Every Little Thingが
時代に即した要素を過不足なく
楽曲に詰め込んだ大ヒット作
『Time to Destination』

親しみやすく、聴きやすいサウンド

とにかくメロディーが分かりやすい。いい意味でアクが強くないと言えばいいだろうか。平板でもないが、コンテンポラリーR&Bのように抑揚が強調されたものもない。収録曲は全てそうだ。もう少し突っ込んで言えば、耳に残るキャッチーなメロディーではあるのだが、歌い上げるようなレンジの広さはないということになると思う。また、若干語弊があると思われるので具体的にどの曲が…とは指摘しないが、当時のJ-POPの最大公約数とでも言うべき、作曲の巧みさも感じられる。『Time to Destination』を聴いていて、“このコンポーザーは○○○○では?”とか、“これは△△△△のカバーか?”と思うような瞬間がいくつかあった。

そのメロディーを極めて個性的な声の持ち主というわけではない持田香織(Vo)が歌う。彼女の声は個性的ではないが、かわいらしい声であることは間違いなく、そのナンバーは多くの人にとって親しみやすいものになることもこれまた間違いない。その上、彼女は幼い頃から芸能活動をしていただけあってルックスも良く、その辺でも好意的に受け入れたリスナーが多かったことだろう(『Time to Destination』のジャケ写に今も残るワンピース姿はとてもキュートであるし、もしかすると彼女は一時期ファッションリーダー的な存在のひとりだったのかもしれない)。

親しみやすさを備えたシンガーが歌う分かりやすいメロディー。これがウケないわけはなく、特に10代の女子には見事にフィットしたのだろう。おそらくカラオケでもよく歌われていたのだろうし、ヴォーカルコンテストでELTのナンバーを歌う人が続出したことも納得である。20年を経て腑に落ちた。

一方、そのサウンドは…と言うと、これもまた個性が突出しすぎず、かと言って無個性ではない、面白いバランスの仕上がりだと思う。ヴォーカル+ギター+キーボードという当時のELTのスタイルの意義とでも言うべきものがしっかりと感じられる。ドンシャリ感は仕方がないだろうし、随所に登場するオーケストラルヒットもこの時代ならではのご愛敬と理解して、そこは差っ引いて考えると、バンドアレンジはなかなか巧みだ。当たり前のことだが、それぞれの楽器がそれぞれ別の演奏をしながら、それが合わさってひとつの楽曲となっていることが分かる。オープニングのM1「For the moment」からしてそうなので(しかも、これはシングル曲)、ミキシングのバランスはある程度、意識したものかもしれない。

伊藤一朗(Gu)というギタリストを擁しているだけあって、M2「今でも・・・あなたが好きだから」、M6「All along」、M9「Shapes Of Love」辺りでは、エレキギターが比較的前に出たハードロック風味がある他、多くの曲でしっかりと間奏のギターソロがあるのは、何とも律儀というか、几帳面な印象だ。ギターソロは突き抜けるような音階で、所謂鳴きのタイプも少なくないが、この辺は、前述した通り、ヴォーカルのメロディーのキーが高くないので、それを補うような意味合いがあったのかもしれない。

M6「All along」は重めの弦や管楽器が入って若干サイケデリックロックの匂いがするし、マイナー調のM10「True colors」は間奏で3拍子に変化したり、サビもややファンキーだったり、アルバムならではの変化球もあるにはある。だが、全11曲中の2曲という割合。しかも楽曲全体を支配するほど個性的なサウンドやアレンジでもないというのが面白いところだ。これは想像でしかないが、変化球がこれ以上に増えていたり、楽曲内でその成分が濃くなっていたりしたら、少なくともあの頃のELTの見え方は別のものになっていたと思われる。その意味ではその均衡は絶妙だったと言えるのかもしれない。

OKMusic編集部

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