日本音コン優勝・岩谷賞ダブル受賞、
若きクラリネットの名手・中舘壮志が
オケへの思い・受賞者コンサートへの
意気込みを語る

若手音楽家の登竜門とも言われ、国内で最も伝統ある音楽コンクールである『第87回日本音楽コンクール』のクラリネット部門で見事1位と瀨木賞、E.ナカミチ賞、岩谷賞(聴衆賞)を受賞し、完全制覇の偉業を達成した中舘壮志。2019年3月7日(木)に『第87回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会』を控える中舘に話を聞いた。
ーー優勝と聴衆賞の岩谷賞も獲得された今回の日本音楽コンクールを終えられて今どのようなお気持ちですか。
1位をいただけてとても嬉しかったです。自分としてはコンクールで人生が変わるものではないと思っているのですが、やっぱり僕なりに努力をしてきたことが認められたのは嬉しかったですね。三回目の挑戦でしたが、これまで本選へ出られた方や1位の方の演奏を聴いて、レベルが高いコンクールだなと思っていたので、今回自分が1位になり、そういう目標となる存在にならなくては、という責任感を感じています。
ーーこれまでのコンクールとの違いはありましたか。
僕が学生の頃受けたときもそうでしたが、出場者の中で、どこどこの交響楽団の誰かが受けるんだよという話が出るんです。学生から見るとプロのオーケストラに所属している人がライバルになるわけです。今回は、オーケストラのポジションを持ちながらの挑戦なので、周囲からのそういったプレッシャーはすごくありましたが、考えないようにしていました。
中舘壮志
ーープレッシャーには強いほうですか。
ステージには出さないようにしていますが、裏ではボロボロです(笑)。本番のプレッシャーや緊張は、練習とは違う環境なのでどうしても感じるのですが、そういうものから逃げないようにしています。緊張しないように「大丈夫大丈夫」と思っていると、ステージに立ったときにテンパってしまう経験がすごく多かったので……。本番での緊張を簡単に取り除くことができないなら、緊張したときにうまく演奏できるようになるにはどうしたらいいか、と考えるようになったんです。プレッシャーや緊張に抗わず全部受け入れた上でステージに行くと、練習の時に染み込ませたものが無意識に出るというような心境になるんです。だから本番は無意識のまま吹いていますね。
ーー本番への気持ちのコントロールの仕方などを聞いていると、これまでの豊富な経験から身に付けた頼もしさを感じますが、クラリネットとの出会いはいつ頃ですか。
出会いは中学校の吹奏楽部です。実は、クラリネットは第一希望ではなく最初はフルートをやりたかったんです。フルートは人気楽器だったので、人数が必要なクラリネットに回されました。でも、吹いてみるとすぐ音が出たんです。クラリネットは音を出すのが難しい楽器だと言われているんですが、そんなにアンブシュア(演奏時の口元)とかで悩んだこともあまりなく、始めた当初からあまり悩まずにがむしゃらに練習ができたので楽しかったですね。それに、学校の先生(吹奏楽部の顧問)が、すごく一生懸命に寄り添って指導してくださる方だったのも大きいです。コンクールの曲とかもクラリネットがフューチャーされた曲を選んでくれてそれを僕に吹かせてくれたり、ソロのコンクールも中学生の時からすすめてくれたり、その先生が応援してくれてなかったらたぶん音楽の道に行ってなかったんじゃないかなと思っています。
ーープロになろうと思ったのはいつ頃ですか。
正直、中学・高校のときは自分の意思はあまりなかったです。ただ、高校に入ってすぐに、先生から藝大の過去の課題にあったエチュードとか曲とかの楽譜を全部買えと言われて練習して……ということをしていたので、藝大への進学は知らず知らずのうちに意識させられていました。高校では、音楽科に入った時点で一般科目というのはほとんどなく、基本的には音楽のことを専門的に徹底的にやるんですが、基礎訓練や実技はもちろん、音楽史とかも全部普通の授業に組み込まれていました。そういう意味では、自分でプロを目指そうと思ったのはそのあたり(高校時代)くらいからかもしれません。一般的に、中学生のときにこれをやりたというのがあって高校を選ぶっていう人は少ないと思うんです。そんな時に、やりたいことを見つける手助けをしてくださったのが、先ほどもお話した中学校の吹奏楽部の先生でした。先生が音楽科の高校を勧めてくれて今の道に進んだので、本当にあの先生がいなかったら今の自分はありませんね。
中舘壮志
ーークラリネットはソロでもオケでも吹奏楽でも活躍できる楽器ですが、クラリネットの魅力を教えてください。
いろいろなオーケストラの音楽を聴いていてちょっと時代が変わってきているなと思っています。昔はクラリネットというと素朴な音、オーケストラのメインとは真逆の影の表情というか、そういうイメージがありました。ですが、今はクラリネットもいろんな楽器がいっぱいでてきて音色も多様になってきて、様々な音が出せるようになったと思います。また、クラシックだけじゃなくジャズとか他ジャンルの音楽ができる楽器でもあります。その中で今僕が思うクラリネットの魅力は、オーケストラの中でも楽器と楽器の間にいるような、他の楽器の音と音をつなぐような接着剤になるような優しい音色が出せるところですね。
オーケストラに関して言えば、クラリネットの音はあんまり聞こえないと僕は思っているんです(笑)。でもクラリネットが存在することによって、オーケストラの音が骨太になるというか……そんな楽器だと思っています。それに、クラリネットは他の楽器と演奏するときに寄り添える楽器なんじゃないかなとも。吹奏楽だとオーケストラの曲を編曲して演奏することが多々ありますが、クラリネットはたいてい弦楽器のパートを任されるんです。吹奏楽で弦楽器のパートをやっていると、同じ曲をオーケストラで演奏したときに弦楽器の音が全部聞こえてくるんですよ。自分が演奏したパートなので当たり前かもしれませんが、これは自分としては理想的な状態だと思っています。
中舘壮志
ーーオーケストラ以外でもアンサンブルの活動をされていますが、少人数でのアンサンブルの魅力を教えてください。
2018年の春くらいに行った、クラリネット五重奏曲(弦楽カルテット+クラリネット)という編成があるのですが、一番魅力的な作品がいっぱいある編成だと思っています。モーツァルト、ウェーバー、ブラームス、特にモーツァルトとブラームスに関しては晩年にクラリネット五重奏曲というのを書いています。他にもジャン・フランセとか、有名どころの曲がいっぱいあるんです。その編成で演奏しているときというのはすごく幸せですね。弦楽器の人は音がどの位置で発されるのか目で見ながら音程を丁寧に作っていますが、本当に感覚が研ぎ澄まされた人たちだと思っています。弦楽器の人たちは、一音一音ちゃんと音程を確認しながらすごくゆっくりスケール(音階練習)をさらうんです。そういうところからもたくさん刺激をもらっていて……クラリネットもこういう風に考えなきゃだめだよな、と思うこともあります。ひとりだけ管楽器という孤独な立場ではありますが、クラリネット五重奏曲は弦楽器から多くのことを学べる貴重な機会ですね。
ーー今後の目標、やりたいことを教えてください。
自分のホームはオーケストラなので、オーケストラをメインにしつつ、ソロや室内楽もできる機会があればやっていきたいです。僕が今所属している新日本フィルハーモニー交響楽団は、ソリストとしても活躍している奏者がいるんです。その奏者たちの音を聴いていると、「あぁ、お客様はこの人の音を聴きたいなと思って来ているんだろうな」と思うんですよね。この人の音を聴くと落ち着くなとか、またこの人の音が聴きたいとか、そう思われる奏者になりたいですし、共演者からもまた一緒にやりたいと思われる奏者になれたら最高ですね。
ーー受賞者コンサートへの意気込みを聞かせてください。
コンサートでも順位が出ないだけで、一般の聴衆・お客様から知らず知らずのうちに評価されていると思っています。そういう意味では、日々コンクールじゃなくてもどこかで評価されている部分はあるのですが、毎日演奏をこなしているとどうしても忘れがちになります。コンクールだとその感覚(評価される)を絶対に持つことになります。僕はその評価されているという感覚を忘れたくないと思っているので、受けられるうちは受けたいなと今回コンクールにチャレンジしました。そんな、“評価されている”という気持ちを忘れずに、受賞者コンサートでも演奏できればと思っています。受賞者コンサートでは、クラリネットに限らずそれぞれの楽器で素晴らしい奏者がいますが、唯一オーケストラに所属している奏者として、コンチェルトのソリストでありながら室内楽的な楽しみ方ができたらとも思っています。オーケストラに寄り添いながら、ときにはオーケストラの中でソロを吹いている。そんな風にオーケストラと近い距離で楽しめたらいいなと思っています。
中舘壮志
取材・文=田尻有賀里 撮影=岩間辰徳

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