toeのルーツと周辺。山㟢廣和インタ
ビュー

toeを構成するもの、toeの周りにあるも
の。山㟢廣和にインタビュー

2000年の結成から今日に至るまで、MONO(モノ)、envy(エンヴィ)、mouse on the keys(マウスオンザキーズ)らとともに日本のポストロックシーンを牽引してきた4人組インストゥルメンタルバンド、toe(トー)。


言葉がなくとも胸に突き刺さるエモーショナルな楽曲とライブは、男性を中心に人気を集め、国内の主要音楽フェスであるフジロックフェスティバルでも常連となっている。2012年には同フェスティバルのメインステージに出演し、これまでアンダーグラウンドに分類されてきたインストゥルメンタルのポストロックを、日本の音楽の中心にまで押し上げた。


その人気は日本にとどまらず、数々の欧米ツアーでも成功を収めている。また、海外ではTopshelf Records(トップシェルフレコーズ)などからCDやレコードをリリース。海を超え、国境を超え、toeの音楽は今日も世界のどこかで鳴っている。


2018年8月、すべてのtoeファンが待ち望んでいたニューアルバム『Our Latest Number』がリリースされた。3年ぶりの新譜ということで、改めてtoeの楽曲や活動を振り返るとともに、メンバー・山㟢廣和(やまざきひろかず)へのインタビューをお送りする。

Photography_Shunsuke Shiga
Text_Yukari Yamada
Special Thanks_JAZZY SPORT


toeとは

toeは山㟢廣和(Gt)、美濃隆章(Gt)、山根敏史(Ba)、柏倉隆史(Dr)の4人によって結成されたポストロックのインストゥルメンタルバンド。2003年に1stミニアルバム『songs, ideas we forgot』を、2005年には初のフル・アルバム『the book about my idle plot on a vague anxiety』を発表。以降、ミニアルバム、リミックスアルバム、スプリット作品などを発表しながらライブ活動を展開している。
toe アーティスト写真

toeを初めて知る方にはこちらの6曲をぜひ聴いて(観て)ほしい。
toe「I Dance alone」

絡み合うギターの音色が切ない。そしてドラムのスティックさばきが圧巻。
toe「グッドバイ」

モーションキャプチャで撮られたミュージックビデオ。ギタリスト・山㟢のボーカル入りだが、アルバム『For Long Tomorrow』では土岐麻子バージョンを聴くことができる。
toe「エソテリック」

toeのライブといえばこれ。衝動のままに楽器にエネルギーをぶつける姿を見ていると、拳を突き上げて叫ばずにはいられない。
toe「Because I Hear You」 @ 頂 -ITADAKI- 2017

穏やかな曲と見せかけて、途中からドラムが跳ね、熱く滾るクライマックスを迎えていく。
キーボードは木村カエラなどのサポートを務める中村圭作。
toe「1/21」@ Twilight Shower

2本のギターはアコースティックに。座っているにもかかわらず疾走感が高まっていく。
toe「Song Silly」

ミュージックビデオを「デザインあ展」、「谷川俊太郎展」などを手がける中村勇吾が制作。ひたすらヒゲを剃り続けるというシュールな展開がおもしろい。


ゲストボーカル、CMへの楽曲提供。広が
りを見せるtoeの活動

時にtoeはインストゥルメンタルの領域を飛び越える。2016年に発表されたフルアルバム『HEAR YOU』ではCHARA(チャラ)、木村カエラといった豪華なシンガーをフィーチャリングしたことも話題となった。
JT『ひとつずつですが、未来へ。』 大人のたしなみ方篇 CM

また、JTのテレビCMにも楽曲を提供。俳優の池松壮亮がナレーションを務める「『ひとつずつですが、未来へ。』 大人のたしなみ方篇」では書きおろし楽曲が使用されている。


国内外で活躍するtoeだが、メジャーレコード会社とは契約せず、自主レーベルMachu Picchu Industrias(マチュピチュ・インダストリアス)を立ち上げて音源を発表している。そして何より、彼らの活動を語る上で欠かせないのが音楽と仕事を両立させるというスタイルだ。


ギタリストの山㟢廣和さんは内装デザイナー、ベーシストの山根敏史さんはファッションデザイナーとしての顔を持つ。また、ギタリストの美濃隆章さんはレコーディングエンジニア、そしてドラマーの柏倉隆史さんはtoeだけでなくさまざまなバンドでのサポートを務め、2000年の結成から今まで、それぞれ自身のバンドにとどまらず幅広く活動してきた。


店にいれば誰かや何かとの出会いがある

子どもが新しい世界を知るのは、たいてい親の影響だろう。しかし、山㟢さんが音楽に興味を持った原体験はちょっと特殊なものだったらしい。


「小さい頃から映画が好きで、近所のレンタルビデオ店にはよく通っていたんです。子どもがいつも来るもんだから、アルバイトの兄ちゃんがいつも相手をしてくれていたんですよ。その兄ちゃんに『駅前のレコード屋でこれ買って来て』ってパシられて出会ったのがBOØWY(ボウイ)でした。いわゆる歌謡曲とかは小さい頃から聴く環境にあったけど、バンドって形での音楽に興味を持ちましたね」(山㟢)
ちなみに当時はちょうどレンタルビデオも始まったばかり。DVDではなくVHSのみで、1本借りるのに一晩で1,200円くらいかかったという。今では考えられないレンタル料金だ。セルの場合も12,000円ほどだったというので、映画フリーク少年は必然的にレンタルショップに入り浸ることになる。

BOØWYも人気は高かったものの、今ほどバンドがテレビに出演することはなかった時代。小学生の生活ではなかなか触れることのない音楽は、異質に見えたからこそ惹かれたのだという。


「友達で知ってる子はまずいなかったですね。共感してくれる人は少なかったけど、『周りの人たちが聴いてるものとは違うんだ』って感覚、それはすごく重要だった気がする」(山㟢)


親が聴いているものや、自然と耳に入ってくる流行りものではなく、知人が教えてくれるものが興味の扉を開いた。

一方で、山㟢さん自身もアパレルショップのアルバイト店員として働いていた経験を持つ。「ファッションには全然興味がない」と前置きしつつも、店ではいろいろな楽しみがあったようだ。


「たまたま友達の紹介で始めたアルバイトではあったんですけど、洋服屋さんにいるのは結構楽しかったです。音楽に関連した洋服ブランドの店だったので、音楽関係のお客さんもよく来てくれて。有名なミュージシャンが来店することもあったりしました」(山㟢)
すでにtoeの前身となるバンドで活動していた山㟢さんにとっては、音楽に通ずる環境にいられることは嬉しかった。店は仕事場というより交流の場となっていった。


「遊んでるときに出会った人に『ここの店で働いてます』って言うと、みんな来てくれるんだよね。普通にサラリーマンやってたら、『会社に遊びに来て』とはならないでしょう。洋服屋だと朝から晩までその場所にいるわけだから、みんなよく遊びに来てくれて、繋がりが広がっていきましたね」(山㟢)

仕事と音楽、どちらも本業

現在は内装デザイナーとして中目黒のセレクトショップ〈Vendor(ベンダー)〉や学芸大学のレコードショップ〈JAZZY SPORT(ジャジースポート)〉、ホテルアンテルーム京都のファサード/共用部分などを手がけている山㟢さん。しかし、内装に関してはアカデミックな教育を受けたことがないという。


「絵を描くのが得意だったので美大に行きたかったんですけど、受けたところは全部落ちちゃって。代わりに専門学校に行くことにしたんです。ちょうどベネトンの広告が流行ったり、横尾忠則の絵に憧れてたりしてたから、とにかくデザインやアートの勉強ができれば、アーティスティックな仕事に就けるだろうって。その時点で大いなる勘違いなんだけど。18、19歳でバカだったから(笑)。でも、実際に専門学校で教えてくれるのは商業的なグラフィックデザイナーになるための技術訓練ばっかりなわけで。僕らの頃はコンピュータが普及する前だったから、文字を組むのも写植(写真植字)って言って、書体見本をコピーしてちくちく切り貼りしていくんですよ。でもこれは違うなって思って、辞めちゃった(笑)」(山㟢)
その頃、toeと同世代のバンド人気が高まり、周辺の先輩も自身の店を持つようになる。その内装工事に立ち合ったことが今の仕事への入口となった。


「ある先輩が新しくお店を始めることになって、内装工事をやるというので、なんとなく興味が湧いて。いつものバイトが終わってから、手伝いをしに行くようになりました。その現場の親方に誘われて、実技を教わりながら内装を勉強し始めたんです。現在は設計だけの仕事ですけど、そのときは設計から施工まで全部やっていたので、今思えばかなり大変でしたね」(山㟢)


「内装設計の仕事は自分が社会人として生活するための基本的な毎日のこと。音楽は自分を構成するメインの活動。どちらも本業なんです」(山㟢)
このtoeの活動スタイルから、仕事と音楽を両立させることに活路を見出したバンドは少なくない。仕事をしながら音楽を続けることは、今やネガティブな意味を持たなくなった。働き方も多様になり、フレックスタイム制度の導入やリモートワークの普及も進んだことで、2つの活動を並行することはポジティブにさえなりつつある。むしろ、相互作用にもなりうるのだ。


「そもそも、自営業でこういう仕事をしているのも、結局はバンドがあるからで。フィフティ・フィフティという切り分けともまた違うんですよね」(山㟢)


仕事と音楽において何か切り替えがあるわけではない。仕事はクライアントあってのものではあるが、同じ「山㟢廣和」が作るのだから、好きな傾向やスタンスは通ずるところがあるという。


「音楽だけじゃなく全てに言えるんですけど、どうもビシッとカッコいいのが駄目なんですよ。ほつれというか、途中な感じがいい。アカデミックな教育を受けて来た人が作るバチッとしたものも全然あっていいと思うんだけど、自分が関わるものは、もうちょっと『これでも良いでしょう?』『ここまででいいじゃん』みたいな、抜けというか、余白みたいなものがあるほうが好みなのかもしれません」(山㟢)

マイペースに作るからこそ、良いものに
したい

2018年1月にはリミックスアルバム『That’s Another Story』を発表し、立て続けに『Our Latest Number』もリリース。1年に複数のタイトルが発売になることは、toeにとって珍しいケースだ。

「『That’s Another Story』については、特に僕らの実作業はなかったんです。むしろそれより前には『Our Latest Number』の音源を作り始めてたのかな。前回の『HEAR YOU』がフルアルバムだったので、今回はミニでもいいかなって。それに、4〜5曲くらいのアルバムが好きなんです。他のアーティストのアルバムでも、フルアルバムに入ってるバージョンよりも、その前に出たEPのバージョンのほうが好きだったりする。4曲くらいのボリュームだと、1曲1曲に手間をかけられるんですよ。だからクオリティとしても良いものができる」(山㟢)
テーマを特に設けずに、作りためてきた曲をまとめる。ここにも余白を楽しむスタンスが現れている。今回、新曲の4曲中ボーカル入りが2曲もあり、山㟢さん自身が歌っている。聴いてみて感じたのは、これまでtoeカテゴリ分けされていた「ポストロック」から一歩抜け出したようなまろやかさだった。


「そうなんですね。大体、皆さんに言われるようなことは自分では意識してなくて。そういう印象なのかな、と言われて気づくくらいです」(山㟢)


ゲストボーカルやコーラスをお願いする場合も、楽曲作りから共にするのではなく、すでにtoeとして制作した楽曲があり、そこに誰かが加わって完成する。例えば今作でゲストボーカルを務めた「んoon(フーン)」のJCとの出会いは、大阪のレコードショップ、FLAKE RECORDS(フレイクレコーズ)のDAWAさんだった。
「レコーディング中に大阪でライブがあって、フレイクに遊びに行ったら、「山ちゃん好きそうだから聴いて」って。で、すごく良いなぁ。いいバンドだなぁって思って。
ちょうど女性の声を入れたいタイミングだったからお願いしました。あの人用にと考えて作るのではなく、『女性のヴォーカルを入れたいな』くらいのふわっとしたイメージで作っておいて、最終的に誰かにお願いする流れですね」(山㟢)


初回プレス盤にのみボーナストラックとして収録されているブラック・サバスの「War Pigs」のカバーでも、映画「この世界の片隅に」の主題歌を歌うコトリンゴがゴリゴリのハードロックを優しい歌声でほぐす。このカバー曲はメンバーの山根さんが手がけるブランド「F/CE(エフシーイー)」のファッションショーのランウェイで流された。
2枚目の映像で「War Pigs」のカバーが流れるショーの様子を見ることができる
「ランウェイって、ファッションショーでは由緒正しいイメージがあって、サトシの経歴もあるし、そのオルタナティブらしさを音楽で表現してもいいんじゃない? って話になって。『War Pigs』は前からカバーしたいと思っていた曲でした。でも、ハードロックのボーカルって、外国人と同じように日本人が歌うとどうも微妙になっちゃう感じがして。だから、インストにするか、発想を変えて全然オジーを感じさせない人に歌ってもらおうかと思っていたんです。それで、コトリンゴちゃんに歌ってもえないかってお願いしたら引き受けてくれて、素敵な感じになりました」(山㟢)


toeの仕事と音楽が一つになった初めての作品。それにしてもランウェイでブラック・サバスとは異色すぎるし、ハードロックを女性ボーカルでアレンジする発想も突飛だ。楽曲制作のインスピレーションはどこにあるのだろう。


「音楽を作るときは基本的に音楽のことを考えていますが、一番根本的なことはいろんなものから得ているかもしれません。例えば「何か異質なものを組み合わせる」とか、『そもそも違う用途で作られたものを別の解釈で使ってみる』とか。そこから具体的に音楽に落とし込んでいく。自分のやっている音楽がすごく斬新だとは全く思っていないので。いわゆる組み合わせ、落とし込み方や、アウトプット、解釈が新しい。更にいうと『こういう音楽を僕らがやっている』ということ自体が新しい。みたいな。別に新しくもないかもしれないけど。そういうのが好きで。それは仕事でも同じことを思っています」(山㟢)

異色のミュージックビデオ、誕生秘話

toeの新譜とともに毎回楽しみなのが、MVだ。2015年に公開された「Song Silly」では、中村勇吾さん監督のもと山㟢さんのヒゲを剃るという斬新なMVができあがり話題となった。


「MVはどちらかというとリミックスに近い感覚で、僕らの音で予想外のものが出来上がるのがおもしろいなぁと思っていて。人選をするのは僕らだけど、内容は任せちゃいます」(山㟢)
新曲「レイテストナンバー」の監督を任命された岡宗秀吾さんはテレビディレクター。氏が以前に作った青春映像が大好きで、お願いしたそう。


「その岡宗さんが以前作った映像はただただ若い女の子たちの写真をスライドショーで編集したものなんだけど。なんて言えばいいのかな、女友達最高! みたいな。僕なんかは親目線で見ちゃって。新しいビデオでは20代前半の女の子たちがキラキラ楽しそうにしているけど、裏では男に振られたり、仕事がうまくいかなかったり、それぞれいろいろあるんだよなって、情報が少ないから、彼女たちの人生を勝手に想像して共鳴しちゃうみたいな。で、「人生これからも色々あるから、みんな頑張れよー」って気持ちになる。岡宗さんも同年代だから、そういうところもあって。MVをお願いしたら、一晩温泉に連れて行ってきますわって(笑)。おかげで最高のMVができました」(山㟢)
toe「レイテストナンバー」
〈toe 最新リリース情報〉
toe 『Our Latest Number』
発売日:2018年8月22日
品番:XQIF-91001
Machu Picchu Industrias


1. Dual Harmonics
2. レイテストナンバー
3. Etude Of Solitude
4. F_A_R
初回限定盤ボーナストラック
5. WAR PIGS feat. kotoringo (Black Sabbath cover)
Spotify
Apple Music


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toeのルーツと周辺。山㟢廣和インタビューはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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