「臼井孝のヒット曲探検隊
~アーティスト別 ベストヒット20」
総合的なヒット分析で
松任谷由実の真の名曲を探る

ジブリ映画関連の荒井由実名義の3作が
いずれも総合TOP10入り

そんな3作のメガヒットシングルに次いで4位に「やさしさに包まれたなら」がランクイン。74年発売の3rdシングル(オリコンTOP100にチャートインせず!)だが、テンポ感のあるカントリー風のアルバムバージョンの方が人気なので、ここではアルバム曲と位置付けた。もともと70年代から80年代初頭にかけて長期にわたって起用された不二家『ソフトエクレア』CMソングとしてお茶の間で人気だったが、89年にスタジオジブリ映画『魔女の宅急便』のエンディングテーマに起用されたことをきっかけに、その後も何度かドラマ主題歌やCMソングに起用されており、さらに幅広い世代で人気の楽曲となった。そうしたことが、この配信ヒットにつながっているのだろう。ちなみに、03年発売のセルフカバーアルバム『Yuming Compositions: FACES』では荒井由実松任谷由実がデュエットしたバージョンを収録し、こちらも話題となった。

「やさしさに包まれたなら」/荒井由実

なお、総合7位の「ひこうき雲」と9位の「ルージュの伝言」もスタジオジブリ映画のタイアップ効果による配信やカラオケのロングヒットが影響している。スタジオジブリ関連の3曲はいずれも荒井由実名義で、若い世代には松任谷由実と同一人物だと知らないリスナーが少なくないというのも分かる。

「ひこうき雲」は73年11月5日発売の2ndシングル「きっと言える」のB面曲で、同月20日に発売された1stアルバム『ひこうき雲』のタイトル曲として知られていたが、13年にスタジオジブリの長編アニメ映画『風立ちぬ』の主題歌として人気が再燃し、なんと各配信チャートで週間1位を獲得し、ダウンロード数は25万件を突破するほどに。これは70年代の楽曲ということを考えると非常に特異な現象だ。同年には映画の公開と『ひこうき雲』アルバム発売40周年を記念したアルバム『ユーミン×スタジオジブリ 40周年記念盤 ひこうき雲』も発売され、CDやDVDに宮崎 駿の絵本がついたLPサイズで発売され、アナログ盤が付属するタイプも好評を得た。2010年代後半になってアナログ盤の再評価が進むが、その数年前からその意義を見出していたことも、今から考えればさすがユーミンと唸らされる。

それは単に大型タイアップゆえのヒットというより、大空を感じさせる曲想や歌詞の内容から、映画内のヒロインの儚い生命と、楽曲に登場する少女が見事にシンクロしていることも大きいだろう。ユーミンの楽曲にはタイアップ作品の随分前に発表されているのに、まるで宛書されたかのようにハマっているものが多い。

「ひこうき雲」/荒井由実

「ルージュの伝言」の方は75年のシングル5作目で、当時オリコン最高45位、累計約7万枚のヒットだったが、89年公開のスタジオジブリ映画『魔女の宅急便』のオープニングに起用され現在に至るまでカラオケで長く歌われることに。

もちろん、これは楽曲自体の魅力も大きい。バスルームにルージュで伝言を残して家出をするなんて、洋画のワンシーンみたいだし、当時の少年少女は大いに憧れたに違いない。また、山下達郎や吉田美奈子、大貫妙子が参加したドゥーワップ調のコーラスも印象的で、演歌やフォーク全盛の頃に作られたサウンドとは思えぬほどオシャレだ。

「ルージュの伝言」/荒井由実

OKMusic編集部

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