それは通り過ぎていく影でもあり、記
憶に留まる海でもあり、タイムマシン
でもあった。|the future magazine

Gateballers濱野夏椰と写真家・相澤有
紀がインド10日間の旅を振り返る

それは多くの人にとって、取るに足らない話なのかもしれない。

一人の音楽家が心通わす写真家と10日間のインドの旅に出る。

海の向こう側を知らない青年が初の海を超えて、世界の在り方の一端を知ろうとする。

無垢な想像の果てに真っ白な心で向かう先で観た景色は何色だったのだろう。

誰にとっても旅は常に新鮮で、いつも未知を孕んでいる。誰かにとって取るに足らない話でも、当事者にとってはその後の人生の拠り所になる可能性が拡がっている。

<ムーンリバーナイトハーバー・旅をするのに 体重はいらない・名前も忘れた>
『Moon river』

と想像の海で泳ぐことを肯定する音楽を色々な言葉遣いと音色でこれまで表現してきたGateballers・濱野夏椰。

“思い出してもいいよ”という言葉に惹き付けられるように『イメージ』という作品のミュージックビデオの映像や2018年の音源“Thank you part-time Punks”や“「The all」=「poem」”のジャケット写真を撮影してきた相澤有紀の2人が2018年を締めくくるべく、12月の終わりに北インドへの旅に出た。

そこで確認した世界の在り方や自分の人生との向き合い方とは?

写真家・相澤有紀が撮り下ろした旅の写真とともに、思い出を振り返ってもらった。

音楽とも写真とも全く関係のないところでこぼしたくだらない話に見逃してしまいそうな真実が、思いつめた語り口に短く小さな声からシンプルな感情がこぼれ落ちた。
ー2人がインドに行くことを決めたのはどうして?

濱野夏椰:
仲のいい先輩が毎年遊びに行っていていつも話を聞かせてもらって。今年も行くというの聞かせてもらっていたから、Gateballersのメンバーを誘って行くことにしたんです。
相澤有紀:
僕は夏椰から『相澤くんも一緒に来たら楽しいよ?』 って言われたから、『僕も行きたい』って伝えました。
ー旅の予定は先輩と滞在する宿以外は決めていなかったの?

濱野夏椰:
そう。1日目と2日目の宿だけ決まっていて。後はノープラン。先輩が紹介してくれた宿でライブをすることだけ決まっていて。今から考えると、帰りの飛行機とか決めなきゃよかったなって思うくらい、インド良かったな。今すぐにでもまた行きたいくらい。
ーもともと、インドにどんな印象を持っていた?

濱野夏椰:
映画の中のイメージがあったくらいかな。火葬場の街では乞食達がいて金歯や指輪を探している人たちがいて。…そういう世界の話。あとは宗教のイメージ。ユダヤ教とか道教みたいに、人間が争わず利益を生むために作られている宗教とヒンドゥー教とかキリスト教とか生活に基づいた宗教があって。そういう宗教の元になった国というイメージ。
でも頭の中で描いているのと行ってみるとでは全然違って。

ー実際に行ってみてどんなことに気付いた?

相澤有紀:
日本だと車線変更とか一般的な交通ルールがあるなかで、デリーでは誰もそのルールらしきものを守ってなくて。デリーの空港に着いてから、ホテルの空港に向かうまでの道中が危なすぎて全員爆笑していたんですけど。

交通ルールはないけれど、ちゃんと街にリズムがあって。暗黙のルールみたいなものがなんとなくある気がして。だからあんまり日本に比べて事故が起きないんだろうなって思ったりもした。
濱野夏椰:
『プップー』って一日中クラクションが鳴っているんだけど、『俺は此処にいるぞ』って感じで皆鳴らしていたよね。日本だと高級車に乗ってスムーズに街を走らせるのがステータスみたいな世界だけど、車種も少ないしそんな価値観全然なくて面白かった。それが一日目の印象かな。
ー他にはどんなことを思った?

濱野夏椰:
実は別に神様がいないことは皆知っているという感じがした。それは知ってるんだけど、みんな、もっと深いところでちゃんと信じているのかな。…信じているというより、染み付いている、というというか。
濱野夏椰:
あとは行ってみたら本質的に悪い人はいないんだなって。一番感じたのは、物乞いが張り切って物乞いをしていて。それは生活がキツいからお金をもらっているというよりは、『俺たち一人ひとりが背負っているカルマがあって、その人達にお金を支払うことによって、お前のカルマが洗われる。だからお前らのために、物乞いしてやってるんだ』みたいな。
ーへえ。

濱野夏椰:
川沿いでフェス? お祭りが行われているんだけど、その度にゴザを敷いて張り切ってやってた。嫌な顔で『No.』っていっても、着いてきちゃうんだけど、『No Thanks』って言うと『Ok, no problem』って断れるって気づいて。“俺は俺のカルマを勝手にやってるから大丈夫”って意味なのかなって。だから、本質的には、“金くれ”ってだけで物乞いをしているわけではないと思って。それで、なるほどねと思う部分があった。
ーそれは何日目くらいの話?

濱野夏椰:
3日目か4日目、バラナシにいた頃の話かなぁ。デリーはデリーでまた面白くって。タクシーの運ちゃんが、『俺らそんな金持ちじゃないから、高い金をつけないでくれ』って言ったら、『俺らだって生活キツいんだよ』って愚痴を言われて。なんか凄いリアルな感じがあったなあ。
ー相澤君は夏椰君と行動をともにして、何が一番楽しかった?

相澤有紀:
僕は夏椰の生命力にかなり驚きました。出発前成田空港に着いて手続きして、飛行機に乗る10分前に『やばい、携帯がない!』って騒いでいて。ゲートの外に置いてきちゃったみたいで。それで、成田空港のお姉さん達をリレー形式で走らせていて。
濱野夏椰:
『インドで携帯ないと死ぬんじゃないですか、俺?』って煽ったら、『…わかりました、やります』って。
ー交渉うまいな。

濱野夏椰:
実際ないとヤバかったよね、携帯。
ー(笑)。

相澤有紀:
天才だなって思った。あとはバラナシに着いてからも、皆お腹を壊したり、インドの空気に呑まれて、グダっちゃったところもあったんだけど、夏椰は1人だけシャキってしていて。次は何に乗ってどこに行くかも決めていて。僕もバラナシのホテルにずっといたらダレちゃうと思っていたから、頑張って夏椰に着いて行くことに決めて。途中から2人行動になったんですけど。
濱野夏椰:
初の海外旅行だったから、旅から何かを得ようと必死で。全力で何かを持って帰ろうって思って。
ー旅の中で一番印象に残っているのはどのあたり?

相澤有紀:
僕はピークはブッダガヤだね。
濱野夏椰:
俺もそうかな。
相澤有紀:
ジェネラルの話してよ。
濱野夏椰:
旅を最初から話すと、『ジョジョの奇妙な冒険』にも出てくる、『くみこハウス』っていう宿がバラナシにあって。そこを紹介されて泊まってライブをしたんです。

バラナシはヒンドゥー教の聖地だと事前の知識を得ていて。ここでは載せられないんだけど、その街で酷いことがたくさんあって。それから、『もっと北上したほうがいい』という風になって。旅の予算がそこまでないから、寝台列車に乗って行くことにしたの。
寝台列車は150ルピーで3時間くらいかけてブッタガヤまで行けるんだけど、値段が安い分、治安がやばくって。インドの電車は全部2時間遅れを見越さないといけないから、布敷いて家族で待っているような感じで。

ー泊まり込みみたいなんだ?

濱野夏椰:
そうそう。乗り込んだ電車は最初真っ暗闇で目と歯の光がそこかしこにもあって。座らないと死ぬと思ったから、急いで座りました。しばらくして電気が着いた途端、『なんでお前らみたいな日本人がここにいるんだよ』って訴えかけてきて。

彼らの言葉はわからないけども、怒ってるから、脚でガシガシ訴えかけてくるし。同じブッダガヤで降りる家族が、『まあまあ、良いじゃないか』っていてくれたんだけど、検問じゃないけど、駅が泊まるとブーツを鳴らしながら歩いてきて、『なんか運んでないの?』って煽ってきて怖かった。
相澤有紀:
4人のボックス席に12人くらいで座ってるような感じだったし、自分達は体調もすぐれなかったし、雰囲気もヤバかったからずっとくだらない話をしていたよね。

その経験が今振り返るとすごいよかった。
濱野夏椰:
他にもインドの大学を出て、三菱に就職したっていう通行人から、車中で『お前は安倍晋三ってどう思う?』っていきなり政治的な話をされて。

俺は『嫌いだ』っていったら、『なんで日本のトップのこと嫌いになれるの? だったらやめさせればいいじゃないか』みたいなことを言われて。『そう簡単にはいかないんだよ、俺は戦争やりたくないしさ』って言ったら、『なんで自分の国を誇りに思ってないんだ?』みたいなことを何度もキレながら言われて、辛かった。
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