あの名作再び~蓬莱竜太が語る『母と
惑星について、および自転する女たち
の記録』

2016年8月に一度クローズしたパルコ劇場(再オープンは2020年秋の予定)。旧劇場の最後の書き下ろし作品として上演された『母と惑星について、および自転する女たちの記録』が早くも再演される。本作では、蓬莱竜太が第20回鶴屋南北戯曲賞を、出演者の鈴木杏が第24回読売演劇大賞・最優秀女優賞を受賞。新キャストに芳根京子、キムラ緑子が加わり、紀伊國屋ホールでの再演となる。パルコ・プロデュースでは数多くの作品を提供する蓬莱竜太が、再演に向けてその思いを語った。
◆ロードムービーのようなイメージで
――『母と惑星について、および自転する女たちの記録』(以降は『母と惑星~』)は旧パルコ劇場のクライマックスステージとして書き下ろされましたが、2年を経て早くも再演となったきっかけはなんですか?
僕が『母と惑星~』で鶴屋南北戯曲賞をいただいて、次女の優を演じた(鈴木)杏ちゃんも読売演劇大賞の最優秀女優賞をとったので、お祝いの会があったんです。そのときにプロデューサーの(佐藤)玄さんから「これは再演だね」なんて話があって。こんなに早々と実現するとは思いませんでしたが。でも、初演はおかげさまで評判もよかったし、パルコ劇場とは違う場所で新たなものを観られるのではないかと楽しみですね。
――岸田國士戯曲賞を受賞した『まほろば』も舞台は長崎で、『母と惑星~』の三姉妹も長崎の人たちです。「長崎」というモチーフを紐づけたのには、どういう理由があるのですか?
栗山(民也)さんから「志田未来ちゃんに長崎弁をしゃべらせたい」というリクエストがあったんです(笑)。そんな話から、当初は『まほろば』の続編のような作品にしないかという提案がありました。でも、僕は岸田國士戯曲賞をいただいてから10年ほどのあいだ、自分がどれだけ『まほろば』から離れるかということを考えていたので、そのまま続編を書くことには抵抗がありました。どうすれば栗山さんのオーダーに応えられるか考えていたんですが、「志田未来ちゃんの長崎弁はマスト」という状況だったので(笑)、そこで考えたのが、長崎を出た三姉妹が、異国で放浪しているイメージを思いついたんです。
少しロードムービーのようなイメージで、異国から長崎を見るという芝居であれば、『まほろば』とも手触りが違ってくるし、新しい書き方ができるかなと……。異国で絨毯を買わされて、それを抱えながら歩いているというイメージが素敵だなと思えるようになって書き始めたんですけど、そんなイメージがこの作品の入り口でしたね。
◆三姉妹のたくましさとユーモア
――瞬間的なイメージをもとに戯曲を書き始めることはこれまでもありましたか?
やり方としてはめずらしいです。テーマであっても、出演が決まっている役者さんであっても、何か自分のなかでピタッとくるみたいな、そういう感覚は大事にしながら書いています。「今回はこのテーマだな」とか「この役者さんがこんな状況に置かれたとしたら面白いだろうな」とか、そういうことを思いついて書くことはありましたが、今回のように情景的なものというか、「絵」から始まったのはこれまでありませんでした。
書いていくうえでのモチベーションはやっぱり必要で、「これは面白そうだぞ」というものがない限り筆は進まないもので、『母と惑星~』はどうやったら書けるか、取り掛かりはものすごく苦労しました。準備期間も少ない企画だったので。
――戯曲の執筆時、蓬莱さんと栗山さんのあいだでは、どんなやり取りがあったのか教えてください。
書く前は、オリジナル作品にするか、原作モノに挑戦するか、いろんな案が出ました。お互いがしっくりするものを探すのがむずかしかったです。たとえば、神話をモチーフにするとか、高校の女子更衣室の話とか、話をいろんなアイデアを出し合っていましたが、結局「志田未来に長崎弁をしゃべらせる」ことが先に決まったわけです(笑)。
――女性キャストのみというのは最初から決まっていましたか?
三姉妹と母というメンバーが決まったあと、ひとりだけ男性の俳優を入れる案もありました。旅先で出会う男の役を何役も演じてもらうという、アイデアがあったんですけど、シンプルに女性のみでいこうとなりました。
三姉妹が騙されて買った絨毯を持ってさまよっている理由は、娘たちが骨をまく場所を探しているということなんですけど、それなら父親よりも母親のほうがいいなと思ったんです。しかも、大嫌いな母親の骨をまくということから、毒母というイメージもわいてきました。
僕は、たくましさとユーモアを持っている三姉妹にリスペクトの気持ちがあるんですね。現代の日本だと、女性には男性以上に闘わなければならないものが多いと思う。そんななかでユーモアを忘れず生きる三姉妹に、存在だけで胸を打たれる。それが人間賛歌になるのでは、と祈りを込めて書きました。フィクションの力は、作家の祈りにあると思います。作家がそこに祈りを込める。その祈りの込め方が作家のオリジナリティーになるだろうと考えています。
◆美しく、役者だけで見せる
――劇作家であり、演出家でもある蓬莱さんが、別の演出家に劇を提供するということには、ご自身のなかで住み分けがあるのですか?
そうですね。住み分けはあると思います。そもそも、自分で演出するならばこの本は書いていないです。『母と惑星~』はショートシーンの積み重ねなので緻密です。自分で演出するときは大変だから書かないと思う(笑)。むしろ、「これってどうやって演出するんだろう」「こういうパスを渡された演出家はどう考えるんだろう」と思いながら、作家として敢えてやっている部分はあります。でも、嫌がらせじゃないですよ(笑)。自分が演出するときは現実的なことや物理的ことも考えてしまいますけど、作家として提供するときは、そんなことを想定せずに書いています。特に劇団で作・演出する場合は、微妙すぎることをやろうとしていますね。自分にしか伝えられないことを演出に加えているような……。
――実際、栗山さんの演出をご覧になってどう思いましたか。
見せることとかリズムを生み出すこととか、美術の見せ方からしてすごいと思いました。僕も素舞台のイメージはありましたけど、役者だけで見せるのがすごい。それでいて美しい。この作品は瞬間の絵的な美しさがないといけないので、その美的センスが作品をより違うところに連れて行ってくれたと思っています。
――紀伊國屋ホールで再演されますね。劇場が変われば当然空気感も変わると思います。
栗山さんが紀伊國屋ホールを望んでいたんですけど、どうやら初演のセットは入らないみたいです。袖にしても昔のパルコ劇場とはかなり違いますから。美術も、演出上の仕掛けも変わるかもしれませんね。
――芳根京子さん、キムラ緑子さんが新キャストに加わりました。
芳根京子ちゃんは先ほど初めて会いました。緑子さんの毒母は、また違うものになるでしょうね。芳根ちゃんの演じる三女のシオは、姉たちと違ってもっとも母親と緊張関係がある役柄なので、このふたりが変わると芝居が大きく変わると思います。そこに初演からの田畑智子さんと杏ちゃんが加わるので、メンバーは最強ですね。そういえばシオの役は志田未来ちゃんもすごく苦労したそうです。シオはそもそも大変な役なので、ラクではないでしょうけど、芳根ちゃんにはがんばってほしいし、楽しんでほしいです。しんどいかもしれないけど、彼女には芝居を嫌いにならないでほしいな。
撮影・取材・文/田中大介

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