MASS OF THE FERMENTING DREGSインタ
ビュー 前作から8年、再始動から3年
、ついに放たれた快作を解く

あの頃を知っている人も知らない人も、どっちでも構わない。今、とにかくこの音を聴いてほしい。マスドレことMASS OF THE FERMENTING DREGSの、活動停止→再始動を経て、実に8年振りのニューアルバム。『No New World』に収められた8曲は、90年代グランジ/オルタナの最良の部分に、現代的なループ感覚と抜群にキャッチーなメロディを乗せた、ショッキングなほどに痛快な傑作だ。激しいノイズと美しいメロディ、猛烈なスピードと透明な浮遊感、相反するものの激突と融合が生み出す、しばらく忘れていたようなロックの快感がここにある。創立メンバーの宮本菜津子(Vo/Ba)と、新たに正式メンバーとして加わった小倉直也(Gt/Vo・ex.Qomolangma Tomato)の二人が、新たなモチベーション満ち溢れたバンドの現在を包み隠さず語ってくれた。
――2015年に再始動して、3年たって、ついに新作が聴けました。
宮本:制作期間はどこからどこまででですか?と聞かれたら、再始動してから、やってたと言えばやってたんですけど。
小倉:2016年は、ライブの合間にプリプロして、曲を仕上げながら活動していって。2017年は、3か月ごとぐらいにスタジオを借りて、1日で2、3曲録るみたいなことを1年間通してやっていて。
宮本:これまでの録音作業やリリースの仕方に対して、違和感はあったから。ファーストアルバム(2008年)は、5年間ぐらいライブをやってきて、その中で納得いく形になった6曲を録ったんですよ。曲に対しての理解度もメンバーそれぞれが深まってるし、めっちゃ達成感もあったし、いい環境でやらせてもらえて、最高のものができたと思って。でもそのあとは録音作業も曲作りも、やらなくてはいけないみたいな感じでやってたから。今回は曲ができたから、記録がしたいから録るということにしたかったのと、演奏もある程度ライブで体に馴染んでから録りたいという希望があって。
――ある意味、ファーストと同じ。
宮本:そうそう。だからすごく気持ちのいい記録の仕方ができたと思ってます。
――曲で言うと、最初にできたのは?
宮本:「だったらいいのにな」は、活動停止になる前、オグがサポートしてくれてた頃からありました。
小倉:再始動前だと、「New Order」もありましたね。
宮本: 2011年にもう演奏はしてて、やっと作品にできたという感じ。まっさらな曲で言うと、「Sugar」と「HuHuHu」と「No New World」と……「スローモーションリプレイ」もそうか。
小倉:「YAH YAH YAH」もそう。あとは「あさひなぐ」。
宮本:「あさひなぐ」も、作った時期は活動停止中なんですよね。
小倉:Dropboxに上げてたもんね。「スローモーションリプレイ」も、なっちゃんがソロでやってた曲で。
宮本:元々はアコースティックの形であって、でもバンドでやりたいということで、アレンジをし直して。だから今回のアルバムの曲は、やりたかったけどやれなかったことと、今やりたいこととが混じってると思います。
小倉:時系列は全然違うんですけど、コンセプトアルバム的なところがあるなと思ってて。一番最後にできた曲が「No New World」で、なっちゃんが「これ入れたい」と言って、それが全部の曲を画鋲で留めたみたいな感じ。
宮本:おっ。いい表現するね(笑)。
小倉:それがコンセプチュアルだなと思ってます。1曲目が「New Order」なんですけど、実はこの曲、なっちゃんは1曲目にはしたくなくて。これは2011年に作った歌で、その時作った歌詞と今とでは心が違うからって。
宮本:新しい曲から幕開けしたいと言ってたんですけど。この曲順は、オグが提案してくれたんですよ。それを聞いた時に、「うん。心境としては嫌やけど、たしかにいいな……」って。たぶん昔やったら、どうしても嫌だと言ってたかもしれないけど、今はメンバーに委ねられるようになったというか、オグが「絶対これだよ」って言ってくるのもあんまりないことだし、確信あるんやろなと。私は、自分が作った歌に対して客観視できないところがあるので、聴く人の感触としてこの曲順を提案してくれてるんだと思ったから、「わかりました」と。
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=風間大洋
――僕も、これだと思いますよ。サウンド的な意味でも、新しい幕開けにふさわしい、スピードと広がりを感じる曲。
宮本:今は、これでよかったと思ってます。歌詞の時系列は、個人的なことだから、「そういう時だったな」って思うし、こういう歌詞は今は書かないと思うけど。でもオグが言うように、「No New World」ができてアルバムがまとまったというのは、そうやな。一番新しい「No New World」がタイトル曲になって、これを収録したいと二人に提案したときに、この曲がないとアルバムとして寄せ集めになってまう感じがしたので。再始動してから感じることがいろいろあって……そういうことがあったからって曲が書けるタイプではなくて、「こういうことが歌いたいから曲にしよう」みたいには書けないんですけど、当時、歌詞も曲も一気にできて、「これは今歌わないと意味がない曲だ」と思ってたから、どうにか入れたいなと。結果的にそれが良かった。
――「No New World」は、過去のマスドレにはなかったタイプ。ループ感のあるトラックがすごく新鮮。
小倉:打ち込みだもんね。
宮本:録音作業はオグと二人で、歌もオグの家で録ってます。ソロでやってきたことの延長線上にある気がしますね。二人で演奏するときのあの温度で、バンドとはちょっと違う感じというか。
――オグさんは、再始動後の新メンバーという言い方になると思うんですけど。演奏はもちろん、歌とコーラスで大活躍してるのが、すごく大きいと思います。
小倉:当然だけど、前にはなかった要素ですよね。
宮本:クレジットを、私が勝手に“ギター&ボーカル”にして提出して。オグに何も聞かんと。
小倉:ジャケットの入稿作業の時にそれを見て、「誤植じゃないか?」って(笑)。
宮本:でも私はそういう認識です。それも、ソロで一緒に歌った経験がそのままずっと続いている感じなんですけど。ソロでも、けっこう一緒に歌ってきたので。
小倉:そうだね。
宮本:オグと私の声の相性の良さは、もうわかってるから。
――いいですよ。本当にいいと思う。
宮本:私もいいと思います。どや!って。
小倉:稚拙すぎて恥ずかしいんですけど。
宮本:そんなことないよ。男女混声の良さが、本当にいい形でできているバンドって、海外にはいる印象だけど、日本ってあんまりパッと浮かばないんで。私が知らんだけかもしれないけど。今のマスドレの状態で、歌える人がもう一人いたら本当に強いなと思って、どんどん盛り込みたいと思ってます。声が担える部分が増えていったら、もっともっと豊かになるはずだから。
小倉:海外のバンドとか、自然な感じで男女混声ボーカルがあると思うんですよ。マイブラとか、ソニックユースとか、ヨ・ラ・テンゴとか、ああいう中性的な感じがしたいんですけど。
宮本:混ざっとるよな。
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=風間大洋
――二人の声が混ざってないと、「だったらいいのにな」とか「HuHuHu」とか、絶対に成立しない。
宮本:全部そうだと思うな。「Sugar」も、オグの声がないと成立しない。1オクターブ下を男が歌ってるという、それがないとイメージにピタッと来ないというか、それはすごく大きいと思う。
――「Sugar」はほんと最高。メロディと歌詞が抜群に美しくてせつなくて、演奏も淡々としたループっぽく聴こえて実はコードに凝っていて、どんどん景色が変わってゆく。
小倉:ドラムはかなりミニマリスティックなことをやってます。コードも最初はのぺっとしすぎてて、けっこう試行錯誤しました。
宮本:最初にライブでやり始めたときと、ベースのルートが変わってます。
――この曲には魔法を感じますね。本当にいい曲。
宮本:作り方としても、一番バンドマジックがあった曲だと私は思っていて。元々オグが持ってきてくれた曲で、そこに吉野さんが、シュガーというアメリカのバンドがいて――
小倉:ハスカー・ドゥのボブ・モールドがやってるバンド。その「シュガーみたいなドラムの感じ」と言って叩いてて。で、「シュガーってええなあ」という、バンドよりもバンド名に注目して。
宮本:シュガーという言葉から、歌が書けそうな気がして、私が歌を書きました。いくつかの偶然がバババッとハマって、歌詞もするするっと出て、メロディも早かった。一番マジックがあった曲と思ってます。できたときに感動した。
小倉:でもライブのほうが、全然いいと思う。正直。
宮本:そうな。
小倉:録りに関してはもう「これ!」という感じなんですけど、ライブの方がもっと伝えられる気がする。
宮本:それは、全編そうだと思うんですけどね。でも「Sugar」は、よりそうかもね。
――マスドレは元々、90年代のオルタナ、グランジがルーツですよね。その、好きな音楽をもう一回今の音で、ダンスミュージックとかを通過した音像でやっているという感じがします。
宮本:結局、自分が一番しっくり来る音像とか迫力の具合は、変わらないから。90年代の終わりから2000年ぐらいのもの、高校生だったときに夢中になってたものの音像って、沁み込みすぎてて、意図してないけど基準になってるところはあるのかなと思いますね。
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=風間大洋
――9年前、最初にインタビューさせてもらったときに、そういう話をしたんですよね。菜津子さんの好きな音は、最初はhideからZilchへ行って、マリリン・マンソンからコーン、デフトーンズへ行って、「メジャーコードなんて絶対使わなかった」と言っていて(笑)。
宮本:ほんと、そうでしたよ。
小倉:だいたいAマイナーから始まる(笑)。
宮本:でもその通りで、そこが私の出発点ですから。今でもコーン、大好きですし。そこは変わってない。
――あの頃日本で近くにいたのは、9mmとか、チョモもそうだし、オルタナ世代ってありましたよね。ハードで鋭角的で、刺激的な音とポップなメロディが合わさったような。そのあと、ダンスっぽいサウンドがメインになっていって、踊れるとか楽しいとか、そういうことが基準になっていった気がしていて。
宮本:なんでだろう。世代なのかな。
小倉:ずっと同じようなことをやってるわけにはいかない、という感じはしますよね。一つの流れがあったら、「もっとこっちのがいいとか」、そういうものも出てきて、成り立っていくような気がする。うるさいものが流行ったあとには、もっと歌が聴きたくなるとか。
宮本:私はよくわからない。基本的に、流行とか、今のシーンがどうなってとか、そういう考えのもとに音楽を聴いたことがないから。別に移り変わっても、私は関係ないから。
小倉:好きなものは好きだし、みたいな感じ。
宮本:そう。「今こういうのが流行ってんねや」と思って、「へえー」みたいな。オグは音楽をめちゃめちゃ聴いているから、最近良かったものの話になったときに、それは聴いてみたりする。それ以外は、最近はSpotifyがピックアップしてくれて、いいと思ったやつを聴くみたいな聴き方をしてるけど。
――今のマスドレの音って、どんなリスナーにハマると思います?
宮本:どこなんやろ?
小倉:正直、ハマる層はよくわからないんですよ。
――全然マニアックな音じゃない。ハードだけど、めちゃくちゃキャッチーだし、ポップ。
小倉:ポップだし、マニアックだし、みたいな感じのところ、全部に行きたい感はあるんですよ。
宮本:難しいな。音楽を聴く時のとらえ方として、音がマニアックとか、曲がポップとか、そういう感じで自分が聴いてないからかもしれないんですけど。
小倉:なっちゃんはそうだよね。
宮本:だから、マリリン・マンソンもポップでしょ? コーンだって、ポップとは言えないかもだけど、私の中では、ジョナサンのメロディとか曲の作り方はものすごくわかりやすくて、ポップなものとして捉えてるし。コーン聴いて、宇多田ヒカル聴いて、スリップノット聴いて――ってやっても、違うのはわかるけど私は普通というか。そういう感じでマスドレも、別にファーストの頃から変わってる感覚はなくて、「ずっと私こうやけど」っていう感覚だから。でも、今回リリースさせてもらったFLAKEレコーズのDAWAさんが、マスドレが指先ノハクと対バンして、次の日にDischarming manと対バンしたときに、「両方と対バンできるバンドなんてなかなかおらへんで」と言って、「そこがマスドレの強みや」という話をしてくれたんですよ。
小倉:確かに。この5月、6月の間にも、フガジのジョー・ラリーとブレンダン・キャンティのバンド(ザ・メスセティックス)が来日した時に、大阪で一緒にやったんですけど。その翌週は成瀬心美さんのバンド(mezcolanza)と一緒にやって、「その振れ幅ヤバいね」って言ってた。DAWAさんが。
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=風間大洋
――それは確かにヤバい(笑)。
宮本:それを考えると、「どこ」というんじゃなくて、いいと思って良さを分かってくれる人は、いろんなところにいるんだろうなという認識をしてます。先輩のバンドマン、Discharming manもそうですし、尊敬してる人がいつも褒めてくださって、今回も、ホームページにコメントを寄せてくれたチャットモンチーのえっちゃんとかも、パッと聴いたら違う音楽をやってるけど、私はえっちゃんとマインドに通ずるところがあると思っていて。マスドレとチャットって、表立ってはなかったけど、個人的に接点はあったから。えっちゃんにもマスドレの音楽は響くわけだから、「伝わるところには伝わるはずだ!」みたいな感覚は、ずーっと変わらずあるところで。
――その通りだと思います。
宮本:ただ、どこにハマるか?というのが解ったほうが、やりやすいとは思うんですよ。当時のEMIの人も、マスドレを売りたいとめっちゃ思ってくれてた。めっちゃわかるんですよ。すごい愛してくれてたし。でも、いかんせん、一体どこにハマるんだ? どこを目がければいいんだ?って。それはすごく大事な話でもあるし、でもやっぱり、それはずっとわからない。
小倉:今はバンドの運営を3人で全部やってるんですけど、そういう話はまったくしないんですよ。そういうことを考えてくれる人がいると楽だなとは思います(笑)。
宮本:作ることはできるけど、プレゼンはようせん、みたいな。でも昔に比べて、海外にも自分たちで発信できるじゃないですか。だから私は、今すごくラッキーだと思っていて、今回も配信は自分らでやってるんです。いいと思ってくれる人はいるはずだって信じてるから、日本だけやったら少数かもしれないけど、世界のそれぞれの国に少しだけ聴いてくれる人がいて、それがいっぱいあったら、たくさんになるじゃないですか。自分らがいいと思うことをブレずにやることだけが、間違ったらあかんところで、そこを丁寧にやることこそが大事な気が今はしている。
小倉:「スローモーションリプレイ」というEPを切った時に、20か国ぐらいから問い合わせが来たんですよ。
――おお。素晴らしい。
小倉:それでレコードを送るんですけど、すごい郵送費がかかったので(笑)。
宮本:ちゃんと配信したいね、という話になって。
――マスドレの音楽は、たとえ言葉がわからなくても問題ない。ハードでエッジィで、なおかつポップなロックが好きな世界中のリスナーに響くと思います。
宮本:響いてくれるといいなと思っています。実験みたいな感じですね、今回は。やってみてどれだけ反応があるか、単純に興味があったので。どの国の人が、どれだけの人数聴いてくれるのか。まだ発売したばかりやから、ちょっとわからへんけど。
――今後ライブは、引き続きガンガンやっていきますか。
宮本:ガンガンでございます。来月からリリースツアーという名目で、9月はほとんど毎週末ライブで、10月までツアーを回って。とにかくライブに来てほしいですね。ライブでやっと、全部説明がつくバンドだと思うので。音源も納得いくものができたけど、ライブのほうがたぶん、何倍も伝えられるものがあると思うので。ライブに来てほしい。
――みなさんぜひ。マスドレのライブはすごいです。ほんとにかっこいいんで。
宮本:ぜひ。本当によろしくお願いします。切実です(笑)。

取材・文=宮本英夫 撮影=風間大洋
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=風間大洋

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