ペトロールズはなぜ数多の音楽好きに
愛されるのか――新木場コーストの追
加公演を観た

Difficult Age 追加公演 2018.12.14 新木場STUDIO COAST
ペトロールズは不思議なバンドだ。ボーカルの長岡亮介はギタリストとして、椎名林檎星野源を始めとした多彩なアーティストへのサポート活動もよく知られ、ペトロールズもロックバンド好きなら大抵名前は知っている。が、CD音源は元々少ない上に会場限定が多く、やっと全国流通ファースト・アルバム『Renaissance』が出たのは結成10年目の2015年だった。ライブもしゃかりきに数はこなさない。その自分たちのペースでの活動はロックバンドの成功レースとは一線を画し、そのファンクでポップで時にエッジィな音楽はじわじわと愛好家を集めて現在に至る。この日の新木場STUDIO COASTにも、踊ろう騒ごうと企む者はたぶんいない。ここにしかない素晴らしい音楽にゆったり身を委ねたいオーディエンスで、フロアはもう一杯だ。
ペトロールズ 撮影=風間大洋
1曲目は「ASB」。ファンクの変形のような、盆踊りが進化したような、レゲエの遠い親戚のような、何とも名付け難いがなぜか心地よいリズムを繰り出すオープニングから、曲間なしでスクエアなディスコ・ビートの「闖入者」へ。三浦淳悟のご機嫌なスラップ・ベース、河村俊秀の精密なハイハット、そして長岡の最高にクールなギター・ソロと、三拍子揃ったプレイヤビリティと息の合ったハーモニーが素晴らしい。曲間がほとんどないのは、ソウルやファンク的なグルーヴの持続を意識しているのだろう。とはいえ「ホロウェイ」は実に変わった曲で、ポップなメロディとファンキーなリフがテンポを変えて入れ替わり立ち代わり、長いけれどまるで飽きない。ペトロールズの音楽要素は多様だが衝突がなく、すべての音がお皿の上のオードブルのように自然に並んでいる。おいしそうだ。
ペトロールズ 撮影=風間大洋
「こんばんは。みなさんお世話になってます」
飄々とした口調で言う長岡、すかさずツッコむ河村、笑顔で見守る三浦と、三者三様のキャラが楽しめるMCタイム。ファンクやダンス・ミュージックに裏付けされた技巧や構成は極めて精巧でストイックだが、長岡のソフトな歌や美しいハーモニー、からりと乾いたユーモアを含む歌詞の世界は実に愛らしく楽しい。途切れないワン・グルーヴの心地よさの中で、ほんのりラテン風味の「コメカミ」、メロウに流れてゆく「KA・MO・NE」、とびきりキャッチーなサビを持ち、真夏にクルマで聴けたら最高に涼しいだろうなと思わせる「Talassa」など、ワンポイントの個性でイマジネーションを掻き立てる楽曲たち。淡々と演奏しているだけだが、音に込めた情感はとても饒舌だ。
ペトロールズ 撮影=風間大洋
後半で最もオーディエンスが湧いたのは、「はのうた」。子供番組『しまじろうのわお!』で使われた愛らしい1曲だが、この端正なディスコ・ビートを記憶に刷り込まれた子供たちは、将来きっといい音楽の聴き手になるだろう。「歯みがけよ!」と、おどけて呼びかける長岡も楽しそうだ。そのままライブは終盤クライマックスへ、とはいえ無理に盛り上げもせずにゆるやかに、シャキッと固めのファンク・チューン「タイト!」から、メロウにクール・ダウンして「Fuel」へ。ペトロールズの曲では珍しい、コール&レスポンス風の掛け声「Hey!」がばっちり決まる。全然速く見えないのに味わいたっぷりの複雑なフレーズを弾く、現代のスロー・ハンドと呼びたいギター・ソロが最高にかっこいい。
本編ラストは「止まれ見よ」。後半、誰にもうながされずに自然発生したクラップに応えて長岡が「いいですね!」と笑顔を見せる。グルーヴを極める職人でありながら、音に遊びがある。隙間がある。ファンクの熱狂やロックの興奮とは距離を置きつつ、娯楽と実験をバランスよく混ぜ込んだ愛されるバンドであり続ける。ペトロールズの立ち位置は、音楽家にとって一つの理想なのではないかと思う。
ペトロールズ 撮影=風間大洋
「だんだん人気が出てきて、みなさんのおかげです」
アンコールに入っても長岡のほっこりトークは絶好調で、10周年ツアーの野音で特効のテープを飛ばしたら、盛り上がるどころか失笑されたというエピソードに場内大笑い。そして「ペトロールズは失笑されるぐらいがちょうどいい」と結論付ける、この視点がバンドを長く続けるコツかもしれないと、ちょっぴり真面目なことを考える。ジャジーで複雑なコード進行をさらりと聴かせる「逃げろ」、オーソドックスな歌ものロックに特化した定番の人気曲「雨」、そしてプリンスばりのキレキレ・カッティングにフェミニンなボーカルという、実にペトロールズらしい「Profile」。あたたかい拍手の波の中、メンバーの最後にステージを去る長岡の最後のアクションは、照れながらの投げキッスだった。
次のツアーは2月から全国8公演を行う『Smooth Me』に決まった。自分たちのペースで活動するバンドが何をやってくれるのか、2019年もペトロールズの動向をゆっくりのんびり追いかけることにしよう。

取材・文=宮本英夫 撮影=風間大洋
ペトロールズ 撮影=風間大洋

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