『人気者で行こう』で示した
電子音楽との融合に
サザンオールスターズの
しなやかさと決意を見る

傑出した名曲
「ミス・ブランニュー・デイ」

その取り組みは、7th『人気者で行こう』(1984年)と、それに続く2枚組の大作8th『KAMAKURA』(1985年)とで結実する。この7th、8thアルバムはともに、サザン自体のバンド史のみならず、日本の音楽シーンにおける重要作であるのは多くの人が認めるところだろう。どちらが上とか下とかいうのではなく、人によっては『人気者で行こう』と『KAMAKURA』を併せてサザンのピークと見る向きもあるほど、親密な関係にある作品だ。当コラムでもどちらを取り扱うか直前まで悩んだ。当初は極めて個人的な理由で忘れ難いナンバー「Bye Bye My Love (U are the one)」も収録されているし、『KAMAKURA』を…とも考えていたのだが、やはり「ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)」の存在感を無視はできない。同曲は前述したデジタルを取り込んだ大成功例でもあり、その意味では、『人気者で行こう』があったからこそ『KAMAKURA』もあったと言えるわけで、当方では前者を推したいと考えた。

というわけで、まずはM3「ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)」から見て行こう。何と言ってもあの印象的なイントロである。あの音階と音色とでこの楽曲の5割は完成していると言っていい。それくらい素晴らしいイントロだと思う。ああいう電子音は年月が経つと、悪い意味で時代掛かってくるというか、はっきり言えば、古めかしく聴こえることもある。実名は避けるが、あの人のあの楽曲とか、あのバンドのあれとかがそうだ。しかし、平成が終わろうとしている現在でも、「ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)」のサウンドは陳腐には聴こえない。それはなぜか。音のチョイスが絶妙だったのは言うまでもないが、それだけではないと思う。簡単に結論付けるのも味気ないけれども、それはやはりバンドの出す音だからではなかろうか。

某テレビの音楽番組でサザンが特集されていた時、「ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)」が演奏されるライヴ映像で、原由子(Key&Vo)がイントロを弾く様子を見た出演者のひとりが“今でもあそこを手で弾いてるんですねぇ!”と驚いていたのだが、そこにあの楽曲の秘密はあるように思う。プログラミングでは決して出せない躍動感。前回の『熱い胸さわぎ』の紹介において、その収録曲の「いとしのフィート」でのエレピを取り上げたが、もともと鍵盤の彩りはサザンの武器のひとつでもある。それが基本にあるからこそ、いかに電子楽器を導入したとしても決してチープにはならないのだろう。アタック音の強いドラミングと、これまた印象的なエレキギターも重要。これらがシンセのリフレインに重なることで、容赦なくバンド感が出ている。サザンらしさを損なうことなく、そのサウンドを1980年代にアップデートさせているのだ。しかも、「ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)」はそこに、高音なAメロから伸びやかなBメロへつながって緊張感のあるサビへと至る、個性的に展開する歌メロが乗っかってくる。改めて分析してみると、文字面だけみても、名曲であることが分かる。言うまでもなく、傑出したナンバーである。

OKMusic編集部

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