ダ鳥獣ギ画より

ダ鳥獣ギ画より
ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第127回 90年代死体ブーム 90年代の死体ブームというのは、今考えても変な感じがします。
 昔から死体に関して興味がある人は一定数いて、死体目的で戦争写真や医学写真などを集める人はいました。しかし、こういう人は世間では「ただの変態」として見なされていて、アングラなエロ本で死体写真が掲載されたり(80年代の『Billy』(白夜書房)の死体写真は埋め草に使われているサブカルコラムと一緒に載ってるだけで、単に「売れるから」という商業的理由で掲載された「ポルノ」に過ぎない)、『夜想』「屍体 幻想へのテロル」(ペヨトル工房・82年)のように、死体を通した文明論や死体愛好家の異常心理に関する考察がサブカルチャーの領域に存在することはあっても、90年代の死体ブームのように死体写真を鑑賞することが表立って大きなブームになるなんてことはなかったんですよね。それ以前のことを考えてみると、藤原新也氏の『東京漂流』(情報センター出版局・83年)の死体写真が話題になったとしても、本音はどうであれ、その写真を藤原氏が与えた意味性から切り離して、大っぴらに喜ぶようなことをする人はあまりいなかったんですよ。そういう思いがあっても、そういうことではしゃぐのが恥ずかしい行為であることが自覚されていたのだと思います。それが布施英利氏の『図説・死体論』(法蔵館・93年)になってくると、明らかに著者の意図を切り離して消費されているわけで。賛否両論は避けられないでしょうが、死体写真家の釣崎清隆氏の場合も独自の思想から死体写真を通じての表現を真剣にやろうとしていたわけです。しかし、氏の死体写真を消費する側に、それを表現として認識できている人、作品として考えられていた人はどれだけいたのでしょうか。「死体を通して生の意味を云々」みたいなやつをお題目みたいに唱えてる人も多かったですが、それも単なる露骨な建前でしかなく、全然隠せていない。そういえば、「お前ら、本当は死体見て発情して、はしゃぎたいんだろ!」と社会に対して子供っぽい挑発をするのが、80年代からの青山正明氏(『危ない1号』編集長)のスタンスだったとは思います。
他人と差異をつけたいだけの人々 あの死体ブームというのは、死体に対するオブセッションを抱えている人が急増したというわけではないんと思うんですよ。一つには、特にそういうものはないけれど「他人と違う自分を演出するためのアイテム」として死体写真を使っている人が増えたんじゃないかなと思っています。
 あの死体ブームに乗っかってたのは、今の40代から50代前半の人たちがメインだと思うんですけど、その世代って人数が多いんですよね。あと、なんだかんだいって、たいして働かなくてもある程度金もあったり、暇がある人が多かったんですよ。かといって明るい展望もない。同世代の人数も多いわけですから、金銭や名誉、勉強やスポーツ、地道に文化を身につけるといったことから落ちこぼれたり、回避したりしながらも、他人との差異をつけたがるような自意識をこじらせた人の数も当然多いわけです。他人との差異をつけたいとするなら、一番簡単なのはアイテムを使って奇をてらうことです。奇をてらうのにも頭を使って色々な努力をすることが本当は必要だと思うのですが、人をなぞったり、ありものを使うのは楽なんですよね。物理的に生きるのが大変な状況では、他人と差異をつけるために奇をてらうなんてバカバカしいことをやってる暇なんてないんですが、金と暇がある程度あると変なことしたりしちゃいますよね。そういうことなんだと思います。また、オウム真理教や阪神・淡路大震災などの影響で、たいした根はないけど変な終末「気分」になってた人は増えていたとは思います。
 そうやってブームになっていく過程で流通がよくなり、そういうものに本来だったら触れなかったであろう人にも届くようになります。わざわざ何かを掘ったりしないけど、潜在的にゲスい刺激を求めているタイプの人たちです。そういった人が参入してくることで、さらにブームは膨れていったのではないかと思います。
『マーダーケースブック』に代表されるような殺人鬼の扱いなんかも、そういうのが反映されているような気がします。それまで一部の好事家がコリン・ウィルソンの本などを読みながら、人間という生き物の異常性に思いを馳せたりしていたのが、いきなり毎月殺人鬼のビジュアル本が発売されるようになるなんて変な話ですよ。
 こういった流れが悪趣味系/鬼畜系から派生したものかというと少し違うと思っていて、逆にこうした新しい流れが、自販機本などの過去のアングラなサブカルチャーの流れを踏まえている界隈に流れこんでいったのかなと考えています。ユーザー主体の流れで、発信者の視点というものが必要とされていないんですよね。この流れって必要なのはビジュアルだけであったり、データだけであって、特に意味付けは必要とされていないのです。発信者側の視点が重要なサブカルというものとは何か違うんですよね。こういう流れに乗った人が参入してくることで、悪趣味系/鬼畜系のムーブメントは商業的に成功したのだとも言えるでしょうし、そういう流れの人が参入してくることを出版社側が当て込んでいたから商業出版の中でああいうことをやることが許されたのかもしれないですし、よくわかりません。まあ、鶏が先か、卵が先かみたいな話です。
(隔週金曜連載)
イラスト:ダ鳥獣ギ画より
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【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。twitter:@punkuboizz
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