【インタビュー】イモータル「ユーモ
ア?あれはアクシデントだったんだ」

ノルウェーのブラック・メタル・バンド、イモータルが9年ぶりのニュー・アルバム『ノーザン・ケイオス・ゴッズ』をリリースする。
「ブラック・メタルって興味あるけど何か怖くて...」と思っている人は、まずイモータルのビデオを見て欲しい。インタビュー中「テレビ局に騙された」と語られている「Call of the Wintermoon」のミュージック・ビデオは、「ドンキホーテで買った衣装?」と疑いたくなるような、ブラック・メタル=怖い音楽という固定観念を180度引っくり返してくれる最高すぎる作品だ。きっかけはバンドの意図に反したものだったとはいえ、イモータルがブラック・メタルのすそ野を広げたことは、紛れもない事実。そして『ノーザン・ケイオス・ゴッズ』は、まさにノルウェーのブラック・メタルど真ん中の作品に仕上がっている。ぜひこれをきっかけに、深淵を覗いてみてはいかがだろう。

ヴォーカリストの脱退という難局を乗り越えての新作発表ということで、ギタリストのデモナスに色々と話を聞いてみた。

──ニュー・アルバム『ノーザン・ケイオス・ゴッズ』がリリースになります。個人的には90年代のイモータルに戻ったような印象を受けたのですが。

デモナス:2015年にアルバムを作り始めたのだけど、「こういうアルバムにしよう」というプランがあったわけじゃないんだ。いつも通りにやっただけさ。テーブルに座って、ただ曲を書くだけ。最初に書いた曲は「ノーザン・ケイオス・ゴッズ」だったのだけど…。アルバムはもう聞いた?

──ええ、全部聴きました。

デモナス:もうちょっと遡って話そう。『All Shall Fall』を出した後、俺とアバスとホルグで新しいアルバムを作り始めたんだ。ところが、プリプロダクションがほぼ終わりに近づいた頃、問題が勃発して、アバスはそれらの曲を持ってバンドを抜けてしまった。俺たちにはどうすることもできなかったんだ。だから2015年に、まったく一からアルバムを作り直さなくてはいけなかったんだよ。それでホルグと2人でバンドを続けることにして、「ノーザン・ケイオス・ゴッズ」のリフを思いついた。ギターさえ持てば、いくらでもリフのアイデアは湧いてくるからね。「ノーザン・ケイオス・ゴッズ」が完成すると、すぐに次の曲へと着手した。俺はずっと『Battle in the North』『Pure Holocaust』『Blizzard Beasts』みたいな初期のイモータルの作品が好きだったからね。今回アバスの手によるものは一切なくて、俺がすべてのリフを書いた。4~5曲書いたところで、アルバムのラストを飾るエピックな曲を作ろうと思いついた。それで世界から自分を隔離して、締め切りもなかったから、すべてを忘れてアルバムのことだけに集中しようと思った。バンドは誰でも前のアルバムよりも良いものを作ろうとすると思うのだけど、それだけが唯一のプランだったのさ。

──なるほど。初期っぽいのは意図的ではないのですね。
デモナス:自然とそうなっただけ。俺が曲を書く時は、頭の中のアイデアに基づくだけなんだ。山や森に行ってインスピレーションを受けたりしてね。俺はたくさんの音楽を聴いているから頭の中は音楽でいっぱいだし、音楽が俺の人生なのさ。俺は山腹に住んでいるから、夜などは本当に静かなんだ。そんな環境でギターを持って、曲を書き始めるんだよ。もしかしたら頭の片隅で、ルーツに戻ろうという気持ちはあったかもしれない。『All Shall Fall』でイモータルは、多少誤った方向へ進んだ感もあったから。やはりバンドの内部がうまく行っていないと、何もうまくいかないんだよ。何かを作るにしても、まずバンドの状態が安定していなくてはいけない。今回アバスがバンドを去って独自の道を行くということが決まって、やっとすべての問題が解決したという感じだった。音楽にさえ集中していれば良いという状況になったわけさ。イモータルを始めた時からずっと、俺には歌詞/音楽共に常にたくさんのアイデアがある。そもそもイモータルというのは俺が始めたバンドなんだ。1990年当時、俺はAmputationというバンドをやっていて、アバスはOld Funeralというバンドをやっていた。彼とは音楽的につながって、それで彼に聞いたんだよ。「俺は新しいバンドを始めたいと思ってる。名前も決めてあるんだ。イモータルだよ。君も参加しないか?」って。そしたら「ぜひやろう。だけどOld Funeralのライヴが残っているから、それが終わったら参加するよ」ということだった。それでデモとEPを作って、Osmoseからファースト・アルバムをリリースした。俺たちは、とにかくユニークでスペシャルなことをやりたかったんだ。歌詞もスペシャルなものにしたかった。それで俺は「ブラシルク」という単語を思いついた。ブリザードであるとか、俺たちが住んでいる、この冷酷で暗くてすべてを破壊するような環境を表す言葉がなかったからね(笑)。山や森が主なインスピレーションだったのさ。俺たちはよく森に行って酒を飲んだりしてた。俺たちは19~20歳くらいで、ブラック・メタルという音楽で、みんなのぶちのめしてやりたかったんだ。ブラック・メタルというサブカルチャーに知らずのうちにはまり込んでいたんだ。俺はセックス・ピストルズみたいなパンクも大好きだった。だけど彼らの歌詞は政治的だった。アンチ・キリストを謳うバンドも多かったけど、それは俺がやるべき表現だとは感じられなかった。もっと北方の、俺の住んでいる場所と深く関係しているものを作りたかったんだよ。山や森こそが、俺たちのインスピレーションだったんだ。ファースト・アルバムのジャケットも、雪の中でスパイクをつけて、火を吹いているものにした。ああいうジャケは、それまで誰も見たことがないものだったと思うよ。Bathoryや『Scandinavian Metal Attack』、Manowarみたいなマッチョでパワフルなものがイモータルのインスピレーションだったのさ。あと、VenomCeltic Frostが持ってた不気味さとかね。歌詞も含めてアイデンティティを確立したかった。こういうものはすべて1970年代からのものなのだけど。もちろん俺が子供のころ、ブラック・メタルなんてなかった。10歳のころに聴いていたバンドといえば、KissやBlack Sabbath、Dioとかで、彼らみたいなパワフルなバンドをやりたかったんだ。

──イモータルの特徴は、他のノルウェーのブラック・メタルとは異なり、ユーモアのセンスを持っていたところだと思います。これは意図的なものだったのでしょうか。

デモナス:何というか、アクシデントでユーモラスになってしまったんだよ。教会の放火などが行われていたころ、ノルウェーで最大のテレビ局のひとつであるTV2からモーニング・ショウでのインタビューをやりたいというオファーが来たんだ。彼らは森の中で撮影をしたいということだった。だけど俺たちはやりたくなかったんだよ。商業的なことではなくて、ブラック・メタルをやりたかったわけだし、「ファック・ユー、ファック・エブリバディ」なんていう調子だったしさ(笑)。ところが、「君たちのビデオも撮ってあげる。それをミュージック・ビデオとして使ってもかまわないから」と言われてね。当時自分たちでビデオを作る金なんてなかったからさ。で、白黒のビデオにすること、その他内容については俺たちにコントロールさせてくれるという条件で引き受けたんだ。ところが裏切られた。出来上がってみればカラーだし、ふざけた内容だった。あれを見たときは本当にガッカリしたし、「ファック・ユー、なんてことをしてくれたんだ、これはスキャンダルになるぞ」って思ったものさ。もちろんあの内容をからかう奴もいたし、インターネットであれが広まると、俺たちのことを面白おかしいバンドだと思う奴もいた。面白いものを作ろうなんて、まったく俺たちの意図じゃなかったんだよ(笑)。

──そうなんですね。ヴェノムなどはわりと面白い面も持ってたじゃないですか。その流れを引き継いでいるのかと思っていたのですが。

デモナス:いや、最初はアクシデントだったのさ。やがて人々が、イモータルの写真やビデオを使って色々なジョークをやるようになって。『Benny Hill』とかさ。実は俺、あれは大好きなんだよ。本当に面白い。あれを作ったやつは天才だよ!最初に見たときは「ふざけやがって、俺たちはシリアスなバンドなのに」なんて頭に来たけど(爆笑)。もちろん俺たちはコメディ・グループではない。でも、どうしようもなかったんだよ。人々はイモータルを色々とネタにした。人生において、自虐的なことも大切なものだね。おかげでイモータルに興味を持ってくれた人もいたと思う。だけど俺は音楽というものをとてもシリアスに捉えているので、面白おかしいバンドにはなりたいわけではなかったんだよ。

──今回ニュー・アルバムを作るにあたって、アバスに代わる新メンバーを加入させるという選択はなかったのでしょうか。

デモナス:その必要はなかった。俺がヴォーカルやるのは簡単だったしね。俺がすべての歌詞を書いたわけだから。それにイモータルは俺が始めたバンドだ。このタイミングで誰か新しいメンバーを入れるというのは、新たなトラブルになりかねない。残った二人でイモータルを続けられるというのをファンに示すのが最善の選択だったのさ。もちろんアバスは長い間イモータルのフロントマンだったし、彼はフロントマンとして素晴らしかったことは間違いない。だけど、彼がイモータルのすべてであったわけではないんだよ。それはファンもわかってくれると思う。現時点ではまだアルバムから1曲しか公開になっていないから、あれでアルバムの全貌を掴むのは不可能だ。君はアルバムを聴いているからわかると思うけど、アルバムはバラエティに富んでいて、「ノーザン・ケイオス・ゴッズ」みたいな速い曲ばかりじゃない。アルバムがリリースされれば、俺がずっとイモータルに大きく貢献していたということも、みんなわかってくれるだろう。俺たちだけで十分やれるとわかっていたから、新しいメンバーを入れるという選択肢はなかった。

──ベースはピーター・テクレンが弾いているのですよね。

デモナス:ピーターと初めて仕事をしたアルバムは『At the Heart of Winter』だった。それ以降のアルバムすべてに彼が関わっているからね。彼は『At the Heart of Winter』『Damned in Black』『Sons of Northern Darkness』をプロデュースして、『All Shall Fall』ではレコーディングとミックスもやってくれた。だから今回も彼と仕事をするのは当然の成り行きだった。彼はイモータルのことをすべて知っているから。ピーターは素晴らしいプロデューサーで、ミュージシャンとしても本当に優れている。このアルバムのレコーディングを始めた時に、彼からベースを弾きたいという申し出があったんだ。もちろん反対する理由なんてなかった。彼のプレイは素晴らしかったよ。ブラック・メタルのアルバムで、あんなに素晴らしいベースを聞いたのは初めてだった(笑)。モーターヘッドみたいでさ。彼が弾いたベースを聞いた瞬間から「ワオ!」っていう感じでさ、ぜひ残りも全部頼むということになったんだよ。彼にプロデュースをしてもらうと、いつもイモータルに付加価値をつけてくれるんだ。プリプロの段階では、全部俺がベースを入れていたのだけど。

──今後ライヴはどのようにするのでしょう。具体的にライヴの予定はあるのですか。
デモナス:今は、とりあえず一歩一歩進んで来た状況だ。まず問題を色々と解決して、曲を書いて、プリプロをやってスタジオに行ってピーターと話した。だけどピーターは色々なプロジェクトで忙しいので、彼の準備が整うまでに時間がかかった。曲を書き始めたのが2015年の終わりで、ホルグがスタジオでドラムをレコーディングしたのが2017年の1月。それからベルゲンで俺がギターを入れた。とにかく究極のアルバムを作ることに全力を尽くそうということで、ソーシャル・メディアであるとか、過去の問題とか、あらゆる他のことは忘れることにした。とにかくファン、そして俺たち自身を満足させるアルバムを作ることに全力を尽くした。究極のアルバムを作るというのは、イモータルにとってずっとゴールであったからね。前のアルバムを超える作品を作りたいから。人々が何を言おうが、俺たちはこのアルバムを作り上げた。アルバムができると、次はアートワークを考えなくてはいけない。プロモーションをやらなくてはいけない。アルバムのリスニング・セッションもやった。「ノーザン・ケイオス・ゴッズ」が公開になって、今は大量のインタビューに答えなくてはいけない。そんなわけでフェスティヴァルのオファーもいろいろあったのだけど、すべて保留している状況なんだ。「今はライヴのことは忘れて、アルバムをリリースしよう。夏が終わったら、メンバーを見つけてリハーサルを始めよう」という感じでね。来年にはライヴもやれると思うよ。

──では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

デモナス:みんながアルバムを気に入ってくれることを期待してるよ。俺たちは、ずっとやってきたことをやっているだけさ。新しいバンドを始めたわけではなく、昔から継続しているわけだからね。ぜひファンにはイモータルを聞き続けて欲しい。

取材・文:川嶋未来
写真:Anne Swallow

イモータル『ノーザン・ケイオス・ゴッ
ズ』

2018年7月6日発売
【50セット通販限定 直筆サインカード付きCD】 ¥3,500+税
【CD】 ¥2,500+税
※日本語解説書封入/歌詞対訳付き
1.ノーザン・ケイオス・ゴッズ
2.イントゥ・バトル・ライド
3.ゲイツ・トゥ・ブラシアーク
4.グリム・アンド・ダーク
5.コールド・トゥ・アイス
6.ホエア・マウンテンズ・ライズ
7.ブラッカー・オブ・ワールズ
8.マイティー・レイヴンダーク

【メンバー】
デモナス(ヴォーカル/ギター)
ホルグ(ドラムス)
ピーター・テクレン(セッション・ベース)

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