「広告業界における音楽の新しい可能
性」田中陽樹(GO inc. Producer)|
Music Cross Talk

GO inc. Producer田中陽樹さんに聴く「
音楽×広告」

田中陽樹:
ケンドリック・ラマーって世界的には超有名なラッパーですけど、日本だと一般的には全く知られていない状態。なのでまずケンドリック・ラマーの名前を知ってもらうことが大切だと思い、このプロモーションを仕掛けました。

例えばこれがジャスティン・ビーバーだったら、みんな曲は聴けばなんとなく知ってるので、また違うプロモーションになっていたと思うんです。ケンドリック・ラマーは名前が知られていないし、日本人が親しみを持てるようなキャッチーな曲もないし、HIPHOPだから口ずさむのも難しい。

そういう意味でケンドリック・ラマーは議論を巻き起こすような、でも炎上狙いではない企画を目指したので、すごく難しかったですね。
中村雄太:
広告を張り出した場所も内容も政治的に、かなりギリギリでしたよね。
田中陽樹:
そうですね。でもそこに関しては僕らというより、ユニバーサル・ミュージックのメンバーがスゴいの一言に尽きますね。この広告を作ることによって一定数の批判が起こることは、事前に説明していました。それでもあの広告を世の中に出すことを決めたことがスゴい。あの広告が世の中に出たことそのものに大きな意味があったと思うんです。
中村雄太:
企画が斬新で本当に驚きました。
若井映亮:
実際に批判があったんですか?
田中陽樹:
もちろんありましたね。ケンドリック・ラマーはそもそも政治的なメッセージを発信してないですからね。
若井映亮:
そうなんですね。ではどういった意図だったんでしょうか。
田中陽樹:
この広告はあくまでも比喩表現なんです。彼は身の回りに起こっていることをリリックにして、表現しているアーティストなんですが、聞こえの良いことだけを音楽にしているアーティストではないということを言いたかったんです。ちょうど日本では黒塗り文章が注目されている時期で、その黒と、黒人ラッパー初のピュリツァー賞受賞アーティストのケンドリック・ラマーの黒をかけた広告なんです。

ケンドリック・ラマーはブラック・パワーですごくポジティブなのに、日本の黒塗り文章は不都合なことを隠そうとしている。同じ黒でも全く使われ方が違うしギャップがある。このギャップをうまく活かせないかを考えたんです。このメッセージをどうやって効果的に届けようって考えた時に、国会議事堂前と霞ヶ関の駅にだけに置いた方がこの広告は生きるのかなと考えました。もちろん話題になったんですけど、やっぱり批判も多くて。だから途中で剥がすことも事前に検討していましたし、何かあった時に臨機応変に対応できるように覚悟はしていました。リスクを説明して、お互いに納得して進められたからこそ実現した広告でしたね。
若井映亮:
カッコイイな。音楽のプロモーションって予算が少ないことが多いじゃないですか。そもそもリスナーも限られている。そんな中でマスに広めるってことを考えながらってすごく難しいですよね。
田中陽樹:
そうですね。だからクライアントにとって、GOがベストチームでは無いと思う場合には、その仕事は受けないようにしてます。例えばクラシック音楽の広告作ってくれって言われたら、クラシックのことあまりわからないので、予算が1億あってもできないんです。低予算でもそのアーティストが好きで、理解があれば何かしらのヒントが見つかると思っています。アーティストの魅力と社会が反応するスイッチを見つけることが我々のような企画者のミッションなので。
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