リンゴ・スター&ヒズ・オール・スタ
ー・バンドがやって来る。

リンゴ・スター&ヒズ・オール・スター・バンドがやって来る。
説明不要のリンゴ・スターが、やや説明を必要とするヒズ・オール・スター・バンドを引連れて来日する。3月27日(水)の福岡を皮切りに、東京、大阪、名古屋、広島、仙台、福島と、日本を横断する7都市全11公演に渡るジャパン・ツアーを敢行する。
このリンゴ・スター&ヒズ・オール・スター・バンドとは、言わずもがなの元ビートルズのリンゴ・スターと、ロックシーンに君臨するトップ・プロ達をバンドメンバーとしたスーパー・バンドのことで、最初の結成は1989年。その最初の結成からラインナップは順次入れ替わっており、今回の来日メンバーで第14期を数える。
第1期のメンバーは、イーグルスやジェイムス・ギャングの活躍で有名なジョー・ウォルシュ、E・ストリートバンドのニルス・ロフグレンとクレランス・クレモンズ、ザ・バンドのリック・ダンコとレヴォン・ヘルム、ソロとして名を馳せているドクター・ジョン、ビートルズとの活動でも有名なビリー・プレストン、一流セッション・ドラマーのジム・ケルトナーと、超重量級の大物が揃ったラインナップで大いに話題となり、89年には武道館での来日公演も行われた。
ヒズ・オール・スター・バンドのメンバーは、リンゴがその時々で一緒に演奏したいメンバーに声をかけて行くことでメンバーが変わっていくらしく、前述の第1期以降、トッド・ラングレン、イーグルスのティモシー・B・シュミット、デイブ・エドモンズ、リンゴの息子のザック・スターキー、ラスカルズのフェリックス・キャバリエ、ザ・フーのジョン・エントウィッスル、ピーター・フランプトン、クリームのジャック・ブルース、フリーのサイモン・カーク、モット・ザ・フープルのイアン・ハンター、ハワード・ジョーンズ、E.L.Pのグレック・レイク、シーラE、ビリー・スクワイヤー、リチャード・マークス、エドガー・ウィンター、リック・デリンジャー、ミスター・ミスターのリチャード・ペイジ、10ccのグレアム・ゴールドマン等々、20人を超える大物が名を連ねている。
メンバーたちはロック・シーンで名をはせた大物であるには変わりないが、それぞれが様々なシーンを代表するミュージシャンであり、「あれ、この人とこの人が一緒に演奏するんだ」という声が思わず出てしまいそうな組み合わせも多く、これぞまさしくスーパー・バンドであり、ヒズ・オール・スター・バンドと名を冠している由縁であろう。
ただ、このメンバーの一筋縄でいかない感じが、実はこのヒズ・オール・スター・バンドを多少分かりにくくしている原因でもある気がしているので、今回の来日で揃った第14期のヒズ・オール・スター・バンドのラインナップを、じっくりと詳細に解説していこう。リンゴのことは一旦わきに置いておくとして。
今回来日する第14期のヒズ・オール・スター・バンドのメンバーは、以下の通り。
スティーヴ・ルカサー<TOTO> - G./Vo.
グレッグ・ローリー<ex.サンタナ/ジャーニー> - Key./Vo.
コリン・ヘイ<ex.メン・アット・ワーク> - G./Vo.
ヘイミッシュ・スチュワート<ex.アべレージ・ホワイト・バンド> - B./G./Vo.
ウォーレン・ハム<ex.ブラッド・ロック/カンサス/AD> - Sax/Perc.
グレッグ・ビソネット<ex.デイヴ・リー・ロス> - Ds.
この6人のラインナップを見て、すぐに共通項を見出すのは困難だろう。それぐらい、バラエティに富んだ顔ぶれであり、ある意味バラバラであるといっていい。このバラバラなラインナップがそのままヒズ・オール・スター・バンドの魅力であるといってもいいかもしれないが、各メンバーのプロフィールと各々の関係性をある程度抑えておけば、今回の来日公演を何倍も楽しめることになるだろう。
このラインナップの中からまず注目したいのは、やはりギター&ボーカルをこなすTOTOのスティーヴ・ルカサーであろう。日本でも高い人気を誇るルークことルカサーは、自身のバンドTOTOで来日ツアーを2月に行ったばかりであり、変わらぬ熱いギタープレイで各地のライブを盛り上げたのは記憶に新しい。このツアーは結成40周年を迎えたバンドのアニバーサリー・ツアーであり、この長い期間を最前線で戦い抜いてきた雄姿は圧巻だった。
TOTOのメンバーであり、70年代後半から80年代を超のつく一流のセッション・マンとして過ごしてきたルークのギターは、多くの人がそれとは知らずに耳にしたことがあるはずで、マイケル・ジャクソンから、オリビア・ニュートン・ジョン、河合奈保子に至るまで、数多くのアルバムで聴くことができる。
ルークは、ビートルズによって人生が変わったというほどのビートルズ・ファンで、ヒズ・オール・スター・バンドには自ら売り込んでメンバーになったという顛末が、昨年発表された彼の自伝『スティーヴ・ルカサー自伝(The Gospel According to Luke)』で明らかにされている。
そんなルークをリンゴに売り込んだ張本人が、ドラムのグレッグ・ビソネット。彼は2008年の第10期からヒズ・オール・スター・バンドに参加し、その後、一度もドラマーの座を譲らずにいる超常連。
グレッグは、1959年ミシガンはデトロイト生まれで、ヴァン・ヘイレンを辞めたばかりのデイヴ・リー・ロスのアルバム『Eat 'Em and Smile』(スティーヴ・ヴァイとビリー・シーンが当時のメンバーだったことを挙げれば、ああ、あれか!と多くの方が思い出すであろう)で一躍注目される存在となった。その後も、ロックのみならずジャズなどの多くのセッション・ワークを経て、1995年には当時TOTOのドラマーだったサイモン・フィリップスが故障のためツアーを離れた際の代役として参加するなど、プロフィール上でスティーブ・ルカサーとリンクすることが多い。それもそのはず、ルーク自体がグレッグのことを長年の兄弟分と呼ぶほどの仲であり、長年セッションを中心として活動を共にしてきている。そんなヒズ・オール・スター・バンドのドラマーを務めるグレッグに、「もしリンゴがギタリストかシンガーか何かが必要なら・・・」と、ルークは言い続けていたらしい。
その甲斐もあり、ルークは2012年の第12期からヒズ・オール・スター・バンドのメンバーに加わり、その後、現在に至るまでショウを盛上げるリンゴの右腕として活躍し続けている。
そして、サックスやフルートを操るウォーレン・ハムにも少し説明が必要だろう。1957年にテキサスで生まれたウォーレンは、今回の来日公演のオフィシャルの資料では、ブラッド・ロック、カンサスなどの仕事で知られているという説明がなされている。他には、ドナ・サマーやオリビア・ニュートン・ジョンなどのツアーメンバーとして世界を飛び回るなど、一流のセッション・マンとしての側面は簡単にうかがい知ることができるが、ウォーレンと今回のメンバーとの関係性を語るとすると、一番最初に挙げるべきは、ウォーレンは前述の現在行われているTOTO結成40周年記念ツアーのメンバーでもあるということだ。もちろん、2月の来日公演でもツアーに帯同し、サックスやフルートのみならず、その素晴らしい声でリード・ボーカルをとる場面まであった。
そのウォーレンもルークと同じく、2012年の第12期で初めてヒズ・オール・スター・バンドに加わり、現在に至るまでメンバーであり続けており、現在のバンドの要の一人といっていいだろう。
そして、ルーク、ウォーレンと共に、2012年からずっとヒズ・オール・スター・バンドの一角を占め続けているのが、キーボード&ボーカルのグレッグ・ローリーだ。グレッグは、言わずと知れたサンタナとジャーニーという2つのモンスター・ベテラン・バンドの創立メンバーであり、この2つのバンドで「ロックの殿堂」入りを果たしてもいるロック・レジェンドの一人。
以上4名は、前回2016年のヒズ・オール・スター・バンドの来日時でもメンバーであり、今回は前回に引き続いての登場ということとなる。
これらヒズ・オール・スター・バンドの連続出演の常連組に混ざり、今回から参加するのはコリン・ヘイとヘイミッシュ・スチュワートの2人。ただ、今回からヒズ・オール・スター・バンドに復帰するというのが正確なところ。そして、この2人も他のメンバーに負けず劣らず、個性的な強者だ。
まずは、コリン・ヘイ。80年代に世界を席巻した、オージー・ロック・バンド、メン・アット・ワークのフロントマンだった彼は、ソロに転じたバンド解散後も多くの秀作を残し、今でも伝説的なヒット曲の数々と共に多くの人の記憶に残っているレジェンドの一人だ。特に全米No.1を記録した「ノックは夜中に(Who Can It Be Now)」と、オーストラリアを代表する名曲中の名曲「ダウン・アンダー」という2曲の歴史的なヒット曲は、サックスの音色が印象的な前者、フルートがイントロと間奏で特徴的な後者ともども、オリジナルに忠実なアレンジで聴くことができる可能性が高いだろう。現ヒズ・オール・スター・バンドには、ウォーレンというサックス&フルート奏者がメンバーなのだから(ちなみに、「ダウン・アンダー」は後年、特徴的なフルートのフレーズが盗作であるとの裁判騒動が持ち上がり、コリンはあまりこの曲を原曲に忠実なアレンジで披露することが少なくなっている)。
コリンは、2003年の第8期に初めてヒズ・オール・スター・バンドに参加し、その後、2008年の第10期にも参加。そして、今回が約10年ぶりの復帰にあたり、日本では初お披露目となる。日本でも人気の高かったメン・アット・ワーク。その名曲たちは、何曲聴けるのだろうか?一つの見どころと言っていいだろう。
そして、最後に触れるのが、ヘイミッシュ・スチュワート。ベーシストで、ギター&ボーカルもこなすマルチな才能を発揮している彼は、そう、言わずもがなのポール・マッカートニーのツアーメンバーとしてここ日本でもおなじみ。
1989年から1993年までポールのバック・バンドに在籍し、その間に2回の来日公演でも帯同していた。日本でも人気が高かったポールの『フラワーズ・イン・ザ・ダート』や『オフ・ザ・グラウンド』といったアルバムに参加し、特に大ヒットしたアルバム『アンプラグド』では、あのビル・ウィザースの名曲「エイント・ノー・サンシャイン」のリード・ボーカルをポールを差し置いて務め、渋い喉を披露したことはとても印象深いこととして多くのファンの記憶に残っているだろう。
ポールの右腕的存在がヒズ・オール・スター・バンドに登場する。これだけで、ビートルズ・ファンには感慨深いものがあるはずだ。
ヘイミッシュは、2006年の第9期でヒズ・オール・スター・バンドに初参加、2008年の第11期にもコリンやグレッグと共に参加している。
リンゴのレジェンドとしての説明は他に譲るとして、今回のヒズ・オール・スター・バンドの面々を一人ずつ見てきたが、いかに個性的で魅力あるメンバーが集まっているかがわかっていただけただろう。世代もジャンルも違うが、全員が超一流。そのメンバーのヒット曲や、かかわった関連性のある楽曲もたっぷり披露されるのが、リンゴ・スター&ヒズ・オール・スター・バンドのライブの楽しさだ。
どんなに個性の強い面々がステージ上で競い合っても、その最後に「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」がリンゴによって歌われたら、もう、それは、All OKということ。この最強の楽曲があるから、リンゴ・スター&ヒズ・オール・スター・バンドは、いつでも、自由で楽しいのだ。
そして最後に蛇足ながら。
オール・スターのスターは"star"ではなく、"starr"と綴る、リンゴ・スターの綴りと同じ。
日本語では分かりにくいが、こんな細かいところまで、なんだか愉快だ。

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