【鈴木実貴子ズ インタビュー】
結論はずっと見つからない
そういうことも
ひっくるめて肯定したい
“人の根本はどこ?”っていうのを
曲中でずっと探している
「あきらめていこうぜ」も良い曲ですね。
(笑)。《憂鬱の中で光を生み出せ 悲しみを越えずに光を手に入れろ》というフレーズがすごく印象的で。
鈴木
無理に悲しみなんて越えなくていいと思うんです。だって、辛いもん。その中で光を見つけたらいんですよ。こういう考えって自分に甘いんですかね? 自分でもよく分からないんですけど、こう思っちゃうんですよ。
辛いことを真っ当に辛いと感じるのって大事だと思いますよ。そこから見えてくるものってありますから。
鈴木
そうなんですよね。無理に越えないで、ちゃんと飲み込もうっていう気持ちが強いです。無理に越えると、その先で同じことを繰り返しますから。
じっくり向き合うと“なるほど”と思える人生観に触れられるのが、鈴木実貴子ズの音楽の魅力だと思います。
鈴木
ありがとうございます。1回聴いただけだと、歌詞とかもなかなか分かりにくいかもしれないですけど。
今作の“現実見てうたえよばか”というタイトルも、初めて目にしたら“どういうこと!?”ってなるはずです。
鈴木
(笑)。これは他の人に対しても、自分に対しても思っていることです。
高橋
ライヴのコール&レスポンスやアンコールとかも形式的になっているじゃないですか。そういうことに対する“どうなんだろう?”っていうことも含んでいるよね。
鈴木実貴子ズって、当然抱くべき疑問に向き合いながら音楽をやっているという点で、真面目とも言えるのではないでしょうか。
(笑)。「見たことない花」に関しては、《喜びはいつだって足元で あなたを見上げてる》っていうのが、いろいろ想像が膨らむフレーズでした。“もしかしたら知らないうちに踏んづけたり、通り過ぎたりしてしまうのが喜びなのでは?”という解釈をすることもできるなと。
鈴木
これはすごくシンプルなテーマで、“幸せは意外とすぐそこにあるよ”っていう曲なんですけど、そういう解釈も面白いですね。
高橋
自分たちとしては、みんなが思うようなシンプルなことにやっと気付けた曲なんですけど。でも、今おっしゃった解釈は他の人にも言われました。
鈴木
作っている側は、そこまで考えていなかったんですけど。
《白菜リュックに詰めて 雨上がり自転車こいでる》っていうのも好きなんですよ。白菜って結構重いからリュックで運びたいじゃないですか。
鈴木
そうですよね。レジ袋を貰うとお金とかかかりますし(笑)。
(笑)。「平成が終わる」は去年リリースしたシングルの曲ですね。
鈴木
そうです。私は平和を願っているけど、例えば大事な人がもし殺されたら、その犯人に自分の手で仕返しをしたいんです。そんな感情がある限り平和なんて来ないっていう矛盾があるわけですけど、時代はどんどん移り変わっていくし、人の根本にあるものは変わらない。そういう曲です。
こういう矛盾って誰の中にもあるはずです。だから、生きるのって非常に面倒臭いとも言えるんですけど。
鈴木
はい。生きるのって面倒臭い(笑)。いろんな感情が付いてきますからね。
“生きるのって面倒臭い”とか言うとネガティブにとらえられがちですけど、そんなことを思いながらも今こうして我々が生きているのって、それ自体がポジティブだとも言えるんじゃないですかね。鈴木実貴子ズの音楽の本質は、そこにある気がします。
鈴木
鈴木 そうですね。“人の根本はどこ?”っていうのを曲中でずっと探している感じなんです。
こういうのはいくら考えても結論は出ないですよね。“人生とはカツ丼である!”っていうくらい分かりやすいことが言えたら、いろいろ楽なんですけど。
高橋
ずっと歌っているけど、結論は出ていないもんね。
鈴木
うん。結論はずっと見つからない。そういうこともひっくるめて肯定したいです。
世の中のいろんなことが明るいとか暗で分けられがちですけど、悩んだり苦しんだりする部分もないと本当の意味での明るいっていう方向には進めないんじゃないでしょうか。
鈴木実貴子ズの音楽って、おそらく暗いって言われがちだと思うんですけど、違和感はありますよね?
鈴木
あります。暗くないですから。“めっちゃポジティブなのに!”って思っちゃいます。
高橋
むしろ一番サバサバしているくらいの気持ちでやっていますから。
鈴木
根本的には、音楽やるのが好きなんだろうなということも思います。「音楽やめたい」っていう曲があるくせに。
(笑)。先程もその点について少し話しましたが、“音楽辞めたい”って思えるくらいじゃないと音楽なんて真剣にできないっていう曲ですよね?
表面的な意味と反対の感情が深く伝わってくるのは、他の曲に関してもぜひリスナーに着目してほしいところです。
鈴木
そこに向き合うのは面倒臭いことではあると思うんですけどね。理想を言えば、今後はもうちょっと分かりやすく歌を書きたいんですけど。
鈴木
もっと簡単な気持ちで向き合えるようにしたいってすごく思っているんです。
「見たことない花」は、その第一歩かも。
鈴木
そうですね。この曲は分かりやすいですから。最終的には“人生とは、カツ丼である!”とか言い出すかもしれないですけど。
そんな新曲が出たら僕は責任を感じます…
高橋
次のアルバムのタイトルが“人生とは、カツ丼である!”とか(笑)。
(笑)。みなさんの音楽はユーモアも感じますよ。「新宿駅」は雑踏の中で殺意を抱く描写がありますけど、なんか笑っちゃいました。実際、こういうことってありますからね。
こういうことを言うのを危険視することに対して僕は違和感があるんです。だって、殺意を抱くのと実行に移すのはまったく別のことなんですから。
高橋
そういう違和感は、やっぱりありますよね。だって、こういう感情を抱いたことがあるというのが自然だと思いますから。
もっとカジュアルに殺意を抱いたほうが変に鬱屈しなくて済むんじゃないですかね。コンビニに行く感覚で殺意を抱くというか。
高橋
“コンビニに行く感覚で殺意を抱こう”? やばいやばい、どうしよう(笑)。
(笑)。鈴木実貴子ズの今後の活動の具体的なビジョンは何かありますか?
鈴木
具体的なものは、もっとたくさんの人に聴いてほしいくらいですね。自分の音楽に関しては、さっきも言ったようにもっと噛み砕いて表現したいっていうことです。
高橋
こういう音楽を聴きたいと思っている人が、もっといるんだっていうことの証明にもっと近付いていきたいです。50人なら50人、100人なら100人の人たちに“自分たちは届けられているんだ”っていう実感を持てる状況を作ってきたいですね。
取材:田中 大
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アルバム『現実みてうたえよばか』2019年3月20日発売
Low-Fi Records
スズキミキコズ:2012年に結成された名古屋の2ピースハードコアバンド。精力的なライヴ活動とともに、名古屋に“鑪ら場”というライヴハウスを立ち上げるなど、異例のDIY精神で活動してきた。18年にmoke(s)や3markets[ ]らが所属する東京のオルタナティブレーベルLow-Fi Recordsに移籍してCDデビュー。初のアルバム『現実見てうたえよばか』を19年3月20日にリリースする。鈴木実貴子ズ オフィシャルHP
「アホはくりかえす」MV