フレデリック VS UNISON SQUARE GAR
DEN “不可能を可能に”した火花散
る競演

UMIMOYASU 東京公演 2018.7.19 マイナビBLITZ赤坂
“何が起こるかわからない。それこそ、ほんとにおもしろい夜になるんじゃないかな”とフレデリックの三原健司(Vo/Gt)が言っていたとおり、UNISON SQUARE GARDEN(以下USG)とフレデリックの対バンライブは、対バンの“対”の字が対決の“対”だということを、改めて思い出させる凄まじい共演となった。胸を借りると言う言葉があるが、この日、後輩であるフレデリックに胸を借りるつもりなんてなかったと思うし、先輩であるUSGにだって、胸を貸すつもりなんてこれっぽっちもなかったことは、ともに真っ向勝負を挑むような熱演からも明らかだった。
USG、フレデリックともにMCが少なめだったのは、ワンマンライブと比べて演奏時間が限られていたということもあるかもしれないが、対バンにありがちな、お互いを称えあう言葉ではなく、両者が音楽だけを通して交歓を楽しもうとしていたからなんじゃないかと筆者には思えた。
UNISON SQUARE GARDEN 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
“「海を燃やす」という不可能なことを可能にしてくれるアーティストと一夜を過ごしたい”という気持ちを込め、フレデリックがインディーズ時代から、主催してきた対バン形式のイベントライブが『UMIMOYASU』。3年ぶりとなる今回は、公演順に大阪、名古屋、東京の3ヶ所でそれぞれポルカドットスティングレイ雨のパレード、USGを迎えての開催となった。 そのファイナルとなる東京公演。先攻のUSGは鈴木貴雄(Dr)によるドラムの連打からなだれこむようにライブをスタート。斎藤宏介(Vo/Gt)がハード・ロッキンなリフを閃かせ、田淵智也(Ba)がダイナミックなフレットワークでベースを唸らせる1曲目の「カラクリカルカレ」で見事、スタートダッシュを決めると、曲間を空けず、ポップな曲調に観客が手拍子で応えた「オリオンをなぞる」、斎藤が奏でるトリッキーなリフと歌謡メロが絶妙に溶け合う「セレナーデが止まらない」と矢継ぎ早につなげ、演奏はどんどん加速!
UNISON SQUARE GARDEN 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
そこから新旧の全10曲を演奏した約1時間、手数の多いプレイでビートをこれでもかと演奏に詰める鈴木、縦横無尽にステージを動き回る田淵。そして、そんな2人をよそに涼しい顔で、超絶テクニックに裏打ちされたトリッキーともエキセントリックとも言えるフレーズをクールに閃かせる斎藤が繰り広げるハイテンションのパフォーマンスに、遅ればせながらこの日、彼らのライブが初体験だった筆者は度肝を抜かれっぱなしだった。なるほど、巷間囁かれている誰もが衝撃を受けるライブとは、これか!と大いに納得。しかし、筆者が度肝を抜かれたのは、ハイテンションの演奏やリズム隊と斎藤のアンバランスの妙だけではない。何よりも驚かされたのが、彼らが演奏中、多くのバンドがやるようにシンガロングや手拍子を求めたり、客席を煽ったりせず、場合によっては、観客がいてもいなくても変わらないんじゃないかと思えるぐらい、ただただストイックに自分たちの演奏の熱度、精度を追求しながら、自分たちが生み出す熱気の渦に観客を巻き込んでいたことだった。
UNISON SQUARE GARDEN 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
キャッチーなリフを持つ「シュガーソングとビターステップ」やラテン歌謡の要素も感じられる「天国と地獄」というとびきりポップな2曲では、自然に客席から歓声が上がり、全員がジャンプした。その光景は曲と演奏が良ければ、バンドが必死に煽らなくても、観客は自ら反応するという極々当たり前のことを物語っていたように思う。
UNISON SQUARE GARDEN 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
“現在、ワンマン・ツアーを回っているんですけど、自分たちはバチバチに仲が悪いんで、大好きなバンドとやれて楽しいです。楽しくてしかたなくて、音がリハよりでかい”と斎藤は笑っていたが、あながちジョークでもないんじゃないか。仲が悪いという表現はさておき、その言葉からは、USGの3人がステージでは1回1回、どれだけ燃え尽きることができるかを賭けて、真剣勝負を繰り広げていることが窺えた。なんて、音楽的なバンドなんだろう! USGのライブに筆者が感じたのは、それだった。今回、『UMIMOYASU』にフレデリックが彼らを招いたのも当然だ。
UNISON SQUARE GARDEN 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
スウィングするポップ・ソングを高速で演奏した「10% roll, 10% romance」から一転、ぐっとテンポを抑え、同期のホーン、ピアノも交えながら演奏したポップ・ソングの「君の瞳に恋してない」で演奏を締めくくったUSGから、「次はフレデリックです!」とバトンを渡されたフレデリックの演奏は、幕が開くと、霧の中にメンバーたちが立っているという幻想的な光景から始まった。1曲目は「TOGENKYO」。ライブの幕開けにふさわしい疾走感あふれるコーラスに早速、観客全員が腕を振って応えると、バンドは「オワラセナイト」、曲間を空けずに今回の『UMIMOYASU』の大阪公演ではポルカドットスティングレイがカバーしたという「KITAKU BEATS」につなげる。そして、演奏の熱度がぐっと上がったところで、彼らが演奏したのがUSGの「シュガーソングとビターステップ」のカバーなんだから心憎い。それは敬意の表れなのか、それとも大胆不敵な挑戦なのか。
フレデリック 撮影=ハタサトシ
オリジナルよりも若干、テンポを落としたハネる演奏から一転、「よう来たね。ようこそ。めちゃくちゃになって遊ぼうぜ!」という健司のMCに応えるように赤頭隆児(Gt)がギターをかき鳴らして、演奏が加速していった「シンセンス」では、レーザービームが飛び交う中、健司が観客を巻き込むように手拍子を求めた。そして、「先輩の前だからこそ、もっと深いところに行かないといけないですよね」と健司が言ってから演奏したのがダイナミックなリフが印象的な「まちがいさがしの国」と、7月11日にリリースした最新EP『飄々とエモーション』から早くも披露したニュー・ウェーヴ・ファンクの「NEON PICNIC」。闘志を剥き出しにした先輩の演奏を、がしっと受け止め、敢えてグルーヴで勝負するような前半戦からは、今年4月、地元・神戸で初のアリーナ公演を成功させたバンドの自信が感じられた。
フレデリック 撮影=ハタサトシ
フレデリック 撮影=ハタサトシ
そのアリーナ公演で、“フレデリックという家を建てることができたと実感した”と語った健司は、「今度はその家に招くように大好きなバンドを呼んで、自分たちが好きな音楽を見せたい」と今回の『UMIMOYASU』の趣旨を説明すると、「対バンした3バンドはそれぞれに強敵だったけど、絶対、超えていきたい。超えていくには、(まず)今日(のライブを)勝たないといけない!」と宣言。「久しぶりにやる夏の曲!」と、キラキラした音像と疾走感が夏にふさわしい「トライアングルサマー」から後半戦になだれこむと、「リリリピート」「愛の迷惑」とつなげ、ジャンプしながら手を鳴らした観客とともに一体感を作り出した。
フレデリック 撮影=ハタサトシ
「最高!ありがとう!」と健司は破顔一笑。しかし、バンドはもちろん攻める手を緩めない。後半戦に入り、演奏をつなげる高橋武(Dr)のバスドラのキックがリズミカルに鳴る中、三原康司(Ba/Cho)のベースに導かれるように印象的なイントロが奏でられると、客席から歓声が上がる。「オドループ」だ! 最近、筆者がインタビューした某バンドのメンバーも“ついYouTubeでMVをリピートしてしまう”と語った中毒性の高いフレデリックの代表曲。“キャー!”“ウォー!”という歓声はいつしか“ハイ!ハイ!ハイ!”という大声のコールに変わっていた。
フレデリック 撮影=ハタサトシ
「赤坂、もっと遊ぼうぜ!全員歌ってもらってもいいでしょうか?」という健司の呼びかけに観客がシンガロング。その盛り上がりの中で、“一生、俺たちのセンスについてきてください”とラストを締めくくったのが、フレデリックの第2章の始まりを宣言する彼らの新しいアンセミック・ナンバー「飄々とエモーション」だった。全員で歌って、一つになることを念頭に作ったというシンガロング・パートで、眩いレーザービームが飛び交う中、健司が音源以上にエモーショナルな熱唱を聴かせると、観客もそれに応えるように大きな声で歌った。それでも胸の中のエモーションが止まらない健司が「赤坂!もう1回聴かせてくれ!」と叫ぶと、さらに大きなシンガロングが会場に響き渡り、大団円にふさわしい光景を作り上げた。
フレデリック 撮影=ハタサトシ
バンドがこの1、2年、追求してきたグルーヴをアピールした前半、そして一転して、グイグイと攻めながら観客を巻き込んでいき、前半以上の一体感を作った後半。1時間強のセットにドラマチックな展開を凝縮したとも言えるこの日のライブは、バンドの著しいスケールアップを印象づけるものだったが、それをワンマンではなく、ライブハウスで、しかも演奏時間も限られた対バンライブでやったところに大きな意味があったんじゃないか。
フレデリック 撮影=ハタサトシ
これからフレデリックはライブバンドとしてもさらに成長していくに違いないが、その成長ぶりは、ワンマン、対バン、フェス、イベント関係なく、どんなシチュエーションでも楽しめそうだ。とりあえず、足を運べるライブがあるなら、何でも行った方がいい。彼らはシチュエーションに応じたやり方で絶対、満足させてくれるに違いない。USGに対して、“唯一無二の最強の先輩”という敬意を込め、アンコールに演奏した「オンリーワンダー」のシンガロングを聴きながら、筆者は次回、彼らのライブを観ることが早速、待ち遠しくなっていた。

取材・文=山口智男 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)/UNISON SQUARE GARDEN、ハタサトシ/フレデリック
フレデリック 撮影=ハタサトシ

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