ROTTENGRAFFTY武道館前緊急対談KAZU
OMI(Gt)×松原裕氏によるアーティス
トと事務所社長だから話せるロットン
の今までとこれから【必見】

 結成20周年を前に、ついに初の武道館公演を10月3日に行う「京都のドブネズミ」ことROTTENGRAFFTY。傑作『PLAY』をひっさげた47都道府県ツアーを終え、いざ武道館への士気が高まるタイミングで、バンドの音楽的ブレインであるKAZUOMIが対談を希望したのは、所属事務所PINE FIELDSの社長であり、専属プロダクション610の代表を務める松原裕氏。心身ともにタッグを組んで10年、ともに歩んできた唯一無二の絆が伝わってくる、メモリアルな対談となった。そして今回の対談は、世界最大の音楽配信サービスSpotifyとSPICEの業界初スペシャルコラボ企画となっている。Spotifyでは日本武道館の大胆予想プレイリストとこの対談が期間限定で音声配信中!本記事と合わせて是非こちらもお聴き逃しなく!
松原裕(パインフィールズ、610)×KAZUOMI(ROTTENGRAFFTY)
KAZUOMI:よろしくお願いします。
松原:よろしくお願いします。というわけで、なぜか僕と対談ということで(笑)。まず松原って誰やねんと思ってる方がいると思うんで、簡単に自己紹介すると、ROTTENGRAFFTYのプロダクションの610という会社の代表をさせてもらってます。2009年くらいにロットンが新しい事務所を探してるってことで、うちの会社に所属していただいてから、もうすぐ10年です。
KAZUOMI:10年ですね。ありがとうございます。貧乏くじ引きよった、と。
松原:なんでやねん(笑)。僕はもともとライブハウスをやってるので、そのブッキングマネージャーとバンドという出会いで始まって。最初に認識したのはNOBUYAとN∀OKIなんですよね。やっぱり最初に仲良くなったのはN∀OKIくんで。NOBUYAくんはちょっと怖いなあと。ちょっとキナくさいにおいがして。
KAZUOMI:かもしれん(笑)。
松原:覚えてます? 喫茶店で喋ったの。
KAZUOMI:やんわり覚えてますよ。このキャリアでバンドをやってますけど、僕はそもそもPINE(FIELDS)でやってもらえるまでは、アーティストとかライブハウスの関係者とかとの繋がりを全然作ってこなかったんですよ。そういうのってできないと自分で思ってて。だから、松原が誰かということもよくわかってなかった。ライブハウスをやってるっていうのを聞いたくらいの感じでしかなくて。で、初めて喫茶店で喋らせてもらった時、もうバンドがどうなるかわからないと……メンバーの気持ちとかがどんどんどんどん離れていってたのをすごく感じていた時期だったんですよ。
松原:事務所に所属してない4年間のタイミングだもんね。モチベーション的に、みんなどうしたらいいかっていう。
KAZUOMI:そうそう。次お世話になるところでは、できるだけのことを全部やろうって。まず人間関係を――僕、下手でしょ? 人間関係の作り方が。
松原:そうですね(笑)。フォローしたいですけど、下手です、はい。(笑)
KAZUOMI:完全に下手でしょ(笑)。だから、時間をかけてわかってもらうしかないと思ってるんで、最初の喫茶店でどうこうとかはあまりなくて。ただただ、喋っててパワーのある人やなって思ってました。うちのメンバーとは違うパワーっていう感じですね。
松原:僕めっちゃ覚えてるのが、KAZUOMI君が一番端っこに座ってて、すごいオーラがあって、ものしずかやけど、的確なこと言うてくる人やなって思ってた。正直、最初のイメージとして、NOBUYAとN∀OKIっていうのがドーンといるんで、このふたりがバンドをまわしてるってずっと思ってましたし。びっくりしたのが、KAZUOMIくんが「僕だけ奇抜な化粧とかして――たとえばSlipknotとかみたいなのをしてライブするのはどうか」っていう意見とかを出してて。
KAZUOMI:ははは。(笑)言うてたかも。
松原:ものしずかな人やから、そんなアイディアで出てくるとは思わなくてびっくりして。この人なんなんやろって結構興味持ったのはありました。
KAZUOMI:その当時は、ロットンっちゅうものを確立できてない時で――今もまだまだですけど。自分を確立できれば、もっとバンドがオーバーグラウンドになる可能性があるんじゃないかってことで、自分の立ち位置を常に考えてました。俺をわかってもらうには、まず時間かけるしかないなと。

だからどっかで喧嘩したいってずっと思ってて(笑)
松原裕(パインフィールズ、610)×KAZUOMI(ROTTENGRAFFTY)
松原:こういう機会だから言いますけど、正直ほんまにちょっと腹割って喋れるようになったというか、KAZUOMIくんってこういう考え方をするんやってある程度思考をトレースできるようになってきたのは、シングルの“世界の終わり”のタイミングちゃうかなと、ぶっちゃけ思いますけどね。
KAZUOMI:人とコミュニケーションとるのが下手なんで、人との距離感ってものすごく大事やと思ってるんですよ。
松原:わかります。ずっとそれ意識してますよね。
KAZUOMI:自分のやりたいことに対して、事務所にビジョンをどういうふうに伝えたらいいかをずっと考えてたけど、まず距離感が縮まらないと、最初の1年2年ではその話をしても、うすーい会話にしかならんくて。まだこれくらいやな、まだ遠いな、ってゆっくりゆっくり関係を作っていって。もうそろそろいけるんちゃうかって思った時に、俺のやりたいビジョン、エゴというか、わがままを少しずつ出していってたんですよね。それが“世界の終わり”の時?もしくは、俺が実感してるのはアルバム『Walk』の製作時期だったと思うけど。喧嘩にも似たような、そういうくらいの感じでやっとね。
松原:喧嘩に似てる感じはあったかも。
KAZUOMI:ただの喧嘩って好きじゃないけど、何かに向かって、お互いの立場でいいものを作ろうとする――僕は作り手で、松原は立場が違うけど、理想に向かっての喧嘩は一番人と人が近くなるなあと思って。だからどっかで喧嘩したいって思ってて(笑)。
松原:実際に言いあいとかしてないですけど、KAZUOMIくんが思ってる「こうしたい!」っていうのを、喧嘩に似たような勢いで言うというか。
KAZUOMI:そんな会話を何回もしてきましたよね。毎日のように電話してたし。
松原:正直、着信全部KAZUOMIでしたよ(笑)。僕「よくかける(リスト)」にKAZUOMI登録してましたもん。
KAZUOMI:(笑)。ROTTENGRAFFTYを応援してくれてる人は、KAZUOMIがこんな喋ると思ってないと思うんですよね。
松原:ああ、そうやね。
KAZUOMI:でも、こうやって作品や方向性、またプライベートな事まで社長と一番喋ってんの俺やもんね。
松原:ダントツだと思いますね(笑)。たぶん親よりも恋人よりもKAZUOMIくんと喋ってると思いますよ(笑)。
KAZUOMI:毎日電話してたから。数年間かくらい、毎日。
松原:してましたね。しかも24時間ですから。だから僕、寝る時電話を常にベッドの横に置いて、KAZUOMIくんの電話いつでも出れるようにしてましたからね(笑)。
KAZUOMI:あはは。だからこんなとこまで向き合ってくれるということを、これを絶対なくしたらあかんって思ってた。僕、曲ができた時のテンション感って、早く誰かに聴かせたくなるんですけど、メンバーは連絡取れないことが多かったりするから、松原に「できた!」って言って「すぐ聴いてくれ!」って送ったりとか。
松原:夜中の4時5時くらいにもばんばん電話がくる。(笑)1回、なんか用事で出れんかって、気がついて電話した時に、KAZUOMIくんが興奮してて。「俺は24時間頑張って闘ってるから、松原も闘ってくれよ!」って言われたの、もう一生忘れへん。
KAZUOMI:ははははは!迷惑極まりない!(笑)
松原裕(パインフィールズ、610)×KAZUOMI(ROTTENGRAFFTY)
松原:いや、それ納得したのよ。「俺は24時間ロットンに向かい合ってやってるんや! 松原もやって当たり前ちゃうか」って言われて「ほんまやな、俺も24時間闘おう」と思って。だからKAZUOMIくんの電話を、1回で出たんねんって思ってた。それは僕にとって、喧嘩の殴り返しと同じ感覚で。
KAZUOMI:「そう言うんやったらやったろかい」、みたいな。
松原:電話絶対出たんねん、と。たぶんそこから僕、電話出れんかったことはないと――まあ出れんかったとしても、5分以内に折り返してたんです。それは僕のプライドに変わりましたね。
KAZUOMI:うん。それをやってくれたし、チーム内にそういう人がいるだけで、闘えるんですよ。
松原:そうですよね。孤独じゃないですよね。
KAZUOMI:ものづくりってやっぱ孤独だから。
松原:己との闘いになってきますしね。で、前に作った――たとえば“金色グラフティ―”って曲が、次レコーディングする時に敵になりますもんね。
KAZUOMI:それを乗り越える手段ってほんとはいろいろあると思うんですけど……天才ではないので。次々出てくるってことはないんですよね。
松原:みなさんそうだと思いますけどね。
KAZUOMI:みんなそうなんやろうなとは思いながらも、やっぱまわりに尊敬できるアーティストとか仲間やバンドマンがいるし。そこで俺は、出せるかどうかわからんけどとにかくずっと頑張るから。それを(そばで)感じといてほしい(笑)。
松原:それ寂しがり屋やん(笑)。でも僕がKAZUOMIくんから一番学んだのは、ストイックさかな。突き詰めることというか。やっぱり何か成功してる人間って、間違いなくストイックですよ、ほんとに。いろんなミュージシャンでも……Kjくん(Dragon Ash)とかね、TOSHI-LOWさん(BRAHMAN)とか、TAKUMAくん(10-FEET)もそうやし、UVERworldのTAKUYA∞も、みんな喋れば喋るだけストイックじゃないですか。まず近くにいるKAZUOMIくんのストイックさに、俺も何か成功したり、上に立とうっていうのであれば、そのストイックさはもっと突き詰めなあかんなと思いました。
ほんとに命懸けてやってるし、その命懸けた会話をしてるのが一番楽しい
松原裕(パインフィールズ、610)×KAZUOMI(ROTTENGRAFFTY)
松原:で、そもそもこの対談をなぜ僕とやろうと思ったか、その目的はあるんですか?
KAZUOMI:これ、僕がやりたいって言ってたんですよね。インタビューって、形式的なかたちになりすぎてマンネリというか……答えわかってるやん、って。結局音源のことに対しても正直僕はそこまで良いとは思ってなくても、そういう言葉で言えなかったりとか。読んでる人もおもしろいんかな?って。で、なんでやりたかったかっていうのは、音楽に対していろんな目線、いろんな職種があるじゃないですか。僕はステージに立つ側、音楽を作る側。でも、そうじゃない――たとえば、アーティストやバンドの演奏するステージを作る側とか、音源を売る側とか、いろんな方向からの会話ができたらおもしろいのになっていうのをずっと思ってて。そういう会話ができるのって、僕のまわりには松原しかいなかったっていう。松原とは喋れるやんって思って。
松原:近くにおったやん、みたいな(笑)。確かにずっと言っていただいてて。僕も手前味噌みたいな気持もありつつ、僕が出てもなあって気持ちもありつつ。でも次武道館を控えて、20周年を目前にしてってタイミングでもあるし、KAZUOMIくんとこういう公式な場所で喋るのも楽しいなあと思ったんで。ぜひぜひやらせていただこうって今日を迎えたわけです。
KAZUOMI:おおきに。っていうか、結構飲みに行ってますもんね(笑)。
松原:6時から飲みに行ったら12時までノンストップでネタ尽きないですからね。
KAZUOMI:やっぱり、仕事と言っていいのかわからへんけど、バンドで理想を作ってるのがすごい楽しいし――楽しいっていうか、ほんと一生懸命やってるし、その命懸けた会話をしてるのが一番楽しいかなあ。
松原:楽しいですね。
KAZUOMI:達成感の共有とか、またその逆の失敗の共有とか。そういう話をできるのが嬉しい。そういう話をできるのってほんとに少ないんで。
松原:だからライブしたあととか作品ができたあとで飲みに行った時の会話がめっちゃ楽しいですよね。めっちゃ覚えてんのが、心斎橋の三角公園でゲリラライブをやったじゃないですか。そのあとイベントで大阪城ホールでもライブして、みたいな日があったんですよね。あの日打ち上げなかったから、俺もうこの楽しかった思い出を誰と喋ったらええねん!って思って、ひとりで帰ったあとKAZUOMIくんに電話したん覚えてますね。
KAZUOMI:(笑)。あの時もすごい印象残ってるなあ。それも松原との電話で会話してて、「ゲリラライブとかやったら楽しいんちゃう?」みたいなとこから、いろんなことをスタッフがくっつけてくれて実現したことで。
松原:そうですね。結構ロットンのいろんなおもしろいことって、KAZUOMIくん。NOBUYAくんもそうだけど、突拍子もないことをポロっと言うたことに、反応したスタッフが実現させておもしろくなっていくことが多いですよね。
KAZUOMI:具体化というか。「うわ、それおもしろい」ってなってるのがすっごい楽しくて。
松原:楽しいですね。化学反応が起こってる感じしますよね。

なんかしらんけどいきなり号泣みたいな感じやったもんね(笑)。大号泣から始まって。
KAZUOMI(ROTTENGRAFFTY)
松原:では、ベタな質問かもしれませんが、『PLAY』というアルバムについて訊きたいなと思うんですが――。
KAZUOMI:さっきの会話からの矛盾が生まれるような……。
松原:ああ(笑)。まあせっかくなんで、こういうのもやっとかんとね。
KAZUOMI:僕の正直な話をすると、『PLAY』を作ってる時、本当に苦しくて。作ってる数年間、自分でも初めてなくらい、ずーっと苦しかったのが続いてたんですよ。だから僕、正直あんまり記憶にないって言うか。ちょっと数ヶ月休ませてもらったし……今ツアー回って「こういうのを作ったんや」って逆に思わされてる感じがあります。
松原:今年の1月から3月までKAZUOMIくんはちょっと休養、休業させてもらって。僕が覚えてるんは、11月の頭にKAZUOMIくんから電話もらって……。
KAZUOMI:うん、あの時ほんと…………ありがとうね。。
松原:めちゃめちゃ喋りましたね、あの時。
KAZUOMI:ちょっと普通じゃなかったですね。電話して、なぜかわからんけどいきなり号泣みたいな感じやったもんね(笑)。大号泣からスタート。
松原:もうマジで心配で! 大丈夫かなあ?って。
KAZUOMI:僕自身、なんでそうなってるのかわからなかった。未来が見えなかったというか、とにかく助けてほしいしかなくて。自分はタフなほうだと思ってたんやけどね。。そんな2017年でしたね。
松原:その中でこの『PLAY』を作り終えたじゃないですか。それこそ『PLAY』のレコーディングも厳しいっていう状況の中で、「これはやり切る」てKAZUOMIくんがずーっと言ってて、結果『PLAY』を作り終えたんで。それはすごいなと。
KAZUOMI:前作のアルバム『Walk』の時もすっごい苦しかったけど、苦しさで言えば今回それを超えたぐらいの苦しさを持ってて。僕はそういうところで音楽を作るタイプなのかなと思うところはあります。
松原:だってあのタイミングで、『PLAY』に収録されてる“hereafter”ができた時、「あ、もう病んでるわ」って思ったもんね。
KAZUOMI:あれはね……病んでます(笑)。
松原:病んでるよね(笑)。くっそカッコいいけど、病んでるなあって思いました。
KAZUOMI:あれ、TAKUMAくんがめっちゃ褒めてくれてて。あの1曲があるだけでこのアルバムは価値がある、ぐらいのことを言ってくれてて。
松原裕(パインフィールズ、610)×KAZUOMI(ROTTENGRAFFTY)
松原:あれが間に入ってることで作品が立体的になった気がしますね。
KAZUOMI:そうですね。立体的になったし、僕的に、曲順の並びで、過去と現在、未来がひとつになるような感じにできたんで。
松原:あ、曲順は結構びっくりしました、僕は。“寂寞(-sekibaku-)”から始まるのとか、僕の中になかったですもん。
KAZUOMI:僕は“寂寞~”ができた時に、絶対1曲目にするって思ってた。
松原:ああ、そうなんや!
KAZUOMI:まあ、たとえば“パイロットソング”を1曲目にするっていうのは、セオリーどおりで。でももうそんなん関係なく思えたんですよ、そんなことしても、何が伝わんの?って思った。それくらいこのアルバムの一本筋が見えたというか。
松原:意外やったなあ。僕ら側からしたら、(1曲目って)明るくてスコーンと爽やかな曲とかって。
KAZUOMI:やっぱり作り手じゃない人たちの目線ってすごい答えにはなる。間違いではない。「この曲が一番このバンドをまずわかってもらえるんじゃないか」というのを最初に持ってくるのは、たぶん正解やし、なんの悪もないと。けど、そうじゃなかったんですよね。そんなことやってもこのアルバムは良くならないって。
松原:もう作り手にしかわからないことですよね。
KAZUOMI:“寂寞~”を作って、デモに起こしたんって、それこそ「ほんまに俺、もう無理かもしれん」っていうことを電話した頃。これで最終レコーディングで、もう曲が無かったらほかの楽曲入れてアルバムのサイズにしようとしてたんですけど、最後の最後で出てくれた。“寂寞~”が。あれがあったから、『PLAY』っていうアルバムが完成した気がしますね。
松原:仮タイトルのデモの時から、かっこいい曲やなあとは思ってました。あと“So…Start”が最後っていうのも結構びっくりでした。今となってはめちゃくちゃ意味を感じてますけど。
KAZUOMI:僕の中でちょっと迷ったのは、最後の曲を“世界の終わり”か、“So…Start”かどっちかにしたいなと思ってたんですよ。
松原:僕は“世界の終わり”か“hereafter”かなって思ってました。
KAZUOMI:“世界の終わり”っていう楽曲は、“世界の終わり”という意味はない。絶望感のあるような言葉とは裏腹に――。
松原:「世界の終わりだったとしたらどうする?」ということですからね。
KAZUOMI:そういうこのロットンなりの希望というか、前を向いた曲なんで、どっちでも良かったかなあと思ってるんですけど、最終的にはやっぱり“So…Start”っていう言葉でアルバムの最後を飾れるっていうのはすっごい意味があるなって。

嬉しいこととか苦しいこと、悲しいこと、喜怒哀楽全部を持ててること自体、それこそが人生を生きてるということなんやと
KAZUOMI(ROTTENGRAFFTY)
松原:ちなみに『PLAY』というタイトルを決めた理由ってなんですか?
KAZUOMI:俺はこんだけ苦しかったりも、いろんな幸せな想いもこのバンドでできてるし。少しずつの達成感があったり、理想をかたちにできたり、そういう嬉しいこと苦しいこと、悲しいこと、喜怒哀楽全部を持ててること自体、人生を生きてるということなんだと。で、これまで僕が作ってきた楽曲って全部そんな感じやなと思って。そんな楽曲たちを「PLAY」しているっていう、うーん……「もう『PLAY』がいい」って感じ。
松原:最初それ聞いた時、めっちゃいいタイトル!って思いましたもん。
KAZUOMI:あと単純にやっぱ、僕らは「PLAY」してるからね。
松原:演奏という意味のね。
KAZUOMI:うん。
松原:『Walk』 は、ゆっくり歩んでいくというような、自分たちの歩みみたいなメッセージがあって。で、それが布石となって、今回『PLAY』で――跳ねたというか。「RUN」じゃなくて「PLAY」にいったという。そこの流れも僕的にはぞくっときて。いいなあって。
KAZUOMI:……これやっぱ、あれやな、自社のアーティストの話をしてるってとこが気持ち悪いな(笑)。
松原:そうですね(笑)。
KAZUOMI:あはははは。だから僕はやりたかったんですよ。こんな話できる人、まわりにいないもん。俺今なんにも緊張してないもん(笑)。
松原:ははは! 始まる時緊張したけど、実際喋ったらいつもどおりですもんね。『PLAY』に関してはほかに何かあります?
KAZUOMI:うーん、新しい挑戦というのは結構毎回やってきてるんですけど、やっぱ“「70cm(四方の窓辺)」”っていうのは……曲的にも、歌詞の世界観的にも、今までのロットンにないものを提示できたかなあとは思ってて。
松原:そうやと思いますよ。KAZUOMIくんの楽曲は『Walk』以降、だんだん世界観が壮大になっていってて。その中で急に“「70cm四方~”みたいな、なんていうんかな、贅肉のない、間奏もとにかくタイトで、すぐサビで、みたいな。振り切ったなあと思いました。新しいKAZUOMIくんがめくれた!と思いましたね。ちなみにこれは1年前に“So…Start”作ったタイミングですぐできましたよね。
KAZUOMI:うん、楽曲はできてて、ずっと詞が出来なくて。
松原:最初英詞でしたもんね。
KAZUOMI:そう。でも英詞じゃないしって……。で、曲を作ってる時、いつも窓から外を眺めてたなぁって。僕の部屋なんですけど。その窓がだいたい70cmくらいっていうだけのタイトルなんですけど。部屋の窓から外を眺めてるだけの時間の時に、いっつも人のことを考えてたりしてるなあって。……松原が癌になって「今大丈夫かな」とか、「あいつは何をしてるかなぁ」「会いたいなぁ」とか、人のことをずーっと考えてて。時期もそんなタイミングじゃなかったでしたっけ?
松原裕(パインフィールズ、610)×KAZUOMI(ROTTENGRAFFTY)
松原:うん。僕の癌が発覚して、“So…Start”と“「70cm四方~”がすぐできたタイミングではあるかな。僕は僕で勝手に、また自分のストーリーを置き換えて聴いちゃうから、やっぱ思い入れは強くなりますよね、ほんとに。僕も自分の病状がいろいろ変わっていく中で、ロットンの作品がいいタイミングに出てくれたり、武道館のことも含めて、生きる活力にもなってるし。で、僕じゃなくて、もっとたくさんいるロットンファンが、同じようにロットンの作品を聴いて勇気をもらって、すごい励みになってるということを――KAZUOMIくんがちょっと弱っちゃってる時に僕そういう話をしたと思うんですけど、ほんまそうやと思うんですよ。
KAZUOMI:俺それ言ってもらってた時って、全然頭に入ってないんですよね……。「そんなことがあるか!」くらいの。
松原:ああ、(言葉を)パチンと弾いちゃうっていうこと?
KAZUOMI:弾いてしまってたんですよ。そっから戻れないんですよね。
松原:いやいや。でも急に、活動2ヶ月か3ヶ月休んで、春くらいになってきたら、「あれ、だいぶ良くなってきてる」ってなりましたもんね。
KAZUOMI:俺戻った、って思った。
松原:戻った!って連絡ありましたもんね。
KAZUOMI:連絡したでしょ。すぐ飲みに行きましたもんね(笑)。
松原:すぐ飲みに行った、飲みに行った(笑)。それで「ああ、大丈夫や」って思って。だっていつもどおり愚痴が出だしたから、「KAZUOMIくんおかえりー!」って思いましたよ。
KAZUOMI:はははは。
松原:KAZUOMIくんがプレイバックしたー!って思いました(笑)。
KAZUOMI:あの時、めっちゃ幸せなのと、まだちょっと恐怖がありました。しばらくの間、1ヶ月間くらいは、目覚めた時にどっちかなって、「あっちやったら嫌やな」って思うような感じで起きてました。今みたいに、こうやって会話することって普通でしょ? やっぱりこれがなかったらやってられないですよ。
松原:まあ、そうやね。モチベーションあがんないですからね。いやでも、ほんまにおかえりなさいですよ。
KAZUOMI:ほんとごめんなさい。で、ほんとにありがとう。
松原:いやいや。メンバーが頑張ってましたよ、4人でね。僕感動しましたよ。
KAZUOMI:メンバーにはほんと……もう、感謝してる。俺抜きでライブやるのかとか、僕はもうノータッチだったし、僕はもうわからないから全部預けた。メンバーなりに繋いでくれてるっていうのを感じたし、感謝しかない。ちゃんとライブやってくれたこと、ライブで繋いでくれたことがすごく意味があったんやなあっていうことをすごく感じてる。
松原:うん。雨降って地固まるじゃないですけど、KAZUOMIくんが休んで、改めてこうメンバーひとりひとりの大事さみたいなものもみんなが感じて、『PLAY』というツアーが47都道府県が始まったように――もちろんツアー中、そりゃもう人間ですから、メンバー同士のいろいろな不満も絶対あることは百も承知なんですけど、スタートにそういうROTTENGAFFTYの5人がギュッとなったっていう印象はめちゃめちゃありますね。

「うわ、これNOBUYAくんにだまされたやん」って思いましたもん(笑)
松原裕(パインフィールズ、610)×KAZUOMI(ROTTENGRAFFTY)
松原:この流れで、ロットンについていろいろ訊いていきたいんですけど。僕から見てね、ROTTENGRAFFTYの5人はもう絶妙なバランスやと僕は思ってるんですよ。
KAZUOMI:うん。
松原:20年間も一緒にやってきたから、そりゃいろんな、僕らスタッフにはわからない何かがあると思うんですけど。よくこの5人が集まって、このバラバラな個性で、脱退もせずにやってこれたなあと、僕は関心しかしないんですよ。
KAZUOMIくんはどう思ってるんですか? この5人の集合体について。
KAZUOMI:すっごい……イビツ。
松原:イビツですよねえ。綺麗な五角形じゃないですからね。
KAZUOMI:なんかイビツやし、人それぞれそうやけど、みんな持てる戦闘力が全然違うから。僕はやっぱり音楽的な発想とか、そういうことに関してはメンバーを頼ってないし。
松原:KAZUOMIくんが自分の仕事やって思ってるって意味もあるってことですよね。
KAZUOMI:でもバンドってそれだけじゃないじゃないですか。
松原:そうですね。舵を取ってどこへ進んでいくかとか。
KAZUOMI:もちろんいろんな人と繋がることも大事やし、応援してもらう人と出会って繋がることも大事やし、それもバンドのやることやし。それでもなんかイビツかな。うん。…………僕ね、ほかのメンバーが、インタビューとかステージ上でも「メンバー5人、メンバー変わらずやってきた」っていうことを言う時があるんですけど、変わらずやってきたというか、変わったらたぶんもう無理やったんですよ。
松原:ああ……そうやと思いますよ。誰か変わっても成り立ってないよね。
KAZUOMI:成り立たないし、たぶん僕はもう……イヤやし。やる意味ないなって思ってしまうのと、現実的にもう無理。だから、こんだけずっとメンバーチェンジなしで頑張ってやってきたというよりも、このメンバーでやるしかなかった。僕はそういうほうが強いかなっていうか。
松原:ふふふ、そうやねえ。だって最初PINEFIELDSに入ります、一緒にやりましょう!って言ったタイミングで、HIROSHIくん脱退するって言ってましたもんね。あとから聞いて、マジですか?!って(笑)。
KAZUOMI:ははははは。
松原:「うわ、これNOBUYAくんにだまされたやん」って思いましたもん(笑)。京都で、メンバー5人と僕で飲んでて、HIROSHIくんが駅まで僕を送ってくれてる時に、「俺抜けるけど、ほかのメンバーよろしくな」みたいな(笑)。
松原裕(パインフィールズ、610)×KAZUOMI(ROTTENGRAFFTY)
KAZUOMI:ははは! でも彼なりにあの時はたぶん……人間なんで、みんな。精神的に追い込まれて、どうしても続けられないと思ってしまう時だったんだと思う。僕もあるし、ほかのメンバーもそうだと思う。で、これを乗り越えるしかないと思ったし、そのあと僕は後日HIROSHIと2人で会って「いや、HIROSHIじゃないと無理やから」って事を伝えて。そんな事があったからこそ、5人で新しいスタートを切れたと思うし。
松原:ああ、なるほど。
KAZUOMI:精神が不安定になる時は誰だってある。。
松原:ずっと24時間一緒にいるマネージャーのガンちゃん、ようやってるわって思いますもん。ほんまに(笑)。
KAZUOMI:たぶんね、マネージャーってそうなのかもしれないけど、もう彼はメンバーに会うのいやでしょうね(笑)。そうなりますよね。でもそういうふうに向き合ってもらわないと僕ら成り立たないし。
松原:ほんと愛がないと無理ですね! ほんとロットンが好きじゃないと無理ですし。バンドとマネージメントって、レーベルもそうですけど、こんな二人三脚な仕事は。やっぱりそこにすごい魅力を感じますね。こんなやりがいのある仕事ないなって。
KAZUOMI:俺は……入ったのがここで良かったなってすごい思うんですよ。
松原:もう、そう言ってくれると嬉しいですけど。
KAZUOMI:そばで一緒に闘ってくれる、もう命を預けるみたいなことだと思うんですよ、事務所って。そういう人たちと一緒にやれてる事、――あ、これじゃないともうあかんわ、これじゃないとたぶん闘えないんだな、と思ってます。入った当時は、僕ひとりがなんとかしようと思ってた部分もすごいあったから。
松原:ああ、前も言ってましたね。
KAZUOMI:今もありますよ、そういう気持ちは。たぶんメンバー個々にもあるんだと思うんですけど、まず一緒に戦ってくれるメンバー以外の存在がいかに大事かということが、このPINEに入ってやっと理解できたというか。
松原:僕もそうかもしれないです。だから事務所とバンドの相性って、ほんま大事やと思います。ただ僕が打ち上げでぶわーって暴れてたら、KjくんがN∀OKIくんに「あんな社長に命預けて大丈夫か?」って言ってたの一生忘れないですけど(笑)。
KAZUOMI:ははははは!
松原:N∀OKIくんもちょっと悩んでましたけどね、大丈夫かなあって(笑)。まあでも、バンドが何をしたいかとかね、ちゃんと考えてやるのは事務所として力の見せどころやなあとは思いますね。

僕は武道館というのを、やっぱりすごく聖地やと思ってるところがあるんですよ。
松原裕(パインフィールズ、610)×KAZUOMI(ROTTENGRAFFTY)
松原:さて、続いては。武道館のことについていろいろ訊きたいんですけども。実際、『PLAY』のツアー47都道府県も残すところファイナルの日本武道館ワンマンですよ。ついにね!
KAZUOMI:うん。
松原:想像できてました? 実際どうですか?
KAZUOMI:もちろんずっと、したいなって理想はありましたよ。さらにもっとっていうのもありますよ。
松原:もちろんね、ゴールではなくて通過点なんですけども。
KAZUOMI:そうそう。でも俺らみたいなバンドが武道館に立てるっていう、武道館でライブをするっていうこと自体、誰よりも俺が感動してると思う。好きで応援してくれてる人や、松原もそうやし、まわりの人とか身近な人より一番、俺がびっくりしてる(笑)。
松原:本人が?(笑)。
KAZUOMI:こんなバンドで、こんな「わ―!」言うてるような、「いけえー!」とか言うてるバンドが、武道館に立てるっていう。しかもこのキャリアで初武道館っていうのが――。
松原:結成20年目前にして。
KAZUOMI:そう。それは一番びっくりしてる。
松原: 10年前、“This World”をリリースした時は、まさか武道館ワンマンまではなかなかイメージは正直できてなかったですけど。これもいろいろあってね、ツアーを組んでいってファイナルどうしようかって言ってたんですよね。で、武道館も建て替えがあって今すごい殺到してるから、申し込んでみて、取れたらやりませんか、みたいな話で。そしたらまさか、ツアーファイナルのタイミングでとれたという。運命感じましたね、僕は。
KAZUOMI:そう、運命を感じた――その時もたぶん電話したと思うんですよ。「とれたけど、どう思う?」って。俺が……アーティストがそんなこと言ったらあんまりあかんのかもしれないけど、松原のロットンに対する夢とかに、ちょっと乗っからしてもらってるところがあんねん。
松原:僕が懸けるロットンへの想いとか、夢みたいな?
KAZUOMI:もう「これ、やるでしょ?」って言ってたじゃないですか。「やらないとどうするんですか?」くらいの感じで。
松原:うん、僕はずっと武道館やと思ってたんです。
KAZUOMI:僕は武道館というのを、やっぱりすごく聖地やと思ってるところがあるんで
すよ。
松原:僕もあります。
KAZUOMI:当日はそんなつもりで立とうとは思ってないですけど――思いすぎると飲まれるんで(笑)、そういう気持ちは持とうとはしてないんですけど、ええのん?みたいなところがちょっとあります。
松原:どういうこと? 俺たちでええの?っていうこと?
KAZUOMI:うん。
松原:そんなこと思わなくてもいいかなと思いますけど。
KAZUOMI:でもその時に、「やるでしょ。絶対いいですよ」って松原が言ってたから。じゃあやる、みたいな……なんか乗っからせてもらった感じが。
松原:そうなんですか、へえー! それちょっと初耳です。
KAZUOMI:気持ち的にそういうところあります。
松原:そうなんですね。で、武道館をやるってなって、『PLAY』が出て、メンバー5人が変わったという感じはあります? 僕はKAZUOMIくんが休んだっていうことも、武道館っていうのも含めて、全部が合わさって、メンバーの意識がすごい高まったって感じてて。
KAZUOMI:うーん、結局何も変わってない部分もいっぱいあるけども、今まで一番いいツアーかもしれない。僕が望んでる、向き合うというところで、メンバーと一番向き合えてるツアーになってるかなって、それは事実です。ただもっと向き合いたいなと思ってるのも事実です。メンバー間のバイオリズムが噛み合わなかったりもするけど、今までで一番いいところまではいけてるかなあ。武道館で恥ずべきライブをしないために、日頃のツアーの1本1本メンバー同士で向き合うことがいかに大事かっていうことも、メンバー全員思ってると思う。うん、一番いいですね。
「もうすぐロットンの武道館」っていう話をするたびに僕もわくわくして、まわりも楽しみにしてるっていうのがねえ。武道館マジックというか

松原裕(パインフィールズ、610)×KAZUOMI(ROTTENGRAFFTY)
松原:こないだフェスのアプリで映像観たんだけど、脂乗ってるライブしてるなあって思いました。生やったらもっといいやろうなあと。
KAZUOMI:ツアーってやっぱ良いなって思う。今回、全都道府県って、キャリア上初めてなんですよね。前までは、俺、ツアー中に制作してたりしてたんですよ。でも今回は、勝手に出てくるもんはいいけど、作らなあかんと思って作るのはやめにしてて。こんだけライブだけに集中できてるっていうのが、初かもしれないです。ライブだけに向いてメンバーと会話したりとか。ほんまにいいツアーを回らせてもらってる。
松原:だから武道館が楽しみですよ。ほんまに。
KAZUOMI:だから、武道館はやること決まってるかなっていうのもある。あのままをするだけでしょ。
松原:うん、47都道府県で回ってきたものをね。
KAZUOMI:回ってきた僕らがお客さんと作ってきたことを、もうそのままやるだけかなっていうふうにしか思ってなくて。……いろいろ考えましたよ。今も考えてるし、このツアーで観せられなかった部分ももちろん見せるんですけど、そもそも今まで作ってきたものをそのままドーン!みたいな感じ。その当日にメンバーがどんな気持ちでステージに立てるかで、もうその日が決まるなあと思いますね。
松原:N∀OKIくんも今までになくストイックやなあと思いますし、侑威地くんもすごい意識が高くなってて。もちろん気負ってほしくはないんですけど、ほんまに期待してます。
僕、怒髪天の増子さんが言ってた言葉がめちゃめちゃ残ってて、「武道館なんて、自分のためにやるもんじゃないんだよ、人のためにやるもんなんだよ」みたいに言うてたんがほんまそうやなあと思って。僕のまわりのロットンファンも、ロットンの友達とかもみんな、ほんまに楽しみにしてると。「もうすぐロットンの武道館」っていう話をするたびに僕もわくわくして、まわりも楽しみにしてるっていうのがねえ。武道館マジックというか。今回の甲子園の秋田の農業高校が勝ちあがっていくストーリーみたいな、あれをちょっとロットンに感じてしまう(笑)。
KAZUOMI:あははは。
松原:京都のドブネズミの5人組が、20年かけて武道館にたどり着いたみたいなドラマを見せてもらってることが。バンドの楽しさですよ。
KAZUOMI:だから、もう武道館だからって言って、ロットンの新しい一面なんかどうでもいいんですよ。僕の中で。
松原:僕もそう思います。
KAZUOMI:これを武道館に持っていくだけっていうこと。
松原:結局、バンドとしてはこれを超えて、武道館の次、どういうロットンを見せるかみたいなところになってくるんかなあとは思いますけどね。
KAZUOMI:そのひとつを、この武道館で何か感じれるはずやし、そういう一面も絶対に見せれると思っています。
松原:うん。楽しみです。これを聞いたみなさんも武道館にかけつけてほしいですよね。
KAZUOMI:かけつけてほしい。無理をしてでも見にきてほしい。
松原:ねえ!
KAZUOMI:で、絶対に死なないでほしい。
松原:僕がね(笑)。
KAZUOMI:あはは。聞いてるみなさんも。とにかく生きててほしい。
松原:テーマがでかくなりましたけどね(笑)。
KAZUOMI:とにかく死なないでほしい。

今もね、「どうしよう?」ってほんまに思ってます。この人おらへんかったら俺、誰と話したらええんやろうって
松原裕(パインフィールズ、610)×KAZUOMI(ROTTENGRAFFTY)
松原:まあ……知らない方もいるので改めて、僕は……2016年に癌がわかって、余命2年ですみたいなことを申告されて。そのあとにこの武道館が決まって「この武道館まで見届けたんねん!」って思ってて、ついに来月ですから。「キターーーーーーーーーー!」っていう気持ちが強いですよ。
……で、ずっと訊きたかったことでもあるけど、一緒にやってきて、僕が病気になって、ロットンと一緒に最前の現場出るのを一旦退いて。援護射撃みたいな立場に回らせてもらった時に、KAZUOMIくんはどう感じたんですか? 俺がもっとロットンを、みたいな気持ちになったんですか?
KAZUOMI:えっとね…………正直、「どうしよう?」でした。ずっと「どうしよう?」でした。ここまで一緒に作ってきた、自分のことをわかってもらうやり方とか、すごく深くまで向き合える人が、いなくなるってことを想像――まずその、聞いた時は、ちょっとわからんから、ええ?って感じやって。そのあと……今もね、「どうしよう?」ってほんまに思ってます。この人おらへんかったら俺、誰と話したらええんやろうって。
松原:そんなことないし(笑)。
KAZUOMI:ビジョンを誰と共有してもらえるんかなっていうか。だから最初の1年間くらい「どうしよう?」しかなかったんですよね。どんどんどんどん気持ちが陰になるだけでっていう感じかな。
松原:そうですよね。僕も「どうしよう」しか考えてないし。でも、改めてロットンのプロダクションとして610という会社を作って。強力な仲間に来てもらって、いいチームもできたと思いますし。僕はまあ一安心して『PLAY』という作品に挑めて。ロットンをこれからどうやってやっていくかっていう部分は、もう今安心して見れてる状況があるんで。だからこそ思うこともあるし、見えることもあるし、新しい見え方でロットンとまたつきあってる感覚はありますね。
KAZUOMI:そうなんですよ。新しくもう1回作ろうっていう気にもやっとなれてるから。でも1から真新しいものを作るわけではないし、その輪を大きくできたらいいかなあって。
松原:なるほど。夢はどんどんふくらんでますし、この武道館が終わったあと20周年もありますから。言える範囲でKAZUOMIくん的に、20周年に向けてなんか考えてるんですか?
KAZUOMI:……うーん、まあ、絶対音源は発表したいなあと思ってます。新しい作品を来年も出したいなって。
松原:まずその作品というのがひとつあって、ツアーとかも考えてる感じですか?
KAZUOMI:そうですね。
松原:まあいろいろ、まだ言えませんね(笑)。
KAZUOMI:そうですね、まだ言えないですね(笑)。すみません!
松原:実際これから、音楽シーンもいろいろ変わっていくじゃないですか。で、今回協力してもらってるSpotifyさんは、サブスクリプションっていう定額の配信があるんですけど。こういうことについてはKAZUOMIくんが思うことあります? 僕たちってやっぱ世代的にはCDじゃないですか。
KAZUOMI:そうですね。
松原:でも僕の息子ってもう高校生なんですけど、みんなサブスクで音楽聴いてて。KAZUOMIくん的にはロットンがどんな感じでサブスクに向き合っていくのかっていうのがもしあれば、訊きたいなって思うんですけど。
KAZUOMI:僕は昔から、どんなかたちであれ、あんまり関係ないかなと思ってて。聴いてもらえれば。まあ音質が変わるのはあるんでしょうけど、ミックスした音、マスタリングした音が流れるわけじゃないですか。それだけかなあというのは正直あります。僕自身はね。ただそこにアートワークが入ってきてたり、そういうかたちはなくなるのね、ほかのかたちになるのね、くらいの感じですね。っていうか、なんでもいいでしょ、音楽って。
松原:そうですね。でも僕は、数年ぶりに、こないだのハイスタ(Hi-STABDARD)は買いましたけどね。
KAZUOMI:あ、そう! なんやろ、ハイスタのCD僕も買いましたけど、欲しいんですよね、あれ。CDで持ってたいって思ってしまう。
松原:持ってたいですよねえ。しかも、奇しくもロットンのCD、2作連続でハイスタと発売日一緒でしたからね。衝撃ですけど。
KAZUOMI:あはははは! そうですそうです。
松原:さらにAIR JAMとポルノ超特急が被るっていう。びっくりする事件がめちゃめちゃありましたから。
KAZUOMI:僕ら的には、(CDのリリースが被るのは)ありがたいしかなかったですね。
松原:やたらかぶせてくるなみたいな(笑)。絶対意識してへんけどね、向こうは。
KAZUOMI:全っ然意識してないでしょうね(笑)。でも嬉しかったです。同じ日や!って。
松原:だから、KAZUOMIくんとしては、ロットンの作品はCDであれ、サブスクであれ、配信であれ、どういうかたちでも聴いてもらったらいいって考えてると。
KAZUOMI:そう。CDやからとか、サブスクやからとか、僕らが力を変えるわけではないじゃないですかっていう感じ。
松原:むしろ、僕Spotifyのヘビーユーザーですけど、アプリ内でダウンロードできるから、便利なんですよね。で、容量も食わずにいけるし。今回もね、ロットンのプレイリストが出てて。その中に、この対談が挟み込まれてるわけですよ。
KAZUOMI:そうなんですか! うわあ。
松原:説明しましたやん(笑)。
KAZUOMI:こんな会話で良かったんかな。
松原:わかんないですけど(笑)、絶対いいと思いますよ。結構深い話できたと思いますし、ある程度、このふたりやからできた内容もあったんじゃないかなと思いますから。音声ではSpotifyで聴いていただいて、で、SPICEさんのほうで、テキストのほうも読めるから。だからどっちで見てもらってるか、聴いてもらってるかわかんないんですけど、両方で楽しんでもらえたらなと思います。それを経て、このプレイリストを聴いて、武道館に行ってもらいたいですね。10月3日、お会いしたいですよね。
KAZUOMI:はい、そうです。

いろんな人の心をロットンの音楽で魅了したいしとか、もっと多くのとか、そういうふうに思ってますけどね
松原裕(パインフィールズ、610)×KAZUOMI(ROTTENGRAFFTY)
松原:最後に、身近にいる一番のロットンファンであり、関係者として、KAZUOMIくんに最後、シメで訊いておきたいんですけど。
KAZUOMI:はい。
松原:この先のロットン、ゴールって一体なんなのかなと。そこをずっと訊きたいなと思ってたんですよ。
KAZUOMI:えっとねえ…………それ、もうずっとテーマですね。ゴールっていうのは、たぶんなくて。何かを達成したからってことじゃないし……ゴールはやっぱないですよ。
松原:どこに着地しようっていうのは見えてないってことですか?
KAZUOMI:今は見えてない。今、とにかく僕自身としては、今僕40なので、あと10年間は、まずこのバンドを絶対続けてたい、50までやってたいというのがまず目標にあります。たぶん50くらい付近になったら、その先のことをまた考えるやろし。あとおぼろげながら、こんだけ音楽をやって生きてこさせてもらったんで、やっぱりずっと音楽をやってたいなということがあるのと、音楽をやってる老後をちょっと考えたりするようにはなってますね。
松原:ええ! KAZUOMIおじいちゃんの想像してるんですか?(笑)。
KAZUOMI:そう。だから今すっごくギターを練習してるんですよ。とにかく暇さえあればギターを持って――いろいろ弾けたほうが老後おもろいかなっていうか。
松原:あんまりイメージできないですけど、おじいちゃんになってもバンドやっていきたいなってことですか?
KAZUOMI:いや、もちろんバンドできてたらいいけど、たぶん無理でしょ(笑)。
松原:ははは。まあ、70、80でロットンはなかなかできないかもしれないですね(笑)。
KAZUOMI:そんなことすごくよく考えるようになったんですよ。このロットンっていうバンド――こういう熱を出すバンドを、いくつまでやれるかなというのはまずあるんですよね。とにかく今は50歳を目標にやってますけど。
松原:大きなゴールとしてはまだ見えてないですけど、一歩一歩進んでいきながら、ゴールを探していきたいということですか。
KAZUOMI:そうですね。……ゴールってどこなんでしょうね。
松原:ねえ。でもやっぱサザンオールスターズみたいにずっとやり続けられるのか。それともどっかで輝いてるまま終わるのか、とか。僕らが憧れてた、たとえばX(JAPAN)とかLUNA SEAとか、もちろんHi-STANDARDもそうやし、ずっと続けていくというカッコよさももちろんあるし。
KAZUOMI:そうですね。なるべく続けてたいなあというのがあります。
松原:続けていくロットンを見せていきながら、ってことですね。
KAZUOMI:「絶対解散しない」とか「絶対ずっとやる」っていうより、今からとにかく50まで。そこまでできたのならば、その先はまたあるかなっていうふうに今は考えてるっていう。
松原:なるほどなるほど。そのあともしかしたら還暦までやろうとするのかもわかんないし。
KAZUOMI:その頃には、このバンドで新しい音楽性も表現できてるかもしれないんで。
松原:そっかそっか。また違うテイストが入ってるかもしれへんしね。
KAZUOMI:へへへ、60で……ねえ(笑)。
松原:60の“ThisWorld”聴いてみたいですけどね! NOBUYAくんが杖つきながら、人の上乗ってほしいです(笑)。
KAZUOMI:ははははは! それはそれでおもしろいですねえ(笑)。そういうふうなこともできたらいいし、っていう感じですかね。ほんと、ゴールはここって見えてない。そりゃもっと大きいところでもやりたいし、いろんな人の心をロットンの音楽で魅了したいし、もっと多くのとか、そういうふうに思ってます。
松原:わかりました。じゃあぜひぜひ、僕も含めて、ファンのみなさんも一緒に還暦のロットンを見るまで応援したいと思ってますんで。
KAZUOMI:うん、して下さい!
松原:今日はどうもありがとうございました。楽しかったです。
KAZUOMI:へへ、ありがとうございました。
カメラマン:You Ishii
Text:後藤寛子
ROTTENGRAFFTY日本武道館(ONEMAN)開催記念~KAZUOMI✕松原裕(パインフィールズ/610代表)スペシャル対談&Spotifyスタッフが大胆予想!日本武道館プレイリスト~

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編集後記
正直今回の対談記事はSPICEで過去掲載させていただいた対談記事の中でも1、2を争う程素敵で、想いに溢れた記事に感じます。
アーティストとマネージメント、人生をかけたお互いの表現、絆、そして何か一つを伝えることや、表すことにそれぞれのフィールドで同じ熱量で向いあうこと。文章で書くのは簡単ですが、これがいかに難しく、最も物事の根幹に関わる重要な事であるか。長い時間をかけ、それぞれの思考や気分に至るまでを共有して、咀嚼して、消化していく作業。
ネットに情報があふれ、簡単にコミュニティが形成され、人と人のやりとりがデータ化され希薄になっていく現代において事務所とアーティスト、という関係、人と人が作りだす空間を心底見てみたいと思えるお二人の会話でした。
ROTTENGRAFFTY日本武道館ツアーファイナルを目撃したい、そう心から思った。
SPICE総合編集長 秤谷建一郎

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