『SWEET 19 BLUES』はあらゆる好機が
奇跡的に合致して、
10代最後の安室奈美恵の姿を鮮やかに
映し出した歴史的傑作

19歳だからこその圧倒的リアリティー

以上、『SWEET 19 BLUES』のサウンド、歌詞についてザっと振り返ってみた。ルーツミュージックをいち早く取り入れた当時としては先鋭的なサウンドと、(個人的な推測であるが)それを躊躇なく提示することへの決意をも含んだポジティブな歌詞。それらが安室奈美恵19歳の時に合致したというのは奇跡的なことであり、本作の最も凄いところだと思う。14~15歳ではリアリティーがなく、いかにも作り物っぽくなっていただろうし、22歳以上で同じ内容だったら若干稚拙な匂いを感じたのかもしれない。デビューから4〜5年目での作品というのも絶妙だった。キャリアがありすぎてもなさすぎても、ここまでの説得力はなかったのではと想像するが、19歳でそのキャリアを積むには14〜15歳でデビューしていなければならず、しかも、音楽シーンにいるだけでなく、ある程度その存在が認知されていなければ、新たな試みもそれと認識されない。このタイミングで謀ったかのような好機が訪れたと言える。歴史的名盤というのはそういうものなのだなとつくづく思う。

補足するならば、全体的に見たら意欲的なサウンドに前向きな歌詞が目立つ作品ではあるものの、無論そんなに簡単な話ではなく、いずれにもその途上というか、完璧ではない側面が垣間見える。19歳になぞらえれば、ギリギリ大人ではない感じと言ったらいいだろうか。“ほころび”という言い方が適当かどうか分からないが、個人的な印象としてはそれに近い。冒頭で、レンジが広いわけでも、ことさらビブラートが強調されているわけでもないと書いた。失礼ながら、ラップのスキルがとても高いという印象もないとも言った。だが、19歳という年齢、4〜5年目のキャリアであったことを念頭に置くと、それが極めていい塩梅に思えてくる。むしろ、これ見よがしの歌唱のテクニックを聴かされなくて良かったと思うくらいだ。

《もうすぐ大人ぶらずに 子供の武器も使える/いちばん 旬なとき/さみしさは昔よりも 真実味おびてきたね/でも明日はくる》《SWEETSWEET 19 BLUES/だけど私もほんとはすごくないから(だけど私もほんとはさみしがりやで)/SWEETSWEET 19 DREAMS/誰も見たことのない顔 誰かに見せるかもしれない》(M18「SWEET 19 BLUES」)。

歌詞にある、ほんのわずかに、それでいてはっきりとそれが分かるように宿る微妙な心の揺れも、確実に19歳を意識させるものだ。彼女の前向きさを尊重しつつも、その背後にある不安や焦燥もちゃんと汲み取っている。その捉え方、切り取り方はお見事としか言いようがない。この年、週間シングルチャートのトップ10に小室哲哉の作品が1曲も入らない週が2回しかなかったというブームが最も過熱していた頃で、多忙に多忙を極めていたのであろうに、これほど緻密にフォーカスを当てていたとは驚くばかり。メロディーメーカー、サウンドクリエイターとしてのみならず、小室哲哉の作詞センス、プロデュース能力が傑出していたことを示す事例であろう。もちろん、安室奈美恵という素材がそれに耐え得るだけの逸材であったことは言うまでもないし、のちの歴史がそれを証明している。

TEXT:帆苅智之

アルバム『SWEET 19 BLUES』1996年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.watch your step!!
    • 2.motion
    • 3.LET'S DO THE MOTION 
    • 4.PRIVATE
    • 5.Interlude〜Ocean way
    • 6.Don't wanna cry (Eighteen's Summer Mix)
    • 7.Rainy DANCE
    • 8.Chase the Chance (CC Mix)
    • 9.Interlude〜Joy
    • 10.I'LL JUMP
    • 11.「Interlude〜Scratch Voices」
    • 12.「i was a fool」
    • 13.「present」
    • 14.Interlude〜Don't wanna cry Symphonic Style
    • 15.You're my sunshine (Hollywood Mix)
    • 16.Body Feels EXIT (Latin House Mix)
    • 17.'77〜
    • 18.SWEET 19 BLUES
    • 19....soon nineteen
『SWEET 19 BLUES』(’96)/安室奈美恵

OKMusic編集部

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