音楽を心から愛しまた音楽に愛される
バンドnever young beach ーー中野サ
ンプラザ追加公演をレポート

never young beach 10inch Vinyl「うつらない/歩いてみたら」 Release TOUR 2018.12.18(TUE)中野サンプラザ
今回はメンバーの脱退を経て、新体制でまわる初めてのツアーだった。そんな中、ただひたすらに音楽を鳴らし続けることの歓びを謳歌するnever young beachは、そのポジティブなエネルギーをもって、中野サンプラザに最高にハッピーな空間を作り上げてくれた。10月にリリースされた10インチ・アナログ盤『うつらない/歩いてみたら』を引っ提げた全国ツアー『never young beach 10inch Vinyl「うつらない/歩いてみたら」 Release TOUR』の追加公演だ。
never young beach
クリスマスシーズンらしく入場SEにVulfpeckの「Christmas in LA」が流れ出すと、なんとメンバーは1階席の後方に姿を現した。しかも、メンバー全員が赤いニット帽につなぎというお揃いの衣装。予想外の登場にざわつく客席をすり抜けて、ステージに辿り着いたメンバーが楽器をスタンバイすると、お客さんが総立ちになった。「あ、立っちゃう(笑)!? 疲れたら座ったりしてね」。初のホールワンマンならではの初々しい反応を見せる安部勇磨(Vo/Gt)の言葉とともに、ライブは「散歩日和に布団がぱたぱたと」からスタートした。サポートギターに森雄大を加えた5人が生み出す、ゆったりとしたグルーヴにのせて、安部の朴訥とした歌声が天井の高い中野サンプラザの会場に伸びやかに響きわたってゆく。ブルーの照明に染まるステージ。阿南智史(Gt)のリードギターが味わい深い音色を奏でた「雨が降れば」から、鈴木健人(Dr)がノリの良いビートを刻んだ「なんかさ」へ。こういうホール会場のライブでは、お客さんがみんな同じ動きをすることも多いが、ネバヤンのお客さんは、自由に体を動かして楽しんでいる。それが、とても心地好い。
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 MCでは、阿部が「サンプラザだから、座ると思ったら立つの早かったね」と切り出すと、「サイコー!」とお客さんから声がかかった。「サンプラザ、元気ですね」(阿南)、「ライブハウスより元気なんじゃない?」(安部)、「壮観です。音がいいよね」(鈴木)、「ここ(ステージ)で聴いてほしい」(巽啓伍/Ba)と、初の中野サンプラザへの感想を語り合うメンバー。「ライブハウスも好きですけど、ホールでもやりたくて。クリスマスプレゼントみたいです。初めてライブ中にこんなに笑顔が……(笑)」と、安部も少し興奮気味に喜びの言葉を口にすると、中盤は1stアルバム『YASHINOKI HOUSE』のナンバーが続いた。歌はじまりのワンフレーズで大きな歓声が湧いた「夏がそうさせた」、鈴木のスティックカウントから突入した「どんな感じ?」、カラフルな照明のなかで熱いシャウトが炸裂した「どうでもいいけど」。曲が進むにつれて、お客さんも、5人の演奏も、どんどん熱を帯びていく。
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代表曲のひとつ「あまり行かない喫茶店で」のあと、ステージをピンク色に染めた「Pink Jungle House」では、安部が「行っちゃおうかな?」と、ハンドマイクで歌いながら客席のあいだを練り歩いた。「シンギン!」と大合唱を誘い、2階席にまで移動してお客さんとハイタッチ。ライブハウスと比べて、客席との距離感を感じるホール会場だからこそ、その距離をゼロにするための計らいだろう。1曲を終えて、「めっちゃ疲れた……階段あるから」と、はぁはぁと息を整える安部に、お客さんから「がんばれー!」の声。会場はすっかりアットホームな雰囲気に包まれていた。そこから、今回のツアーの主役とも言える「歩いてみたら」で懐かしい街の景色を穏やかに描き、「うつらない」では、変わりゆく街への焦燥をスローバラードで歌い上げた。どちらも街と、そこに根付く生活を切り取ったネバヤンらしい曲だ。未発表の新曲「いつも雨」は清涼感のあるコーラスワークークが印象的で、タイトルとは裏腹に晴れやかな気分にしてくれる曲だった。
never young beach
最後のMCでは、全9ヵ所をまわった今回のツアーを振り返り、「全箇所ファイナルのつもりでやってきました。こういうことを言うのは苦手なんだけど、今年1年いろいろありましたけど、楽しかった。ありがとうございました」と感謝を伝えた。こういうとき、ことさらに湿っぽいことは言わず、前向きな言葉だけを伝えるのが、このバンドらしいなと思う。それは、目一杯の悲しみや喪失感を内包しながら、いつも明るい音楽を鳴らすネバヤンのスタンスにも通じる。never young beachの音楽には、紛れもなく安部勇磨という人の信条や生き様が刻まれたものなのだと改めて思う。
never young beach
ライブは残り3曲。「次の曲が始まった瞬間に爆発してください。各々のやり方で! 行こーぜ、ケンちゃん!」。ドラムの鈴木のフォーカウントを合図に、まさにイントロが始まった瞬間、悲鳴のような歓声が上がった「明るい未来」。爽快にドライブするギターが駆け抜けたロックナンバー「SURELY」のあと、ラスト1曲。「本当に今日はありがとう。また来年もよろしくね!」と晴れやかな笑顔で伝えると、最後は「お別れの歌」で締めくくった。
never young beach
アンコールでは、ツアー中にメンバー全員で、伝説のロックバンド、クイーンの軌跡を描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』を見に行ったことを明かした安部。その影響で、「Pink Jungle House」の曲中では、フレディ・マーキュリー(クイーンのボーカル)っぽく「シンギン!」と言ったのに、伝わらなかったと悔しそうに話して、会場の笑いを誘う。そして、客席を明るく照らして「シンギン!」のリベンジをした「夏のドキドキ」、再び安部が客席を練り歩いた「fam fam」の3曲を届けて終演。……と思いきや、「あまり行かない喫茶店で」を届けると、今度こそ本当にライブは幕を閉じた。最初から最後まで、本当に心から楽しそうに演奏をし続けたメンバーの姿はとても印象的だった。
never young beach
音楽を心から愛し、また音楽に愛されるバンド=never young beachは、決してこの先も音楽を手離さずに歩き続けてくれるだろう。この日は、そんなバンドの強い意思も伝わってくるライブだった。アンコールで発表された、来年5月から全国5都市をまわる初のホールツアー『never young beach HALL TOUR 2019』が、いまから楽しみだ。

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