Mean Machine、メンバー5人の
瑞々しいまでの情熱が宿った
唯一のアルバム『CREAM』
技術うんぬんを凌駕したロックサウンド
はっきり言って、演奏は下手だ。ここまで明らかにテクニック不足が分かる音源は、少なくともメジャーでは珍しいと言わざるを得ないと思う。ドラムスはもたれている箇所が多々あり、速いビートでのハイハットの刻みはしんどい様子。ギターはおそらく指運びの困難さからだろうが単音弾きが少なかったりもする。だが、その音のひとつひとつに、確実に迸る何かがあるし、それが技術うんぬんを完全に凌駕していると思う。“いんだよ、細けぇことは”と言わんばかりである。1990年代後半だと、おそらく、すでにどこでも誰でもPro Toolsを使っていたであろうから、リズムのズレは簡単に修正できただろう。が、(たぶん)そうしていないところに潔さも感じる。
誤解のないように補足すると、演奏が下手で、テクニック不足だと言っても、楽曲そのものが未完成だということではない。M12「そばにいれば」は特にそれがよく分かるテイクだろう。フィードバックノイズを強調したノイジーなギター。リズムもかなり歪み、籠った音だ。だが、それがいい。荒れた感じの音像が、《Can I, Can I get love?/I really want to be there》《Can I, Can I get love?/I don't want to be here》と揺れる気持ちを綴った歌詞と相俟って、そこにある情念を強く感じさせるようでもある。もし各パートがテクニカルだったら、また別の味わいになったと思われる。
“楽しくやる”。Mean Machine、そして、そのアルバム『CREAM』の肝は、まさにそこにあったと思う。“バンドやりたいね”と意気投合して、四の五の言わず、まずやってみる。口にするのは簡単だが、中堅以上のキャリアを持つとなかなか実行できないこと。そこをやり切ったこともまた彼女たちの素晴らしさであろう。ここまでグラミー賞の話に始まり、文化の多様性、日本のガールズバンド、男女混成バンドの変遷と、さも意味ありげな話をしてきたけれども、それらは蛇足とは言わないまでも、正直に白状すればここまでの完全なるつなぎである。バンドメンバー5人の瑞々しいまでの情熱が宿った作品──Mean Machineの『CREAM』の説明は凡そこれで十分ではないかと思う。
若干補足するならば、伊藤歩のヴォーカルに付いて最後に少し記したい。メンバーの中ではミュージシャンとしてのキャリアが最も浅い伊藤だが、さすがに女優だけあって表現力は多彩だ。やや気怠い感じの歌い方で迫るM2「Johnny Back」。ポップなラップを聴かせるM3「ラッキー☆スター」。ウイスパーボイスのM10「Oue? D'accord?」。歌は概ね上手く、素人っぽい印象も薄い。実に堂々とした感じだ。14曲中8曲の作詞にも参加しており(前述のM12「そばにいれば」が伊藤単独での作詞)、さすがにメインヴォーカル、まさしくバンドの中心人物といった面持ちだ。そんなふうに考えると、Mean Machineはシンガー、伊藤歩を世に出すためのプロジェクトだったのではないかとも思えてくる。実際のところはどうだったのだろう?
TEXT:帆苅智之
関連ニュース