妖怪たちと織りなす”普通”の暮らし
 前山剛久、小松準弥、佐伯亮出演、
舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』公
開稽古レポート

舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』が2019年1月11日(金)、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて開幕した。原作は香月日輪によるシリーズ累計580万部を突破した児童文学。これまでに漫画、アニメ化されてきたハートフルな妖怪ファンタジーが、本作では心の成長を描く青春ストーリーとして展開される。初日前に行われた公開稽古の模様をレポートする。
舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』公開稽古の様子
冒頭、中学を卒業した稲葉夕士(前山剛久)と親友の長谷泉貴(小松準弥)が河川敷で対峙。卒業式後に取っ組み合いの喧嘩という、若さあふれる場面で夕士は「大人になるよ」と宣言する。3年前に事故で両親を亡くしたこと、引き取られた伯父の家での肩身の狭い生活がそうさせていたのだ。以降、夕士からの手紙に綴られた近況を長谷がなぞるように物語は進んでいく。
舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』公開稽古の様子
高校から暮らす予定だった寮が火事で焼けてしまったものの、自立を目指す夕士は妖怪や幽霊、そして人間が入り混じって生活する“妖怪アパート”の「寿荘」へ入居することに。ここで出会うのが、詩人の一色黎明(谷佳樹)。ほのぼのと柔和な性格で、演じる谷が語るように「親目線で関わっているキャラクター」として、アパート内では温かく夕士を見守っている。
舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』公開稽古の様子
舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』公開稽古の様子
寿荘に住まうのは、人情味にあふれた住民ばかり。好きなものは酒と喧嘩というなんともワイルドさ際立つ深瀬明(佐々木崇)や胡散臭くもどこか鋭さを持った骨董屋(細見大輔)、姉後肌の除霊師・久賀秋音(中村裕香里)、妖怪なのに人間として社会を生きる佐藤さん(相川春樹)と個性が光る。とりわけ、霊能力者・龍さん(佐伯亮)の存在は大きい。高校生活と寿荘での暮らしのなかで、自分自身の手で固めた“常識”に雁字搦めになりつつあった夕士の心を軽くする一言は、観客の心にもじんわり染み込んでいく。
舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』公開稽古の様子
舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』公開稽古の様子
印象的だったのは、住民が集う食堂。「おなかがすいた」というなんとも人間臭い感覚を、妖怪たちと共有し満たしていく。劇中では、原作でもおなじみの妖怪や幽霊ももちろんコミカルかつチャーミングに登場。そのスケールや表現手法など、舞台でしか味わえない生き生きとした姿はぜひ劇場で体感してほしい。
舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』公開稽古の様子
心が温かくなる一方で、人ならざる者特有の闇に息をのむシーンも。クリ(Wキャスト・荒井悠/猪股怜生)の出生と死してなお付きまとう悲惨な母親との関係を目の当たりにした夕士の訴えには、大人になることで押し殺していた悲哀が込められていた。妖怪と見紛う慟哭に心が震える。
舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』公開稽古の様子
やがて寮が再建され、寿荘を出る夕士。兼ねてより思い描いていた“日常”を手に入れるが、待ち受けていたのは人間同士のぬくもりを感じない希薄なコミュニケーション。人間ではない妖怪たちと織りなした温かな日々を知ってしまったからこそ生まれた苦悩なのだろう。まるで助けを乞うように寿荘へ向かった夕士だったが、呼びかけても住民たちから返事はなく――。
家族を失って以来、普通であることにあこがれ続けた夕士。親友や寿荘の住人たちとの心の対話を重ねるごとに揺れ動く心は、まさに10代のみずみずしい感情そのもの。「魂を込めて稽古に臨んできた」(前山)という本作の行く末は、ぜひその目で確かめていただきたい。
「普通とは何かを考えてもらえたら」~囲み会見レポート
(左から)谷佳樹、小松準弥、前山剛久、佐伯亮
公開舞台稽古の開始前には囲み会見が開かれ、前山剛久、小松準弥、佐伯亮、谷佳樹が登壇し、開幕に向けた意気込みを語った。
ーー作品の見どころは?
前山:(演じる)稲葉夕士が妖怪たちからいろんなことを学んで、人間として成長していく物語。内面を深く掘り下げているのは舞台ならでは。ストーリーが進むスピード自体はそんなに速くないですが、その分関係性や心情がすごく丁寧に描かれていると思います。
ーー座長として感じたことは?
前山:座長だといつもは「引っ張らないと」と思っていたんですが、今回はその逆で支えてもらった意識のほうが強かったです。夕士という役どおり、みんなに導いてもらいました。
ーー長谷は原作とは違う登場の仕方をしていますが、ほかのキャラクターとの関係性は?
小松:手紙のやり取りをもとに、稲葉の過去を一緒に見ていく形で進んでいきます。みんなからは見えないけど、長谷には見えている状態。稲葉が成長していくなかで誰から何を受け取って、どう感じているのかということを特に意識しながら稽古をしてきました。稲葉はもちろん、いろんなキャラクターの話や表情、思っていることをどれだけ受け取れるかを考えながらやっていきたいです。
ーー住人から一目置かれる存在の龍さん。演じるにあたって難しかった点は?
佐伯:龍さんと僕は似ているところがすごく少なかったので、どう寄せていこうかと悩みました。夕士が現状に満足してなくて自分の居場所もないという悩みを全部わかっていて、選択肢を与える役どころ。導くための道筋を作っていくのが大変でしたが、演じているうちに龍さんの厳しさ、信じたり見守ったりする優しさを演じながら感じることができました。
ーー劇中では夕士にとって一色は頼れる先輩的存在ですが、演じられたお二人の関係性は?
谷:前ちゃん(前山剛久)とは2年ぶりの共演。(稽古が始まって)最初のころは若干距離感があったというか探りあっていたんですが、稽古が進むにつれて感覚が戻ってきて。お互いがやりたいことをやってそのなかで調整していくということを日々やっていました。このあいだみんなでご飯に行ったときにボソッと「お互いちょっとずつ成長してるね」って言い合ったんですよ。座長としても成長しているし、すごく器用になったと思います。
前山:ありがとうございます! 佳樹もいろんな作品を踏んで成長してるんだなって感じましたし、(以前より)距離感が近くなったことが一色との芝居にも出ていると思います。
―ー稽古場の雰囲気はいかがでしたか?
一同:最高ですね!
前山:毎日ワークショップで絵を描いてました。お互いに絵でお題を表現するっていうゲームをするなど、本当に楽しくやっていました。気負いせず、のびのび自分のやりたい芝居を出していって、そのなかで取捨選択をしていく現場でしたね。
―ー公演を楽しみにしている方へ一言お願いします。
前山:この作品を見て一番考えるのが「普通とは何か」ということ。僕にとっての普通とみなさんにとっての普通は絶対違いますし、それぞれに答えが違うということを理解するのは難しい。その境界線を踏み越えていく勇気をもらえる作品だと思います。「普通とは何か」を考えていただけたらうれしいです。
取材・文・撮影=蒼川けい
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