撮影:KAJII

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武瑠(sleepyhead)ロングインタビュ
ー! “ひとり”を選んだ理由&既存の
音楽ビジネスへの挑戦

武瑠(ex SuG)が始動したソロプロジェクト・sleepyhead。ソロとなった経緯、現在の音楽業界に対する考察まで、撮り下ろし写真を含む濃密インタビュー!

武瑠(ex SuG)のソロプロジェクト・sleepyheadの1stフルアルバム『DRIPPING』が、6月20日に発売された。
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自主製作の裏話やソロとなった経緯、現在の音楽業界に対する考察まで、濃密ロングインタビュー!
完全セルフプロデュース体制は「苦手な作業がいっぱい」――まずは、SuGを解散してからどんな経緯でソロ復活するまでに至ったのか、改めてお話しいただければと思います。
武瑠 とりあえず、SuGについては終わり方が急だったというか、自分たちが「ここだ」と思えるタイミングで終われなかったと思うんです。まずは過去の整理というか、そういうものに時間がかかった。なので、武道館後にすぐに動き出すことはできなかったんですよね。
色々あって、やっぱりしっかり“解散”という言葉でけじめをつけることが、自分たちの過去と今のファンに対して誠実なことである、とメンバーで話し合って。
12月に解散を発表することになってから、やっと前を向いてソロをやろうと思えましたね。
――そしてそのソロプロジェクト・sleepyheadとして6月20日に初のアルバム『DRIPPING』を発売されました。アルバムのコンセプトを教えてください。
武瑠 今作にはあまりストーリー性は持たせなかったんです。
今の自分を絞り出して出来るもの、という意味で『DRIPPING』というタイトル。だから、自然と自分の歴史とか美学みたいなものが濃縮された形になりました。あまりルールを決めずに作りましたね。
――完全自主製作、ソロ初のアルバムということで、製作中の苦労話を教えてください。
武瑠 今回、アレンジャーさん6人に作業を振り分けたんですけど、とにかく会話の時間とオーダーする時間がめちゃくちゃかかりました。
アレンジャーさんも人間なので、送ってくるデータを間違ったりもするんですけど、それを探したり、いつの音が正解なのか検証していく作業が一番大変だった……。
エンジニアさんとの間に入って何回も何回もメールのやり取りしたり……データの整理という一番苦手な作業がいっぱいあったので、そこがもう圧倒的に大変でしたね。自主製作の苦労話です。
――今回は、そういう作業をする人を外注せずに、自分で全てやられたんですね。
武瑠 そうです。今までは見えないところでディレクターがこういう仕事をしていてくれていたんだな、ということがわかりましたね。
実は、発送も自分で工場から関わってみようかと思っていて。
本当は自分でやらなくてもいいことなんですけど、自分がアーティスト活動をしていく上でどういう人が関わってどういう工程があるのか、一度知りたかったんです。
全ての作業を知ることで、こんな人がいることでこんなに助かることがあるんだな、って次のときに感謝できるような気がして。その上で「誰に何を頼むか?」ということを、次に考えていこうと思っています。
なので、極端だけど、音楽を作る上での全ての作業にこれからは関わってみようと思っています。
“ひとりになりたかった”理由
大所帯で音楽を作ること そのプレッシャーから「ひとりになりたかった」――現在、ソロアーティストとしてアーティスト活動、ブランドプロデュース、ファンクラブまでご自身で運営されているとか。そういう活動を自身でやるのって、ものすごく労力がかかると思うんです。
武瑠 こんなに労力がかかるのかって、ビックリしました。本当にスタッフは誰も居ないので。
誰かを雇うっていうのは、その人の人生を背負うことだと思うんです。背負えなければ雇ってはいけないと思っていて。
バンド時代は誰かを支えなきゃ、支えなきゃってすごく思っていた。そのプレッシャーに押しつぶされてしまった感もあったんですよね。
そういう意味でも、ひとりになりたかったというのはあるかも。
――そういう理由もあって、最終的には完全セルフプロデュース、かつソロという形になったわけですね。
武瑠 はい。人間、やれば最低限はできるんだなってわかりました(笑)。
普通セルフプロデュースだと、労力的にひとりで大きいことをやるのは大変じゃないですか? だから、最初はシングルを発売したり、イベントライブに出たりすると思うんですけど、それを裏切りたかった。
なので、まずワンマンを打とうって思ったし、今回発売するのはフルアルバムにしたんです。
現在の音楽ビジネスの中で、“完全無所属”である理由――現在武瑠さんは、無所属という形でどこのプロダクションにも所属していない。あえて無所属を選んだ理由を教えてください。
武瑠 今って、音楽に関わっている人数に対して、売れるものがなくなっていると思うんです。音楽“ビジネス”が曖昧になってきている、というか。
前は単純にCDが売れたから、たくさんの人数が関わってもビジネスとして成り立っていたと思うんです。でも、今は単純に売るものがないのにも関わらず、同じ人数でビジネスをやろうとしているんですよ。とっくにビジネスモデルが崩壊してるんです。その悪影響は、まず演者に出てきている。
要は、関わってるスタッフの数を減らさずに、演者自体を減らそうっていう音楽社会の流れがある。なぜなら、演者に払うお金をスタッフや従来のビジネスモデルを回すために使いたいからです。
そういう流れの歪みで、事務所を離れたアーティストの話とか、自殺してしまったアイドルの話とかもありますよね……すごく悲しいことに。それだけ音楽業界の中では「やりたいことやってるやつはお金もらわなくていいだろ?」みたいな、そういう風潮が強いんだと思う。
――そういう風潮は確かにあるかもしれません。
武瑠 だから、一度自分で「音楽とはどれぐらいの人間を支えられるのか?」とか、極端な話「人が何人いれば音楽ビジネスは成り立つものなのか?」を知りたいと思ったんです。
「俺自身はどういう人たちとどういう音楽を、どういう体制でやっていきたいんだろう?」というのを、1回見直したかった。だからこその、それを考えるための無所属ですね。
――今の音楽業界のビジネスモデルの形によって、演者にしわよせが来ている、と。
武瑠 そうです。市場が小さくなってるにも関わらず、前と同じことだけをしてすがろうとしている人が多いから。特にマネージメント会社。
レーベルはCDしか売るモノがないから、さすがに変わろうとしてきているのを感じます。
でも、マネージメント会社はライブという商品があるので、まだビジネスモデルを支えられる部分もある。なので、変化するためのスタートが出遅れているように感じますね。
今のヴィジュアル系をどう見る?
これからの音楽業界が向かう先は「兼業制」?――では、これからの音楽ビジネスの形は、どういう方向に向かっていくと思いますか?
武瑠 マネージャーがメンバーであったり、マネージャーがギターも弾けたり、照明ができたり、PAができたり……そういう「演者が何役も兼ねる」みたいな状態になっていくと思いますね。ミニマムな形になっていく。
極端なことを言えば、バンドであればメンバー5人がいればライブが成り立つ、みたいな形になっていくかもしれない。本来5人もメンバーがいたら、できないわけがないんですよね。それを、今まではCDが売れてたからスタッフをいっぱいつけることができたわけで。
これからは、業界全体が少数精鋭制になると思います。だからこそ、技術を持つ人とそうでない人の差がどんどん開いていくと思います。
――武瑠さんが思う、今後の音楽業界の課題とは?
武瑠 そんなエラそうなことは言えないんですけど……自分視点で言うと、日本の音楽業界は「音楽だけやっているのがエラい」という風潮なんですよね。音楽とそれ以外のビジネスをミックスすると、中途半端になりやすいと思うんです。
例えば、海外のラッパーだったら自分のブランドを持ってるのは普通だし、広告とかも当たり前にやっている。そもそも音楽だけじゃ儲からないからビジネスをたくさん持っているんです。今の日本の音楽業界では、そういった仕組みが発達していない。アーティストがアイコン化されづらいんですよね。
日本人は、ひとつのことだけ頑張ってる人を応援したがるから。職人的な、ひとつの技術をずっとやってきた人がカッコいいと思われる。クラフトマンシップというか……それが根底の美学としてあるんだと思うんですよ。
だから、そういう部分はもっと変わっていっていいと思いますね。
――音楽アーティストは“職人であること”を求められているんですね。
武瑠 そういう風に、めちゃくちゃ感じます。「音楽だけずっとやっている」というアーティストの方が、圧倒的に評価されやすい。
それが悪いとか問題だというよりは、自分的にブレイクスルーしたいポイントなんです。そういう部分を切り拓いて、新しい音楽ビジネスの形を考えたいですよね。
“自分が”ジャンルレスなんだという自覚はあります――では、武瑠さんから見て、もともとの出身畑であるヴィジュアル系が今どういう風に見えるのかをお聞きしたいです。
武瑠 一旦“型に戻った”という感じがしますね、今のヴィジュアル系は。受け継がれてきた伝統の方に戻っていった。
2018年現在は、今までいた挑戦型アーティストが死んでいったと感じます。逆に言うと、ヴィジュアル系業界での“挑戦”は成功し切れなかった。
やっぱり本来あった世界観に忠実で、そういうものを体現できているアーティストの方が人気があるように見えますよね。“古き良き”みたいな。
――ヴィジュアル系が懐古主義的になってきている、ということでしょうか?
武瑠 懐古主義というよりはむしろ、昔ながらのヴィジュアル系の良さを自分たちなりに出しているアーティストが、人気が出てきていると思いますね。別にそれが良い悪いではなく、そういう現象だと思うし、自分は真逆のタイプだったというだけ。
だからこそ、俺は今はそこ(ヴィジュアル系)にいるべきじゃないと思ってますね。“古き良き”とはほど遠いし……。最初から俺みたいなのをジャンルで定義すること自体に無理があったのかもしれない。ずっと違和感を感じていた部分もあったので……。
ずっと、何となく「狭苦しいな」って思ってきた。「ここにいるべきじゃない」って。だから、ヴィジュアル系がどうとかじゃなくて、“自分が”ジャンルレスなんだという自覚はあります。何か自分を定義できるもの、欲しいとは思いますけどね。
今、自由すぎるほど自由なんです
「単純に面白ければいいじゃん」という活動を広げていきたい――sleepyheadのプロジェクトとして、今後の展望を教えてください。
武瑠 ひとりなので孤独な分、今は俺、自由すぎるほど自由なんです。だから、音楽だけに縛られず、自分がカッコいいと思った人と絡んでコラボしていきたいな。
あとは、俺はファンクラブ(S.A.C.T)のことを“秘密結社”って呼んでるんですけど、自分には今スタッフがいないので、ファンクラブの皆にフライヤーを撒いてもらったりとか、「秘密結社の作戦」的な感じで……楽しみながら一緒に場を作っていきたい。今後は、プロジェクトの一環としてそういうミッション型の企画をやっていきたいですね。
また、服だけに限らず、音楽から具現化されるいろんなものを作りたい。お酒とか、スピーカーとか。せっかくジャンルレスな立場なのであれば、どんどんジャンルを飛び出して「単純に面白ければいいじゃん」という活動を広げていきたいです。
――トータルプロデュースということですね。
武瑠 ただ“トータルプロデュース”っていうんじゃなくて、映像や音楽と絡まった活動をしていきたいです。映像、ファッション、ライフスタイル……根底に流れるもの(音楽)はありつつも、その上に成り立つ全てを作りたいです。
『DRIPPING』 2018年6月20日発売 通常流通盤 ¥3,000(+税)
01.MY FORTUNE FADED
02.闇雲
03.結局
04.酩酊
05.熱帯夜
06.HOPELESS
07.HURT OF DELAY
08.アトノマツリデ
09.灰汁まで愛して
10.退行的進化
11.LAIDBACK
12.狂宴騒々
13.ALIVE
2018年7月6日の下北沢Basement Barを皮切りに、DRIPPINGツアーがスタート。詳しくはオフィシャルHPへ。

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