【ライブレポート】R指定、“メンヘ
ラ”から新たなフェーズへ

R指定が9月1日(土)福岡市民会館にてワンマンツアー<ANNIHILATION>のファイナル公演を行った。
全滅や絶滅という意味を持つ“ANNIHILATION”。その言葉どおり、R指定のイメージを良い意味で覆すライヴとなった。これまでR指定は“メンヘラ”というコンセプトを掲げて数多くの楽曲を作り上げてきた。そのことがヴィジュアル系シーンに衝撃を与え、彼らは人気を博したわけだが、深い意味でメンヘラを取り上げるのではなくトレンドの一端として他のバンドが扱うようになってきた現状を見て、つまらないと感じたのかR指定はあっさりと方向転換し、新たなフェーズへと突入したのだった。
“宗教”というコンセプトを掲げて作られたニューアルバム『死海文書』は、誰もが想像していた「R指定とはこういうバンドだろう」という先入観をいとも簡単に壊してくれた。創造的破壊という言葉があるがこの作品はまさにそのとおりであり、自らをもってヴィジュアルシーンの新陳代謝を促したように思えてならない。

とはいえ、<ANNIHILATION>ツアー初日となった品川ステラボール公演ではまだアルバムは発売されておらず(iTunes限定先行配信はツアー数日前に始まってはいたが)、全てが未知数の中でライヴはスタートした。振り返ると初日の公演は全体を通して粗削りではあったが観客からの評判も上々だっただけに、ツアーを重ねるにつれてクオリティの高いものに変化していくだろうとは思ったのだが、ファイナルでここまで成長するとは想像以上だった。また、彼らが活動拠点としてきた福岡がツアーファイナルの場所に選ばれたこともかなり大きいと思う。今でこそ東京を活動の中心にしているがR指定の原点は誰が何と言っても、福岡だ。
凱旋公演ともいえる今夜は他県からの遠征組に加え、地元の指定女子・男子(R指定ファンの呼称)の姿も目立っていた。開演時間が少し過ぎた頃、死海文書を具現化した映像が目の前にあるスクリーンに広がっていく。そのまま楽器陣が一斉にステージに現われたあと、しばらくしてからマモ(Vo)が球体関節人形のような人間的ではない動きを見せながら定位置へと着いた。1曲目の「予言」では、血液が滲むように真っ赤に染まったステージ後方でトーチの炎がゆらゆらと揺れる。そのまま一点を見つめていると感覚が麻痺していくようだ。そんな中、マモの「oi!」という声で我に返ったかのように無我夢中でヘッドバンキングを始める客席。まるでスタンディングのライヴハウスかと見間違えてしまうかのような光景に、ここがホールだということを一瞬忘れてしまった。

続く「アポカリプティックサウンド」と「-SHAMBARA-」もツアー初日と比べて格段に成長を遂げていた。インターバルともいえるSEを挟んで演奏されたのは「月が綺麗ですね。」毒々しく色付く三日月の映像を背景につま弾かれる音はどこか不気味であり、いつまでも余韻を残す。だが、このまま世界観を綺麗に持っていかないところが彼らのライヴらしい。続けて「あのこ」を演奏していく。リリックムービーと併せて演奏されたことにより、曲の深くまで理解することができた。何であのこの方が…という女の子の嫉妬心がメラメラと伝わってくるこの曲は、これまでのメンヘラ路線を継承していると言っていいが、『死海文書』という濃い世界観の中に入ったおかげで単純にメンヘラ曲と言えないところがあり、ライヴでも良いフックとなっていた。
勢いがあったのは「正義のヒーロー」も。楓(G)は水を得た魚のようにステージ上をクルクル回りギターをかき鳴らす。本編中盤では「パラレル世界」「forest」「望まぬ生命」といったミディアムテンポの楽曲を並べ、1曲ごとに適した映像をスクリーンに映し出すというホールならではの演出を堪能できる場面が続いた。「パラレル世界」では宏崇(Dr)のドラマチックなドラムフレーズが曲を一層引き立て、「forest」は照明の光が少ない分メンバーの表情よりも先に演奏が入ってきたことでバンドとしての味わい深さを感じさせてくれた。そこから間髪いれずに「望まぬ生命」へと移ったのだが、ここではZ(G)の激情溢れるギターソロが良い塩梅となっていた。

そのまま雰囲気を壊すことなく「死の祭壇」に場面が切り替わると七星(B)が天を仰ぐような目で宙を掻く仕草を見せる。インストゥルメンタルゆえにこうした表現方法は曲の良さを際立てており、そのあとに続くマモの動きはまるで演劇を見ているよう。どこをとっても見せ場しかない曲であることは確かだ。だが、このあともずっと静かな空間が続いていったわけではない。「-ZANGE-」をきっかけとして本編冒頭を思い起こさせるような激しさを取り戻していった。ここでは“お赦し下さい”の言葉のあとに指定女子・男子が一斉に着席して指を組みステージに向かって祈りを捧げていく。その光景たるや、まさしく宗教。スクリーンに映る十字架に照らされたマモは神のような威厳を見せていた。
そのあとで「いけんよなぁ! そんなもんじゃねぇよな!」と語気を強めに客席を奮い起たせていくと、「SODOM」と「毒廻る」で荒々しい光景を広げていった。本編ラストを飾ったのはスローナンバー「命日」。猛々しい声を持つマモが女性のような高音美声で歌い出すと雲の切れ間に光が差すかのごとくライトがステージを照らしていく。曲が進んでいくにつれステージ上部から羽がヒラヒラと舞い落ちてきた辺り、ここは天国なのではないかと錯覚するほど。曲が終わると心臓と同じテンポで刻まれるトクトクとした音と共にメンバーが静かにステージから去っていった。

それまでとは一転、アンコールでは衣装からツアーTシャツへと着替えたメンバーが笑顔で登場。マモに至っては自身が立ち上げたアパレルブランド・hemeyuri.secretの新作Tシャツを軽やかに着こなしている。「もっといけんだろっ!」という扇り文句から「シンクロ」が始まると、もう一度本編に戻ったのではないかというぐらいの盛り上がりで会場は大いに湧いた。さらに「終身旅行」を演奏すると、歌詞に出てくる博多駅を始め、メンバーの懐かしいライヴ写真など見るほどに感慨深い思い出たちがスクリーンへと次々に投影されていく。この曲の主人公は夢を追うためにいくつかの犠牲をはらい東京に行く覚悟を決める。その姿はR指定のメンバーが上京した8年前とどこか重なる。誰にも頼れず、味方もおらず。でも、“東京では死ねないから”という気持ちだけでガムシャラに走り続けてきた。
後のMCでマモは自分達のことを“雑草”と表現していたが、都会で踏まれてきた経験があるからこそ今のたくましい5人が存在している。だからこそ、今回のツアーファイナルは地元の福岡でやりたかったのだろう。いまだにレコーディングを東京ではなく福岡に帰ってやっているのもこの場所がみんなの原点であるから。そんな自分達を成長させてくれた所を指定女子・男子に見せてあげたかったというのが1番の理由かもしれない。Z曰く「夢はいくつになっても叶う」と。昔自分が好きなアーティストが福岡市民会館でライヴをやっていたのを観てそこから何年か後に自分もこうしてステージに立てているのだから、必ず夢は叶うものだと。それを聞いた他のメンバーも次々に福岡市民会館に自分もライヴを観に来たことがあるとアーティスト名を挙げていたのだが、そのときの目は完全にキッズとなっていた。その上で、「次は福岡サンパレスでライヴをやりたい」とマモは次の野望を明かす。
「雑草みたいだったバンドが今ではヴィジュアル系シーンの中心のひとつになったと言われるんですよ。事務所にもメジャーの人間が来てメジャーデビューしませんかって言われるようになったんですよ。でも、俺らは断りました、もちろん。なぜなら、君達が好きな音楽や求めている音楽はメジャーシーンには一切ない音楽だから。俺らは俺たちを貫くために、福岡で結成した当初の気持ちを大事にしながらこれからもヴィジュアル系シーンを引っ張っていこうと思うし、俺たちがいる間は九州のバンドしょぼいなんて絶対に言わせないし、これからも福岡のバンドとして頑張っていきます!」と高々と宣言する。その力強い言葉に客席からは拍手が起こった。余談だが、サンパレスでライヴやりたいというのをうっかりレオパレスでライヴやりたいと言い間違え、即座に宏崇から突っ込まれて笑いが止まらなくなるマモがいたというのも追記しておきたい。

「そんなわけでR指定はアンコールからが本番なので、お前ら全員でとばしていけるか!いけんのか!」と再度扇ってみせると、そこからは本編よりも長い時間でアンコールが行われた。ツアーファイナルということもあってかダブルアンコールではマモと楓の2MCという形で「LOVE is HAKATA」、さらには「HAKATA MENTAI ROCK」とどこまでも地元贔屓で楽しませてくれた。この日はトリプルアンコールまであったのだが、トリプルアンコールまでやったのはかなり久しぶりなのでは。指定女子・男子の熱い想いがメンバーを動かしたということだろう。「國立少年-ナショナルキッド-」を大ラスに持ってきた「ANNIHILATION」ツアーは「今日が1番最高でした!」というマモの最愛の褒め言葉でもって締め括られた。福岡というしっかりとした根っこがあるからどこにでも羽ばたいていける、それをまざまざと見せ付けられた一夜だった。

文◎水谷エリ
写真◎ゆうと。

<R指定presens メンヘラの集い>

2018年10月17日(水)渋谷TSUTAYA O-EAST
出演者:
R指定/ストロベリーソングオーケストラ/首振りDolls
ミオヤマザキ/じゅじゅ/THERE THERE THERES/ヒステリックパニック/Sub act:レイヴ(順不同)

2018年10月18日(木)渋谷TSUTAYA O-EAST
出演者:
R指定/アーバンギャルドぜんぶ君のせいだ。
椎名ぴかりん/虚飾集団 廻天百眼/ 魔法少女になり隊BRATS/Sub act:シェルミィ(順不同)


<R指定ファアストアルバムツアー『人間失格(再)』>

2018年11月2日(金)TSUTAYA O-Crest
2018年11月5日(月)仙台darwin
2018年11月7日(水)札幌KRAPS HALL
2018年11月8日(木)札幌KRAPS HALL
2018年11月12日(月)広島SECOND CRUTCH
2018年11月14日(水)福岡DRUM Be-1
2018年11月28日(水)umeda TRAD
2018年11月29日(木)名古屋Electric Lady Land
2018年12月7日(金)新宿BLAZE

<R指定-苦執念計画-最終公演『此の子
の九つのお祝いに』>

2018年12月24日(月・祝)福岡DRUM LOGOS
2018年12月29日(土)名古屋DIAMOND HALL
2018年12月30日(日)なんばHatch
2019年1月8日(火)豊洲PIT

BARKS

BARKSは2001年から15年以上にわたり旬の音楽情報を届けてきた日本最大級の音楽情報サイトです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着