【BALLOND'OR インタビュー】
2作連続リリースの第一弾は、
体温と汗に加え体臭さえもとらえた
衝動の青盤
昨年6月にリリースした1stフルアルバム『MIRROR MIND』に続いて、今年5月にリリースしたFINLANDSとのスプリットEP『NEW DUBBING』も話題になったBALLOND'OR。ポップとカオスのぶつかり合いを追求する彼らが2作連続リリースの第一弾となるミニアルバムを完成させた。
7月にリリースする『Blue Liberation』と9月にリリースする『BLOOD BERRY FIELDS』という2枚のミニアルバムは、対になる青盤と赤盤というかたちでの連続リリースとなるわけですが。
MJM
昨年からガーッとたくさん作ってきた曲の雰囲気が結構分かれて、1枚にするよりも2枚に分けたほうがお互いのパワーが出るんじゃないかと考えたんです。今回の青盤はわりと衝動的という印象が強いと思います。サウンドもシンプルで、自分たちがすでに持っているものを限界までがむしゃらに表現してみたんです。
†NANCY†
でも、MJが作る曲って色が変わっても芯は変わってないので、それが今回の作品をきっかけにどんどん多くの人に届いたらいいですね。
変わらない芯というのは?
†NANCY†
人間性とか、考えた方とかですね。それは歌詞を読んでいるとすごく思います。
NIKE
今回の歌詞もMJの人間性がそのまま出ていると思います。『MIRROR MIND』をリリースしてから、お客さんはもちろん多くのバンドとたくさんつながりができていったのは、そこがより分かりやすくCDで表現できたからだと思うんですよ。
今回もいろいろな感情を絶妙な言葉選び、言葉遣いで表現していると思うのですが、確かにどの曲にも歌詞を書いているMJさんの人間性が感じられます。その中に「VANILLA DISTORTION」のような赤裸々な歌詞が混じるところがいいですね。
MJM
それ、嬉しいです。意味が分からないってメンバーに言われたんですよ。
セックスのことを歌っているんじゃないんですか?
MJM
そういう想像もできますね。もちろんそれだけの曲ではないんですけど、好きなんですよ、こういうことを考えるのが単純に。曲を作ろうと思ってやっている部分と、ひとりで楽しむ部分があるというか。
MJM
中学生ぐらいの頃から“女の人がこういうふうに言ってくれたらいいな”とか、“そしたら自分はこう返すんだけどな”とか。そういうことを自分で想像して。
あぁ、この曲のMJさんと†NANCY†さんの掛け合いの歌は、そういうことなのですね。
MJM
最初は結構ストレートなグランジサウンドだったんですけど、その後The Byrdsのアルバム『霧の5次元』やThe Beatlesのアルバム『リボルバー』のようなサイケデリックなサウンドと絡めていきながら、どんな歌詞が合うかなって考えた時に、対話にしたら面白いんじゃないかと。あんまり聴いたことがないなって思って。
†NANCY†さんは掛け合いの歌を担当していますが、どんな気持ちで歌っているのですか?
†NANCY†
最初はちょっときれいめなお姉さんが歌っているイメージだったんですけど、“そうじゃない”とMJから言われてからは、もっと違う、それが女性なのか男性なのか、それこそ人間なのか分からない気持ちで歌っています。
歌詞にミシェル・ウィリアムズが出てきますね。
MJM
大好きなんですよ。全女優の中で一番好きです。かわいいじゃないですか。おばさんになってもかわいい(笑)。もちろん演技も好きです。僕は映画が大好きなんですけど、音楽やロックで映画っぽいものを表現しようとすると、どうしてもプログレみたいな壮大な感じになっちゃうじゃないですか。そういうのを軸はパンクかグランジで単刀直入にやりたくて、会話のような歌を入れたら映画っぽさも出るんじゃないかと考えたんです。
「リトルダンサー」と「Cloud Märchen」の歌詞も映像的ですね。
MJM
映像重視じゃないですけど、映像をどうやって音と歌詞で作っていくかみたいなところはいつもあります。
「リトルダンサー」の歌詞にはマリリン・モンローが出てきますが、ミシェル・ウィリアムズは『マリリン 7日間の恋』という映画でマリリン・モンローを演じていましたが。
MJM
いや、それは偶然です(笑)。マリリン・モンローも好きなんですよ。魅力的ですよね。すごい輝いているけどどこか悲しい。僕は好きな子ができると笑顔もかわいいと思うんですけど、ちょっと表情が曇っているところに視点が行きがちなところがあるんです。そういうのも歌詞にちょっと出てますね。「リトルダンサー」は『リトル・ダンサー』という映画がモチーフになっているんですけど、僕の中で特別な作品なんです。男の子が化粧するような描写があるんですけど、自分もそういうところが少しあるんです。そういう女々しさというか、何というか。
†NANCY†
昔、女装したまま寝ちゃって、朝起きた時にお母さんに怒られたって言ってました(笑)。
MJM
昔、女装癖があって(笑)。最近はもうやめてるんですけど。
NIKE
この間、ライヴにそれで来たじゃないかよ(笑)。
それはグラムロック的なものとは違うのですか?
MJM
たぶん違うと思うんですよね。始めたのは中学生ぐらいだったから、まだそこまでロックにのめり込んでなかったし。それよりも、何をしていいか分からないけど何かしたいみたいな気持ちだった気がします。映画の『リトル・ダンサー』は男の子がバレエに熱中してストレスを爆発させるみたいな話なんですけど、自分にとってはそれが音楽だったんです。バンドと出会って結構爆発できるようになったっていうのがあるんですよね。
†NANCY†
「リトルダンサー」は私もすごい好きで、初めてMJがスタジオで弾き語りした時に映像や風景がめちゃ浮かんだんですよ。「VANILLA DISTORTION」と同じような感覚というか、最初は歌詞の言葉のまま受け止めていたんですけど、何回も聴いているうちに“何のことを歌っているんだろう?”って。男性対女性なのか、男性対男性なのか…どういう関係なのか、全然分からない(笑)。それぐらい深くて不思議な曲だと今でも思っています。
MJM
いや、歌詞はほんとにもう聴いた人の解釈で全然構わないんです。
ところで、『MIRROR MIND』を作った時は曲が強すぎてバンドの演奏が負けないようにアレンジするのが大変だったとおっしゃっていましたが、今回は?
NIKE
ぶつかっていこうと思いながら作りました。強い曲には強いフレーズを入れたいと思って、アレンジを進めていったんですけど、ぶつかってみると自分が想像していた以上に曲が強くて、押し退けられそうになりました。ただ、その中でもふっとはまるものがいくつかあって、それがはまった時はすごく気持ち良くて。曲にも馴染むし、強いものと強いものがぶつかった時にすごくアトミックな瞬間が生まれるってことがレコーディング中に何度もあって、いいものになったという手応えはあります。
衝動をとらえるために工夫したことはあったのですか?
MJM
すごく小さなスタジオでレコーディングしたんですよ。『MIRROR MIND』はある程度広いところで録ったんですけど、小さなスタジオで録るとなると、変な話、汗もかくし、匂いも出るし(笑)。
MJM
1日10時間っていうのを何日もやって、その時に出ている匂いみたいなものや、現実的な話をすると隣のアンプの音も入ったりして、そういう近い距離で録音したものを改めて聴いてみると、近いものというか…匂いも感じられるようなものになっているんじゃないかと思いましたね。
小さなスタジオならではの効果を求めたわけですね。
MJM
ええ。青盤と赤盤で曲が一番引き立つやり方をしてみようって考えたんです。青盤はどこまで原始的にできるのかみたいなところからスタートして。
NIKE
エンジニアさんもノリノリな人で、ありがたいことに何でも付き合って一緒に作ってくれて、ファズとファズの重ね方とか、アンプとファズの組み合わせとか、普通のエンジニアさんだったら“これ以上やると壊れちゃうからやめようよ”ってぐらいのことをレコ―ディングからミックスまで通してやってもらえたので、そこは恵まれていたと思います。
MJM
1曲目の「BOYS&BOYS」は聴いてもらった人に“あり得ないんじゃない!? この音!”って言われるんですけど、そのラインをあまり気にしないエンジニアさんだったんですよ。やりたいことはやってくれるというか、それがすごくマッチしました。
あり得ないっていうのは?
MJM
うるさすぎる(笑)。でも、それが痛快だったって言ってくれるバンドマンが多いんです。
そういう音作りを徹底してやったことで、曲が持っているポップなメロディーの魅力がかなり際立ちましたね。
そこは狙ってやってないんですか?
MJM
狙ってはなかったです。もちろんポップなものも好きなのでポップなものになればいいと思ってたんですけど、うるさくしたからポップが引き立つっていうのは自分たちの中では分からなかった。“うるさくしたらやっぱりメロディーは届かなくなるのかな。でも、やってみよう。結果は完成してみないと分からない”ってちょっと恐怖はありました。でも、完成して実際に僕もそういうふうに思ったんですよ。“あ、これって歪んでいてエネルギッシュだからメロディーも引き立っているのか!?”って。だから、改めてそういうふうに言ってもらえてすごく嬉しいです。何よりも口ずさめるものが大事なんですよ。曲を作ろうと思って作ることってあまりしなくて、夜中に散歩している時にたまたま出てきた歌を残して、その時に見えた風景にバンドサウンドを付けて、その時の感じを超えるものを作りたいっていつも作っているんです。
NIKE
MJのメロディーがBALLOND’ORの代名詞みたいに言ってもらえることも増えてきたんですよ。
それぞれの推し曲を教えていただけますか?
†NANCY†
全曲同じぐらい好きなんですけど、「NOISE YOUTH」は聴きながらライヴの客さんやリスナーの気分になるというか、家で爆音で聴きながら“カッコ良い!”って思わず言ってしまったぐらい好きです。
この曲は言葉遊びっぽい歌詞が面白い。
MJM
自分の中でどうしようもなく怒りが込み上げる瞬間が時々あるんですけど、それを歌詞にする時に怒りだけだと“バカ”とか“死ね”とかしか出てこないので、その時の感情をどう言葉に落とし込むかかなり意識しながら書きました。
NIKEさんは?
NIKE
「リトルダンサー」なんですけど、どの曲の歌詞も妄想なのか現実なのかっていうライン引きが難しいと思うんですよ。それがすごく不気味に感じられて。
NIKE
その中で「リトルダンサー」は僕の中で狭間が見えた。歌詞を読んでもメロディーを聴いても、どちら側に居るのか分かる曲だと思えたんです。
MJM
僕はどれが一番か決めづらいんですけど、「華麗なる季節」は唯一、ほんとに初期の頃にできたんですよ。まだメンバーが揃っていない時にNIKEくんとふたりで宅録で作って、ずっと封印していたんです。数年前のことなんですけどその時ってバンドをやるか、音楽を辞めるかその瀬戸際で。バンドも組めないし、彼女にも振られるしっていう個人的に嫌なことが続いている時期にできた曲なんです。だから、新曲なんですけど、この曲がなかったら今BALLOND’ORはやれていない。なので、結構思い入れがあります。
歌詞からはポジティブな意思が感じられますね。
MJM
そういうことを自分で言わないと音楽を続けられなかったんですよ。
NIKE
“この曲をもう1回作り直す”ってMJから聴いた時は覚悟を感じました。終わりからの始まりじゃないですけど、そういう強い意志を感じたんです。
MJM
メンバーからは“良い曲だよね”って言われてたんですけど、どん底の状態から、それでもなんとか一歩を踏み出そうとして作った曲だったから中途半端な気持ちではやりたくなかったんですよ。ただ、今回はメンバーがひとり辞めたり、2枚連続リリースすることに挑戦したり、バンドが転機を迎えようとしている中で、たまたま作ってた曲とマッチしたっていうか、逆にまとめてくれるというか、青盤のいろいろな曲の中の真ん中にいてくれるような雰囲気がしたので入れようと思いました。
今回の作品にはある仕掛けがしてありますが。
MJM
青盤と赤盤のストーリーは感じてくれる人が感じ取ってくれればいいんですけど、僕らの中では2枚で1枚という気持ちも強いので、それを表現するためにちょっとした仕掛けを作ってみました。それは聴いてからのお楽しみということで(笑)。
取材:山口智男
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ミニアルバム『Blue Liberation』2018年7月11日発売
actwise
MJMとNIKEを中心に下北沢にて結成。2017年、夜の本気ダンスなどが所属するactwiseに加入。18年7月にミニアルバム『Blue Liberation』、同年10月にミニアルバム『BLOOD BERRY FIELDS』を2枚連続で発表。20年4月には3年振りのフルアルバム『R.I.P. CREAM』を完成させた。BALLOND'OR オフィシャルHP
「NOISE YOUTH」MV