間もなく開催となる「鬱フェス」ロッ
クフェスに居場所がないあなたはここ
が答えかも 主催のアーバンギャルド
2人が語るその魅力とは

音楽を基に様々なカルチャーや思想、哲学や美学等を独自の観点も交え昇華し、発信しているミュージシャンたちが居る。彼/彼女らの音楽性の幾つかは、往々にして「なんじゃこりゃ!?」や「なんだかよく分からない」と称され、片づけられてしまうことも多い。しかし中には、角度を変えて見れば、ジャパンカルチャーや日本でしか生まれないもの、日本独自のものの縮図のように映るものもある。
そんなアーティストたちが一斉に集うイベントが毎年秋に行われている。そのイベントこそ『鬱フェス』。主催はこれまた音楽界の鬼っ子にして、多くのその手のファンやアーティストからも信望の厚いバンド、アーバンギャルドだ。
他所では所在なさげなミュージシャンやお客さんもここでは全てウェルカム。結果、自分が求めていた居場所のような「妙なしっくりさ」を観る者、出る者に毎度与えてくれ、事後の会場を出る際には、妙な活力やバイタリティを与えてくれる。
2014年に第1回目が開催され、今回で5度目を迎える同フェス。今年は9月8日に渋谷TSUTAYA O-EASTにて行われる。今年も主催のアーバンギャルド所縁のあるアーティストたちが集い、自身のアイデンティティを放ちあう、この『鬱フェス』。開催を目前に控え、メンバーの浜崎容子(Vocal)、松永天馬(Vocal)がこのフェスの来し方、現状、そしてこの先を語ってくれた。
探していた、あなたがしっくりとくる居場所は、「ここ」……かもしれない。
――今年で5回目を迎える『鬱フェス』ですが、元々どのような主旨で始められたんですか?
松永:我々自体、フェスにはほぼ呼ばれないタイプのバンドなんです。フェス映えするジャンルってあるじゃないですか。ダンスロックや勢いのあるバンドとか。ジャンル別に考えても、ドルオタにはTIF、声オタにはアニサマ、バンギャにはルナフェス、パリピ向けにはULTLAがあったり。そんななか我々アーバンギャルドは、こういった既存のフェス要素は皆無で。「フェス向きじゃない」との理由で呼ばれないのであれば、自分たちで自分たちが似合うフェスを作ってしまおうというオーダーメイドの発想で、2014年に立ち上げたんです。
――ちなみにこのネーミングは?
松永:読んで字の如く、「夏フェス」にちょっと似ているけど、意味的には程遠い陰鬱なグループ、心の闇を謳っているバンドやアイドル、シンガーソングライターの方に出演していただこうとの趣旨で名付けました。
――確かに過去に出演されたみなさん、他のフェスでは浮きますが、この鬱フェスでは妙にしっくりくるメンツばかりです。
松永:ビジュアル系にしても、アニソンにしても、アイドルにしても、一般的ではないジャンルと言われている人たちにも「畑」が与えられているのに、我々のようによくわからない人々…サブカルともくくられますが、ようはこういったジャンル分け不能なグループが集えるプレイグラウンドを自分たちで作り上げてきたと。これまで業界にはなかった畑を開墾し、耕している感じです。
――ちなみに5年目の今はどの辺りを?
松永:そうですね。初年が旧石器時代だとしたら…ようやく弥生時代まできました。やや安定した農作が出来る環境まで。
――それは?
松永:この『鬱フェス』というネーミングが、ここにきて案外浸透してきて。ジャンルの一つとして称されることもあったり。一部では、この『鬱フェス』に出ることがある種の目標やステイタスに思ってくれるアーティストさんも現れてきたりして。まっ、ほんの一部ですが。
浜崎:最近は「鬱フェスと言えば…」となりつつあるんです。ちょっとづつですが、鬱の波が来ていることを実感していて。当初はジャンル不明なアーティストの拠り所から始めたものの、最近は「あのグループ、鬱フェスに出てそう」みたいなカテゴリの一つになりつつありますからね。“ああ、やはりこういった場所があってもいいんだ!!”との正解に行き当った感はあります。当初はそれこそ恐る恐るやってましたから。
――アーティストさんの中では、誘っても、「俺たちは鬱じゃないよ!失礼な!!」みたいな返答もありそうです。
浜崎:「鬱を茶化しているんじゃないか!?」とのお叱りを受けることが度々ありますね。
松永:この時期になると様々な団体から定期的に「このネーミングは鬱病の人を馬鹿にしているのではないか?」とのお便りをいただくこともある。でも僕の考えはもちろん違っていて。言ってしまえば、言葉を一般化することで、言葉の表面的なネガティヴさを取り払いたいというか、ポジティヴな意味もこめたい。両義的なものにしたい。いわゆる「鬱」という言葉に多様性やマジョリティを与えたい。大衆化を目指しているんです。
――それは壮大な。
松永:「オタク」にしろ、昔は宮崎事件があったりオウムがあったりと、完全にネガティブな言葉だったわけじゃないですか。だけど今やクールジャパンを象徴した横文字の「OTAKU」に変容した。芸術方面ではアニメや特撮が映画賞を総なめにしていてOTAKU文化は日本の代名詞にまで昇格している。メンヘラにしても2chの揶揄的な言葉が今では「メンヘラカルチャー」なんて言われて文化にまで昇華されている。『鬱フェス』の『鬱』も、こういった流れの延長線上にあるものにしたいと考えていて。病を抱えている人たちが「鬱」を寛解させたまま生きていくとしても、それはそれでまっとうな人生でしょう、決して悪いことじゃないよと。このネーミングには「憂鬱を抱えながらも、とにかく生きていこう」というメッセージを込めているつもりです。それこそ今では僕も真面目な中高年向けの「うつ病を考える」ラジオ番組に呼ばれることもありますから。大衆化も時間の問題でしょう。
――おっしゃる通り、このイベントの過去の出演者の方々は、ある種のジャパンカルチャーの縮図のような方々ばかりですもんね。
松永:そうなんです。ある種、今の日本でないと登場しえない、日本独自の視点を持ったアーティストばかりだと自負しています。例えば今年で言うと、R指定はメンヘラ要素のあるビジュアル系、キノコホテルもGSから発展したイビツなロック、SPANK HAPPYは…病んだピチカートファイブとでも言うか(笑)。
――そうそう、今年の出演者の中にSPANK HAPPYの名前を見つけた際は驚きました。失礼ですが、“こういった趣旨のフェスにも出てくれるんだ…”って。
松永:今年十二年ぶりに再結成したんで、オファーしたら受けて下さったんです。エレクトロを介した男女ボーカルというスタイルも含め、アーバンはSPANK HAPPYの影響を少なからず受けているところがあるので、オファーは必然でした。他にも浜崎さんが一昨年にソロアルバムを出した際に菊地 (成孔=著名なサックスプレーヤー他、SPANK HAPPYの首謀者でもある)さんに歌詞を提供していただいたり…。
浜崎:ラジオに一緒に出演いただいたり、ライヴでもコラボさせていただいたり。復活する話は聞いていたんですが、当初の話とはかなり違っていて。健康になっていて驚きました。
松永:「人類みな病気」がデフォルトの現代において、不健康が過ぎて健康になったかのような爽快感がスパンクス’ 18にはありますね。病気が過ぎて元気になるという意味では案外、絵恋ちゃんやぴかりん(椎名ぴかりん)とも近いかもしれない。
浜崎:みなさん一周回って、そんなこと言われても傷つかないハートの強い方々ばかりで。
松永:特に今年はアーバンギャルドもデビュー10周年、『鬱フェス』も5周年ということもあり、僕らと関係の深い方々を中心にお呼びする、アニバーサリー色の強いラインナップとなりました。大槻(ケンヂ : 筋肉少女帯/特撮) さんは毎年なんらかの形で出て下さっているので、なかばレギュラーみたいなポジションなんですが、15年からオーケンギャルドという、大槻さんとアーバンギャルドがコラボしたユニットで出てもらっています。他にもアーバンギャルドのフォロアーやファンであることを公言してくださっている方、腐れ縁、我々がリスペクトしているアーティスト、かつてのレーベルメイト、楽曲提供させてもらったアイドルなど、所縁もそうですが、アーバンギャルドというバンド自体がある種カルチャーのハブになっている。例えばアイドル、ヴィジュアル系、テクノポップ、昭和歌謡、渋谷系などをつなげるような…。そんな関係性がしっかりと伺えるラインナップになったかなと。
――確かに、より主催者の顔が見えやすいイベントになった印象があります。
松永:顔というか、キャラクターが…表紙が見えるといいですよね。実は僕、フェスって雑誌に近いと考えていて。
――それは?
松永:こういったジャンル不問なフェスって、自分たちの中でコンセプトを明確にしないと方向性を汲み取ってもらえない悲しさがあって。キュレーションが明快で、そこについてくる人たちが居ないと成立しづらくなっている現状があるんです。例えばアーバンギャルドが責任編集した一冊の本であり、タイムテーブルという目次があり、どういった特集や打ち出し方を各ページやコーナーでしていくか?みたいな。まあ、逆にフェスありきの雑誌も実際には存在しますが(笑)。
――開催以来O-EASTで行い続けているのは何かこだわりでも?
松永:こだわりというか、この規模感が打ち出したコンセプトに適正かなと。動員が渋い年もあるにはありますが、今となっては半ば意地です。
浜崎:もうO-EASTで出来なくなったら、『鬱フェス』の意味も意義もないですからね。これ以上大きくなって屋外でやるのも違うし、小さすぎてもやる意味が違ってくる。
――出演者の特性以外に、このフェスが何か他のフェスに比べ特化していると思しき部分を教えて下さい?
浜崎 : 最初から最後まで居て観られているお客さんが多いとは感じますね。しかも楽しみながら。我々も観て欲しいアーティストさんに出演してもらっているので、それが凄く嬉しくて。あとは事後の感想でも、「*****(アーティスト名)さんを知れて良かった」とか、「######(アーティスト名)が良かった」とか、そこから他アーティストさんを知ったりファンになるキッカケになったりすることも多々あったようで。その辺りも私たち的には嬉しいし、やっていて冥利に尽きますね。
松永:ステージの構造上、メインもサブも一か所にありますから、移動不要で見られるのもこのフェスの良いところで。それも関係しているんじゃないかな。観始めたらずっと動かず終わりまで見られますから。その上、やたら網膜を刺激するグループばかりですから。みなさんなかなか会場から離れられず、足がガクガクになって帰っている光景を毎年見ております(笑)。「今日はよく眠れる~!!」なんて声も聞きますね(笑)。
浜崎:再入場可で疲れたら周りにはホテルも沢山あって休憩できる場所もあるので(会場のO-EAST周辺はラブホテル街の意)、ご安心下さい(笑)。
――今年ならではの用意は何かあったりしますか?
松永:今年はアーバンギャルドの持ち時間が2時間あるんです。最後に「これワンマンじゃね?」みたいなボリューム感でやらせてもらうんですが(笑)。ここでは自分たちだけではなく、その日に出ていただく各アーティストの方々とのコラボレーションも何曲か予定しています。
浜崎:毎年恒例なんですが、出演者全員で最後にアーバンギャルドの「ももいろクロニクル」を大合唱します。それこそあの場面は毎年、「サライ」みたいに演者たちやお客さんも交えて大合唱するんですが、あの大団円感は凄いです。
松永:「サライ」というか、「We Are The World」というか。国歌斉唱ですか?♪君の病気は治らない だけど僕らは生きてく♪ってフレーズを繰り返しみんなで歌うんですが、みんなで歌うことで物凄く浄化されていくんですよね。他にはないカタルシスを得ることが出来る。
浜崎:みなさん普段歌うような言葉ではないし、口に出して歌う言葉でもないと思うので。
松永:うちのファンは圧倒的に一人カラオケが多いそうなんですが、こんな不謹慎な歌をみんなで歌えるってだけで、もうそこは参加必須でしょう。みなさん毎度、鬱とは程遠いスッキリとした表情で帰路についてもらってます。
浜崎:なので、「ちっとも怖くないから」と伝えたいです。出演するアーティストも「知らないから…」と怖がらずに、好きな要素があるアーティストが居るでしょうから、安心して参加して欲しいです。どのアーティストさんも私たちが保証しますし、何かしら好きになってもらえる要素を持っていると自信をもって言えます。みんな自意識過剰にならないで欲しい。みんなライブを観に来ているのでそこまであなたのことを見ていないし、気にしてないですから(笑)。そう、もっとカジュアルに来て欲しいです。
松永:Suchmosのヨンスがオーディエンスに向けて、「踊ってるほうがかわいいよ」と言ったそうですが、僕たちはそれこそ「病んでるほうがかわいいよ」じゃないですか。「ill(病む)」も一つのスタイルですから。もうこの際、我々も「鬱」や「病み」を「普通」にしたいんです。
――そして、11月からはアーバンギャルドもワンマンツアー『少女フィクションツアー~THIS IS TRAUMA TECHNO POP~』を東名阪で行いますね。
松永:ニューアルバムをリリースして、その際にツアーを待望する声も多かったんです。時期的なことがあってかなり空いてしまいましたが遂に決行します。ニューアルバムの曲はもとより、10周年も総括した選りすぐりのセットリストになるでしょう。初めましての方も、久しぶりの方も、いつも来ていただいている方も、お気軽に足を運んで欲しいです。特に今回のニューアルバム(『少女フィクション』)は原点に立ち戻ったところもありますからね。サブタイトルに自分たちの標榜してきた「~THIS IS TRAUMA TECHNO POP~」=トラウマ・テクノポップの理念を今一度掲げているところからも、原点回帰しつつ変化する我々を目撃しにおいで下さい。ライヴは事件。そして事件は一度きりしか起きません。
浜崎:久しぶりのツアーなので是非各箇所来て下さい。同じものを好きになったときと同じ熱量で長年追い続けるという事が難しいのは理解しているので、いったん離れても戻ってきて下さる時はいつでも大歓迎です。好きと言ってくれている人を私たちが嫌うことはないですし、ライブに行っていないから嫌われているのでは?とかその辺りちっとも恐れることはないですから。気軽に遊びに来て欲しいです。各地でみなさんに会えることを楽しみにしています。
取材・文=池田スカオ

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