【対談】SUGIZO x ATOLS、「宇宙の創
生まで観せられたような感覚」

SUGIZOが5月29日、ソロアルバム『音』(2016年発表)のリミックス作品『SWITCHED-ON OTO』をリリースした。同作には、SYSTEM 7、CLARK、RICHARD DEVINEといった海外アーティスト勢をはじめ、YMO第4のメンバーと言われたLOGIC SYSTEMこと松武秀樹、ex.SOFT BALLETにして現minus(-)の藤井麻輝など、国内外を代表する計10組が参加している。
その鬼才リミックス陣のひとりにして、ニコニコ動画ほか様々なメディアに神出鬼没のクリエイターがATOLSだ。SUGIZOたっての希望により、ここに“SUGIZO x ATOLS”対談が実現した。

   ◆   ◆   ◆

■電子音楽、シンセサイザーというシーンの
■最も重要な作品集を手がけた感覚──SUGIZO

SUGIZO:リミックスに参加頂いて本当にありがとうございました。とても素晴らしくアルバム全体の世界観を引っ張ってくれる作品になりました。

ATOLS:こちらこそ光栄な機会を頂いて嬉しい限りです。先日はZepp Tokyoのライヴにもお誘い頂いていたのに参加出来ず、申し訳ありませんでした。

SUGIZO:そのZepp Tokyoでのライヴは映像化されますので、ライヴではどのようにこのリミックスが表現されているのかを、ぜひ観ていただけると嬉しいです。

ATOLS:それは楽しみです!

SUGIZO:本当はゆっくりご飯にでも行きたいんですけれど。今回は対談だけになりますが、よろしくお願いします。

ATOLS:最近、人と会うことが殆どなかったので、コミュニケーション能力が低下しているかもしれませんが、よろしくお願いします。

SUGIZO:逆に僕は丁度ツアーの真っ最中なので、人と会い過ぎていて……(苦笑)。

ATOLS:人と喋るって大切ですよね。

SUGIZO:会話は左脳を使うので、音楽制作とは別の能力が必要ですね。

ATOLS:しかも初対面の人との会話は特に予測不可能な方向に話題が行くことがあるので、瞬発的というか神経衰弱的な言葉の選び方のようなスキルが必要になってきますし。

SUGIZO:要はそれってアドリブ能力のようなものですよね。

ATOLS:そうしたコミュニケーション能力が高い方は、何かが起っても瞬時に対応出来る能力も磨かれている気がします。

──どれだけ博学かつボキャブラリーが豊富か?という引き出しにも関係しますね。

SUGIZO:考えてみると、私生活の中の会話って、基本は全て即興ですよね。即興演奏って、どれだけ音楽的ボキャブラリーを持っているか?ということが凄く重要になってくるので、そういう意味では音楽も会話も同じことが言えると思うんです。芝居の場合は、決まった楽曲を演奏する譜面と同じような役割として台本がある。その基本をベースにした上で役者たちはアドリブを入れてくる。一方、私生活での会話は譜面も台本もない状態で常にアドリブというか即興で対応しているんだと考えると、人間の能力って凄いですね。
▲リミックスアルバム『SWITCHED–ON OTO』

──人と人との出会いのタイミングもアドリブというか、その後の展開が読めない未知の状況下で行われるものですよね。そういう意味でも今回、お2人が一緒に楽曲制作に携わるようになったエピソードに興味深いものがあるのですが。SUGIZOさんの娘さんが「パパ、この人の音楽きっと好きだと思うよ」と、ATOLSさんを推したんですよね?

SUGIZO:そうですね。娘からの情報でATOLSさんを知って、そのぶっ飛んだ才覚にKOされました。「MACARON」は本当に衝撃でした。

ATOLS:2010年頃ですかね、ボカロでの楽曲制作のシーンが盛んになってきた時期ですよね。SUGIZOさんも参加されていたボカロアルバムを制作した会社から、僕も作品を発表していたという関係もあり、その会社の仲介でお会いしたのが最初ですよね。
──なるほど。

SUGIZO:「IRA」はまさにその典型な楽曲。結果的に、曲を聴いた人はメロディー的なものを感じてくれるとは思いますが、そうした形になるようでならない。なっていないようでいて、ギリギリのところで音楽として成立している。そんな領域に持って行きたかった。では何故そうしたかったのか?……人は憤怒が湧き出してどうしようもない状況下に置かれた時、頭の中を整理して物事を判断する事など出来ないだろうし、それを無理やり整理してはいけないんですね。その混沌をああいう形で表現したかった。『音』の中で「禊」は他の曲に比べると唯一解り易いサイケデリック・トランスな作りになっていますけれどね。

ATOLS:あの曲は太鼓のような和物のテイストも感じましたが。

SUGIZO:サイケデリック・トランスって和楽器との相性が非常に良いジャンルだと思うんですよね。

──和楽器に限らず、民族音楽との相性は飛び抜けていいし、そうした作品が過去にも非常に多く残っています。

SUGIZO:ジャンベやディジュリドゥといった土着的な民族楽器の音やグルーヴとの相性は抜群ですね。「IRA」に関しても音の構造的にはサイケデリック・トランスではないんですけれど、結果的に存在感というか、聴いた人が別次元を体感するという意味においてはトランスという要素が含まれていると思っています。混沌としたサイケデリックがそこには存在している。そしてノイズと電子音の中にアラビアの笛“ナイ”を使用していたり、残念ながら先日亡くなってしまったORIGAのロシア民謡的歌声を使用しています。アラビアとロシアの大陸的な音楽要素とノイズと怒りという要素が渦巻いて出来上がっている作品なんです。そこに更にATOLSさんの技術が大いに盛り込まれて化学反応を起こしている。そうした意味でも「IRA」はリミックスまで辿り着く過程において、オリジナル楽曲を制作し始めた時点で、既に物凄く興味深いプロセスを踏んで出来上がっている作品なんですね。

ATOLS:ナイやORIGAさんの声も印象的だったのですが、SUGIZOさんが作られたハイハット等の細かい音のパーツも物凄くインスピレーションが湧く源になり、刺激を受けました。

SUGIZO:そうした僕が作った音の素材を「腐食させてください」という注文をしたんですよ。僕が作り上げた音をドロドロの状態に変容させてもらい、朽ち果て、現実と幻覚の狭間を行き来するような音楽を作りたかった。

ATOLS:「生き物っぽさも出してほしい」という注文も頂きましたね。

SUGIZO:「グルーヴは生き物でありたい」といつも思うので。楽器の存在も生き物でありたいと思っていますね。ビートは生き物で常に意思を持って変容していく、そういう様を感じたいんです。それが過程として腐っていく際の「音が痛がっている」感じを表現したかった。ナイとORIGAのヴォーカルと僕のノイズギターが三つ巴で空中戦を繰り広げているイメージでしょうか。

ATOLS:僕はその三つ巴に、煙がモクモクと立ち込めて雷が鳴っている中で、龍のような生き物がうごめいている、そういうイメージがあったんです。
──ATOLSさん的にはSUGIZOさんの制作姿勢はどのように感じますか?

ATOLS:全くSUGIZOさんに同意見です。そういう事って時代と共に変化するものだし、何を基準に考えるかを配慮してもあまり意味がないことだと思っているんです。自身が気持ち良いと感じられる最高のミックスとマスタリングをするという事で良い。最近ではYouTubeやSpotifyなどは“ラウドネス規格”というのを設け始めていて、音のデシベル値をカットしたりする規制が始まっています。故に昨今は、インダストリアルな作品やドンシャリ系の音楽が廃れてきてしまっている感はありますね。そうした影響は、近年のPOPミュージックでもみてとれて、音数がだいぶ少なくなった印象も受けます。MIDを下げてヴォーカルを前に出すというような考え方なのでしょうけれど、ネット配信/ストリーミング配信というようなマーケットが主流になってきた現在の環境の中で、新たに音圧などの規定や基準のルールが出来てしまった。

──それらに配慮しながら、これまでやってきた音楽制作スキルをどのように当てはめていこうと?

ATOLS:まさに今、そうした事に向き合っている最中だったりします。そうした考え方も、去年と今年で微妙に変わってきているように、テクノロジーの進化/端末の進化と同時に、制作技術も逐一変わっているので、脳内もアップデートするように心がけていますね。それが果たして正解なのか?という疑問もあります。ただ、時代と共に変わるという事は、この先も逃れようのない事実として存在すると思います。

──これは活躍しているフィールドが何処なのか?という事によっても変わってくるのだと思いますが、今の話を伺った限りではSUGIZOさんは生の音をそのまま感じる事が出来るライヴ基準での音の作り方なのでしょう。ATOLSさんの場合は動画配信での活躍が主になっているような印象があるので、そうした場所での配信規定に則って制作せざるを得ない状態だという。

SUGIZO:そうですね。スマホのスピーカーやパソコンのスピーカーからの出音で僕の音の良し悪しを判断されても困っちゃいますね(苦笑)。

ATOLS:ニコ動はそうしたデシベル規定などはなく、自由に出来る環境なんですけれど、近年、世界的に音圧調和がスタンダードになってきている。なので、アメリカのヒットチャートを見ても、どれも同じような展開のものばかりが蔓延しているように感じます。そこで他と差をつけようと、ラウドネスをあげたりすると、YouTubeで再生された時に下の音が不自然にヘコんで聴こえるようなリミッターがかかってしまう。

──今ってそんな状況なんですね、知りませんでした。

ATOLS:そうした規制にアンチな姿勢を持っているアーティストさん達も少なくない。特にノイズやインダストリアル系の人達は、規制の無いバンドキャンプなどで自分たちの楽曲を配信したりしていますね。僕もそうした規制の無い環境での音楽活動が理想だと思っている反面、ヴォーカル曲などは規制が設けられているマーケットで、それを受け入れて活動しなければならない部分もあり、ジレンマを感じていたりもするんですよね。

SUGIZO:どちらが良い悪いではなく、発表する作品によってうまく使い分ければいいと思うんですよね。特にATOLSさんにはそれが出来ると思いますし、より多くの人に聴いてもらえるパソコン上での配信はどんどんやったほうがいい。先ほど「自分が良いと思った方法論と自分の再生環境だけを基準に他を切り捨てて制作している」という趣旨の発言をしましたが、それはあくまでもSUGIZOソロ作品の場合であって、LUNA SEAの楽曲に関しては一般的な層がどこで聴いても聴きやすいバランスは心がけていますからね。そうしたマス向けの作品は聴く層の需要に合わせていい。一方で、それに満足できないという人達、一定のこだわりをもって聴く人達も必ずいるわけで。近年のアナログレコードやカセットテープの再評価というのは、デジタル機器での利便性優先で配信される楽曲に、物足りなさを感じ取れる層による需要も往々にしてあるでしょうね。

ATOLS:最近は、「YouTubeで再生した場合、このような音になります」「iTuneで聴いた場合、こういう音質になります」というような、想定をシュミレーションしてくれるプラグインのソフトウェアも出始めていますからね。ラジオで放送された時にヴォーカルが聴き取れないようなミックスになっていたらマズイわけですし。
──音質を犠牲にしなければならないというようなデメリットが存在する一方で、より多くの人々に聴いてもらえるというメリットが、視聴環境や再生機器の変化と共にあるわけですよね。

SUGIZO:世界中の人々に聴いてもらえるチャンスが増えたわけです。そういう時代だからこそ、日本発信のアイデンティティは常に意識して活動するように心がけています。たとえば僕は、表に出てライヴ演奏する時はMade in JapanのギターESPを使用しますし、衣装も日本人デザイナーのものをできるだけ着用するよう心がけています。電子音楽の世界で言えば、日本製の機材を使っていないアーティストは皆無ではないか?と言えるほどハード面で日本は世界をリードしていますよね。

ATOLS:そうですね。YAMAHA、ROLAND、KORGといった機材は全て日本製ですからね。

SUGIZO:テクノや電子音楽を作る上ではドイツやイギリスを意識して憧れてしまいがちですが、そういうコンプレックスは不要なんですよ。勿論そうした海外のアーティストに影響を受けたり、彼らから学ぶ事は良い事ですが、真似する必要はない。むしろ日本人にしか出せないグルーヴを大切にしたほうがいいと感じています。僕自身も、そう思うようになったのは、JUNO REACTORのギタリストとして参加するようになってからなんですよ。サウスアフリカのメンバーから言われた一言で、それまで自分の中にあった洋楽に対するコンプレックスは無駄なものだということを悟ることが出来たんです。彼らは彼らで自分たちには出せない日本人ならではのグルーヴや感性をリスペクトしてくれていたことを知って。それぞれが自分にしか出せないパートを突き詰めればいい。それぞれの持ち味を生かしたグルーヴの化学反応によって、新しい音楽が生まれてくるんだと思います。

──これからのアーティストは技術面の向上だけでなく、そうした部分の意識の向上も重要になってきますね。

ATOLS:あとは、新しいものを追いかけるだけでなく、過去のものから学ぶというのも重要ですよね。こういうことを言うと怒られるかもしれませんが、個人的にはJ-POPのようなものではなく、伝統的な音楽のほうに興味があるんです。日本古来の和楽器だったり、日本独特の音階の使い方だったりを意識して楽曲に取り入れていたりしています。

──リミックス・アルバムに関する対談が、現代の楽曲配信や規制の話、日本人アーティストが楽曲制作をするにあたって大切にすべき感性の話など、予想を上回る貴重なトピック満載の対談になりました。

SUGIZO:凄くいい話が出来て、僕も楽しかったです。

取材・文◎KOTARO MANABE

■SUGIZOリミックスアルバム『SWITCHED–ON OTO』
2018年5月29日(火)発売
【通常盤:1CD(SHM-CD)】SPTC-1002 3,240円(tax in)
01. THE LAST IRA Remix by ATOLS
02. Neo Raummusik Remix by CLARK
03. VOICE of VOID Remix by Logic System
04. Replicant Decaying Remix by 藤井 麻輝(minus(-)/睡蓮)
05. Proxima Centauri b Remix by MaZDA a.k.a SiNE6
06. Lux Aeterna Rises Remix by RICHARD DEVINE
07. Lux Aeterna Dead Remix by K.U.R.O.
08. Room of Clocks Trance Remix by Ubartmar
09. PSY MISOGI Remix by SYSTEM 7
10. The Eternity Voyage Remix by HATAKEN
※リミキサー:SYSREM 7, Logic System, CLARK, RICHARD DEVINE, 藤井 麻輝(minus(-)/睡蓮), HATAKEN, Ubartmar, K.U.R.O., MaZDA a.k.a SiNE6 and ATOLS


■<SUGIZO TOUR 2018 Do Phoenixes Dream of Electronic Music?>
9月05日(水) 柏PALOOZA
Open 18:00 / Start 18:30
(問)DISK GARAGE 050-5533-0888
9月07日(金) 名古屋ElectricLadyLand
Open 18:00 / Start 18:30
(問)サンデーフォークプロモーション 052-320-9100
9月8日(土) OSAKA MUSE
Open 16:30 / Start 17:00
(問)キョードーインフォメーション 0570-200-888
9月11日(火) Zepp DiverCity
Open 17:30 / Start 18:30
(問)DISK GARAGE 050-5533-0888
9月13日(木) 岡山IMAGE
Open 18:00 / Start 18:30
(問)夢番地岡山 086-231-3531
9月17日(月・祝) 石巻BLUE RESISTANCE
Open 16:30 / Start 17:00
(問)キョードー東北 022-217-7788
▼チケット
前売り7,500円(税込) ドリンク代別
※柏・名古屋・大阪・岡山・石巻:スタンディング
※東京:スタンディング/指定席
一般発売日:2018年8月4日(土)
【ファンクラブ先行受付】
受付期限:2018年6月11日(月)12:00〜7月2日(月)23:59
SUGIZOオフィシャルファンクラブ SOUL'S MATE
https://www.sugizo.com/login/info/index.html


■『SugizoTube Vol.3「LUNATIC FEST. 2018 SPECIAL」〜葉月、悠介(lynch.)生出演〜』

6月15日(金) 20:00〜21:30放送
出演:SUGIZO、葉月(lynch.)、悠介(lynch.)
MC:奥浜レイラ
Niconico http://live.nicovideo.jp/watch/lv313752393
YouTube https://youtube.com/SUGIZOofficial
※一部はNiconico「SugizoTube」会員限定放送となります。


■史上最狂のロックフェス第二弾<LUNATIC FEST. 2018>
2018年6月23日(土) 千葉・幕張メッセ
2018年6月24日(日) 千葉・幕張メッセ
OPEN 9:30 / START 11:00 / END 20:00 (予定) ※両日共通
▼23日(土)出演 ※LUNA SEAを除き50音順
LUNA SEA、ACE OF SPADESGLIM SPANKYGLAYcoldrain、シド、女王蜂DIR EN GREYback numberThe BONEZLUNACY(Opening Act)
▼24日(日)出演 ※LUNA SEAを除き50音順
LUNA SEA 、AA=大黒摩季OLDCODEXTHE ORAL CIGARETTESBRAHMANMUCCLOUDNESS、lynch.、LUNACY(Opening Act) and more...
▼チケット
一般チケット料金:1日券 ¥15,500 (入場チケット¥15,000+ドリンク代¥500/税込)
各プレイガイド一般発売:6/2(土) AM10:00~
※特設サイトにてチケットオフィシャル最終先行受付中

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