【初参加レポ】<朝霧Jam>は、寝食
とライブが融合する音楽ファンのホー

なぜ今まで参加しなかったのかという後悔を覚えながらも、「この空間を知れてよかった」と新たな喜びを見つけることができた2017年度の朝霧Jam。目前には富士山という雄大なロケーションのなか、寝食に至極の音楽が溶け込んでいた最高の2日間について初参加者の目線からじっくりとレポートしたい。

取材・文=堺 涼子(BARKS)

  ◆  ◆  ◆

朝霧Jamと言えば、今回で17回目の開催に至った秋フェスの元祖である。もちろん、SNS時代以降は楽園のようなその模様の数々を目にしていた。それでも筆者が参加してこなかった一番の原因は、キャンプにまつわるハードルの高さだった。キャンプ文化を通ってきていないのだ。だが<It’s a beautiful day〜 Camp in 朝霧 Jam>という正式名称のとおり、夜は音楽が鳴り止み、ゆっくりとキャンプを楽しむことにこのフェスの醍醐味がある。1日券が発売された昨年には日帰りでの参加も検討したが、朝霧に行くならキャンプしなきゃと思いとどまって断念。よって今年は、新登場した直行バスツアーのレンタルテント・プランに飛びついた。宅急便サービスを利用すれば手荷物はかなりコンパクトになるし、会場に到着すると既にロゴスのテントが設置され防水シートも敷かれているという快適っぷりであった。しかも、メインステージである“RAINBOW STAGE”の後方というとても便利な位置にだ。このステージはテントがすり鉢状に囲んでいるため、少しテントから顔を出せば、ベルセバもサチモスもUAもウィルコ・ジョンソンもエゴ・ラッピンもYogee New Wavesも観られるという夢のような寝床。フェス中の手荷物も極限まで少しで済む。
だが、自前のテントを張り、キャリーカートいっぱいに用具や食材の入ったクーラーボックスを積んで運ぶ人々のなんとも楽しそうな表情を見かけるたびに、次回は是非テントを用意し自分の城を作ってステップアップしてみたい、と奮起したのも正直なところだ。炊事や直火可能なエリアでは、さらに自由度の高い悠々自適な時間が過ぎ、なかなかステージを観に来ない人もいるというのだから(笑)、その楽園っぷりは計り知れない。ふもとっぱらオートキャンプには、Candle JUNEプロデュースのチルアウトスポット「ピーターパン・カフェ」、気球から富士山を臨む「気球乗船会」、朝市「朝霧マルシェ」まである。行かなきゃ。


(c)宇宙大使☆スター
そして今年は、なんと言っても天気に恵まれ、体育の日の3連休にかかる土日開催という日程にもかかわらず日中は夏が戻ってきたようだった。初日12時頃に会場に到着すると、日差しは降り注ぐが風は清々しいという最高の状況に歓迎された。高原ならではの開けた平地が広がっていて、自然のほがらかさを活かしながらも、アーティスティックなデコレーションが施されたり、ズラッと飲食店が立ち並んでいる。そしてカラフルなテントの数々。余計な力が抜けて身体がほぐされていくような感覚があり、早くも癒される。
このゆったりとしたタイム感は、同じくSMASHが主催するフジロックフェスティバルとはひと味違う豊かさだ。愛犬と安心した様子で過ごしている人も多い。家族連れがとても多いのも頷けた。ふと、見上げると富士山の頭頂部のみに雲がかかっていて、それを「ふじさんが帽子かぶってる!」「天使の輪みたいだ」と、貴重な瞬間をキャッチできたことをみんなで讃え合う。だがそれも一瞬の出来事で、実は天候は刻々と変化していることを目の当たりにする。いい時間を過ごしているという実感をすごく覚えた。
14時のライブスタート前から、参加者は盛り上がっていた。その開放感からか、メンバーの1人が早くも行方不明になってしまったらしい団体がいたり(笑)、テントから♪オリオリオリオ〜とバブルガム・ブラザーズの大合唱が聴こえてきたりと、もう楽しみ切っている。寝床が確保できている安心感によってリラックスできるのかもしれない。

会場の規模感がちょうど良いというのも、現場での発見だった。“RAINBOW STAGE”からダンスミュージックを中心とするセカンドステージ “MOONSHINE STAGE”への距離がほどよく、徒歩で10分くらい。その間には、地元の特産品や観光のPRの場にあたる朝霧ランド(静岡県ならではのお茶のサービスや、和太鼓体験などが実施されていた)やキッズランドが位置し、双方のライブステージは異なる世界として確立されていた。ちなみにトイレにもほぼ並ばなかったように思うし、参加者数も多すぎずストレスを感じない。
そしてやはり実感したのは、ボランティアスタッフのとてもポジティブなエネルギーだ。ゴミの分別案内や通路での誘導など運営スタッフとしてボランティア=“朝霧JAMS'”が大々的に携わっているのだが、「やりたくてやってる」という活気にみなぎっていて、つられてこちらも笑顔になる。「参加者全員が主役だ」というのは音楽フェスの常套句だが、本当の意味ですべての人がこれだけ主役になれるフェスは、他にそうないと思う。また、東北復興支援として「あさぎり絆プロジェクト」という募金活動もおこなわれており、100円以上の支援金と引き換えにあさぎり牛乳と復興支援ステッカーがもらえるというものだ。この土地の名物をいただけて支援活動に参加できる。とてもナチュラルで有意義なキャンペーンだと思った。
それと、水場で蛇口をひねって出てきた水がそのまま飲めるのには感動した。普段は購入しているバナジウム入り天然水だ。キリッとつめたくて、混じりけのない味わい。だが、2日目にはゴミが置いてあったり水場は少し残念な状態だったことも否めない。朝霧Jamに宿るこの自由や大らかさを守るためには、「自分の頭で考えてから行動する」という最低条件があることが全参加者に浸透したらいいと思った。

◆レポート(2)へ
今年は天候もよかったが、ライブのブッキングも“神年”と謳われていた。メインステージはトップバッターから、1966年〜2000年までジェイムズ・ブラウンのバックシンガーを務めたマーサ・ハイと、日本を代表するファンクバンドであるオーサカ=モノレールのコラボという景気がよすぎる超ファンキーなステージで、子供もおじさまも踊り出す始末。この居心地のいい環境で、世界レベルの音楽が体験できるという唯一無二の多幸感が一気に広がった。ビールが進まない理由もどこにもない。

このRAINBOW STAGEでは、今年は新作『14ステップス・トゥ・ハーレム』もリリースしているガーランド・ジェフリーズが歌ったヴェルヴェッツのカバーや「Hail Hail Rock 'N' Roll」の力強さに圧倒され、SMASHの代表・日高氏をステージに上げ感謝を述べるスペシャルなひと幕もあった。その直後にはウィルコ・ジョンソンが登場するという、目まぐるしいほどのロックの宴だ。だが、もう一方のステージではクラブミュージックの楽園が広がっていたのである。朝霧Jamの“ジャム”は、ジャンルを超えたラインナップを指す。いい意味でのごった煮、いい音楽ならなんでもありということだろうが、2017年度はその振り幅と深度が際立っていた。

気づけばもうすっかり日が落ちていた頃、UKクラブシーンの注目デュオであるバイセップは、クラシカルなハウス〜テクノ〜エレクトロを軸としながらモダンなセンスが光るナンバーで小雨の中でも爽快に踊らせてくれたし、続くマウント・キンビーは、“ダブ・ステップの最右翼”という事前の肩書から飛躍し、ディープかつ肉感的な音像を奏でてくれた。今、観ておいて絶対によかったアクトが連続したが、それに続くアクトがカール・クレイグなのだから朝霧は凄まじい! そばにいたお客さんが「なんだか不気味な空間だなぁ」と言ったのも無理はないほど(笑)、スピリチュアルな異空間からスタート。オーケストラと共演しテクノ〜エレクトロの再構築を図ったプロジェクトのスタジオ盤『VERSUS』がリリースされたばかりの彼とあって、以降はジャンルを横断する非常に創造性溢れるステージだった。夜空から注ぐ月明かりもこの日のMOONSHINE STAGEのトリを魅惑的に演出していた。

▲BICEP


▲MOUNT KIMBIE


▲CARL CRAIG

その頃メインステージでは、ポップでスイートなベルセバのバンドサウンドに包まれていた。月も、思春期の真夜中に自室の窓から見上げたそれのように映るから不思議だ。リスナーに寄り添ってきたベルセバの歌が目の前で鳴っている喜び……そして、最新曲「We Were Beautiful」などからは、力強くビートを刻むようになった近年の彼らの響きをダイレクトに受けることもできた。

▲BELLE AND SEBASTIAN

夜になると一気に寒くなり、たぶん20年ぶりくらいに囲ったキャンプファイヤーで身体を温めてから寝床につく。輪に少し近寄ると、そばに座っていた人がさりげなく下がって輪の軌道を広げてくれたのも嬉しかった。
◆レポート(3)へ
朝。眠りが深かったため見逃したダイヤモンド富士は次回の楽しみにとっておくとして、それにしても風が爽やかだった。肌にあたると、まっさらな朝の中に自分がいることを実感し「また新しい1日がはじまる」という喜びとときめきを抱く。忘れがちなそんな感覚をみんなと共有したような気持ちになったのが、朝霧恒例のラジオ体操である。メインステージに集まって数千人でおこなうラジオ体操は確かに一見の価値があった。その後に朝食に食べた「高原のシチュー屋さん」のクリームシチューがとてもミルキーで絶品だったこともどうしても書き記したい。朝霧はどの飲食店もおいしくて価格が安いので、ニジマス、富士宮焼きそばなど地元のものを片っ端から試したくなるし、これでは自炊組のキャンパーも引きつけられてしまうだろう。
その後、ラジオ体操にも参加していた“DJみそしるとMCごはんのケロポン定食”という、DJみそしるとMCごはん&ケロポンズによるスペシャルアクトは大盛況。来場していたたくさんの子供たちにとっては紛れもないピークタイムだったろうが、視覚的にも聴覚的にもエンターテイメント性が高くて見事に引き込まれていく。特に、おみそはんのニューアルバム『コメニケーション』に収録されるケロポンズとのコラボ曲「ライスッス」は、“お米”というあまりにもポップな題材を、それに輪をかけてキャッチーなメロディで歌う強度のあるナンバーあった。

MOONSHINE STAGEのスタートを切ったのは、ROTH BART BARONの重厚なバンド・アンサンブルだった。非常にエモーショナルな名演。思春期性がファンキーかつダンサブルに炸裂する思い出野郎Aチームが続き、名実ともにすばらしいインディーロックを一気に味わう。初めて目にした人も、後日各アーティストのワンマン公演につい行きたくなるラインナップだろう。


▲思い出野郎Aチーム

そして、このエリアに広がる噂通りいろんな種類が揃うワークショップ、マーケットエリアを散策する。麻素材の衣服や、色とりどりのろうそく、ハンドメイドの革製品、記念にしたい富士山雑貨、うつくしい民族楽器にTACOMA FUJI RECORDSのTシャツまである……到底見切れません。フジロックの奥地のほう、フィールド・オブ・ヘブンやオレンジカフェのように、飲食やカルチャーやファッションが音楽と一体化している。実際にいくつか体験したり購入したりしながらも、驚異のリピート率を誇るという朝霧Jamだけあって、いつの間にか「次、来た時にしよう」と思わせるのだから自分でも面白かった。初参加でもホームになるのが朝霧Jamのようだ。
昨年2016年のヘブンを思い起こした、同じく日本晴れの中でのUAのステージも脳裏に焼き付いている。青空の下で聴くUAは地球のディーバだ。その後は、このメインステージ・エリア中央に位置していた苗場食堂のとろろ飯とけんちん汁を食べて愛しいフジロックに思いを馳せた。だが、しかし。もう「早くフジロックに行きたい」と願い続けているほどのフジロスを今回の朝霧Jamで癒やせそうと踏んでいたけれど、それはお門違いだった。それはもちろん、こうして朝霧の魅力に触れたことで朝霧ロスを患ったからである(朝霧はその深刻度がお天気によさに比例するそう)。冒険と癒やし、エキサイトとリラックスetc……と、人それぞれに形容できるこのふたつのフェスは、相乗効果のように魅力が発揮されるようにも思える。これからは1年間をこのふたつのフェスを軸に過ごしたいくらい。


▲UA
そしてやはり、「ただ呑みに来た」「いるだけで最高」と言われるほどのロケーションで、海外アーティストの音楽を体験できるフェスは本当に貴重だ。

UAのあとは、RAINBOW STAGEにはペトロールズ、ロード・エコー、大トリのサチモスが、MOONSHINE STAGEにはCHON、NONAME、セオ・パリッシュが登場。ロック、ポップ、エレクトロ、ラップが共存し、巨匠も新進気鋭のアーティストも集結するという贅沢の極みである。これで入場料が¥15,000、小学生以下は保護者の同伴で入場無料というのは、お世辞抜きで本当に安い(自然と共生していることまで実感できる)。なかでも、ライブスタート時から「かっけー!!」と叫ばれるほど男惚れしてしまうサチモスは、彼らの現在地をきっちりと示しメインステージのトリに相応しい雄姿だった。朝霧とサチモスの相性は抜群。ロック、ファンク、R&Bなど多彩なジャンルを咀嚼する音楽性もさることながら、「ダサいことはしない」というシンプルだが高い精神性も共通しているように思えて感動に拍車をかけた。朝霧Jamはこうして、「現行の音楽シーンを映し出す」という音楽フェスの役割も十二分に果たし大団円を迎えた。


▲NONAME


▲THEO PARRISH


Suchmos

  ◆  ◆  ◆

まるで深呼吸のように体が整う朝霧Jam。アーティストのラインナップが出揃う前にチケットが売り切れることも、大いに頷ける初参加となった。こんなに1日1日を大切に過ごせる機会は滅多にない。にもかかわらず、こんなライブが期待できるのだからリピーターにならざるをえない。「また来年」と、みんなが当たり前のようにSNSやブログで約束している理由がよくわかった。
<“It’s a beautiful day” Camp in 朝霧 Jam>

2017年10月7日(土)、8日(日) 富士山麓 朝霧アリーナ・ふもとっぱら
■Gate Open/Camp In 10月7日(土)10:00
■Show Start 10月7日(土)14:00
■Gate Close 10月8日(日)20:00 予定
※オーバーナイトキャンプ:10月9日(月)11:00まで指定場所でのキャンプが可能
※場外オートキャンプ:10月9日(月)11:00までふもとっぱらでのオートキャンプが可能
(※全券種SOLD OUT)

■10月7日(土)
BELLE AND SEBASTIAN
CARL CRAIG
BICEP(LIVE SET)
D.A.N.
EGO-WRAPPIN'
GARLAND JEFFREYS
LOGIC SYSTEM
MARTHA HIGH with オーサカ=モノレール
MOUNT KIMBIE
SAICOBAB
WILKO JOHNSON

■10月8日(日)
Suchmos
THEO PARRISH
CHON
DJみそしるとMCごはんのケロポン定食
jizue
LORD ECHO(LIVE BAND SET)
NONAME
思い出野郎Aチーム
ペトロールズ
ROTH BART BARON
TXARANGO
UA
Yogee New Waves

http://asagirijam.jp

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