[ALEXANDROS]、降り出した雨も"初ス
タジアム"も悠然と乗りこなした『VI
P PARTY 2018』

VIP PARTY 2018 2018.8.16 ZOZOMARINE STADIUM
[ALEXANDROS]にとって初のスタジアムでのワンマン、当然キャパシティも過去最大。なのに何故だろう。ちっとも「最大の挑戦」といったドラマ性や「ついに辿り着いた」「万感の」みたいな感傷に浸ることがなく、むしろいい意味での安心感をもって観ている自分に、途中で気づいた。まるで何度もこのクラスの会場でやっているかのような立ち居振る舞いと、過度な演出どころかMCすらほとんど挟まず、生身のバンドサウンドに照明や映像といくつかの特効を加えただけで大会場を乗りこなすライブスキル、そしてバンドの歴史に沿って次々と披露されていく名曲の数々が生み出す興奮は、今いる空間がどこか、何人観ているのかなんていうことを脳裏から吹き飛ばした。彼らに「初の」とか「最大の」なんてエクスキューズは必要ない。ただただ目の前にいるバンドが素晴らしいライブをしているという、その一点のみで我々を撃ち抜き、魅了したのだ。
[Alexandros] 撮影=AZUSA TAKADA
先にステージに上がったストリングスチームがスーッと一筋の線を引くようにロングトーンを鳴らしはじめ、それが次第に厚みを増したところで庄村聡泰(Dr)が登場。ゆったりと、しかし勇ましく叩き出したフレーズはどうやら、オーケストラ風にアレンジされた「ワタリドリ」。それをSE代わりに、やがて下手(しもて)から磯部寛之(Ba)、上手(かみて)から白井眞輝(Gt)が、会場後方から入場した川上洋平(Vo/Gt)が最後にセンターステージ側から合流して、あらためて同曲を演奏した。海風が吹き抜ける場内、茜色と深い青色が入り混じる夕刻の空に、悠然と翼を広げる最強のロックバンド。<ありもしないストーリーを 描いてみせるよ>と、歌いながらぐるりと客先を指し示す川上にオーディエンスも最上級の熱量で応じ、このままライブが転がりだしていくかと思いきや、曲終わりで大量のスモークがステージを覆い隠し、オープニングムービーが流れ出した。
[Alexandros] 撮影=河本悠貴
シュールでサイケなコラージュを中心としたヴェイパーウェイヴ的手法の映像で示されたのは、この『VIP PARTY』シリーズのこれまでの会場名とライブシーン。それは少しずつスターダムへと歩みを進めてきたバンドのヒストリーとリンクするものだ。そして、この日用意されていたセットリストもまた、その間バンドとファンが共有してきた時間をなぞっていく内容であった。2曲目は、演出上「ワタリドリ」を序曲として捉えると、映像明けのここがオープナーということだと思うが、「For Freedom」だった。「行くぞ、マリンスタジアム!!」と磯部が気炎をあげ、「city」へ。意表をつく初期曲の連打に沸く場内に向け、白井がメロイック・サインを突き上げたのは、ファスト&ファンにしてメタルなライブチューン「Cat 2」だ。今へとつながる[ALEXANDROS]スタンダードの雛形ともいえる「Waitress, Waitress!」までを続けざまに放ったあと、ストリングスとアコギでじっくりと歌い届けた「spy」。数万人のもと歌われる不屈の精神と、それを持ち続けようという誓いはとても誇らしげに聴こえ、前半戦のハイライトのひとつとなった。
[Alexandros] 撮影=AZUSA TAKADA
かなり久々に聴いた気がする「Forever Young」に歓喜したり、ちょうど暗くなり照明効果も上がったタイミングでの「Starrrrrrr」に沸いたりしているうち、再び流れ出した映像は2014年3月の武道館、つまり[Champagne]から[Alexandros]への改名が発表されたライブのシーン。そのアンコール、映像内の川上が当時の新曲「Droshky」の曲振りをして庄村がカウントを入れた瞬間、目の前の[ALEXANDROS]が「Droshky」をぶっ放してみせた。つまりは、[Champagne]時代の曲で構成された前半戦から、[Alexandros]として世に出した曲たちを演奏する後半戦へと向かう切り替えスイッチとして、当時を再現するという試み。おまけに「初めまして、[Alexandros]です!」というMCまで"コピー"するのだから、なんともニクい。
[Alexandros] 撮影=岸田哲平
ROSEのピアノとストリングスによる麗しいサウンドを纏った川上のファルセットがZOZOマリンを満たした「ムーンソング」を終えたところで、4人全員がセンターステージへ移動して、ようやくMCの時間となった。アリーナ、2階席、3階席とわけて声だしをさせて「これめっちゃ気持ちいいねー」と喜んだり、「みんなのおかげで晴れました!って言おうと思ってたんですけど……それも俺ららしいかなって」と、ライブ中に降り出した雨を笑い飛ばしたりと、とてもリラックスした調子だ。そこから、事前に募っていたリクエスト曲に5万票もの応募があったことを告げ、そのトップ10を続けて披露すると宣言、レア曲も含まれたランキング形式のメドレーを「Oblivion」から奏で始めた。
[Alexandros] 撮影=河本悠貴
「This is Teenage」や「Wanna Get Out」「Travel」といった名盤『Me No Do Karate.』からの楽曲、各楽器による攻めのフレーズの衝突が見事な「Kill Me If You Can」、ちょうど強まった雨足の中、照明に照らされた雨粒が天然の演出効果となった「Waterdrop」など、見どころ聴きどころが満載の全9曲……トップ10と言いながら9曲だったのは、3位が前半で演奏した「Starrrrrrr」だったから。ここで同曲はやらない予定だったにもかかわらず、歓声に応えて急遽1フレーズ演奏するも、いいところでいきなりストップ。どうやらブーイング狙いのネタだったようだが、オーディエンスがそのまま大合唱を続けたことで、磯部に「感動した」と言わしめた思わぬ名シーンも生まれたのだった。メンバーも意外だったというリクエストの第1位「Leaving Grapefruits」は、フル尺でじっくりと演奏する。跳ねるピアノと美しい泣きメロがしっとりと空気に染み入るのを観るうち、「雨のライブも悪くない」と、そんな気にさせられるから不思議だ。
[Alexandros] 撮影=AZUSA TAKADA
本編最後のブロックは、最も彼らの“今”を示す最新曲群が用意されていた。昨年末のツアーでも仮タイトルの状態で披露されていたミドルチューン「LAST MINUTE」から始まり、「明日、また」では場内を銀テープが舞う。磯部がボンゴを打ち鳴らしてワールドミュージック的なグルーヴを生み出し、白井の突き刺すように歪んだギターが炸裂したのは「I Don’ t Believe In You」だ。最終盤へと加速するライブは、その熱と圧でいつしか雨雲まで吹き飛ばし、ラストの「Mosquito Bite」まで一気に到達。硬質で重厚なその音は、巷にあふれる音とは明らかに一線を画す肌触りなのだが、そこがたまらなく良い。そういった近作でのアプローチや音の粒が際立ったサウンドメイクは、この日のライブ全体を通して貫かれており、ロックバンドとしてのタフネスぶりや自身が生み出す音への確信が、より強固なものとなっているように映った。
[Alexandros] 撮影=河本悠貴
再登場した4人を出迎えた、客席のあちこちで光るスマホのライトの美しさに喜びを表しながら、初めてフル尺で披露するという「ハナウタ」を幾万の光が揺れる中で歌い上げて始まったアンコール。これまでも常にライブのクライマックスで名シーンを生んできた「Adventure」では、盛大なシンガロングが場内をより一つに繋いでいった。<大胆な作戦で 言葉にならないマスタープランで いつだって僕たちは 君を連れて行くんだ>というフレーズを、センターステージに立ってこちら側に背中を預け、数万人の視線と憧憬を一身に負って歌い上げてみせた川上。そんなシーンを目の当たりにしたら、11月のアルバムだって年明けのアリーナツアーにだって大いなる期待と信頼を寄せざるを得ないし、この日もそうであったように間違いなくそれを裏切らないバンドだ、[ALEXANDROS]は。
……まあ、「Adventure」のラストであまりに感動的なアカペラ大合唱を生みながら、唐突にそれをぶった切り、炎とレーザーが乱舞する「Kick & Spin」でド派手なフィニッシュを決めちゃう、みたいな裏切りはやらかすバンドなんですが。でも、かっこいいから全然許す! きっと3万5000人がそう思いながら、最後まで夢中で歌い、笑い、踊っていた。

取材・文=風間大洋 撮影=各写真のクレジット参照
[Alexandros] 撮影=AZUSA TAKADA

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