D、
結成15周年&メジャー10周年の
締め括りとなる豊洲PIT公演が終幕
結成15周年、メジャーデビュー10周年となるアニヴァーサリーイヤーを迎えたDによる、この1年の活動を締め括る東京公演が2018年12月21日に豊洲 PITで開催された。この日のライヴに冠されていた“Grand Final"という言葉は、何らかの区切りとも受け止められるものだった。折しも直前の12月19日にはベストアルバム『Vampire Chronicle ~V-Best Selection Vol.2~』がリリースされており、キャリアを総括する内容で魅せる、万人の満足度を抽象するような内容にすれば、確かに意味合いとしては頷ける。
しかし、結論から言えば、彼らはそんな安易な選択はしなかった。11月から始まったシングル『Deadly sin』を引っ提げたツアーの最終日を、どんな位置付けにするのか。セットリストを含めて、熟考を重ねたパフォーマンスは、自身の歴史を踏まえながら、明らかに新たなDの姿を印象付けるものでもあった。
ポイントはいくつかある。まずはオープニングからの畳み掛けだ。1曲目に「In the name of justice」が聞こえてきた時点で、大きな流れを予測した人も少なくなかっただろう。ヴァンパイアの王、ドライツェンの息子の名前がジャスティスであることが明らかにされた楽曲である。続く「弾丸」も彼に連関する物語であり、なおかつ「メテオ ~夢寐の刻~」はジャスティスが駆る馬を採り上げたものだ。2018年6月に発表されたシングル「Revive ~荒廃都市~」で告げられた、Dの主軸たるコンセプト“ヴァンパイア・ストーリー”の第2章の始まりへと向かう前段である。
“みんなの支えがあってステージに立てていることに感謝します”(ASAGI)といったMCを経て、もちろん「Revive ~荒廃都市~」とそのカップリング曲である「Next Generation」「エトワール ~白き異端者~」へとつながれていく。ここでジャスティスと恋人であるブランシェの関係性を描いた「Lapis lazuli ~君を思うほど僕は欲しくなる」を配した流れも頷かされる。
こういった構成の巧さはDのライヴにおいては通常のことだが、この日は話の連関や時系列をより精緻に見せていたように映る。単に“盛り上げる"ためだけのセレクトとは一線を画し、ヴァンパイア・ストーリーを立体化させることだけに主眼を置いた、純粋な取り組みだ。細かなこだわりの強さは、その後のセットでも一切ブレることはなかった。その面白さは、当日の曲目表を改めて一覧してみればよくわかる。個々にどのような立ち位置にあるのか、歌詞に描かれた内容を踏まえつつ振り返ってみると、またその奥深さも再確認できるに違いない。
ただ、それも影響を及ぼす要素の一つだったのかどうかはわからないものの、驚かされたのは5人のステージングだった。とにかく序盤から、これまでにないほどのアクティヴさで攻めてくる。上手側も下手側も縦横無尽に動き回るのみならず、時には客席フロアにまで降りてくることなど、誰が想像しただろう。コンセプターであるASAGIの意図は確認していないが、ジャスティスと四騎士たちが次なる闘いへと突き進む様を体現したとも解釈できる。演出として考えられたものはあるにしても、それだけでは説明がつかない躍動感だった。混沌とした情勢に蜂起する登場人物たちの心理描写が、自ずからメンバーを鼓舞したのだとしても興味深い。
中盤からはインストゥルメンタルが挟み込まれる場面も多かった。この選択がまたDらしい。他の歌曲の存在とも無関係ではないものの、今回のテーマ設定において四騎士の活躍が欠かせないことを暗に物語る。この魅せ方は、今後の彼らのライヴで従来以上にクローズアップされてくるかもしれない。演奏力に定評のあるバンドならではの強みだが、どのような光景を音だけで提示できるのか、器楽的アンサンブルに依らない表現手法を始め、Dにとっての新たな挑戦であり、まだまだ広がる可能性も見出せる。
当日の発表が明らかにされていた20分を超える『組曲「狂王」』は、その予感を朧気ながらにも知覚させた。事前に試聴できる環境は整えられたとはいえ、初めて取り組んだ組曲形式の大作を、音源リリース前にライヴの場で初披露する大胆さ。歌詞に綴られた内容については、バンド側からの公式なアナウンスを待ちたいところだが、“ジャスティスとして最後の曲”と説明をして「Deadly sin」を歌い、一旦舞台袖へと消えたASAGIの言葉にも、『組曲「狂王」』の性格が見えてくる。“大罪"がいかなる結末を導くものなのか、想像は様々に膨らむはずだが、目の前で行われている実演は、シアトリカルな演出も加わった壮大なサウンドスケープを生み出していった。
現在のDが形作った音楽劇。極論を言えば、この7編からなる『組曲「狂王」』の再現こそが、この日のあるべき姿だった。過去にもコンセプチュアルなパフォーマンスで沸かせたことはあったが、それらとはまったく異なる感触である。個々のポテンシャルを初演ゆえの緊張感の中で表出させていく5人。豊洲PITという会場を選んだのも、このスケール感の大きな楽曲を完全再現するに相応しいという理由からだろう。“この先もDを守っていきたいという気持ちが、比べ物にならないほど強くなっている”、“他人の声なんて気にしない。我が道を行く”(ASAGI)という気概が高密度で集約された時空間だった。
すでに『D 16th Anniversary Special Premium Live 2019 東名阪ワンマン「狂王」』のスケジュールも発表になったが、『Revive ~荒廃都市~』以降の作品に耳を傾けるだけでも、自身のクリエイティヴィティが新たな視点で高まりを見せているのは容易に想像できる。今後の彼らの理想の探究を大いに期待しておきたい。
text by 土屋京輔
Live photo by TAKUYA ORITA
【セットリスト】
01. In the name of justice
02. 弾丸
03. メテオ ~夢寐の刻~
04. Revive ~荒廃都市~
05. Next Generation
06. エトワール ~白き異端者~
07. Lapis lazuli ~君を思うほど僕は欲しくなる~
08. STAR SAPPHIRE
09. Crystal Crown
10. The Secret Rose Garden
11. 微熱 ~雨の幻想曲(ファンタジア)~
12. Another Kingdom
13. 千夜一夜のダラブッカ
14. Quartet ~真夜中の四重奏~
15. Ghost in the mirror
16. 花惑
17. 鬨の声
18. Deadly sin
19. ザハブを継ぐ者(Dr.solo)
20. Blood war
21. Stray children
22. 組曲「狂王」
第一番 ~灯火(とうか)の雄馬~
第二番 ~死の影を運ぶ鳥~
第三番 ~美醜なる不死の獣~
第夢番 ~旅鼠(レミング)の行進~
第幻番 ~死出虫の舞踏会~
第四番 ~黒羊は忠誠の夢を見る~
第五番 ~落陽に哭(な)く蝙蝠~
しかし、結論から言えば、彼らはそんな安易な選択はしなかった。11月から始まったシングル『Deadly sin』を引っ提げたツアーの最終日を、どんな位置付けにするのか。セットリストを含めて、熟考を重ねたパフォーマンスは、自身の歴史を踏まえながら、明らかに新たなDの姿を印象付けるものでもあった。
ポイントはいくつかある。まずはオープニングからの畳み掛けだ。1曲目に「In the name of justice」が聞こえてきた時点で、大きな流れを予測した人も少なくなかっただろう。ヴァンパイアの王、ドライツェンの息子の名前がジャスティスであることが明らかにされた楽曲である。続く「弾丸」も彼に連関する物語であり、なおかつ「メテオ ~夢寐の刻~」はジャスティスが駆る馬を採り上げたものだ。2018年6月に発表されたシングル「Revive ~荒廃都市~」で告げられた、Dの主軸たるコンセプト“ヴァンパイア・ストーリー”の第2章の始まりへと向かう前段である。
“みんなの支えがあってステージに立てていることに感謝します”(ASAGI)といったMCを経て、もちろん「Revive ~荒廃都市~」とそのカップリング曲である「Next Generation」「エトワール ~白き異端者~」へとつながれていく。ここでジャスティスと恋人であるブランシェの関係性を描いた「Lapis lazuli ~君を思うほど僕は欲しくなる」を配した流れも頷かされる。
こういった構成の巧さはDのライヴにおいては通常のことだが、この日は話の連関や時系列をより精緻に見せていたように映る。単に“盛り上げる"ためだけのセレクトとは一線を画し、ヴァンパイア・ストーリーを立体化させることだけに主眼を置いた、純粋な取り組みだ。細かなこだわりの強さは、その後のセットでも一切ブレることはなかった。その面白さは、当日の曲目表を改めて一覧してみればよくわかる。個々にどのような立ち位置にあるのか、歌詞に描かれた内容を踏まえつつ振り返ってみると、またその奥深さも再確認できるに違いない。
ただ、それも影響を及ぼす要素の一つだったのかどうかはわからないものの、驚かされたのは5人のステージングだった。とにかく序盤から、これまでにないほどのアクティヴさで攻めてくる。上手側も下手側も縦横無尽に動き回るのみならず、時には客席フロアにまで降りてくることなど、誰が想像しただろう。コンセプターであるASAGIの意図は確認していないが、ジャスティスと四騎士たちが次なる闘いへと突き進む様を体現したとも解釈できる。演出として考えられたものはあるにしても、それだけでは説明がつかない躍動感だった。混沌とした情勢に蜂起する登場人物たちの心理描写が、自ずからメンバーを鼓舞したのだとしても興味深い。
中盤からはインストゥルメンタルが挟み込まれる場面も多かった。この選択がまたDらしい。他の歌曲の存在とも無関係ではないものの、今回のテーマ設定において四騎士の活躍が欠かせないことを暗に物語る。この魅せ方は、今後の彼らのライヴで従来以上にクローズアップされてくるかもしれない。演奏力に定評のあるバンドならではの強みだが、どのような光景を音だけで提示できるのか、器楽的アンサンブルに依らない表現手法を始め、Dにとっての新たな挑戦であり、まだまだ広がる可能性も見出せる。
当日の発表が明らかにされていた20分を超える『組曲「狂王」』は、その予感を朧気ながらにも知覚させた。事前に試聴できる環境は整えられたとはいえ、初めて取り組んだ組曲形式の大作を、音源リリース前にライヴの場で初披露する大胆さ。歌詞に綴られた内容については、バンド側からの公式なアナウンスを待ちたいところだが、“ジャスティスとして最後の曲”と説明をして「Deadly sin」を歌い、一旦舞台袖へと消えたASAGIの言葉にも、『組曲「狂王」』の性格が見えてくる。“大罪"がいかなる結末を導くものなのか、想像は様々に膨らむはずだが、目の前で行われている実演は、シアトリカルな演出も加わった壮大なサウンドスケープを生み出していった。
現在のDが形作った音楽劇。極論を言えば、この7編からなる『組曲「狂王」』の再現こそが、この日のあるべき姿だった。過去にもコンセプチュアルなパフォーマンスで沸かせたことはあったが、それらとはまったく異なる感触である。個々のポテンシャルを初演ゆえの緊張感の中で表出させていく5人。豊洲PITという会場を選んだのも、このスケール感の大きな楽曲を完全再現するに相応しいという理由からだろう。“この先もDを守っていきたいという気持ちが、比べ物にならないほど強くなっている”、“他人の声なんて気にしない。我が道を行く”(ASAGI)という気概が高密度で集約された時空間だった。
すでに『D 16th Anniversary Special Premium Live 2019 東名阪ワンマン「狂王」』のスケジュールも発表になったが、『Revive ~荒廃都市~』以降の作品に耳を傾けるだけでも、自身のクリエイティヴィティが新たな視点で高まりを見せているのは容易に想像できる。今後の彼らの理想の探究を大いに期待しておきたい。
text by 土屋京輔
Live photo by TAKUYA ORITA
【セットリスト】
01. In the name of justice
02. 弾丸
03. メテオ ~夢寐の刻~
04. Revive ~荒廃都市~
05. Next Generation
06. エトワール ~白き異端者~
07. Lapis lazuli ~君を思うほど僕は欲しくなる~
08. STAR SAPPHIRE
09. Crystal Crown
10. The Secret Rose Garden
11. 微熱 ~雨の幻想曲(ファンタジア)~
12. Another Kingdom
13. 千夜一夜のダラブッカ
14. Quartet ~真夜中の四重奏~
15. Ghost in the mirror
16. 花惑
17. 鬨の声
18. Deadly sin
19. ザハブを継ぐ者(Dr.solo)
20. Blood war
21. Stray children
22. 組曲「狂王」
第一番 ~灯火(とうか)の雄馬~
第二番 ~死の影を運ぶ鳥~
第三番 ~美醜なる不死の獣~
第夢番 ~旅鼠(レミング)の行進~
第幻番 ~死出虫の舞踏会~
第四番 ~黒羊は忠誠の夢を見る~
第五番 ~落陽に哭(な)く蝙蝠~
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