刺さるやりかたができるんじゃないか、っていうことですね。俺が今の時代に一石を投じるんだったら、この方法だな、っていうことかな。
──plentyを知らなかった人や、聴いてなかった人にも届く可能性を感じました。
だからまあ、それをすごく考えていて……ライブもそうだし、プロモーションも全部、どれだけ自分がその作品ににじり寄れるか、みたいな。どれだけ近寄っていけるかっていうのは、今、考えてますね。
「ほんとは作品だけ受け入れられればいいんだけどなあ」ってやってると、スピードに流されるっていうか。ただ自分のために音楽をやって、「ああ、いいねえ」って終わろうとしてるわけじゃないんですよ、今。安全なところであぐらをかいて、論じてるだけじゃ何も変わらないっていうのは、すごい思うから。どう戦っていくかっていうのは、すごく考えてますね。
──次のライブはどんな感じになりそうですか。
あの、次はベースが入るんです。ステージ上が4人になって。そのベースも木のメンバーなんです。BECKが『SHE CHANGE』のアルバムの時に、フレーミング・リップスをバック・バンドにしたじゃないですか。あれをやりたいんです(笑)。そのベーシストも、超人だなって思うくらいすばらしくて。すでにリハに入ったんですけど、もう原曲とだいぶ違うものがあったりして、相当おもしろいですね。いいサプライズを与えたいなって思ってます。

取材・文=兵庫慎司 撮影=風間大洋
江沼郁弥 撮影=風間大洋

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