過剰にオリジナル、高濃度にキャッチ
ーなオワリカラの10年を一望するベス
トアルバムをタカハシヒョウリ(Vo、
Gt)が語る

ダンスロックでもありポストパンク的でもあり、ジャズもファンクも感じさせるバンドアンサンブル。オワリカラのサウンドは、フロントマンで作詞作曲を手掛けるタカハシヒョウリが、70年代の洋楽や歌謡曲が持っていたチャレンジングで力技な側面からの影響を受けながら、他に類を見ない不思議な化学反応を起こし続けて来た。結成10周年を機にリリースするベストアルバム『OWARIKARA BEST OF CULT 2010~2018 ~オワリカラの世界~』は、5枚のフルアルバムから各3曲と目下の最新曲「ラブリー」を収録した、“なんかずっと気になってるんだけど、どこから入ったらいいんだろう?”というリスナーには絶好の入門盤。サブカルマスター、タカハシに(当たり前だが)今回は自分のバンドの話をしてもらうとしよう。
――今回は、ベストアルバムのリリースを機に、これまでのオワリカラとこれからのオワリカラについてお聞きできればと思います。結成10周年ですけど、2008年当時の結成バンドって面白くて。
今年10周年のバンド結構いますよね。たしかWinnersとかミソッカスとか、割と一緒にやったことあるバンドの中でも今年10周年のバンドは結構いるような気がします。
――2010年代に入るとまた違ってくるじゃないですか?
僕がオワリカラを組んだ頃って、意外と音楽的な流行やブームがなかったので、それぞれに好きな音楽を自分たちのフィールドで消費していた感じ。“これがすごい人気があってみんな真似してます”みたいなのがあんまりなかったんですよね。強いていうと、僕の世代だと、ゆらゆら帝国とか、そういうところから邦ロック入りましたっていう人は結構いましたけど。例えばBUMP OF CHICKEN的なというか、その世代の人の共通言語みたいなバンド音楽がなかったんですよね。僕の場合、70年代のサイケとか80年代のニューウェーブとかの音楽を聴いてバンドをやりたいと思ったし、そういう人が周りに多いのかもしれないですけど。
――10周年でベストアルバムが出るのは非常に納得感があるんですけど、それ以外に理由があるとしたら何ですか?
10周年以外に? やー、どうですかね? えーと、やっぱり結局なんだったのか、自分でもよくわかんないですよね、この10年間が(笑)。結局、”屈託”してた10年で、メジャーにしては変わってるってずっと言われ続けて来たし、アンダーグラウンドにしてはポップすぎるって言われて来て、“お前らってこういうもんなんだよ”っていう居場所を10年間与えられなかった、自分ら的にも作らなかったっていうのがあって。俺ですら俯瞰して見たら“これなんなんだろう?”と思う瞬間が多々あるわけですよ。だから10周年っていうタイミングで、記録みたいなもの、現状のまとめみたいなものは良いなと、ちょっと前から思ってたんです。
――16曲並んだ時に、10年ていうタイムラグを良くも悪くもあまり感じなかったんですよ。
ああ、ねぇ? 僕もそう思いましたよ(笑)。不思議ですよね、こいつら謎だなと思いながら。まぁ、音とかは変わってるんですけどね。
――なんなんでしょうね? その変わってなさって。
やっぱ、傲慢なんでしょうね。その傲慢さの表われというか。要するに、、傲慢なんだと思うんですけど(笑)。その都度、それなりにプロフェッショナルとしてやってみようぜっていう気持ちがあったんですけど、いざ聴き返してみると全然やってなかったっていう。好き勝手やってて、わりと衝撃受けました(笑)。
――(笑)。曲順もいいですよね。特に前半の流れが。
そうですね。でもこれもほんと、新録、新録、新録、あと全部時間順っていう非常に冷徹な(笑)。ただ、「ビート」っていう曲はドラムとかベースは2010年に録ったテイクを使って、キーボードとか歌は今年録り直したものを使って合体させてるので、そこで現在から時空が歪んで2010年に戻って、そこから時がだんだん流れていくようにはなってるんです。
――「踊るロールシャッハ」も新録ですけど、オリジナルと比べると全然アタックが違うというか。
落ち着く方向で再録されるパターンが多いじゃないですか? やっぱ再録否定派もいると思うんですよね。ベスト盤で、別に再録聴きたくないっていう人もいると思うんですけど。僕自身もそういうところがあるからこそ、個人的にそいつらを黙らせる必要があるので、元のものよりもパンチがないと意味がないと思ったんです。「踊るロールシャッハ」と「ガイガンガール・ガイガンボーイ」に関してはずっとライブでやり続けてきて、いろんな場面で助けてくれた曲でもあるんで、やっぱこう“足腰はできてるぜ!”っていうのがあるので。満を持して録り直して、よりフレッシュになりました。
――「踊るロールシャッハ」はダンスロックだし、四つ打ちの部分もあるけど、そのあとに出てきたバンドとは全然捉え方が違うというか。逆にこれだけ時間が経っても聴けるというのは、ずっと聴けるんだろうなと思いました。
ああ、なるほど。ありがとうございます。なんていうか、別に売れてないんで、やっぱ曲が良いからベストが出せたんじゃないですかね。いいバンドだから残せるんだと思います。正直に言って、僕ら規模のバンドで、10年やったからって無条件で出せるものじゃないじゃないですか。だからそれに関しては、感謝がすごくある、このベストは。僕らが出したというよりは、みんなが出してくれたと思うので。すごく感謝してます。
オワリカラ/タカハシヒョウリ 撮影=中野修也
それなりにプロフェッショナルとしてやってみようっていう気持ちがあったんですけど、いざ聴き返してみると好き勝手やってて、衝撃受けました(笑)。
――5枚のアルバムと他のシングルも含め、バンドの存在や曲は知ってて気になってたけど、ちょっとコンパクトに知りたいという欲求を持ってる人がいるんじゃないかと思うんです。
そうですね。まさにそのためのアルバムです。アルバムが5枚あって、どっかで敷居が上がってるところって絶対あると思うんで。僕としてはいつまでもそうなんですけど、僕が聴いて欲しいのは、10代なんです。新しい世代。自分が高校生、大学生ぐらいの時の、今思うとちょっと背伸びしていろんな音楽を聴こうと頑張ってて。どこかひねくれた人間だったと思うんですけど、それでも音楽には素直に感動してた。音楽に支えられてたし、そういう気持ちが強かったから、自分もやりたいと思ったっていうのがあるので。そこのとこは変わってなくて。もちろん自分が年齢を重ねたことによって、お客さんと一緒に歳もとってきて、音楽の内容も変化してくる。例えば「ガイガン~」みたいな曲が今できるか?って言われたら違うというか、こういう形ではできないんですよね。変な言い方だけど、“ここまでのオワリカラはもう終わり”というつもりもあっての、ベストなんです。
――なるほど。
そういう意味で「ラブリー」っていうのが今、自分がやりたい音楽の形なんですけど、やっぱりこれと「ガイガン~」は違うじゃないですか。ここまでの10年のオワリカラは、やっぱりここで終わりで、また新しいものをはじめていく、っていう意思表示もあって、一枚にまとめたっていう。
――2曲目にすでに「ラブリー」をセットしてるところに意図を感じます。
「ラブリー」がやっぱ好きなんですよね。変な話ね、このアルバムは「ラブリー」を聴いて欲しいためのアルバムなんです(笑)。
――確かに、「ラブリー」は会場限定発売盤だし。
そう、まだ一般では発売されてないし、どうやったら「ラブリー」を聴いてもらえるか? ベストだったら聴いてくれるんじゃないか? みたいなとこもあるっていう(笑)。
――「ラブリー」ってちょっとビザールなところもあるけど、結構アーバンだしど真ん中じゃないですか。この曲を去年の段階でやろうとしていた時のモードってどんな感じだったんですか?
あー、そうですね……結局、ずっとやろうとしてることって、もう超・歌謡曲のスーパーマッシブなものを作りたいっていうことで。どっかで日本のポップス的なものの、全然違うだろって言われそうなんですけど、すげえハイパーなもの、異常進化してしまった、みたいなもの。そういう意味で「ラブリー」は僕の中で、リズムセクションはすごくポストパンクで現代的なんだけど、音楽の構造としては日本のポップスになっているっていう。本来、噛み合わないものが噛み合いつつあるっていう、そういうものが僕、個人的に好きで。壁があったら穴を開けて通過していくことが好きなんですよね。本来、繋がらないものを繋げるのが一番、僕は楽しくて。だから今の僕らにとってマッシブなもの……マッシブってわかりにくいと思うんですけど(笑)、ハイパーなものと自分たちの持ってるスイートなもの…メロディであったりポップス的なものが合体して、それがすごく心地いいものになるっていうのが、ここ最近だったら「ラブリー」とか、今作ってる曲で。そういう異常進化とか超合体的なことをやりたくって、それが“これってポップスじゃん”って言われる時代を作りたいんです。
オワリカラ/タカハシヒョウリ 撮影=中野修也
70年代に筒美京平さんがやろうとしていたことと、俺が言ってることは根本は同じだと思う。僕の力量不足で結実してない部分もあると思うんですけど。
――面白いのが「ラブリー」にはシティポップ的なものも感じるけど、タカハシさんの場合、元々が70年代の歌謡曲の影響だったりするというところで。
ま、そうですね。阿久悠、筒美京平の世界をすごいリスペクトしているし。あとやっぱ、ミッドテンポのダンスロックとして一番すごいなと思うのはデヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」で。あのアルバムは音もめちゃめちゃいいし、ミュージシャンも凄腕。ほんとにあのアルバムはちょっと桁違いだなっていう気持ちはずっとあるので。エンジニアにミックスしてもらうときは「レッツ・ダンス」をかけて、“これなんです!”って。絶対できないんですけど(笑)。
――70年代の歌謡曲も洋楽の影響を大いに受けてるわけで。
70年代、筒美京平さんがやろうとしていたことって、俺が言ってることと根本は同じだと思うんですよね。当時のアメリカのディスコサウンドって、日本では異常なものだったじゃないですか。本来ある日本の歌謡曲とは全然違った。それを岩崎宏美さんとかそういう人たちに歌わせる時に、歌謡曲的なものと海外の当時ハイパーなもの……当時の日本には、ベースの四つ打ちとか存在してなかったわけで、それを合体させてポップスとして完成させられて、ヒットさせた筒美さんと、やりたいこととしては同じで。僕の力量不足でまだ結実してない部分もあると思うんですけど、いずれそれを結実させたいっていうか、やりたい。
――タカハシさんの正直な影響源みたいな話をしても、みんなポカーンってなる訳じゃないですか(笑)。でもディスコ/ファンクのトレンドがあるとしても、みんなと同じ影響に基づいてはいないというのも事実で、それがオワリカラのユニークなところだと思います。
だから学校と一緒だと思うんですよね。学校には集会係もいれば図書係もいる。みんな係があって、やろたいこともやるべきことも違う。本来その係が、今、クラスぐらいに分かれちゃってるんじゃないかな。もっと係分けぐらいになってもいいんじゃないかな?って思うんです。僕のやりたいことって割と明白に、もちろんその時その時で屈託してて、うろうろしてるんですけど。でもやっぱり、宿命みたいなものがあって。オーケンさん(大槻ケンヂ)のこともそうだし、あがた森魚さんとかのこともそうだけど、“ちょっとお前、未来と過去を繋いでみてくれない?”っていう仕事をもらう訳で。それは、そういうことをやる係っていうことかなって。
(編集部注:“大槻ケンヂwithオワリカラ”名義でライブイベントに出演したほか、大槻ケンジの新プロジェクト“大槻ケンヂミステリ文庫”に楽曲提供、演奏も務めている。あがた森魚とは、タカハシヒョウリによる企画ライブ『時代をぶっとばせ』などで共演したほか、楽曲の共作も行なっている。)
――ところで、振り返って、その時期その時期にバンドのモードもあったと思うので、今回ベストに入れた曲の中で、バンドにとって転機になった曲ってありますか?
やっぱ「踊るロールシャッハ」はすごく可能性を感じたな。バンドとしてはすごく素直に作れたというか、当時やりたかったことをそのままやれたんですね。そしたら結構、いろんな方面から“面白い”っていう風な反応があって、カバーしてもらったりとか。自分の思ってる異形のキャッチーっていうのが誰かにとってのポップであるっていう状況になったので。それはなんか、すごくよかったなっていう曲ですね。
――無理してないけど響いた、みたいな?
そうですね。で、「サイハテソング」とかは、自分の中で思ってる名曲的なものを作りたいっていう気持ちで作って、それは非常に職人的に作ったっていうか。良い曲を作ろうと思って作ったんですけど、そしたら良い曲になったっていう(笑)。それはまた「踊るロールシャッハ」と対極的な意味で手応えがあって、その2曲が同じアルバムに入ってたので、その時期に色々トライしたことはよかったなっていうのはあります。
――「サイハテソング」は8ビートだし、オワリカラとしてはオーソドックスなロックンロールを作家的に作ったんですね。
そうですね。やっぱ盛り上がるコード進行、良いメロディ……歌詞だけはちょっと感情的なものですけど、曲に関しては結構冷静に作ったので。“イケるじゃん”っていうのはありました。
――ベスト盤全体を聴いてもいいフックになってる曲で。
確かにそうですね。「Q&A」「サイハテソング」の流れは時系列なんですけど、自分で聴いてても面白いですね。
――「Q&A」はまた違ってアイドルソング的で。こっちがよほど作家的な手法なのかなと思ってました。
逆に「Q&A」は、歌いたいように素直に作ったようなイメージがありますね。でも結構、アイドル系の方面からラブコールいただくことが多くて。なんか、どっかそういうところがあるんですかね。自分ではわかんないんですけど。ただ、女の子に歌ってもらったりすると、すごくハマったりするので、そういうのは楽しいですけどね。
オワリカラ/タカハシヒョウリ 撮影=中野修也
今が一番、一体感があるかもしれない。すごく特殊な4人なので、オワリカラはここでしかできないっていう意識がみんな強くなった。
――オワリカラは、かなりキャラクターは濃いバンドで、みんなが同じ方向を見ていたらこういうバンドにならないと思うんです。
でもみんなが違う方向を向いてたら解散してますよね(笑)。謎の集団ですね。
――その接地点の面積が絶妙なんでしょうね。
まぁ、曲ですね。自分たち的にかっこいいと思える曲ができるかできないかっていう。最近、『ボヘミアン・ラプソディ』を見たんですけど、あれってクイーンの史実と全然違うんですよ。完全に創作で。なんだけど、フレディとドラムの人が喧嘩するシーンがあって、その時にベースの人が「地獄に道連れ」っていう、俺、超好きな曲なんですけど、あの曲のベースラインを弾いたら“そのベースライン良いじゃん”って喧嘩が止まるんですよ。結局バンドって、そういうことだと思うんですよ。ちょっとしたゴタゴタとか方向性の違いなんて、かっこいいリフが一発あればなんとかなるものだと思って、すごくいいシーンだなと思って。結局、オワリカラの10年もそうで。全く違うことをみんなが考えてて、各々ミュージシャンとしても別々にやったりしてるんだけど、かっこいいリフができたらいつものスタジオに集まって音を出すっていうことで10年やってきたっていう。で、今後も、かっこいい曲ができたら自然と集まるんでっていう感じです。
――最初の頃から各々独立した考え方とか立ち位置のあるバンドだった気がします。
そうですね。むしろ今が一番、一体感があるかもしれないなぁ。
――その上で各々やりたいこともある?
そうですね。いろんなところで僕も音楽をやる機会があって、いろんなメンバーとやるんですけど、どうしたってオワリカラの音にはならないんですね。それは、似たものにすらならない。再現不可能。だから、すごく特殊な4人なので、逆に結束っていうとちょっと違うんですけど、オワリカラはここでしかできないっていう意識がみんな強くなった。
――4人が外に行って、戻ってきた時に感じることなんでしょうね。それは10年の中で感じたことだろうし。オワリカラとしての野心みたいなものって、結成当初と変化してきましたか?
まぁ、売れたいし、認められたいですけどね。作り続けるためにも。僕らが8年前に最初に契約した人がいて、その人に“そろそろ関わった人のことを幸せにした方がいいんじゃないか?”って言われて、“なるほど”と思ってしまって(笑)。まぁでもやっぱ……僕は僕らの音楽を信じてるので、それが届くべき誰かのところに届いて欲しいって気持ちは変わらないですね。数字とは違うことかもしれないけど。それで、やっぱ、次はオリジナルアルバムを作りたいんですよ。制作は始まってるんですけど、そこに期待を高めてもらいつつ、そこにたどり着くベスト盤だと思ってます。
――ワンマンライブもありますね。ベスト盤に入ってる楽曲だけで16曲ありますけど。
どうしようかなと。新曲も色々あるんで、それも聴いて欲しいし、ベストに入らなかったんだけど候補に上がってた曲もあるのでそれもやりたいし、でもあんまり長くしたくないし…ちょっと悩んでるんですけど。当面このライブでしかやらない曲っていうのが、このベストに入ってる曲の中でもたくさんあるので、一回区切りのライブってことでやりますんで、来て欲しいですね。
取材・文=石角友香 撮影=中野修也
オワリカラ/タカハシヒョウリ 撮影=中野修也

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