【インタビュー】アヴァンタジア「自
分は小さな奇妙な王国の王様」

エドガイのトビアス・サメット率いるアヴァンタジアのアルバムには毎回豪華なメンバーが集っているが、2月15日に発売となった新作『ムーングロウ』では、ロニー・アトキンス(プリティ・メイズ)、エリック・マーティン(MR.BIG)、ジェフ・テイト(元クイーンズライク、オペレーション:マインドクライム)、マイケル・キスクといったおなじみのメンバーに加え、キャンディス・ナイト(ブラックモアズ・ナイト)、ハンジィ・キアシュ(ブラインド・ガーディアン)、ミレ・ペトロッツァ(クリエイター)が初登場を果たしている。トビアスに色々と話を聞いてみた。

──ニュー・アルバム『ムーングロウ』は、過去のアヴァンタジアのアルバムと比べて、どのような点が進化していると言えるでしょう。

トビアス:それは難しいな。というのも、アルバムを作るときは、いつでも最高傑作ができたと感じるものだからね(笑)。今回、俺はとてもリラックスしてこのアルバムを作ることができた。じっくり時間をかけることもできたし、ストレスもなかった。2016年に『ゴーストライツ』のツアーが終わったあと、エドガイもアヴァンタジアもレコード会社との契約がない状態だったんだ。スケジュールもプランもないという人生初の状況だったんだよ。だから、締切もスケジュールも気にせず、曲を書くことができた。今回の曲はとても凝った作りになっている。すべての曲それぞれに時間をかけることができたからね。曲を書いて2か月ほど置いておく。そして改めてそれを聴いてみて手を加えていく。このアルバムが俺が作った最高の作品であるかはわからない。だけど、音楽はそもそもオリンピックじゃない。好みの問題にもなってくる。だけど、このアルバムが非常に凝った作品であることは間違いない。物凄くたくさんのことが起こっていることが聞き取れると思う。それに間違いなくこれまでに一番お金がかかった作品だよ(笑)。

──アヴァンタジアには常に多くのヴォーカリストが参加していますが、ヴォーカリストを決めてから曲を書くのでしょうか。それとも曲ができて、その後それに合ったヴォーカリストを選定するのでしょうか。
トビアス:特定のヴォーカリストを頭に置いて曲を書くケースもあるし、そうじゃない場合もある。例えば「レクイエム・フォー・ア・ドリーム」なんかは、マイケル・キスクの声が頭にあった。他にマイケルに歌ってもらいたいと思っていた曲もあったのだけど、イマイチしっくりこなかったんだ。俺は「マイケルの歌はこうあるべき」というのが、はっきりわかっているからね(笑)。「レクイエム・フォー・ア・ドリーム」は全編マイケルが頭にあったんだ。特定のヴォーカリストを念頭に置いている場合もある一方、「こういうタイプのヴォーカルが欲しい」ということだけを考えて曲を書くこともある。それで、曲が出来上がってからレコード・コレクションを見ていって「キャンディス・ナイトが適任だ!」なんていう具合にヴォーカリストを選ぶこともあるよ。今回キャンディスが参加した曲も、キャンディス用に書いたわけではなかったけれど、彼女のようなタイプの声が頭にあった。それで、これを歌うのにパーフェクトなヴォーカリストは誰だろうと考えた結果キャンディスに行きついた。色んなパターンがあるよ。ミートローフを頭に置いていても、オファーを受けてもらえず、結局自分で歌うことになったりもする(笑)。こういう多くの人が関わる大きなプロジェクトだと、予測不可能な事態もいろいろ起こる。だから、特にルールを決めているわけではないんだ。

──なるほど、キャンディスの場合は、もともと彼女を起用しようと曲を書いたわけではなかったのですね。

トビアス:そうなんだよ。曲を書いたあとでキャンディスが適任だと思い、エージェントを通じて彼女にコンタクトしてもらった。キャンディスからヴォーカルのファイルが送られてきたときは、まるでクリスマスのように感じたよ。ジェフ・テイトやヨルン・ランデとは、一緒にスタジオに入ってレコーディングをするのだけど、キャンディスのように別のところで録るケースもある。キャンディスはニューヨークでレコーディングしたんだ。彼女のレコーディングを聴いたときは、ブっとんだよ。あまりに美しくて、そしてあまりに頭に描いていたとおりの内容だったからね。最高の瞬間だった。こういう瞬間のために音楽をやっているのさ。すべてのピースがはまるというのは、レコーディングにおける最高の瞬間だよ。

──ブラインド・ガーディアンのハンズィ・キアシュもアヴァンタジア初登場ですが、この曲も彼を念頭に置いて書かれたのでしょうか。
トビアス:いや、彼のことは考えずに曲を書いた。ハンズィにはずっとアヴァンタジアに参加してもらいたいと思っていたんだ。だけど、なかなか実現できなかった。エドガイには参加してもらったことがあるけどね。20年以上友達なのだけど、彼は地球上で最高の人間のひとりだよ。それに彼の声はとても特別で特徴的だろ?ケルト音楽の要素を持つ「ザ・レイヴン・チャイルド」には、特別な声が必要だと思ったんだ。それにブラインド・ガーディアンの「The Bard's Song」のことも頭にあったから、今こそハンズィに声をかけるべき時だと思った。「ブック・オブ・シャロウズ」にも、彼にぴったりのパッセージがあったから、これも彼に送って電話で話したんだ。彼とは仕事の要件がなくても、ときどき電話で話すんだよ。仲が良いからね。そしてら「トビー、最高だよ。この2曲のために、俺は俺の中の詩人としての面と、スクリーマーとしての面を呼び覚ますよ」って(笑)。彼は素晴らしい仕事をしてくれた。やはり彼の声はとても特徴的だ。ハンズィみたいなヴォーカリストって他にいないだろう?そんな風に評することができるシンガーって、多くはいないよ。

──クリエイターのミレ・ペトロッツァも、アヴァンタジアは初登場ですね。

トビアス:ミレも、ハンズィと同じくらい古い友人なんだよ。一緒にライヴをやったこともあるし、食事に行ったりもするし、アヴァンタジアへの参加についてはずっと話していたことなんだ。彼はまったく異なったバックグラウンドの人間だろ?だから彼が参加してくれれば、とても興味深い結果になると思っていたんだ。お互いをよく理解しているし、尊敬しあってもいる。ヘヴィなパッセージがあって、これはミレのために書いたわけではなかったのだけど、サシャ・ピートに「ミレ・ペトロッツァにここで歌ってもらうのはどうだろう?」って提案したら、「それは最高だね!俺はそういうクレイジーなことが大好きなんだ。アヴァンタジアにヘヴィな一面を加えられる」って。それでミレにそのパッセージを送ったら、「もちろんやるよ。だけどこれ、ボーナストラックじゃないよな?」って言ってきた(笑)。というのも、以前エドガイの『Hellfire Club』では、彼が参加してくれた曲はボーナストラックだったから(笑)。だから「この曲にはハンズィやヨルン・ランデ、プリティ・メイズのロニー・アトキンスも参加するんだ。ボーナストラックのわけないだろ」って(笑)。ミレも素晴らしい仕事をしてくれたよ。彼は歌というよりもスクリームで知られているヴォーカリストだけれども、本物のアーティストだよ。アートというものを非常に真剣にとらえているし、とてもリスペクトしている。

──『ムーングロウ』の歌詞は、どのようなものですか?
トビアス:これはコンセプト・アルバムで、サブタイトルが「Narratives of a Misplaced Entity」なんだ。テーマはいわゆるアウトサイダー、誤った環境、自分がいる環境とうまく行っていないというようなフィーリングさ。俺はアルジャーノン・ブラックウッド、アーサー・マッケン、サマセット・モームのようなヴィクトリアン・ゴシックの文学が大好きで、そこから大きな影響を受けている。不気味だけどとても力強い言葉で書かれているんだ。今回の歌詞には、俺の個人的な思考やフィーリングが反映されている。決して小説を書いてロック・ミュージカルを作りたいと思っているわけではなくて、歌詞に一貫性はあるけれど、それぞれの曲が独立した詩にもなっているものにしたかったんだ。自分とはつながりを感じられない環境に放り込まれた主人公の告白という形になっていて、その中に俺の自伝的要素も入っている。それぞれにつながりがある、単独でも意味がある詩の集まりみたいな形になっているよ。さっきあげた作家以外にも、俺はエドガー・アラン・ポーやE.T.A.ホフマンなども大好きで、このアルバムの歌詞は、彼らのような小説の俺のヴァージョンみたいな感じさ(笑)。彼らの作りだしたスタイルが大好きなんだ。

──アートワークはアレクサンダー・ヤンソンというアーティストが担当していますね。

トビアス:今回は、何か違うアートワークが欲しいと思っていて、ロック・バンドとは仕事をしたことがないアーティストはいないかと探していたんだ。それでインターネットで画像検索をしていたら、彼の作品を見つけてね。彼の作品は知らなかったし、名前も聞いたことがなかった。彼の絵はキュートな一面もありつつ、グロテスクで不気味に見えた。それで調べてみたら、スウェーデンではとても有名な絵本の作家であることがわかったんだ。だけど、彼のグロテスクで不気味な絵を、子供たちが見ているというのは想像できなくてね(笑)。ティム・バートンを思わせるような画風でさ。俺はディム・バートンも大好きなのだけど。どういう世界を求めているのか聞かれたので、アルバムの1曲目の「ゴースト・イン・ザ・ムーン」の歌詞を彼に送って、この主人公が経験するとても暗い感情について説明をした。彼が描いてくれたのは、ドリーミーで美しいけれど、やはりどこかグロテスクなものだった。とても気に入ったよ。

──そもそもアヴァンタジアを始めたきっかけは何だったのでしょう。

トビアス:バンドとしてのルーチン・ワークから抜け出したいと思ったんだ。エドガイのツアーで、俺はツアーバスで横になっていた。シンガーは声を大切にしなくてはいけないから、ツアー中もみんなと騒いだりパーティをしたりもできないのさ。ツアーバスで一人でみじめに過ごすしかない(笑)。喋ることもせず喉を守らなくてはいけない(笑)。何かバンドの外で、新しいことを試してみたいと考えたんだ。もっと地平を広げたかった。それで俺のヒーローがみんな参加するようなアルバムを作るということを思い付いた。マイケル・キスク、カイ・ハンセン、マーカス・グロスコフが一緒にプレイするようなアルバムさ。彼ら自身がそれをやろうとしないのであれば、誰かがその場を提供するしかないだろ(笑)。マイケル・キスクに「イーグル・フライ・フリー」みたいな曲を歌ってもらい、マーカスにベースを弾いてもらって、カイ・ハンセンにも一緒にいてほしいと思った。それから、バンドではできないようなこともやりたかった。バンドをやるというのは素晴らしいことではある。だけど『メタル・オペラ』を始めたときは、俺はすでにエドガイで7年間やってきていて、ルーチンを破るような俺自身の新しいことを試してみたかったんだ。それでアルバムを2枚作ったのだけど、あまりに大変でさ。「ジーザス・クライスト、もう2度とやらないぞ」って(笑)。でも、数年たつと、また同じ考えが頭をもたげてきてね。「バンドも素晴らしいけど、またアヴァンタジアという冒険もしてみるべきかも」なんていう風に考え始めた。アヴァンタジアは、オールスター・プロジェクトである一方、俺のソロ・プロジェクトでもある。すべてを俺がコントロールするわけだから、そういう意味ではバンドをやるよりも容易な部分がある。どんな方向へも好きなように広げて行くことができるからね。誰でも必要な人間に参加してもらえる。もし俺に歌えない曲があれば、それを歌えるシンガーを見つければいい。違ったギター・プレイが欲しければ、それができるギタリストを連れて来ればいい。何でもできる。俺は、自分の小さな奇妙な王国の王様だからね。

──では最後に、日本のファンへのメッセージをお願いします。

トビアス:日本のファンのみんな、長い間サポートしてくれてどうもありがとう。2002年に初めて日本に行ったのだけど、素晴らしい経験だった。それ以来、いつも日本に行くのを楽しみにしているよ。日本のファンは、音楽のクオリティを見抜く力を持っていると有名だからね。俺にとってとても有難いことだよ。日本に行くのを楽しみにしている。素晴らしいショーをやると約束するよ。長くプレイするし、古い曲も新しい曲もやる。待ちきれないよ。

取材・文:川嶋未来
トビアス・サメッツ・アヴァンタジア『ムーングロウ』

2019年2月15日 世界同時発売
【通販100セット限定 トビアス・サメット直筆サインカード付きCD+インストゥルメンタルCD】 WRDZZ-827 / ¥4,200+税
【初回限定盤CD+インストゥルメンタルCD】 GQCS-90676~7 / 4562387208494 / ¥3,200+税
【通常盤CD】 GQCS-90672 / 4562387208302 / ¥2,500+税
※日本語解説書封入/歌詞対訳付き
1. ゴースト・イン・ザ・ムーン
2. ブック・オブ・シャロウズ (feat. ハンズィ・キアシュ、ロニー・アトキンス、ヨルン・ランデ、ミレ・ペトロッツァ)
3. ムーングロウ (feat. キャンディス・ナイト)
4. ザ・レイヴン・チャイルド (feat. ハンズィ・キアシュ、ヨルン・ランデ)
5. スターライト (feat. ロニー・アトキンス)
6. インヴィンシブル (feat. ジェフ・テイト)
7. アルケミー (feat. ジェフ・テイト)
8. ザ・パイパー・アット・ザ・ゲイツ・オブ・ドーン (feat. ロニー・アトキンス、ヨルン・ランデ、エリック・マーティン、ボブ・カトレイ、ジェフ・テイト)
9. ラヴェンダー (feat. ボブ・カトレイ)
10. レクイエム・フォー・ア・ドリーム (feat. マイケル・キスク)
11. マニアック (feat. エリック・マーティン) [映画『フラッシュダンス』テーマ [マイケル・センベロ] カヴァー]
12. ハート (ボーナストラック)
【インストゥルメンタルCD】
1. ゴースト・イン・ザ・ムーン
2. ブック・オブ・シャロウズ
3. ムーングロウ
4. ザ・レイヴン・チャイルド
5. スターライト
6. インヴィンシブル
7. アルケミー
8. ザ・パイパー・アット・ザ・ゲイツ・オブ・ドーン
9. ラヴェンダー
10. レクイエム・フォー・ア・ドリーム
11. マニアック(映画『フラッシュダンス』テーマ [マイケル・センベロ] カヴァー)

【メンバー】
トビアス・サメット(ヴォーカル、ベース、キーボード)
サシャ・ピート(ギター、ベース)
フェリックス・ボーンケ(ドラムス)
オリヴァー・ハートマン(アディショナル・リードギター)
マイケル・ローデンバーグ(キーボード、ピアノ・オーケストレーション)
[ゲスト・ヴォーカル]
キャンディス・ナイト(ブラックモアズ・ナイト)※初参加
ハンズィ・キアシュ(ブラインド・ガーディアン)※初参加
ミレ・ペトロッツァ(クリエイター)※初参加
マイケル・キスク(ハロウィン、ユニソニック、パンプキンズ・ユナイテッド)
エリック・マーティン(MR.BIG)
ロニー・アトキンス(プリティ・メイズ)
ジェフ・テイト(元クイーンズライク)
ヨルン・ランデ
ボブ・カトレイ(マグナム)

<MOONGLOW WORLD TOUR 2019 来日公演

2019年5月9日(木)
@東京 マイナビBLITZ赤坂
開場18:00 / 開演 19:00
https://ameblo.jp/tokyoonkyorock/entry-12431526966.html

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