川本成が初脚本に挑戦「やりたいこと
が多すぎる」 時速246億『ラビトン
-rabbit on-』

時速246億主宰の川本成が作・演出を務める舞台『ラビトン -rabbit on-』が2019年3月27日から下北沢駅前劇場で上演される。「1年に1つぐらいは新しいことをしたい」という川本が今回初めて挑戦するのが、脚本だ。どんな舞台になるのか、川本に話を聞いた。
僕なりの「脚本」というものを模索している
ーー今回が意外にも初の脚本だそうですね。
ソロ公演やコントの脚本は書いていたのですが、物語の脚本というものは初めてです。ここ5年ぐらい、1年に1つぐらいは初めてのこと、新しいことをやろうと思っていて……。去年は初の演出をして、今年は脚本も書いてみようかなという感じなのですが、今までずっと脚本家をやってきた人とは違って、僕は本来演者です。だから、同じ場所からスタートするのもちょっと違う気がしていて、僕なりの脚本というものを模索しています。
......ちなみに、まだセリフは書いていないです。つまり、本はまだ1ページもない(笑)
ーーそうなんですね(笑)。『rabbit on』というタイトルですが、どんなお話なのでしょうか?
rabbit onというのは、うだうだ喋る、演説風に喋る、という意味の熟語です。
 
まずやりたいのは家族の話。そして、それを全部生演奏でやりたい。その二つの軸をもとに、シーンの流れは一度作ったのですが、そのままやるとね、そのままお話になってしまう。それはなんか違うなと思っていて。一旦構築したものをバラバラにして、まとめるのは最後の作業でいいかなと思っています。どんどんパッケージングしていくのとは真逆の行動を今はしたいなという感じです。
川本成
ーー物語を1度全てをバラして、再構築する、と。
そう、考えた話をそのままやるのは、つまらない。セリフを書くと、ボケとかツッコミを書いてしまいそうなんです。字面で面白いことってあるじゃないですか。それをやったら確かに面白いのかもしれないけど、まだそこの段階にはいきたくないなと思っていて。
この間も師匠の欽ちゃん(※萩本欽一)が「ボケやツッコミというのは業界用語だよな」と話していて、なるほどなぁと。確かに普段「コーヒーください」と言って「お待たせしましたジャンバラヤです」みたいな事ってあんまりないですよね。ボケとかツッコミって、創作上の都合のいい物というか、やっぱり業界が作ったファンタジーのようなものだなぁと。それはそれで良いんですが、​そう、最近は、関係性や必然性の中で起こるものに興味が出てきて。普通のセリフで笑いを作りたいんです。「おかしさ」を作るのではなくて、「おかしみ」が生まれるようにしたい。
 
正直、覚えてやるだけなら5日間ぐらいでできてしまう。せっかく自分でやるのだから、面白いスキルを持った人とちょっと稽古場で遊んでみて生まれるものから作っていきたい。色々とやりながら、音楽的なことも試しながら、稽古自体遊びたいなと思っているので、そういうわけで、まだ本は書いていません(笑)
舞台だからこそ「生身」でやることを追求したい
ーーあらすじも特段ないのでしょうか?
いや、ありますよ。息子と父親が2人で住んでいて、母親は亡くなって、いない。その理由を父親は話したがらない。息子としては父親にいろんな思いがあって、嫌いになってゆく。そして、ゴミ屋敷に住んでいるんですね。ゴミ屋敷に住んでいる人は大抵理由があって、だいたい思い出が捨てられないところから始まっているんです。
......余談ですが、親子の話がしたいというのは、実際に僕、親父とあんまり仲が良くない時期があって。自分に子どもが生まれてみて、分かったことがいろいろありました。自分の子どもを初めて抱っこしてみた時に、嬉しかったのと同時に、どこか親父のことが頭をよぎって。今だからこそ自分の親父に対して思うことがあるんです。
 
まぁこんな感じが、今考えている普通のストーリーです。だけど、そのままやるとただの物語になるから、それに音楽を交えたいし、遊びたい。例えば、お客さんに全員ステージに上がってもらって、舞台上のゴミを撤去してもらえたりしないかなとか(笑)。ストーリーをエンターテインメントにするのがやっぱり我々の使命。みんなで楽しめるようにしたいんです。
やっぱりわざわざ劇場に来てもらって、その場で繰り広げられるのが舞台だと思うので。映像やプロジェクションマッピングを使う舞台もありますが、僕は舞台の良さって、逆に「生身」を追求したほうがいいのではないかと思っています。アナログですけど。効果音自体も生でやれたら面白いなと思っています。
川本成
ーー“おもしろ”ということですね。
そう。とことん人がやるおもしろを追求したい。変な話、子どもが見ても、海外の人が見ても、通じる何かというのは生身の人が起こす何かだと思うんです。舞台をやるとなると、一回そういうのを極端にやりたいなって。やっぱり楽器を目の前で弾いているのを見たら、「wow!」となるじゃないですか。
アイディアで遊んで、ギリギリまでの思いつきに賭けて
ーーチラシはウサギのビジュアルですが、ウサギは出てくるのですか?
はい。ウサギは出てきて、僕が演じます。
最初にインスピレーションが浮かんだのが、ウサギでした。それは何故かと思うと、なんか繋がってくる瞬間がありました。僕はウサギを飼っていたこともあるし、因幡の白兎で有名な鳥取出身だし、僕のサインにもウサギが入っていたりして、ウサギっていいなというところから枝葉が分かれていくんです。
「rabitt on」はうだうだ喋るという意味ですけど、「rabitt die」というのは熟語で妊娠するという意味があるんです。ウサギってずっと性欲が止まらないんですって。だからプレイボーイのマークはウサギで、性欲の象徴なんですって。それから、ウサギは月にいるじゃないですか。月は女性の生理と関係あったりして....と色々と自分の中で広がって、繋がっていくんです。
そういう風なまだまとまっていない、いろんなアイディアをいかに小さくまとまらずに作品に入れられるか、です。
ーー今回の作品の着想はいつからあったのですか?
去年の頭ぐらいかな。でもね、締め切りから先に決めるんです。脚本が書けるか書けないかというのはちょっと置いておく。公演が終わった時のことしか想像しない。だからもう「やった」ということをひたすらに思って。劇場も抑えたし、本番日も決まって。そこに自分を持っていくというイメージです。
ーー『バック・トゥ・ザ・ホーム』が終わって、これからエンジンをかけるわけですね?!
申し訳ない、エンジンはまだかかっていないです(笑)
人にはもう書かないといけない時期で焦った方がいいよと言われるかもしれないですが、まだ横になっていたいなって思いますし、もうまだ書かないでいいんじゃないかとさえ思います(笑)。“降りてくる”と言うと格好良すぎるけれど、「できてしまったからしょうがない」と言うのが一番いいと思うんです。あぁ僕はこう思っていたんだね、と結果的に思う、みたいな。
 
ソロ公演でもそう。結局色々考えても、出来上がった後から気づくことの方が多いんです。考えていたネタを3日前ぐらいに潰して、2日前ぐらいに違うネタを作ったりしている。その時は直面する目の前のことだけ考えている。なんでしょうね。必死感から生まれる何かが出るのかもしれないです。
ギリギリまでドキドキしたいのかもしれないですけど、直前に作ったネタが良かったりする。家でじっくり作ったようなものは、割と面白くなかったりする可能性があって。それは多分、僕が脚本家じゃないからです。俺なりの脚本づくりは、ちょっとギリギリまでの思いつきに賭けるという部分にあるのかもしれません。
川本成
役者にミュージシャンに。個性豊かな出演者
ーー出演者の方も個性的なメンバーです。
佐々木憲さんはアコーディオニストで、本来、役者ではない。駒井華さんもパーカッショニストで、役者ではない。KAITO君は舞台が2回目でほぼ初めて。西山宏幸さんはバンドをやっているミュージシャンで、役者でもあります……みたいな、どうなるか分からないメンバーです(笑)。本当にやりたいことが多すぎるんですが、まとめるのは何か違う。いや、まとめなくてはいけないんですけどね……。
ソロ公演を行って思ったのですが、一人でやると言っても、結局一人ではできないんです。いろんな人にいろんな話をすると、いろんなアイディアが出る。そういうおもしろを作りたいですね。……まぁ初脚本と言っているくせに、すでに完全に人に頼ろうとしていますが(笑)
ーー稽古場も盛り上がりそうですね。
そうですね。みんなには遊びながらやってもらいたいですね。そろそろ本はないのかと、みんなも焦ってきて、文句を言われるかもしれませんけど(笑)
「この人はこんなに面白いよ!」ということをお客さんにプレゼンできる絶好の機会。KAITO君のファンは僕のことも知らないだろうし、亜美ちゃん(前島亜美)のファンからも「誰だこのおっさん」って思われるかもしれないけど(笑)。でも、僕が方々で出会った人を「素敵でしょ?」と紹介できる場なんです、舞台って。
ーー出演者の方々に期待することは何かありますか?
みんなは楽しんで普通にやってくれれば(笑)。面白い人って勝手に刺激をゲットするし、そもそもみんなチャレンジャー。今は本も何も来ていないわけだから、本当は焦っているのかもしれないけど(笑)。
ーー最後にお客様に一言お願いします!
大人も子どもも親子連れでふらっと見にこれるような、誰が見ても楽しい、ディズニーランドのような概念に果敢にも挑みたいんです。同じものを見ても年齢や状況によって見方が変わるのが舞台の楽しいところ。みんなに観にきてほしいですね。
川本成
取材・文=五月女菜穂 撮影=岩間辰徳

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