ストレイテナー・ホリエアツシ×NAO
TO率いる弦楽四重奏 『ROCKIN' QUA
RTET vol.3』の名演を振り返る

ROCKIN' QUARTET vol.3-2nd 2019.3.24 Billboard Live TOKYO
これまで『ROCKIN' QUARTET』をレポートするたびに触れてきていることだが、既存の曲の骨格がある上でのプラスアルファとして、ストリングスが華やかさや彩りを加える――という考え方ではなく、あくまでロックがロックのまま弦楽四重奏の音で再構築され、演奏されるという点が、このライブシリーズ最大の特色であり魅力だ。ボーカルにホリエアツシ(ストレイテナー/ent)を迎えた『ROCKIN' QUARTET vol.3』ではその点が、アレンジ、選曲の両面で最大限の効果を発揮していた。
ROCKIN' QUARTET vol.3 撮影=高田梓
応募殺到のプレミアライブとなった今回、最終日の2ndステージも当然、Billboard Live TOKYOは多くの来場者で埋め尽くされている。そこへまずNAOTO率いる弦楽四重奏が登場し、「Make a Change」からスタート。ヴァイオリンとヴィオラが唸りを上げるロックリフ的なフレーズと、ビート感のある重低音が渦を巻く、最初に書いたような同シリーズの特色や方向性を、言外に一発で理解させる演奏だ。同曲を終えると深い海を思わせる旋律のイントロに乗ってホリエが登場すると、ステージ中央マイクの前に立ち、一瞬の静寂のあと歌い始めたのは、なんと「シーグラス」。同曲の切なさを帯びた美メロを、弦楽器が過度に装飾するのではなく、むしろ間奏部分を除けば全体的にミュートした音で刻むような演奏に徹することで、ホリエの歌声とメロディラインが際立っている。こういう差し引きは実に見事だ。
ROCKIN' QUARTET vol.3 撮影=高田梓
ROCKIN' QUARTET vol.3 撮影=高田梓
「ストリングスが合いそうだな」となんとなく想像できるようなレパートリーは、最初の「シーグラス」と本編最後にやった「彩雲」くらいで、その他は「そうきたか」というセレクトが目白押しだったのも良かった。テナーも一本のワンマンあたり2~3曲は意外な曲を入れてくる傾向にあるし、NAOTOも一見ストリングス向きではなさそうな曲をいかにアレンジするかに情熱を傾けている節があるため、その相乗効果が生んだセトリなのだろう。何せ、前半から「DONKEY BOOGIE DODO」「BRILLIANT DREAMER」という並びである。オルタナ全開な前者では、拍の取り方やコード感はある程度原曲に添いつつ、各楽器がパーカッシヴなアプローチ。本来エレキベースが牽引するグルーヴの部分はチェロを中心に構築する。ホリエがハンドマイクで歌う姿も新鮮だった後者は、比較的シンプルな演奏と構成ながら弾むようなノリが心地良い。ホリエ曰く「ストレイテナーの隠れた名曲」というレア感もさることながら、そのアレンジの施し方でも目から鱗をボロボロ剥がしていくのが『ROCKIN' QUARTET』流だ。
ROCKIN' QUARTET vol.3 撮影=高田梓
MCでは、3階層に分かれた客席がステージを半円状に取り囲む会場の形状を、「クイズ番組みたいですね」とホリエが喩えて笑いを誘ったり、NAOTOが客席の声を拾って答えたり語りかけたりと、これまで以上に和やかな雰囲気なのも印象的だった。「ビルボード初めての人?」という問いかけで挙がった手が案外少なかったことから見ても、このシリーズのリピーター、ライブのカラーを理解して訪れる人が増えてきているのかもしれない。そういう人からすればお楽しみのカバー曲コーナーは、ゲストとしてmajikoを呼び込んでのデュエットになった。まず、ホリエが初めて他アーティストへの楽曲提供をした曲である「アマデウス」を2人でパートを分けながら歌い、サビではハーモニーの好相性ぶりで魅せる。
ROCKIN' QUARTET vol.3 撮影=高田梓
この曲ではNAOTOが、ヴァイオリンのボディーを叩くタップ奏法以外に、右足でSTOMPと呼ばれるキックペダルを踏み、一人でヴァイオリン・スネアドラム・ベースドラムという一人3役をこなす離れ業を繰り出す。『ROCKIN' QUARTET』が更に進化した瞬間だった。続いてホリエの熱い希望により『美女と野獣』のテーマ「Beauty and the Beast」をミラーボールの光が降る中で披露。majikoのちょっとハスキーな低音と伸びやかな高音、ホリエが歌う中音域の柔らかな肌触りが混ざり合う様子の、なんと美しいことか。なお、この曲、ホリエは普段カラオケでも歌ったりする好きな曲だそうだが、その際のお相手は俳優の千葉雄大とのこと。
ROCKIN' QUARTET vol.3 撮影=高田梓
後半に入り、最初に披露された「Zoe」はホリエのソロプロジェクト・entの楽曲。静かで淡々としながらも美しいメロディを持つ曲だけに、ストリングス・アレンジによって見事にドレスアップされた印象で、ピアノのイントロからもう完全に心を奪われてしまった。「Zoe」と繋げるかたちで入った「タイムリープ」を経て、1stステージから唯一セットリストを変更したという「Curtain Falls」へ。ビルボードには、ライブ中にステージ背後の幕を開けて六本木の街並みを一望できる仕掛けがあるため、暗くなり夜景が見渡せるこのタイミングにこの曲を持ってきたというわけか、洒落た仕掛けである。ちなみに1stではこの位置に「イノセント」が配されていたようで、そっちも観たかったなぁとも思う。
ROCKIN' QUARTET vol.3 撮影=高田梓
ROCKIN' QUARTET vol.3 撮影=高田梓
本編を「彩雲」で締めくくり、アンコールに応えて再登場すると「LOVERS IN NAGASAKI」を披露。長崎市の観光大使でもあるホリエが、その街並みや人々を切り取った写真からインスパイアされ書き下ろした同曲は、この『ROCKIN’ QUARTET』を介して交流が生まれたNAOTOがストリングス・アレンジを手掛けており、ここはロックアレンジではないクラシカルな弦の響きを存分に堪能できた。最後は再びmajikoを交え、「冬の太陽」を、トリビュートアルバムで彼女がカバーしたバージョンに近いスウィング感のあるアレンジで。会場のビルボードにもよく似合い、特別なライブの締めくくりとしても相応しい華やかな音に包まれて終演となった。
ROCKIN' QUARTET vol.3 撮影=高田梓
チケット争奪戦となった『ROCKIN' QUARTET』。アンコール公演を望む声が続出するなど期待が高まる中、なんと9月28~29日に岐阜・中津川で行われるフェス『中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2019』で、『ROCKIN' QUARTET』のスペシャル・ステージが実現するという情報が入ってきた(ニュースはこちら)。これまで登場したゲストボーカル3名、大木伸夫ACIDMAN)、山田将司THE BACK HORN)、ホリエアツシ(ストレイテナー)が一堂に会する上に、何より野外ロックフェスというオープンな場でこのライブが味わえる貴重な機会である。特に、ビルボードだとちょっぴり敷居が高いという若きロックリスナーや、東名阪へのアクセスがしづらい地元の方には是非、“あくまでロックな弦楽四重奏”という、このオンリーワンの発明品に触れてみてほしい。

取材・文=風間大洋 撮影=高田梓
ROCKIN' QUARTET vol.3 撮影=高田梓

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