堀込泰行

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【堀込泰行 インタビュー】
“世界は美しい”と言い切るのは危険
でも、誰しも美しい瞬間を
感じることはできる

D.A.N.やWONKら気鋭のアーティストとコラボしたEP『GOOD VIBRATIONS』から約1年。2ndフルアルバム、その名も“What A Wonderful World”が完成した。蔦谷好位置ら意外なタッグも含む本作にみなぎる表現欲求を探る。

前作のEPはコラボ作品でチャレンジングな内容でしたが、今作への影響はありましたか?

『GOOD VIBRATIONS』っていうのはすごくシンプルなデモを作って、それをコラボする相手方に投げかけて“料理してください”という感じだったんですけど、あれを経験したことで…ありがちな言葉ですけど、化学変化を楽しむことを知ったっていうのもあります。なので、そういうことに対して昔より身軽になれたっていうのはありますね。

今回のスタート地点はどういうところから?

最初にイメージを持ってアルバム制作に入ったっていうよりは、まず蔦谷好位置さんに2曲のプロデュースをお願いしようと。あと、ゲントウキの田中 潤くんという優秀なミュージシャンがいるんですけど、彼とも共同プロデュースで3曲やろうということで、外部のプロデューサーを入れる話になって。それプラス、セルフプロデュースでアルバムを形成しようっていうところから今回のレコーディングは始まっていて。それもあって、ひとりでセルフプロデュースで作ったものよりも華やかな印象の曲が増えたり、存在感がある曲が並んだものになったかなと思ってるんですけど。

蔦谷さんのどういう部分に惹かれてプロデュースをお願いすることに?

幾人か名前は出たりしたんですけど、とにかく優秀なプロデューサーにお願いしたいと思ってて。面識があってキリンジの音楽を聴いていてくれたこととか、あとはJ-POPのヒットメーカーって印象も強いですけど、海外の先端のものにもすごくアンテナ張ってる方なので、そういったところから蔦谷さんに預けてみたら自分の曲がどんなふうになるのか…特にリード曲なんかはいい感じにしてくれるんじゃないかなっていうイメージでお願いすることにしました。

蔦谷さんプロデュースのリード曲「WHAT A BEAUTIFUL NIGHT」はビートやコード感が全体的にシンプルで美しさが際立つ仕上がりな気がします。

そうですね。もっといろんな音を入れたり、人の耳を惹くバッキバキな感じの音にできたとも思うんですけども、蔦谷さん自身がこれくらいの打ち込みの塩梅で、これくらいちょっとオーガニックな匂いも残しといたほうが、僕の場合はいいだろうみたいなところでアレンジしてくれましたね。実は最初、蔦谷さんから上がってきたデモはもっとアコースティックで。80年代とか90年代のシティポップスみたいな匂いがしていて、それはそれですごく良かったんですけど、数日後に第二弾で今あるかたちのデモが来て、より今日的なものになっていて。どうせ一緒にやるなら、さっきも言いましたけどしっかりと化学変化が分かりやすく出てるもののほうが、僕も聴く人も面白いだろうなと。自分の曲に今まで着たことない新しいタイプの洋服を着せてもらって、そしたら案外似合うじゃん!みたいな感じの感想を最初に持ちました。

《世界は美しかった 気づいたんだ 今》というフレーズはパンチラインですよね。

“世界は美しい”って言い切ってしまうのは危険だと思うんです。いろんな社会的な情勢とか、政治的なこととか、災害的なこととかを考えると。とはいえ、美しい瞬間っていうのを感じることは確実に誰にもあるから、そこはあえて“言っちゃう、俺”っていう気持ちで書きましたね(笑)。

ゲントウキの田中さんにはどういう経緯で?

田中くんとはもともと友達で。ブランクがあったんですけど、一昨年に出た新譜(『誕生日』)がそれまでの良さは残しつつ、サウンドは今日的にアップデートされていてすごくいいアルバムだなと思って。なので、旧知の仲だし、これはぜひとも手伝ってほしいなと思って共同プロデュースをお願いしました。

泰行さん自身のプロデュース曲で面白いなと思ったのは「HIGH&LOW」で。都会だけど荒野のイメージが新鮮でした。

これはずっとやりそびれていた曲ではあるんですけど、今回ぜひ入れたいと思ってやったんです。歌詞のない状態から“HIGH&LOW”ってタイトルだけが決まっていて。最初はもっとひとりの人間の人生の絶頂期と転落を描きたかったんですけど、書いてるうちになんか違うかたちになってしまって、ひとりの男が都会の地の底を徘徊しているというか。でも、上を見ると…今の渋谷のすごい開発の仕方とか生きものみたいじゃないですか。重機とか。そのでかい都市計画の先にあるキラキラした未来に自分は行けるんだろうかっていう不安みたいなものを持っている。だけど、自分自身も自分のことを諦めてない感じのことを書きたかったんです。

WONKはライヴでも共演されましたが、今回はリズム隊が参加していて。「Destiny」は生々しい録音ですね。

まずは僕がこの曲を作った時、デモを作り込んでみたものの、もうちょっと面白くしたいなと思ったんです。今のちょっとジャズ系のミュージシャンでヒップホップ以降のセンスを持っている人たちって多いと思うんですけど、そういう人にリズム隊をお願いしたいなと。で、“あっ、WONKと共演したじゃん”と思って打診しました。この曲は自分で自分のアルバムに反抗してるというか、“少ない音数と人数のシンプルな曲でも、ちゃんと5分半、聴き手を引っ張れるんだぜ”っていう。これはバンドでやった感、バンド感丸出しにして作ってやろうというような気持ちはありましたね。

レパートリーが増えてライヴの楽しみが増えますね。

それは素直に思いましたね。やっとソロになってからのアイテムだけで、ライヴを2時間なりできる球数が揃った。もちろんキリンジ時代の曲も気に入っているものはやっていくと思うんですけど、ソロ以降の曲だけでライヴが完成できる嬉しい気持ちと安心感が混ざった心境ではありますね。

取材:石角友香

アルバム『What A Wonderful World』2018年10月10日発売 日本コロムビア
    • 【CD】
    • COCP-40488 ¥3,240(税込)
    • 【LP】
    • COJA-9339 ¥4,320(税込)
    • ※初回限定生産

『KIRINJI 20th Anniversary Live「19982018」』

出演:KIRINJI、キリンジ、堀込泰行
11/09(金) 大阪・Zepp Osaka Bayside
11/15(木) 東京・豊洲PIT
11/16(金) 東京・豊洲PIT

堀込泰行 プロフィール

ホリゴメヤスユキ:1997年に兄弟バンド“キリンジ”のヴォーカル&ギターとしてデビュー。13年4月、17年活動をしていたキリンジを脱退し、以後はソロアーティスト/シンガーソングライターとして活動を開始する。14年11月にソロデビューシングル「ブランニュー・ソング」を、16年10月には1stソロアルバム『One』をリリースした。代表曲に「エイリアンズ」「スウィートソウル」「燃え殻」「Waltz」などがあり、希代のメロディーメーカーとして業界内外からの信頼も厚く、ポップなロックンロールから深みのあるバラードまで、その甘い歌声もまた聴くものを魅了し続けている。堀込泰行 オフィシャルHP

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アルバム『What A Wonderful World』【CD】
アルバム『What A Wonderful World』【LP】

「WHAT A BEAUTIFUL NIGHT」MV

OKMusic編集部

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