維新派・松本雄吉の偉大さを振り返る
、追悼イベント『阿呆らし屋の鐘が鳴
る』レポート

これからも“松本雄吉”を語り継ぐ、その決起集会のような場。
大阪を拠点に、街を丸ごと建設するぐらいの規模の、ダイナミックな野外劇を作り続けてきた「維新派」主宰の松本雄吉。彼が2016年6月18日にこの世を去って以来、大阪ではいくつかの追悼イベントが行われてきた。そして「東京でもぜひ開催を」という声に応え、逝去から実に986日が経った2019年2月11日に、新宿の「LOFT」でようやく追悼イベントが実現。松本と縁のあったアーティストたちのライブが中心という、ちょっとしたフェスティバルのような内容ということもあり、全国各地から多数の人が駆けつけた。
会場内に展示されていた、歴代の維新派公演のポスター。
数十席ほどの椅子席があるものの、ほとんど立ち見状態のステージ前。ステージのバックには大きなスクリーンがかかっており、映像を写せるようになっている。バー&ラウンジの方は、維新派の公演ポスターの展示や、インタビュー映像の上映、物販ためのスペースだ。維新派の公演DVDや、昨年10月に発刊された『維新派・松本雄吉 1946~1970~2016』も山積みとなっていて、多くの人が手に取っていた。
会場の物販ブース。
イベントの第一部は、「映画」と「演劇」に分けて、それぞれの分野で松本と関わった人々のトークが行われた。映画編の出演者は、かつて維新派の舞台監督を務めていた映画美術デザイナー・磯見俊裕。『少年街』(91年)のドキュメンタリー映画『蜃気楼劇場』(93年)を手がけた映画監督・杉本信昭。映画『てなもんやコネクション』(90年)で維新派に大きな協力を得たという映画監督・山本政志。松本関連のトークというと、劇団or演劇関係者によるものが多いので、これはなかなか珍しい顔ぶれだ。さらにヂャンヂャン☆オペラ初期の看板俳優・フルカワタカシが、当日になって急遽司会進行として加わった。
話の中心となったのは、この3人が同時に関わった『てなもんや……』撮影時のエピソードだ。大阪・西成の街一帯に、カラフルに色塗られたブルーシートが張りめぐらされるというシーンを、特に警察の許可を取らずゲリラ的に撮影することになった時、松本と維新派が全面的にサポート(フルカワもその場に立ち会っていたとか)。その時に松本が作戦を練り「警察に何か言われたら、合言葉として“自分は孫受けだからわからない。他の人に聞いてください”と言え」と指示をし、とにかく時間をかせぐ方法を考えたそうだ。
「映画界の方々からのお話」登壇者。(左から)磯見俊裕、山本政志、杉本信昭、フルカワタカシ。
さらに磯見が「就職活動の履歴書で“尊敬する人”の欄に、松本雄吉と書いたぐらい尊敬していた」というエピソードを明かせば、杉本は『蜃気楼劇場』撮影時を振り返り「松本さんは特にリーダーシップを取ってる印象がないのに、いつの間にか舞台ができていた。その辺りを撮りきれなかったと今でも思う」と反省に近い言葉を。さらに山本が「上下関係を作らず、人間との関わり方がチャーミング。本当にダンディだし、愛のある人」とその人柄を語り、最終的には「本当に人の乗せ方が上手かった」というので、意見を一致させていた。
続いては、演劇編のトーク。松本が主演した『高丘親王航海記』(92年)を演出し、松本が演出した『レミング』(13年)では共同脚本を担当するなど、松本と数多くのコラボレーションを果たした天野天街(少年王者舘)。松本が演出した『十九歳のジェイコブ』(14年)の脚本を担当した松井周(サンプル)。また80年代から維新派を追い続け、『維新派・松本雄吉』の編集も務めた、編集者の小堀純が登壇した。
「演劇界の方々からのお話」登壇者。(左から)『維新派・松本雄吉 1946~1970~2016』を手にとって解説する小堀純、天野天街、松井周。
天野は松本との出会いについて「初めて観たのは『蟹殿下』(84年)。松本さんはラストで、みんなに小便かけられながら小便してて、(客席の)最前列に座っていた麿赤兒さんにも何かかけてた(笑)。でもココにはいろんなモノが全部入ってる、世界のカケラが集結しているって、すごく感動しました」と、当時の衝撃を語る。また小便つながりでは、松井が「僕の芝居でオシッコでシャンプーをするということをやって、当然それは本物ではなかったんですけど、松本さんには『僕らは本当にやってた』って言われて驚きました」と、近年のヂャンヂャン☆オペラとは違う、荒行のような時代のエピソードの話が。それを受けて小堀が「パフォーマンスを、表現ではなく“行為”と位置づけていた。とことんまでやらないと、見えないものがあったのかもしれない」とまとめると共に「その辺りの詳しいことは、この本に書いてますので……」と、しっかり『維新派・松本雄吉』の本の宣伝につなげていた。
また松本への思いについて、天野が「師匠のような存在だった」と語る一方、松井は「抱かれてもいいと思うぐらいセクシーだった」とドッキリする発言を。「『十九歳の……』の時に、『何かかわいいから』と言って、うちのスタッフ(ちなみに男性)に弁当を作ってたんですけど、それに嫉妬してましたね」と告白すると、天野は「要は、いると嬉しい人なんです」と、その気持ちに同調していた。
トークが終わると、ほどなくして第二部のライブが始まった。まず90年代に維新派に所属していた井上大輔が「ストーリーテラー」として登場。これ以降ずっと、パフォーマンスの合間につなぎ役として登場し、松本の素顔やアーティストとしての一面を語っていった。
井上大輔。
真嶋淳太。
その後は立て続けに、真島淳太がプロジェクションマッピングを交えたダンスを、岩村吉純+夕沈(少年王者舘)が弾き語りとダンスを、slonnon+sonsen gocha baccoがテクノサウンドに乗せてペインティングをライブ中継するパフォーマンスを行った。この中で岩村と夕沈は、松本と天野天街が再会して会話を交わす様子を、ヂャンヂャン☆オペラ風の音楽と台詞回しで演じてみせて、どこか懐かしいような、切ないような空気を作り出していた。
岩村吉純+夕沈

slonnon+sonsen gocha bacco。

この後は、今回のイベントのメインとなる、松本と交流の深かったアーティストたちのステージだ。トップバッターは、『南風』(97年)のテーマソングを担当した、元「たま」・現「パスカルズ」の知久寿焼。ギター一本で『らんちう』や『南風』などの曲を、ひょうひょうとした雰囲気で歌い上げる。また松本に「ええ歌詞やなあ」と褒められたという『夕暮れ時のさびしさに』を歌った後には、ぼそっと「……どこが良かったんでしょうね?」とつぶやいて、観客が思わず笑い出す場面も。またMCでは、阪神・淡路大震災時に知久が松本に電話したら「怖かったわぁ~」と素直に返されたエピソードを明かし「そんなチャーミングな面があったことを、今日は伝えたかった」と語っていた。
知久寿焼。
その次に登場したのは、『王國』(98年)のテーマソング『Go along a river』(作詞:松本雄吉)を担当したおおたか静流と、ヂャンヂャン☆オペラの音楽を長年手がけていた内橋和久。名曲『悲しくてやりきれない』を歌い出した瞬間、会場が一気に厳かな雰囲気に変わる。その他には『Go along…』に加えて、「りんご」で縛った昭和歌謡メドレーや、内橋作曲の「世界で一番短い歌」(おおたか談)の『アイスティー』なども。また終盤には上方に視線を向け、松本に呼びかけ、呼応しあうような時間もあった。そしてラストには「何度も生まれ変わるであろう松本雄吉に」という言葉に続けて『みんな夢の中』を、まさに天まで響かせるかのように熱唱した。
(左から)内橋和久、おおたか静流。
そしていよいよオーラスとなる、麿赤兒と内橋和久のセッションだ。ステージ前は立錐の余地もないぐらいに人が詰めかけ、みなこれから繰り広げられるであろう世界に期待を高めているのがわかる。まずは内橋が登場し、ギター&エレクトロニクスで大音響のノイズサウンドを響かせる。ヂャンヂャン☆オペラ風のリズム音が(気のせいかもしれないが)混じった、会場中を揺るがすような奔放で激しい音の大渦は、否が応でも麿の登場をもり立て、会場の興奮を煽っていく。
(左から)内橋和久、麿赤兒。
そこからしばらくして、麿が上手からゆらりと現れた。白孔雀のような巨大カツラと、ウェディングドレスを思わせる白装束で、内橋の繰り出す轟音のヴァイヴと、重力の重みをまとわりつかせるようにして、舞台上を歩き舞う。そういえば天野天街がトークの中で、松本のことを「地球と格闘している人」と評していたが、麿の舞踏もいわば「地球(の重力)」と格闘しているわけだから、その点でこの2人は深く通じ合っていたのだろうかと、ふと考える。なんていう理屈を抜きにしても、麿の舞踏をこんな間近で、それこそ瞳の輝きまでわかるような距離で観られるとは、何とも貴重な経験であることは疑いない。
(左から)内橋和久、麿赤兒。

麿赤兒。

麿が踊っている最中に、背後のスクリーンには、イベントのチラシのビジュアルに使われた松本雄吉の写真が、等身大で映し出される。麿はじょじょにそこに近づき、そして向き合うような形になると「雄吉―! 出てこいー!!」と絶叫。そしてキスをするように顔を差し出した瞬間に舞台が暗転し、終演。追悼の思いをストレートにぶつける、思いがけない幕切れに、割れんばかりの拍手がしばらくの間続いた。
松本雄吉の写真と向き合う麿赤兒。
舞台はすぐには明転せず、維新派が2001年にイギリス公演に行った際、松本を始めとする劇団員たちが、海辺の工場跡地を見学する映像が流された。スクリーンに時折松本の顔が大きく写り、様々なうんちくや印象を劇団員たちに話す声が響く。観客は誰も、その場を立ち去ろうとはしない。おそらくは全員、それぞれの“松本雄吉”の記憶を振り返り、そして静かに噛みしめていたのだろう。
イベントの最後に流された松本雄吉の映像。
第一部のトークや、第二部のライブのMC、そして会場で交わした人たちとの会話から改めて感じたのは、松本雄吉は確かに偉大なアーティストだったけど、誰にも偉ぶることはなく、わけへだてなく対応していた、その人間性もやはり偉大だということだった。その人間性が多くの人を己の表現へと巻き込み、さらには世界の森羅万象をも巻き込んでいくような、あの維新派の野外劇へとつながったのだろう。今回のイベントは決してピリオドではない。むしろここから、松本雄吉の伝説を語り継いでいくという、その決意を新たにする決起集会のような空間に思えたのだった。

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